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異世界”あいどる”オークション  作者: 小説を耳で食べる人
第二章 王都予選・モーラ編
40/55

絶対究極戦士ヤイバマン

 母さんの事務所の応接室で契約書類を確認する。


「記載内容に問題ないわね。それで……私が契約を見届ければいいのよね?」

「ああ、母さんとモワノーを宣誓契約の見届け人にしたい。頼めるか?」


 すると契約内容が書かれた羊皮紙の束を机に置いた母さんの姿がブレたかと思うと、嬉しそうに俺へと飛びかかってくる。


 だが俺はくるっと体を入れ替え、突撃を回避すると母さんはどてっと床に倒れ込む。


「んもう! シュー君は照れ屋さんなんだから。お母さんがシュー君のお願いを断るわけないじゃない」

「照れてねえし。ってかお客さんの前でそういう醜態晒すな」


 俺は半眼になって母さんを睨んだ。



 俺は溜息を一つ()くと、机の上の羊皮紙の一枚をとりモワノーに渡す。

 

「こっちがペリステラー商会の分だ。保管しておいてくれ」

「かしこまりましたわ」


 モワノーは優雅な所作で俺から契約内容が書かれた羊皮紙を受け取ると鞄の中にしまう。



 本来宣誓契約に契約書は必要ないが、どんな契約を交わしたかを控えておくためにも書類は必要だ。


 そして宣誓契約を行ったならば、契約ギルドにも報告が必要となる。

 

 今回のケースでは商業ギルドにも報告が必要だろう。

 

 この契約の契約主は俺だ。

 あとで契約書の写しを両方のギルドに持っていかねえとな。



「にしても、なんなんだろうな?」


 俺は母さんとモワノーを見比べる。


 母さんとモワノーは共に子を持つ働く同年代の女性のはずなのに、どうしてこうも違うのだろう?

 

 いつまでも子供の母さんと大人のモワノー。


 似ているのは体型だけとか。

 それも態度によって全然違う印象を受ける。


 もう少し母さんもシャキッとしていればカッコいい大人の女性に見えるだろうに。



「どしたの、お兄ちゃん?」

「いや、なんでこうも違うんだろうなって思ってな」

「なにが?」


 俺のしかめっ面を見てか、苺が不思議そうに首を(かし)げる。


 俺は足元で拗ねて唇を尖らせながら座り込む母さんを見ながら言う。


「全然違えだろ。(かた)や立派な社会人、(かた)や幼児並みの子供」

「そうかな? ママも凄いと思うよ。全然隙がないし。今攻撃しても苺でも当てられないと思う」

「……はっ?」


 苺の訳の分からない返事に今度は俺が首を(かし)げてしまう。 


 そこにルエラまでもが同意するように頷いてきた。


「そうですね。自然体でいるようで身のこなしがとても軽い。隙がないという意味では両社とも共通していると思いますよ?」

「お前らな……どこぞの戦闘民族だったんだ? なんで戦うこと前提で話が進んでるんだ、このあいどる共。ってかモワノーをそういう対象で見るな」


 俺は呆れて思わず溜息を吐く。

 

 確かにモワノーの動きは洗練されているが、それはモデルとして、商人としてのそれだ。

 武術とはそもそも競技が違う。


 んまあ護身術くらいは(たしな)んでいそうな気配はあるが、本業と比べるべくもないだろう。



「まあ……普段からあいどるとして人の身のこなしに注意を払えとは教えたけどな? そういう事じゃねえから」


 戦えなんて一言も言ってねえよ。

 

 すると苺が得意げに小さな胸を張り、ぼんと叩いて見せる。

 

「だってルエラちゃんに身のこなしについてレクチャーしてやれって言ったのはお兄ちゃんだよ? だから苺が修行していた頃のルーちゃん先生のやり方を教えてあげたんだよ」

「そりゃあ着想は間違ってねえけどな。そのまま戦闘技術までルエラに教え込んだのか?」



 苺が声を失っている間の二年間、俺達は様々な元勇者パーティーのメンバーの下で修行をこなした。


 閃空姫ルーファ・リフルテク師匠もそのうちの一人だ。

 

 パーティー内では斥候(せっこう)と短剣武器での近接戦を得意とするシーフ的な役割を果たしていた彼女は、俺達に身のこなしと偵察・罠対応の技術について色々と教えてくれた。


 そうして無駄のない力の使い方を身に着けることで、流れるように次の動きへと移れるようになり、結果的にダンスの動きの幅を広げることにも繋がった。

 

 その技術をルエラのダンス技術の向上にも使えないかと考えたのだが……。



「はい、お陰様で修果の部屋の罠対応が容易になりました! カメラの設置技術も向上したのです」


 ルエラがほくほく顔で喜び、尻尾まで振っている。


「そんな技術向上させんでええわ! ってかまた俺の部屋にカメラ仕掛けたのか?」


 俺の追求にルエラがしまったとばかりにつつーと視線を逸らす。

 こりゃあ後で尋問タイムを設けねえとな。


 ってか結果的に自分の首を絞めてしまったってか?


 まさかパフォーマンス以外のところで迷惑な技術を習得してくるとか、どんだけの情熱を俺の盗撮に傾けてるんだ、こいつは?




 そうして書類の確認を終えた俺達は母さんの案内で執務室の奥へと向かう。


 メンバーは俺と苺、ルエラ、それからモワノーとモーラ、母さんを加えた六人だ。



 机の後ろ側のカーテンをめくれば、そこには魔術陣によって封印された木製の扉があった。

 

 アリスリンド精霊国の精霊の樹海から切り出された魔力との親和性が高い木材で作られた重厚な扉は、見た目以上の強度を誇る。


 魔力の豊富な土地で育った木材はそれ自体の強度が強く、魔術杖としても高級品として扱われる素材だ。

 

 そこに幾重もの魔術陣が刻まれていて、物理的および魔術的な攻撃を一切受け付けない頑丈な守りを形成していた。



 母さんが扉の中心に魔力を込めると魔法陣が輝き出し、やがて封印が解除される。

 

 重たい扉はゆっくりと開いた。

 扉の先には下り階段がどこまでも続いている。


 先は暗闇で見えない。

 見つめていると吸い込まれそうな感覚に襲われるほどに闇が深い。


「ううっ……」


 そんな気配に気圧されてか、モーラが息を呑む音が聞こえた。



 母さんが指をパチンと鳴らすと階段脇の壁に設置されていた証明に光が灯る。


「この先に宣誓契約のための魔術陣があるわ。道は一本道だけど薄暗いから足元には気を付けてね」


 そう言って歩き出す母さんの後ろを俺たちもついて歩く。


 

 契約部屋は外部からの物理的、魔術的干渉を防ぐために地下深くに作られている。


 契約の最中に横合いから契約を()(さら)われたたり、こっそり侵入して不正な契約を交わさせたりするのを防ぐためだ。


 宣誓契約とは魂に刻まれる契約。

 真摯(しんし)に向き合うべきものであり、決して(たが)えてはいけないものだからだ。



 しばらく階段を降り続けると、俺達は石造りの通路に出た。


 薄暗い石の地下通路は遺跡のように音もなく空気がひんやりとしていてなんとも不気味だ。


「――ひっ!?」


 と、そんな雰囲気におっかなびっくりな様子で歩いていたモーラが体をびくんとさせて短い悲鳴を上げた。

 もう涙目だ。


 モーラの視線の先には一体のゴーレムがいる。


 剣を持った軽鎧の四本腕の男の戦士だ。

 逞しい筋骨の造形は剣闘士を彷彿とさせる。


「ああ、警備用のゴーレムだな。昔錬金術の勉強をしていた時に俺が試作で作ったやつだ」


 俺達の前にいるのは錬金術や魔術プログラミングの練習で試作したゴーレムの一体だ。

 

 昔は戦闘訓練の相手としても使っていたが今はお役御免となってこの場所に設置されていた。


「安心しろ。俺や母さんが近くに居れば反応しねえよ。俺達に危害を加えようとしなければな」


 このゴーレムは俺が八歳の時に作ったものだ。


 製作者の俺と魔力供給者の母さんの魔力が近くにあると攻撃をしないよう設定されている。

 

 条件付けとしてはかなりシンプルだな。



 モーラは危害だなんてとんでもない! と言わんばかりに首をふるふると振る。


 商会なら警備ゴーレムの一体や二体、普通にいるだろうに。

 この場の雰囲気がモーラを緊張させているな。



「ええと、絶倫吸引戦士ヤリマンだっけ? 中二病全開だよねえ」

「確か絶対究極戦士ヤイバマンですよ。このいかにもヒーローって感じの装備が男の子って感じがしますよね」


 一方で苺とルエラはけろっとした顔で、まるでお茶をしながら鑑賞するかのように俺のゴーレムの感想を言い合っている。


 ってか苺のやつ、ほんとそういうところの記憶は適当だな。


 しかもサキュバスたるものと言わんばかりの補正がかかってるし。



「それで合ってるけどな、どうしてルエラがその名前を知ってる?」


 ルエラのストーカー情報収集力はどこまでのものなのだろう?

 本当に恐ろしい。

 

 ってかその頃のルエラも年齢一桁だよな?

 

 まあ苺に使った魔女の秘密の秘密には気づいていなかったから、本当に何もかもを知られているというわけではないとは思いたいが……。


 それよりも、だ。


「……ガキの頃に作ったものなんだからしょうがねえだろ?」


 本当は今すぐにでもこの場で転げまわって悶えたい気持ちをぐっと抑えてるんだ。

 これ以上はイジらないでほしい。


 だからこそ恥ずかしいから全力でスルーしようとしたのに、苺はここぞとばかりににやにや顔でゴーレムの周りをぐるぐる回り出す。

 

 

 それはかつて親父が描いた『まんが』と呼ばれる異世界ニホンの読み物が王都で流行り始めた頃の話だ。

 

 その頃八歳だった俺はちょうど元勇者パーティーの錬金術師ロクス・ハゼルス僧正からゴーレムづくりを教わっていた。


 イメージしやすいものという事で、当時の子供達に人気だったまんがの世界のキャラクターを参考に、自分だけのオリジナルヒーローを作ったのがコレである。

 

 とはいえさすがは子供の発想だ。

 今見返してみるとわけがわからない。

 

 とにかく最強とか絶対とかつけて喜んでいるとか。

 これが他の子どもだったなら微笑ましく思えたかもしれないが、自分の事となると今すぐに消し去りたい。

 

 ってかさっきから脂汗が止まらないぜ。


 

「ってか母さん、いい加減処分しろって言ったよな? 大した力もねえし、行動パターンも少ねえだろ?」

「だってシュー君が作ったものを母さんが捨てるなんてできるわけないじゃない」


 捨てるなんてとんでもない!


 やだやだあと母さんがしなを作ってごねる。

 なんか馬鹿にされてるみたいでイラっとするな。


「それに代わりのゴーレム用意するお金ないし、市販のゴーレムよりよっぽど強いじゃない」

「そうですわね。この性能であれば十分に警備として役立つと思いますわ。これがたった八歳で作ったものとは到底思えませんわね」


 するとゴーレムを観察していたモワノーまでが感嘆の息を漏らす。


 いやいや、そんな痛々しいヒーローのゴーレムを真面目に見てやんないでください。

 

 くそっ、今すぐこの場から逃げ出してえ!



 確かに母さんがたっぷりと魔力を込めたお陰で単純な出力だけならそこらの騎士にも負けないものがある。


 この狭い通路で戦うならばそれだけでも十分な脅威になるだろう。


 元勇者パーティーの力は伊達じゃない。

 女王夢魔(クイーンサキュバス)の魔力を込めるとわかっていたから、俺も遠慮なく様々な機構を組み込んでいた。


 お陰で燃費はすこぶる悪い訳が、一通りの戦闘はこなせるし、周囲に救援を求めることもできる。

 

 契約ギルドの審査も通過して、こうして契約商として営業が出来るわけだから結果オーライと言えなくもないが……。

 

 

 そして俺は思い知る。


 そうか……この先俺の黒歴史が詰まった巣窟だったな、ここは。


 俺はこの先で待ち受けるものを思い出して泣きたい気分になる。


 果たして俺はまともな精神で契約部屋まで辿り着けるだろうか?




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