ラッキースケベ体質の侍女には困ります
「姫さまぁ御髪が!」
髪が乱れていたのか、ハルが手を伸ばしながらこちらに寄ってくる。
………と、思ったら、何もないところで躓き、その勢いのまま私に突っ込んできた。
「、わ…」
ぐらりと体が傾く。
この観客席はドームのような階段式になっているため、転んだらとてもまずい。
突っ込んできたハルを受け止め、くる衝撃にギュッと目を瞑る。
ドンっと固いものにぶつかった。
「ーーーー…あれ?」
予想したより衝撃がなく、目を開く。
「大丈夫ですか?」
声は頭上から聞こえてくる。
ゆっくり見上げると、困った顔をしたゼノ様がいた。ハルごと受け止めてくれたようだ。
「ありがとうございます、ゼノ様…」
「……………いえ、その…」
微笑んでお礼を言うと何故かゼノ様は何か言いにくそうに言葉を濁した。心なしか頬も赤い。
なぜだ、と思いながら、ゼノ様の視線の先をつられて見た。
「ふぉへんははひひへはまーーー!!!」
ハルのくぐもった声が聞こえる。
なぜくぐもっているのか、それが分かった瞬間、顔にカァッと熱が集まった。
「〜〜ッ!いいから胸から顔を避けなさい!」
はい!とバッタもびっくりするほど俊敏な動きでハルが離れる。
照れているのかと思いきや、きらきらした視線を向けてきた。
「姫さまのお胸はふかふかですね!!」
「ハルのこと嫌いになるわよ」
「すみませぇぇぇんごめんなさいひめさまぁ!嫌わないでぇ!!」
ピィピィ鳴いているが知ったことか。
全くハルのラッキースケベ属性には困ったものね…。
「…!」
ハルの頭の上にピンッと豆電球が浮かぶ。
「乙女憧れのバックハグですね姫さま!」
その言葉にギギギギギ…と錆びた扉のように、再び上を見る。目が合った彼はパッと逸らした。
「も、申し訳ありません…」
「いえ、私こそいつまでもひっついて、その」
不自然にならないようにゆっくりと離れる。
ドクンドクンと心臓が高く脈打っているが、持ち前のポーカーフェイスを駆使して押し殺した。
「さぁ、部屋に戻りましょうか」
微笑んで言った声は、きっと、震えていない…はず。
いまだに高鳴る心臓を無視して、私は足早に歩き出した。
◆
「よー姫さん、偵察から戻ってきたぜ」
部屋の前まで行くと、ジジが帰ってきていた。
「ん?なんか顔赤くねぇ?熱か?」
いえ、全然、まったく。
覗き込むのはやめてください。
「…護衛騎士が偵察まで?」
「んー、まぁ俺は騎士ってよりは諜報員かなぁ最近は」
「たしかに諜報は大事ですが……」
物言いたそうにゼノ様が見てくる。
これはあれだ。人員少なくねぇ?って思ってる顔だ。
中に入り、扉を閉めてコホンッと咳払いをする。
「…ジジ、報告を」
「毒事件の下手人が口を割った。命じたのは、第一王子派の貴族だ」
「やっぱり…」