お妃を探す
広い海の真ん中に、島が浮かんでいます。島には王様のすむ城がありました。
とても晴れた日です。
「島で一番美しい娘を連れてこい」
王様が命じます。直ちに家臣は島を練り歩き、若い女たちを集めてきました。
どの娘もみな綺麗な顔立ちで、慎ましやかに微笑んでいます。王様は中でも選りすぐりの三人を選びました。
「これからしばらく三人と暮らして、ボクにぴったりの妃を探すんだ」
始めに王様は、緑色の澄んだ瞳に虜にされた女が気になりました。女はシンシアと呼ばれ、活発な性格です。
舞踏会でも巧みな足裁きで、場内を沸かせます。
お洒落も得意で、何でも着こなし、とりわけ王様の与えた帽子を肌身離さずにいました。
「帽子なんていくらでもあるのだから。新しいものに代えたらどうか」
と王様が勧めても、
「いいえ。これは王様から貰った初めての贈り物です。大切にしないわけにはいかないのです」
シンシアは緑色の瞳を輝かせながら笑うのでした。
次に王様は、背が高く、くっきりとした眉の女と過ごすことにしました。
「おいナタリー、紅茶でも飲もうか」
眉尻ひとつ動かさず、ナタリーは黙っています。いきなり王室で暮らせと命じられて、緊張をしているのでしょう。
王様は静かに隣に腰かけます。庭に降り立った鳥たちがハミングしていました。さらに噴水の流れる音が心地好い清涼感を運んできます。
「たまに口を閉ざすのも悪くないんだな。こうして落ち着いていられるものな」
いつの間にかナタリーはスケッチブックをイーゼルに立てかけて筆を操っていました。山の風景を描いたり、誰かの肖像を描いたりしているようです。王様は紅茶を啜りながら、静かに見守りました。
最後の一人はアンナといいます。アンナは二人にひけをとらぬほどの美貌の持ち主でした。掃除や洗濯をまめにこなし、まるで農村にいるときのような振る舞いです。
「ここに暮らしているときくらいは、休んでもいいんだよ」
「はい王様。ですが家事をすることが生活の一部になってしまっているのです。どうしようもありません」
せっせと働くアンナを真似して王様も料理を教わってみました。
「自分でつくると上手くできないな」
「つくろうという気持ちが大切ですよ」
そう言ってアンナは不揃いな野菜を美味しそうに食べてくれるのでした。
城での暮らしに慣れてもらったころ、王様は三人と街へ買い物に出掛けることにしました。
馬に跨がることも、三人娘はお手のものです。
吹き抜ける風が草原の海を滑っていきます。
シンシアとアンナが先を歩いていました。王様が振り返ると、ナタリーは遠くの山を向いています。
「あそこに何かあるのかい」
手綱を引いて王様はナタリーに近寄ります。しかし相変わらず彼女は黙ったままです。ナタリーの瞳に映る雄大な山嶺を、王様は息を飲んで見守ることしかできませんでした。
「王様、早くいらして」
シンシアが手を振っています。
ナタリーはゆっくりとですが確実に着いてきます。
「先に行っているよ」
と王様はナタリーに告げて、街へ向かうのでした。
様々な商店が軒を連ねており、エスニックな香りや色彩で溢れていました。鍋を振るう大男や、野菜を担ぐ婦人たちの横を王様たちは通り過ぎます。
「好きなものを買うといい」
「じゃあ洋服のお店に行ってくるわ」
シンシアは駆け出します。アンナは馬の毛繕いをしています。王様は来た道を戻って、ナタリーを探しました。
すると果物屋の軒下でナタリーは佇んでいました。
「それが欲しいの?」
王様は尋ねました。懐から銀貨を出して店主に渡し、代わりに黄金色の果実をひとつ受け取ります。そっとナタリーに差し出すと、突然彼女は涙を流しました。
「ごめんなさい。王様は優しい人ですね」
止めどなく流れる涙は乾いた地面を濡らします。
「この前庭で君がスケッチしていたのは故郷だね」
そしてナタリーが道中に眺めていた山にも思い入れがあることを王様は悟りました。
「故郷に心残りがあるのなら、ここでお別れをしよう。そしてまた気が変わったら、いつでも城に来るといい」
去り際に、王様は厚手の外套をナタリーにプレゼントしました。
「山は雪が降っているから、これで寒さをしのげるさ」
少しずつ小さくなっていくナタリーの背中から、王様はいつまでも目を離せませんでした。
街の中心部では、買い物を終えた二人が待っていました。
詰問口調のシンシアは、
「もう王様どこに行ってたんですか。探しましたよ。あれ、ナタリーは?」
と驚いた様子です。
「ナタリーなら心配はいらないさ。さあ、城に帰ろう」
王様の言葉に、納得のいかないシンシアは首を傾げています。
「まあ、いいじゃない。きっと難しい事情があるのよ」
そう言ってアンナは馬に買い物かごを載せました。
ある夜更けに、王様は物音に目を覚ましました。寝静まったはずの城の廊下をヒタヒタと足音がするのです。
ベッドから降りてランプに火を灯します。
どうやら宝物庫から人の気配が漂ってくるのです。
「やや、おかしいな。こんな時間に誰だろう」
恐る恐る分厚い扉の向こうへ顔を覗かせると、そこにはジュエリーや金貨を袋に詰める悪党がいるではありませんか。
「何をしている。逃げられないぞ」
王様は咄嗟に大声を出しました。すると泥棒はピタリと静止して、ゆっくりと振り返ります。
「ま、まさか」
エメラルドよりも美しい眼差しが、王様の胸を射ったのです。
「あーあバレちゃった」
目深に被った帽子を外すと、シンシアは悪戯っぽく笑いました。手には財宝をぶら下げています。
「どうしてこんなことを」
王様は頭を抱えてため息をつきました。
「優しい王様は好きよ。でも宝物はもっと好きなの」
シンシアは走って王様をすり抜けようとします。すかさず王様は立ちはだかりますが、舞踏会のときのような軽い身のこなしであっさりと通り過ぎていきました。
家臣たちが束になっても、同じことでした。シンシアは馬に飛び乗って、瞬く間に夜の闇に吸い込まれて消えました。




