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異世界”あいどる”オークション  作者: 小説を耳で食べる人
第二章 王都予選・モーラ編
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キャラメルリボン

「キャラメルリボンですか……確か新人の中でも人気急上昇中の勢いのあるあいどるユニットですね」


 ルエラはいつもの微笑みを浮かべながら頷いた。


 すでに一回戦は全て終わっていて、今は二回戦の対戦の組み合わせが発表されたところだ。


 そして俺達の二回戦の対戦相手はこのキャラメルリボンとなった。


「シュカ兄さん。こちらがキャラメルリボンの予選応募と一回戦の映像になります」


 リメッタが持ってきた映像スフィアを起動する。


 そこにはステージに立つ三人の少女が映されていた。


「予選応募映像がエスクラブプリュイスタジアムのメインステージとか、どんだけの規模のライブやってるんだ、こいつら」


 俺は全財産を賭けて強行したストリートライブを思い出しげんなりとする。


 世の中金か? 金なのか?


「うわあ、いいなあ。苺もこんな大きな会場でライブしたい」


 ついこの前、ここでラナナスと決闘ライブをしたことを忘れたかのように目をキラキラさせながら苺がうっとりとする。


「エスクラブプリュイと姉妹ユニットの合同ライブのようですね。なるほど、大きな会場で経験を積ませてついでに知名度を上げているのですね」


 ルエラは僅かに目を細めながら映像の中のパフォーマンスを見守っている。


 

 キャラメルリボンは人族の三人組のユニットだ。


 ユニット名の通り、コスチュームの腰には大きなリボンが結ばれているのが特徴だ。


 いつも笑顔なセンターのメイメル。

 おっとりとした天然系のレイナ。

 クール系でどこか神秘的な雰囲気を持つタユーカ。


 『プレゼントは私』というコンセプトの下、年下の女子生徒が先輩に甘えるかのようなパフォーマンスを売りとしている。


 エスクラブプリュイの姉妹ユニットだけあって、高いレベルでの歌と踊りをこの広い会場の中でも物怖じせずに披露していた。


 それに応えるように映像の中の観客たちも彼女達のパフォーマンスに熱狂している。


「数万人の歓声って凄まじいな」

「だよね。きっと会場は大揺れだよ」


 俺の呆れとは対照的に苺は楽しそうに体を揺らしてリズムを取り始める。

 

 これだけの観客を前に楽しそう、か。

 ほんと苺は根っからのあいどるだな、頼もしい限りだ。


「ちょっとこの一画、なんだか凄くない?」


 するとマスターが映像の一画を指で指し示す。


「うわっ、なにこれ?」

「一糸乱れぬ動きですね」


 その場所を拡大した映像に苺が目を丸くし、ルエラが目をしばたたかせる。


 そこにはキャラメルリボンのファンと思われる数百人の男たちがペンライトを両手に持ち、まるで高速手旗信号のように一糸乱れぬ動きで応援パフォーマンスをしていた。

 

「『おし』ってやつだな。にしてもこの規模と練度、全盛期のみらくるベリーズでも滅多にお目にかかれたもんじゃねえぞ」

「スポーツの国際大会規模ですね。この集団が二回戦に乗り込んでくるとなると相当苦戦するのではないでしょうか?」


 結束力の固いファンが一丸となって応援する。

 これ程力強いサポートはないだろう。


 一方で対戦相手には大きなプレッシャーをかけられる。


 ふと他の反応が気になってちらりと見れば、リメッタはすでに映像を見たことがあるのかいつも通りの笑みで、モーラは呆気にとられた様にぽかんと口を半開きにしてキャラメルリボンのパフォーマンスを見守っていた。

 

「一回戦の相手のユニット、先攻のキャラメルリボンのパフォーマンスと応援に圧倒されて涙目になってますね」

「とはいえ対戦相手のパフォーマンスもしっかり応援しているし、不当な贔屓(ひいき)をしている様子はねえな」


 対戦相手のパフォーマンスを見るに、別に相手を否定して勝たせようという素振りは一切見せていない。


 それどころかしっかりと対戦相手のパフォーマンスも楽しもうとしている姿勢がうかがえる。

 

 彼らはキャラメルリボンのファンである前に、ちゃんとしたあいどるファンなのだと見ていてわかる。



 映像を見終わったルエラが口を開く。


「強敵ですね。私たち以上に勢いがあることは間違いありません」 

「大丈夫だよ。パフォーマンスでなら苺は負けないよ!」


 苺は勝気な笑みを浮かべる。

 それにリメッタも同調した。


「そうですよ。モーラさんも加わるんです。これで負けることなんてありませんよね?」

「えっ……わ、私ですか?」


 リメッタに笑顔を向けられたモーラはたじろいだ。


 モーラはうつむき暗い顔になってしまう。


「ああ、実は今日劇場のライブで少しドジッちまってな……」

「ご、ごめんなさい。嫌なこと思い出させちゃいましたか?」


 それだけで俺の言いたいことを察したリメッタがわたわたと慌てだす。


「い、いえ。リメッタさんが悪いわけではありませんので。悪いのはミスをした私ですから……」


 ここでの食事でせっかく上向きかけていたモーラの気分が沈んでしまった。


 場に気まずい沈黙が流れる。


 と、そんな空気を打ち払うかのようにマスターがぽんと手を叩いた。


「だったら気分転換にメイドさんやってみない?」


「め、メイドですか?」


 突然のマスターの申し出にモーラが目をぱちくりとさせる。




 それからメイドに着替えるモーラを待つことしばし。

 

 ペリステラー商会の見習い商人として一通りの接客作法は身に着けているという。


 ということでモーラを即戦力として投入してみたのだ。


 もちろん商会に来た客にお茶を出すのと、メイド喫茶のメイドの奉仕では勝手が違う部分なんていくらでもあるわけだが、まあお客様体験コース扱いで傍に他のメイドもついているし、心配はいらねえだろ。


「お、お待たせしました……ご、ご、ごご……」


 モーラの声に俺達は振り返る。


「ごひゅじんひゃま!」

「うっ……!」

 

 裾の端を握って上目遣いを向けてくるモーラに俺は雷に打たれたかのような衝撃を覚える。


 そこにはいじらしい美人のメイドが立っていた。


 長身でスタイルのいいメイドが恥じらう様子にこちらもこっ恥ずかしくなってくる。


 すると後ろからリメッタがひょこりと顔を出してモーラの隣に並ぶ。

 

「どうですか? とっても似合ってますよね?」

「ああ、大したもんだな。見事にメイドに仕上がってるじゃねえか。

 リメッタ、モーラの着替えや準備手伝ってくれてありがとな」


 俺はリメッタの頭を撫でながら褒める。


「似合ってるよ、モーラちゃん!」

「はい、なんともまあ、庇護欲をそそられますね」


 苺が拍手をし、ルエラは少女らしい笑みでころころと笑う。


「そうよねえ、今すぐうちの店にスカウトしたいくらいだわあ。ねえ、モーラちゃん。うちで働いてみる気ない?」


 マスターまでもがテンション高くモーラの姿を()め始める。


「あ、ありがとうございます……」


 それにモーラはさらに顔を赤くしてなんとかお礼を口にするのだった。



 そしてしばらくモーラの接客を見守ることにしたわけだが……。


「きゃっ!?」


 モーラは荷物に(つまづ)き転んでしまう。


「す、すみません。不注意でお客様の鞄を蹴ってしまって。本当に申し訳ありません」

「い、いえ、こちらこそすみません。机の下に移動させますね」


 モーラのあまりの頭の下げっぷりに、お客も逆に申し訳なさそうに机の下に荷物を入れた(かご)を引き込んでいる。


 転んだ際飛んで行ったドリンクの入ったグラスは苺がトレイを使って中身を(こぼ)さずにキャッチしていた。


 モーラはさらにお客に謝ろうと向き直ろうとして、隣のテーブルにぶつかってバランスを崩す。

 

「おおっと!」


 そこへすかさず苺が手を引いてくるりとペアダンスを踊るように体勢を入れ替えながらモーラを立たせる。


「ご、ごめんなさい!」

「落ち着いてください。誰も怒っていませんよ」


 ルエラは迷惑をかけたテーブル席のお客ににこりと微笑みかける。

 それにお客も笑顔で頷き返していた。


 ルエラがさりげなくモーラに体を寄せている。

 これ以上モーラがパニックで暴走しないよう、支えているのがよくわかった。


「あらあ、モーラちゃんはドジっ子属性だったのね。このギャップはありかしらね?」


 筋肉をぴくぴくとさせながら楽し気に見守るマスターの疑問に俺は即座に首を振る


「んなわけねえだろ。店の食べ物や食器を台無しにするところでアウトだ。キャラづくりするにしたって最低限飲食店としてのルールは守れ」

「まあそうよねえ。それにしても苺ちゃんもルエラちゃんもモーラちゃんのフォローが上手ね」

「ああ、これでもユニット組んでるからな。一見苺が目立ってるけど、ルエラのフォローが冴えてるよな」


 マスターも俺と同じ考えだったのかあっさりと肯定すると、接客をするメイド達に視線を向ける。



 初めはリメッタたちリリークレイドルのメイドたちがモーラをフォローをしていたのだが、フォローが追いつかずに参事になっていた。


 苺もルエラもモーラのあまりの危なっかしさに我慢できなくなったのか、メイド服に着替えてこうして一緒に接客をしているのである。


 苺はまるで曲芸のように飛んだオムライスやスパゲティを皿でキャッチしたり、転びそうになったところをペアダンスのようにくるりと体を入れ替えて体勢を立て直させたりしている。

 

 その度に観客達から拍手が沸き上がっている。

 

 一方ルエラはさりげなくモーラの体に触れたり声掛けをする程度だが、それは紛れもない誘導だった。


 お客の荷物で蹴躓(けつまづ)いたり、テーブルの角にぶつかりそうになったりするのを未然に防いでいる。


 端から見ていて気付きにくいが、ルエラの働きあってこそモーラも少しずつ落ち着きを取り戻しているように見える。


 最初に比べてミスがほとんどなくなっている。

 

 元々努力家で何事にも真面目に取り組むモーラだ。

 調子を取り戻せたならちゃんと仕事が出来るのである。



 そうしてしばらく接客を続けていると、リメッタがモーラに声をかけた。


「モーラさん、一緒に歌を歌いませんか?」

「歌、ですか?」

「はい。ここではお客さんとも一緒に歌うんですよ」


 モーラはリメッタの視線の先にある小さなステージを見る。


 そこにはリリークレイドルのメイド達が飾り付けた、いかにも手作りというような小さなステージがあった。 


 歌は好き、身の丈に合った幸せがいい――そう言ったリメッタらしい可愛らしく暖かなステージだ。


「私、モーラさんの歌を聴いてみたいです」

「で、でも……」


 モーラが俺をちらりと見る。


「別に構わねえよ。楽しんで来い」


 俺はにいっと笑いながらモーラに頷き返す。

 別に苺もルエラも店に来たら何も言わなくても勝手に歌うし今更の話だ。

 

 本当なら店のメイドとのデュエットは料金が発生するのだが、みらくるベリーズのメンバーはそれだけでいいショーになるといって好きに使わせてくれる。


 というか苺もルエラもお客を巻き込んで一緒に歌うことが多いからな。

 店を盛り上げるって意味でも十分に貢献しているわけで、遠慮なんてする必要はないわけだ。


 リメッタがモーラをステージに引っ張っていく。


「楽曲は……みらくるベリーズのものでいいですか?」


 モーラの緊張具合を見てか、普段から練習しているであろう楽曲を選ぶ。


「では歌いましょう。曲は――」


 曲名を発表すると、店内のお客達が拍手で場を温めてくれる。


 リメッタはモーラに寄り添うようにして歌い出す。


 小柄のリメッタと長身のモーラが並ぶとまるで姉妹のようだ。


 リメッタに合わせてモーラも自分のパートを歌い出す。


 表情はまだ硬いが歌いだしを失敗せずに歌い始める。


「あらあ、歌上手いじゃない」

「ああ。練習は人一倍頑張っているからな」


 出だしさえ失敗しなければあとは勢いで歌いきることができる。

 もう心配することはないだろう。


 すると苺とルエラもステージに上がった。


 二人はモーラと目を合わせながらにこりと微笑みかける。


 モーラも微笑んだ。

 モーラは臆病だが、決して自分の世界に引きこもったりはしない。


 ちゃんと苺やルエラの呼吸を感じてそれに合わせたパフォーマンスをしている。


 モーラの顔に笑顔が浮かんでいる。


 どうやらモーラもちゃんとこのステージを楽しんでくれているらしい。


 暖かい空気の中、モーラは最後まで歌を歌い切ったのだった。



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