恋する乙女のメイクアップ
「皆さんはファッションショーを見に行ったことはありますか?」
「私達、実はモデルデビューしたんですよ」
苺とルエラはアピールタイムの時間をライブ間のMCのように、トークで会場を温め始める。
そして終了時間が近づくとステージの中心でポーズをとった。
「それでは聞いてください」
「私達の新曲です」
するとそれまで二人の後ろで気配を消していたモーラが苺とルエラの間を進み出る。
それはまるでモデルがステージの前面に登場するかのようで、観客達の視線が一斉にモーラに集まった。
長身で顔もスタイルもいいモーラは一度見れば目が離せなくなる程の美女だからだ。
これだけの数の視線、普段のモーラであれば縮み上がったかもしれないが、視線を集められてもむしろそれを歓びとして受け止めるように魅惑的に微笑む。
それは美の女神の降臨とも呼ぶべき光景に思える。
そんなモーラは決して大きくない、けれどもよく通る涼やかな声でこれから披露する楽曲のタイトルを口にした。
「恋する乙女のメイクアップ」
それを合図に俺は機材にセットした楽曲の魔術式を発動させる。
楽曲の起動は"ぷろでゅーさー"の仕事だ。
苺たちの足元の幻影魔術陣が輝きだす。
これであとは結果が出るまで三人を信じて見守るしかなくなる。
起動と共に苺が幻影魔法陣に上限ギリギリの魔力を込めると、辺りは輝きに包まれた。
馬車駅を降りて、デートの待ち合わせ場所へ。
賑やかな大通りを一人の少女が歩いていく。
新しいサンダルに足元がおぼつかないのは履き慣れていないから? それとも緊張しているから?
だって服も靴も今日のために選んだものなんだもの。
おしゃれを勉強して準備して、お化粧だってしっかりしてきたんだから。
お店のお姉さんも、おしゃれが得意なお姉ちゃんも、いっぱいアドバイスをしてくれた。
きっと上手くいくって励ましてくれた。
私、前よりずっと可愛くなったよね?
私のことを褒めてくれるよね?
通りをすれ違う人たちも微笑ましい顔で私を見てくれている。
デートに向かう女の子なんだって、誰もがちゃんと分かってくれている。
どきどきが止まらない。
彼は私を可愛いと言ってくれるだろうか?
少し皮肉れている彼のことだから、はぐらかされそうでなんだか怖い。
だけど今日は絶対に言わせてやるんだから。
私が可愛くなったって!
待ち合わせの噴水広場でもう彼は待っているだろうか?
恋する乙女のメイクアップ。
ちょっと大人っぽい髪形や、ナチュラルなお化粧、可愛い服とアクセサリー。
一歩一歩近づくたびにだんだんと気になってきちゃう。
不安が広がってきて、けれども今更後戻りなんかしないよ。
目の前に見えて来た噴水の前では彼が腕組みをしている。
時間が過ぎても現れない私に、少し不機嫌になっているのかも。
今行くよ!
最高に可愛い私で彼をときめかせてあげるんだから!
幻影魔術陣の中で繰り広げられる、恋する少女の葛藤。
溢れ出す少女の恋の気持ちが、その一瞬に向かってどんどん高まっていく。
それを励ますように苺たちは歌い踊る。
苺は少女を元気づけるように。
ルエラは少女を励ますように。
モーラは少女を導くように。
果たしてその結果は……?
「……ごくっ」
息を飲む声が観客席から聞こえるかのようだった。
瞬きすらも忘れて、食い入るように苺たちのパフォーマンスに見入っている。
至高の一瞬を作り込むこと、それはモーラから学んだことだ。
その研鑽は想像を絶するものに違いない。
そして気づいた。
その過程だってとても愛おしいものに思えたなら、と。
それが今回の楽曲のテーマに繋がった。
みらくるベリーズのあいどる達は見事にそれを表現してくれた。
今持てる自分達の技術と想いの全てを込めて。
楽曲の終わりにポーズを決める苺とルエラとモーラ。
それと共に会場から割れんばかりの拍手と歓声が巻き起こる。
これまでのパフォーマンスの中で一番の熱狂なんじゃないだろうか?
その証拠に観客席に敷かれた応援魔術陣からは大量の音符がステージへと流れ込んでいる。
それは確実に一回戦のときよりも多い応援の量だ。
モーラという新しい戦力が加わり、確実にユニットとしてパワーアップを果たしている。
それが実感できる光景だった。
そうだ、俺達はまだまだ成長していける。
これからもいろんな挑戦を重ねて、レベルアップして、そしていずれはあのエスクラブプリュイにだって勝って本戦に出てやるんだ。
勝つ――。
それはラナナスの前で苺が口にした言葉。
以前は苺一人で明日をも見えない活動をしていた。
けれど今やっとその大きな目標に、真正面から向き合えた気がする。
歓声に応えた苺たちが舞台袖へと駆け込んでくる。
「どうだった? お兄ちゃん!」
「ああ、最高だったぜ。最高に可愛かった!」
「うふふ、だったら……」
「まあそうだな、今日のところは全面的に褒めてやろう」
なんだか楽曲内の彼氏面をしているようで少々気恥ずかしさはあるが、それよりも今は本番で最高のパフォーマンスができた三人を褒めてやりたいという気持ちの方が強い。
俺は頭をくしゃくしゃに撫でてやると、苺もルエラもはにかむ。
確かな手ごたえに自信を漲らせているのだろう。
いつになく二人がはしゃいでいるように見える。
「モーラも、お疲れさん」
そして俺はモーラの頭も撫でてやる。
「あ、あの……ありがとうございます」
頬を赤く染めながらも、苺達に釣られて笑みを零している。
これはどっちのモーラだろうか?
判断に困る反応だ。
それはともかく、もうモーラも立派なみらくるベリーズの一員だな。
そうして労っていると、ステージ上にマイクを手にしたキビスが姿を現した。
どうやら後攻のパフォーマンスが始まるようだ。
「それでは後攻キャラメルリボンのパフォーマンスだあ! まずはアピールタイム行ってみよう!」
反対側の舞台袖からキャラメルリボン三人組が姿を現す。
「こんにちはー! キャラメルリボンのメイメルだよ! 今日は応援よろしくね!」
「こんにちは! タユーカよ。今日は大事なライブを見に来てくれてありがとう!」
「こんにちは~! レイナですぅ。今日もいい歌をみんなにプレゼントできるように頑張りますぅ」
快活なメイメルに、凛としたタユーカ、おっとりとしたレイナの三人はそれぞれの個性を出しながら観客達に呼びかけていく。
場数を踏んでいるのか、トーナメントというプレッシャーをものともしない度胸で会場を盛り上げていた。
「場慣れしていますね」
「というかむしろ戦い慣れてる?」
キャラメルリボンの三人のトークにルエラが感想を漏らすと、苺がまるで戦闘民族のような反応を返した。
それにモーラは苦笑しつつも自分の解釈を口にする。
「エスクラブプリュイ傘下のあいどる達は普段から競争に晒されていると聞きます。
きっと相当に揉まれてきたんでしょうね」
「そうだな。エスクラブプリュイには見習いも含めて大勢のあいどるがいる。
その中で勝ち上がってきた三人ともなれば、それなりの死線を潜り抜けてきたのかもな」
それに俺もなんだかバトル漫画に出てくるようなセリフでモーラに返事してしまった。
「あっ、始まるよ!」
ステージを見ていた苺が声を上げる。
するとキャラメルリボンのあいどる達が立つステージの幻影魔術陣が輝きを放ち始めた。




