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真実の愛

 冷たい、という言葉が全身を絶え間なく刺激します。ぬるま湯に浸かっていたことを嫌でも痛感せざるを得ません。

 雪山は、容易に人が立ち入ってよい所ではなかったのです。

 マントに何の意味があるのだろうでしょうか。大いなる自然の前には、どれだけ着飾ったところで塵に等しいのです。

 王様は氷でくっついたまぶたの隙間から、白い世界をあてもなくさまようのでした。

「もしかしたら山奥にひっそりと暮らす民族がいると聞いたことがある」

 街の人の噂が真なら、行かない手はないでしょう。そう決心して王様は吹雪の中を進みます。

 城の外壁に守られ、温かな食事と、オオカミに襲われる心配のないベッドで眠っていることが、王様にとって当たり前でした。

 それらの環境ありきで恋人を集めても、望むような結果は得られないことは当然です。

「だからボクは掴みとらなくてはいけない」

 黙々と歩み続ける王様は、荒れ狂う雪の奥に明かりを見つけました。どうやら住居の窓のようなもので、誰かが住んでいる気配がします。

 近づくほどに予想は確かなものになっていきました。小さな煙突からは、いい匂いがしてきます。

 ドアをノックすると、ややあって、背が高く、くっきりとした眉の女性が顔を出しました。

 驚きのあまり固まってしまった彼女に、

「やあ、ナタリー。久しぶりだね」

 と王様は言いました。

 真っ赤な鼻の王様に、ナタリーは急いで毛布をかけました。そして部屋に招き入れ、暖炉の前に座らせます。

「どうしてここへ?」

 ナタリーから質問されるのは初めての気がして、王様はくすぐったい気持ちになります。

「君に会いに来たのさ。あの日別れた理由を知りたくてね」

「そのためにわざわざ」

 言葉が見つからないナタリーは暖炉に木をくべます。火は大きく燃え上がり、部屋はいっそう暖かです。

「もしも差し支えなければ、ボクは君に戻ってきて欲しい」

 そう言って王様はダイヤの指輪をプレゼントしようとします。

 そこでノックの音がして、誰かが帰ってきたようです。毛皮を着たたくましい男が入ってきました。王様は指輪を引っ込めます。

「お客さん?珍しいな」

 男はナタリーの隣に座りました。壁に飾られている絵と同じ男です。

「彼は許嫁なのよ」

 ナタリーは静かに呟きました。城の庭で山を見据えるナタリーの心は、この男しか融かせないということです。

 すべてを悟った王様は、

「もう行かなくちゃ」

 と告げて、再び吹雪の中へと飛び出します。

「ナタリーの幸せをボクは引き裂こうとしていたかも知れなかったんだなあ」

 家臣に命じれば、どんなことも成し遂げられました。しかし力をつかうということは、一方で誰かが損をするかも知れないのです。

 ナタリーを山に帰したことは、今にしてみれば正しい選択だったのです。

 結局王様はお妃を見つけることができませんでした。

 けれども城を出てみて経験したことは、欠け代えのないような気がします。

 ひとりぽっちで麓まで降りたとき、誰かが馬に乗ってやって来ました。

 アンナです。王様を追いかけてきたのです。

「跡継ぎを授かることはできませんが、王様と過ごした時間は忘れることができません。どうかまた一緒に暮らしませんか」

 甲斐甲斐しく身の回りの世話をするアンナ。料理をつくって、失敗しても笑顔で食べてくれるアンナ。王様に正直に隠し事を打ち明けたアンナ。

 平原を爽やかな風が吹き抜けます。

「ボクはこの気持ちに向き合うのは時間がかかるかも知れない。でもアンナとなら真実の愛を見つけられそうな気がする」

 王様はアンナの手を取ります。

 そして二人は見つめ合います。

 アンナの指のダイアモンドは、壊れることを許さず、永遠の美しさを象徴するように輝いていました。


おしまい


テコでも動かない

うわべは美しい

どこか惜しい


そう思うのは

みんな自分が王様で

選ぶ側の人間だから


冠を一度外して

愛とは何かを唱えれば

ちっぽけだと気づくこと


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― 新着の感想 ―
[一言] 自分で愛を掴み取りに行ったからこそ、王様は真実の愛を得られたのでしょうね。 お城に籠ったままでしたら、アンナと再び接触する機会なんてそうそうなかったでしょうし。 恋人を探す旅の間に市井の様…
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