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異世界”あいどる”オークション  作者: 小説を耳で食べる人
第二章 王都予選・モーラ編
38/55

パトロン

 モワノーはそう言うとするりとこちらに近寄ってくる。

 

 蛇の下半身の動かし方には詳しくないが、それでも凛とした姿勢からは優雅さが感じられた。


「それで、商談って話だったがどんな内容だ?」


 俺の問いにモワノーは顔に柔和な笑みを浮かび上がらせる。

 紫色の艶やかな髪がさらりと肩に流れた。


「大会期間中、私達をみらくるベリーズの専属スタッフにして頂きたいの」

「私達というのは?」

「私とここに居る私の娘、モーラ。それに商会からも人員を提供するわ」

「娘?」


 モワノーの後ろを見れば、数歩下がったところに長身で小顔の女性が立っている。

 年齢は二十前後くらいで俺達とそれ程歳が離れているようには見えない。

 

 すらりと伸びた透き通るような白い足が印象的で、小顔と相まってまるでモデルだ。


 モワノーと違い人化をしているが、それでも母娘とわかるいいスタイルをしている。

 ……のだが、さっきからおどおどしていてどうにも締まらない。

 

「もしかしてこいつ、モデルなのか?」


 『こいつ』と呼びかけるとモーラはぴくりと反応する。


「ああ、悪い。昔から大人のスタッフに囲まれていたせいで、誰相手でもついこんな喋り方になっちまうんだ」

「お気になさらないでください。この子は単に人見知りが激しいだけですから」


 口をパクパクとさせながら慌てるモーラに代わり、モワノーが教えてくれる。


 ううむ、おどおどとしてはいるが姿勢はいいんだよな。

 なんか妙なアンバランス感があるというか……。

 

 

 そんなことを思っていると、意を決したようにモーラが歩いてくる。

 

 よく教育された綺麗な歩き方……だがフォームは綺麗なのになぜかはらはらとさせられる。

 

 やはりちぐはぐとした印象が強い。


「あ、あの……モーラ・ペリステラーでふ!」

「あっ、噛んだ」


 苺がぽろりと言葉を漏らす。


 モーラが顔を赤らめながら俯く――と同時に、下半身が蛇になってとぐろを巻き始めた。

 母親譲りの紺色の髪が顔に掛かって隠れてしまう。


「……ウンk」

「言わせねえよ?」


 俺は寸でのところで苺の口を塞ぐ。


「苺さん。そういう時は……」

「お前も余計なことは言わんでいい」


 ルエラが隠語を教えようとするのを俺が止める。

 

 ってか隠語でも相手に意味伝わったら意味ねえからな。

 


 ……普段ならともかく今は来客中だ。

 発言には十二分に気を付けてくれ。


 俺は目線で二人に注意する。


「申し訳ないですわ。モーラはまだ人化が上手く出来ませんの」

「そういうモワノーも人化はしてねえな」

「ええ。必要な時以外はこの姿で過ごしておりますわ」


 そう言うとモワノーは人化した。

 スラっと細長い白い美脚がスリットの入ったドレス風の服の間から垣間見える。



 元々人間族の都市であるイルパラディスの王都は建物や階段などの大きさも人間が使う大きさで作られている。


 よってルエラやモワノーのように亜人姿でも出歩けないわけではないが、その場合は周囲に配慮をするのが公共のマナーとなっている。


「モーラはこんな子ですが、スタイリストとしての技術は確かなものを持っておりますのよ。……そうですわね、苺さんにルエラさん。ステージ衣装に着替えていただいてもよろしくて?」

「ステージ衣装ですか?」


 苺とルエラが俺を見てきたので頷き返してやる。


「苺、ルエラ、着替えて来い」


 それから二人は楽屋で衣装を着替えて戻って来た。



 二人が選んだのは予選会場のブースでミニステージをするときによく着る白ワンピース風の衣装『ホワイトブリーズ』だ。


「やはり……衣装の乱れが気になりますわね」


 苺とルエラの衣装姿を見たモワノーはそう言うとモーラを見やる。


「それじゃあモーラ、頼んだわね」

「は、はい……ではい、イチゴさん。し、失礼しますね」


 苺とルエラが着替えている間になんとか立ち直ったモーラがおっかなびっくりといった様子で動きで近づくと腰元のポーチに手を入れた。


 中から取り出したのは数本の縫い針だ。

 その針を衣装に刺そうとする。


「ちょっ――!?」

「だ、だだ大丈夫ですので、じじ、じっとしてください」

「だだだ、大丈夫なんだよね!? なんか手先が震えてるけど、体に刺さったりしないよね!?」

「ははは、はい。あ、安心してください。けけ、怪我はさせませんので……」

「けけけ、怪我は嫌だよ?」


 全身をびくびく震わせながら涙目で針を手に説得を試みるモーラに、さすがの苺も顔を引きつらせ、身を縮こませてしまった。


 まあ苺なら針を刺さったくらいで怪我なんてしないだろうが、せめて手の震えだけでも抑えてくれないと見ているこっちまではらはらさせられてしまう。



 しかしいざ針を刺すと、それはあっという間に終わった。


 スッと目が細められたかと思うと正確な動きで衣装に針を刺していく。

 それは毎を見ているかのような流れるような動きで、美しいとすら思ってしまった。


「お、終わりました……」


 モーラは苺から離れると再びおどおどとし始める。

 一仕事をしたからか表情には安堵の色が浮かんでいる。


 見れば衣装の何か所からか外に向かって針が突き出ていた。

 どうやら仮止めをしたらしい。


「つ、次はルエラさん、お、お願いします……」

「はい、お願いしますね」


 一方のルエラはにこやかにその場に(たたず)み、まったく動じる気配を見せなかった。


 するとモーラも少し落ち着いたか、全身の震えが収まる。

 そのまま苺の衣装同様数カ所に針を刺すと後ずさるようにルエラから離れた。


「少しそのまま踊って頂けるかしら?」

「えっ、このまま?」


 それを見届けたモワノーがにこやかに微笑む。

 対して苺は衣裳から突き出る剥き出しの針先を見て顔を引き()らせた。


 一応激しい動きさえしなければ大丈夫そうだが、さすがにこのまま踊れと言われれば躊躇(ちゅうちょ)するのも仕方がないだろう。


「軽くステップを踏むだけでいいからちょっと踊ってみろ」

「うん、わかった」

「かしこまりました。少し動いてみますね」


 俺の追加の指示に二人は頷き返し、その場で軽くステップを踏み始める。

 と、二人が驚きに目を見開く。


「あれ? なんか凄く踊りやすい」

「衣装が体にフィットして、とても軽く感じます」

「ふふっ、ちょっと動いただけで違いが分かるなんて、さすがはみらくるベリーズですわね」


 モワノーが二人の反応に満足げに微笑む。


 確かにこうして改良された衣装を目の当たりにすると、しっかりと押さえるべきポイントを押さえた体に合った衣装だと理解できる。

 そうして安定感が生まれる事で、この衣装本来の軽やかさまでもがさらに引き立てられ、より魅力的なものへと進化を遂げていた。


 たった数カ所針で押さえただけで……いや、そのポイントこそが衣装作りには欠かせない急所なのだと教えられる。


 やっぱ専門家は技術力が違えな。


「けどこんな簡単に手の内を(さら)していいのか? まだ契約はしてねえだろ?」

「ええ、これは服飾(ふくしょく)を扱う者であれば誰もが知る基本となる知識ですので。それにこれを一目見ただけで理解できる貴方ならいずれは自分で気がついていた筈ですわ」

「理屈の上ではな。ってか、さすがにこのレベルとなると自己流じゃあ難しいと思うぞ」


 確かに指摘をされた部分は基礎分野だろう。

 専門書にも書いてあった押さえるべきポイントだとは知ってはいたが、しかし実物を見るとその本質をちゃんと理解していなかったのだと思い知らされる。

 

 基礎だって極めるにはそれなりの練習による技術の習得が必要だ。


 達人の突き出した拳が岩を砕くように、モーラの持つ技術はその道での達人と呼んで過言ではない域に達している。


 俺もファッション誌やあいどる関連雑誌で勉強はしているが、自己流となるとその気づきに何年も、下手すりゃ何十年もかかったのではないだろうか?


「確かにこいつの実力はわかった。モーラを俺達の専属にしてくれるんだな?」

「ええ。ただ一つお願いしたい事があります」

「なんだ? あの自信のなさげな性格をどうにかしろって話か?」

「ええ、まあ。……結果としてはそうなって欲しいものですね」

「と言うと?」


 俺の投げかけに、モワノーは苦笑しつつ口元を扇子(せんす)で隠す。


「彼女にパフォーマンスの指導をして頂きたいのです」

「パフォーマンスを? あいどるのか?」

「はい。元々モーラはパヒュームメロンのセンターを務める予定だったのです。そのために養成所にも通わせ、基礎を叩き込んでいたのですが……」

「あの性格が災いしてモノにならなかったと?」

「お恥ずかしながら……」


 衣装の出来を喜ぶ苺とルエラに対し、モーラは恐縮ですと縮こまってへこへこお辞儀をしている。

 長身モデルのようなすらりとした体が今はむしろ小柄な苺やルエラよりも小さく見えてしまうくらいだから、これは重症かもしれない。


 ステージに立った途端、白目を剥いて失神する姿が容易に脳裏に浮かんでくる。


「わかった、契約だな。契約書を用意すればいいか?」


 同盟の基本は先払いと相場は決まっている。

 すでに衣装技術という前払いを俺は受け取っているのだから、この申し出を断る理由はない。


「ええ。文面についてはそちらにお任せしますわ。契約術師(コントラクター)さん」

「んっ? それって宣誓契約を結ぶって話か?」



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