目覚めましたがまたブラックアウトです
「ーー…わた、しも…」
伸ばした手の先に、いつも見慣れている自室の天井が滲んで見えた。
夢だったのか、と瞬くと、目尻に溜まっていた涙が横に流れシーツに吸い込まれた。
懐かしい夢だったなぁと感慨深く思っていると、
ーーーーガシャーンッ!!!!
鏡を床に叩きつけたような喧しい音が耳を劈いだ。
…心当たりは一人しかいない。
「ーー大変ですぅぅ!!!姫様が〜!!!」
聞き慣れているどじっこ侍女の声が聞こえてきた時、まったくそんな叫び方をしたら私に一大事があったみたいで城が騒然となるでしょうとため息をつきたくなった。
「…ハ、ル……」
いつものように注意しようと思って体を起こそうとすると、頭に激痛が走る。
ドクンドクンと、頭の奥が強く脈打っているように痛む。
ーーー何があったんだっけ?
「リラ!!!!!」
扉を勢いよく開けて現れたのは父と母ーー王女である私の父母ということは、この国の王と王妃。
普段クールな父様、豪快な母様が、あんなに真っ青な顔をしているのは初めて見る。
「生きてる〜!動いてる〜〜!!」
「痛いところは?私たちのことが分かるか?医者を呼ぶか?飯を食うか??」
「お前はどーしてあんな呼び方なんだよアホ!姫さん死んだかと思ったろーがくそまぬけ!!」
「いたっ!なんで叩くんですかぁジジ!わたしだって動揺したんですぅぅ!!」
感動のあまり部屋をクルクル回る母、
動揺のあまり頭が回っていない父、
そしていつものコントを繰り広げる護衛騎士と侍女。
あの、とりあえず。
「……皆さま、落ち着いてください…」
そして何があったのか私に説明してください。
◆
「姫さまが毒味をさせてくれないからぁ〜!」
「そうよリラちゃん。別にね、侍女や騎士の命が軽いというわけではないのだけど、あなたの命だって大事なの。食事に毒が入っていて倒れたって聞いて、お母さんとても心配したわ」
侍女のハルと母の話をまとめると、どうも昨晩食べた食事に毒が含まれていたらしい。そしてそれを飲んでしまった私は一晩ぴくりとも動かなかったと。
窓から夕焼けが見えるから、ほぼ丸々一晩寝込んでいたようだ。
いやぁ致死性の毒じゃなくてよかった。
「…リラ、お前の気持ちはわかる。だが正直なところ、我々王族の命と使用人の命では重みが違う。民を守る立場にいる我々は、そう易々と死んではいけんのだよ。
だからな、これまで何度も言ったように…毒見役を侍女か護衛騎士にやらせなさい」
「父様…」
「今回お前も怖い思いをしたろう…?」
「はい…。今も頭が痛いです」
「分かってくれたか!では次の食事からすべてをハルに「ですが断ります。毒見役は必要ありません」
食い気味に断ると、何故…と父様が項垂れる。
「危険を予期できなかった私のミスです。もっと周囲に目を配っておけば起きなかった。毒見役がいるいないの話ではありません」
「…こ、の……!」
分からず屋っと叫び父様が部屋から出て行く。泣きかけてなかったか王様。
なだめてくるわぁと、お母様も後を追っていった。
「……おい、なんか王様が泣きながら女走りしてたけど…」
ドン引きした顔をしながら入ってきた人の顔を見て、ズキッと頭の奥が軋む。
見慣れた顔、第二王子のルーベルトだ。
腹違いで同い年の兄妹でもある。
いや、違う、彼はーー。
俺様ツンデレ…ーー?
なんだこのワード…。
「ーーリラ!?」
私はまた気を失った。