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異世界”あいどる”オークション  作者: 小説を耳で食べる人
第二章 王都予選・モーラ編
48/55

モデル撮影

 けれどもそんな心配をよそに、苺はいつも通りの元気な様子に戻って聞いてくる。


「けど寄せて上げるのは有りなんだよね?」

「それは本人の努力だろうが。むしろ賞賛するべきところだ」


 不意に視界の端で女性スタッフの一人がぴくりと体を跳ねさせたが、まあ見なかったことにしておいてやろう。


「これはいよいよ女王形態の制御訓練に入ったほうがいいかな?」

「まあ使えるに越したことはねえが、危険なんだから扱いは慎重にな。修行するときは必ず俺と元勇者パーティーの誰かを呼ぶこと」

「ぶう、わかってるよお」


 苺は不服そうに唇を尖らせた。



 苺には人化形態、亜人形態、女王形態があり、日常は人化形態で過ごし、力を解放するときに亜人形態になる。


 その際に苺の胸が膨らんでいるのは事実だ。


 それならば夢魔の女王種として女王形態での力が完全開放出来れば爆乳になるのも道理。


 とはいえ、そんな目的のために力を解放だなんてこと、あまりに危険すぎてもちろん許可なんて出さないがな。

 

 元勇者パーティーの面々ならその辺りもわきまえているし……いや、一人か二人、逆に煽りそうなやつがいるが、概ね苺を止めてくれるだろう。

 

 今はもう魔王だっていないし、国家間の大規模な戦争も起こっていない。


 長らく記憶の封印とその期間の壮絶(そうぜつ)な修行のせいで力が高まりすぎている。


 今の苺でも制御は困難だろう。

 

 今の苺の能力で女王形態になろうものなら恐らく星をも破壊してしまうに違いないからだ。


 爆乳を得るために世界が崩壊したら本末転倒もいいところだ。


 そうならないように結界か異空間を用意してやる必要があるわけで、その術式に必要な魔力は膨大だ。

 

 まあそもそもとして妹の胸がいくら大きくなったところで俺にはどうでもいい話だがな。


 

 すると隣のルエラがポーズをとって声をかけてきた。


 なぜか胸を強調するかのような姿勢だ。


「修果、私はどうですか? 今日の私はモデルですよ?」

「ああ……随分と美人に仕上がったな」


 俺は自然と感想を口にした。


 細く長く透き通るような白い手足。

 モワノーの指導で様になっているポーズは俺の目から見てプロのモデルに遜色(そんしょく)ない。


 本当にルエラは多芸だと思う。


「元々姿勢は良かったのですぐに吸収していましたわね。見せ方というものを理解しているようですわ」


 そんなルエラにモワノーも楽し気に微笑む。



 俺はぷろでゅーさーとして素直にルエラを褒めながらも、同時に頬が熱くなるのを感じた。


 苺との会話でいつものペースを取り戻したかと思ったが、顔を見た瞬間にそれが崩れる。


 普段の雰囲気とはまるで違う、むしろ広告塔として、芸術作品と化してそこに(たたず)んでいるはずのルエラをなぜか女として意識してしまっている自分がいる。


 やっぱさっきモワノーと妙な会話をしたせいだな。

 

 まったく、これじゃあぷろでゅーさー失格だ。


 そういや子供の頃、まだ俺があいどるもどきをやっていた時にそこのところをしっかり叱ってくれたあいどるのお姉さんがいたっけな?


 妙に鬼気迫っていて戸惑ったのを今でも覚えている。



「そういやルエラは今人間の姿なんだな。普段からずっと亜人姿でいるからてっきり人の姿になれねえのかと思った」


 亜人の中にはたまに人の姿になれない者もいる。

 そう思って聞いてみたが、ルエラは首を横に振った。


「いえ、普通はただならないだけですよ。だって人の姿だとシュカの匂いが嗅げないじゃないですか」

「……ほんとモデルになってもブレねえな、お前は。

 けど耳と尻尾がないだけでも随分と新鮮な感じがする。たまにはその姿で過ごしてみてもいいんじゃねえか?」


 俺の提案にルエラは悪戯っぽく微笑む。


「そうですね。修果が私を抱いてくれるなら考えてあげます」

「遠くから見ているだけで満たされるんじゃなかったのか?」


 最近は俺の警戒度合いが上がったせいか、ルエラが直接攻撃に打って出るようになってきた気がする。


「それはそれ、これは別腹です」


 俺の呆れ交じりの言葉にルエラがかっと目を見開いた。


 いや、怖い! 目が血走って怖い!


「だってそうしないと匂いを嗅げないじゃないですか。人の鼻は本当に不便です」

「ってどれだけ俺の匂いが好きなんだ、お前は」


 ってか匂いっていうけど別に俺臭くねよな?

 

 こうも言われ続けてると自分の体臭とか気になって来るんだが……。



「ちょっと騒ぎすぎたか……」


 周囲が妙な雰囲気になってきた。


 モデルの仕事というだけあって周囲には女性のスタッフが多い。


 さすがにいつものノリでいるのはよろしくないだろう。

 

 俺は顔をしかめるスタッフたちに向かって軽く頭を下げて謝罪する。



 にしてもそんなにルエラは自分が人の姿になるのが嫌なのだろうか?


 苺の動きについていく意味でも亜人姿の方が有利ではあるから無理に人化させようとは思わないが。


 実家では自分が亜人であることを隠し続けなければいけない立場だった上に、俺との契約の後はずっと軟禁状態だったわけで……。


 

 そこまで考えて俺は頭を振った。


 今は思考にふけっている場合じゃない。


「んで、モーラはどうした? 本番を前にしてまた(すく)み上がってるのか?」


 私には無理ですーー! と、とぐろを巻いて身を隠すモーラの姿が容易に浮かんでくる。


「ううん、そういう心配はしなくて大丈夫だよ」

「口で言うより直接見ていただいた方がよいかと存じます」


 しかし苺もルエラも俺に向かって含み笑いを浮かべると、二人は入口へと視線を向けた。


「お待たせいたしました」

「――おっ」


 張りのある声が撮影スタジオに響いた。


 その瞬間、俺は呼吸も忘れてモーラを見つめてしまっていた。



「モーラ、なのか?」

「ほへえ……モーラちゃん、凄いなあ。本物のモデルさんみたい」

「みたいじゃなくて本物ですよ。修果、まるで別人だと思いませんか?」

「あ、ああ……」


 苺もルエラもその佇まいに圧倒されているようだった。



 二人とお(そろ)いの濡羽(ぬれば)色の膝丈のイブニングドレス。


 髪を後ろに(まと)め、よりシャープに見える整った顔立ちとメイク。


 スラッとした長身から伸びる長い手足。


 そこには絵に描いたような理想的なモデルの姿がある。


 だがそれより、何よりもモーラがまとう雰囲気が凄まじい。


 いったいどこぞの絶世の美女だと思わされる程のオーラを全身から放っている。


 磨きに磨き抜かれた洗練された力強さ。


 ラナナスが獰猛(どうもう)で獲物を喰らう猛獣ならば、モーラは神聖さで獣をひれ伏せさせる神獣とでも称すればいいだろうか?


 普段から長身のモーラだが、今はそれより一回りも二回りも大きく見える。


 全身から放たれる自信は自分こそが主役であると主張しているかのようだ。


 『絶世の美女』という芸術作品がそこにある。


 それは俺との契約時とも比較にならない、圧倒的な存在感だ。



 モーラは真っ直ぐに歩みを進めながらカメラの前へと移動していく。


 それに苺とルエラも続いた。



「苺さん、ルエラさん、準備はよろしいですか?」

「うん、いつでもどうぞ」

「よろしくお願いしますね、モーラさん」


 モワノーの呼びかけに頷き返す苺とルエラ。


 練習通りのポジションで三人がポーズをとる。


 とはいえそこは異世界あいどるオークションに出場するあいどる二人。

 

 場の空気に圧倒されながらも呑まれず、歌い出しのようにちゃんとポーズを決めてみせる。


「うわっ!?」


 しかし苺はカメラマンの持つスフィアカメラから光が放たれると、それに驚いて思わず声を上げてしまった。


 ルエラはリアクションこそ押さえていたが、やはり驚いているのか目が見開かれている。


 一方でモーラは涼しい顔でポーズを決めていたが、二人の様子に少しだけ肩の力を抜いたようだった。



「ごめん、驚いちゃった。次は大丈夫だからもう一回お願いします」

「まあいきなりこれは驚いちゃうよね。それじゃあイチゴちゃん、もう一回いってみようか」


 何度か目を(しばたた)いてから謝る苺。

 

 それにカメラマンはにこやかに応じて再びスフィアカメラを構える。


 光を当ててより鮮明で明るい画を撮影すると事前に説明はされていたが、まさかここまで強烈な光だとは思わなかったのだろう。


 後ろから見ている俺ですら眩しいと感じたくらいだ。


 これ、戦いの時に目くらましが出来そうなレベルの光だよな?



「……真っ白だな」


 俺はカメラマンの手元にある先程撮った間抜け面の苺の写真を見て苦笑する。


 ポスターや新曲のパッケージ撮影で光を使うことはあるが、こんな瞬間的にしかも強烈な光は利用しない。

 

 そんな事をしたら肌やらなにやらもろもろが鮮明になり過ぎて、逆に残念な画が出来上がることだろう。


 実際、いいリアクションをしている苺のマヌケ顔が写真に写ってしまっている。

 

 白塗りだ。


「……ふう」


 だが俺は小さく息を吐いて気持ちを落ち着かせた。


 今このスタジオに弛緩(しかん)した空気が流れるのは避けたい。


 モーラのマインドセットが切れるのはまずいし、苺もルエラも撮影に集中している。


 

 腹の底に横たわる心地のいい緊張感。


 それを今、苺たちは俺よりも感じていることだろう。


 歌とダンスを通じてお客と作り上げていくライブの時間に対し、メイクとポーズで一瞬を切り取るために極限まで集中力を高める撮影。


 普段とは異なるこの空気は、しかしどこか通ずるものもあって居心地がいい。


 きっと苺もルエラもそれを楽しんでいることだろう。



「それじゃあみんな、よろしく」


 カメラマンがカメラを構え直すと苺たちがポーズをとる。


 モワノーの演技指導で会得したシュッと引き締まった笑顔でカメラに視線を向ける三人。


 そこに光が再び放たれるが、今度は三人とも揺らぐことはなかった。




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