甘えるようなキスがしたい
「それでは聞いてください。パヒュームメロンでラブ・リキュール」
テナーサックスを織り交ぜた独特な音色の音楽が流れ始めると、自らのボディを強調するようなポーズから流れるような動きでダンスが始まった。
幻影魔法陣によって作られたのはファッションショーのような風景のステージ。
スポットライトの下でスリットの入ったドレス風の衣装を着た色香漂うグラマラスな彼女達の存在は際立っている。
女が惚れる女というものを体現したモデルのダンス、そして歌。
時に重なるように、時に個々の個性を前面に押し出して緩急をつけた連携が観客達を惹き込んでいく。
妖しさの中にも一本芯の通ったクールな彼女達ならではのパフォーマンスだ。
可愛さのアピールが主流なあいどるのパフォーマンスの中で異彩を放つ彼女達だが、それでも自分達の世界観を存分に表現していた。
モデルのスタイルから表現される色香は魅惑的で、男女を問わずうっとりとさせている。
それは劣情とは異なる、まるで女神を見るかのような神秘さすら垣間見せる。
「これがたった半年で磨き上げられたものだなんてな」
「はい、彼女達のプロ意識は見習わなければなりませんね」
俺の感想にいつの間にか傍まで来ていたルエラがステージを見やりながら返事をした。
その隣には苺もいてほへえとパヒュームメロンのパフォーマンスを見つめている。
キレのある動きがその練習量を物語る。
歌や踊りは本業ではなくとも、そこに一切の手抜きや甘えは感じられい、まさにプロというべき姿がそこにあった。
彼女達は今日この時のために持てる全てを尽くして挑んでいる。
その想いが伝わったか、楽曲の終わりと共に割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。
そんな盛り上がる観客席を見やりつつ、俺は苺とルエラの二人に呼びかける。
「ふたりとも準備は出来たみたいだな。んで、ここからどう巻き返す?」
会場はすっかりパヒュームメロンの空気にあてられその余韻が広がっている。
だから苺とルエラに問えば、二人は勝気な笑みを俺に返してきた。
「もちろんいつも通りだよ」
「私達のパフォーマンスを信じて挑むだけです」
迷いなく、それどころか闘志を燃え上がらせた二人が真っ直ぐに俺を見つめ返してくる。
だから俺もただ一言。
「んじゃ、存分に楽しんで来い」
にやりと笑って二人を送り出した。
まったく、ラナナスとのライブの後からすっかり頼もしくなったというか、貫禄がついたというか。
ほんと、腹を括ったこいつらは強いな。
俺は眩しいものを見るように二人をステージへと送り出す。
「パヒュームメロンのみんな! モデルの魅力を存分に発揮した洗練されたパフォーマンスをありがとう! では次は後攻みらくるベリーズのパフォーマンスタイムだあ!」
パヒュームメロンの四人が向かいの舞台袖へと戻るのと入れ替わるように、苺達はステージへと飛び込んでいく。
「苺だよ!」
「ルエラです!」
「「二人揃ってみらくるベリーズです!」」
ポーズをとって元気を弾けさせた二人はその勢いのまま会場を見渡し始める。
「暑いねー!」
「皆さんの熱気が凄いです!」
「ありがとー! 手を振ってるのちゃんと見えてるよー!」
「今日の新曲も楽しんでいってくださいね!」
台本もないまま二人は代わる代わる息も吐かせぬ軽快なトークで会場を温める。
歌が始まる前から得意のコンビネーションを発揮し、観客の視線と注意を集めていく。
「おおおおっ――!」
苺が起こしたウェーブが、観客席を通り抜けて会場全体へと広がり戻ってくる。
開放感のある海辺のステージだけあって観客のノリもいい。
周囲を巻き込み会場の大きさが一回りも二回りも大きくなったかのようだ。
そうして会場が最高潮に沸き上がったタイミングでフリータイムが終了する。
「それじゃあ時間ですね。私達の曲を聴いてください」
ルエラがにこりと微笑んでから苺と目を合わせ、それから会場を見渡す。
そして二人揃って今日の楽曲のタイトルを口にした。
「「――甘えるようなキスがしたい」」
今日は遠出の海水浴デート。
馬上では彼と二人きり。
高さと揺れが少し怖いけれど、彼の大きくて硬い背中が頼もしくて、思わず体をあずけてしまう。
開けた海は蒼く、空はどこまでも透き通っている。
二人で馬を降りて、向かう白い砂浜は熱いから波打ち際まで駈け抜けた。
海鳥獣を捕まえて、輝く海の上を舞い踊る。
そして今度は空から二人でダイビング。
怖くて叫ぶ私の手を取って、彼は引き攣った笑いを浮かべながら手を取ってくれる。
ふたりで青い海へと飛び込んで、そのまま海の中を進んでいった。
魔法の泡膜に入って海底散歩。
色鮮やかな魚の群れを眺めながら私ははしゃぐ。
この勢いでもっとくっついて、いつもは出来ない大胆な私になりたい。
誰も見ていないのだからもっと甘えていいよね?
キミはすぐかっこつけようとするけれど。
ほんとは甘えん坊なの知ってるんだからね。
だから今日は可愛く甘えてキスをするの。
ちょっぴり勇気を出して背伸びして、素直な自分で彼の頬にキスをする。
今は二人きりなんだからもっとイチャイチャしようよ――。
弾むような軽快な音と踊るように、苺とルエラが揃って可愛らしくステップを踏む。
白いミニワンピースを基調とした爽やかな衣装に身を纏った二人の腰振るかわいらしさに釣られて、つい一緒に踊り出したくなってくる。
波打ち際で水を掛け合うように代わる代わるに歌う二人は、まるで常夏の楽園のような奔放さとみずみずしさをもって会場を包み込み、会場を一気に自分達の世界へと塗り替えていく。
今日もこいつらは絶好調だ。
負けたら終わりのトーナメントでも構わず果敢に攻めている。
幻影魔法陣の魔力を全開で満たし、サビで盛り上がるとバックダンサーを呼び出して一体感のあるダンスパフォーマンスを披露する。
会場からは手拍子が鳴り響き、歓声が夏を熱くする。
やがてちょっと切なく夕暮れの寂しさがちらついたかと思うと、最後は再び盛り上がり、曲は最高潮の盛り上がりの中で完結した。
曲の終わりと共に溢れんばかりの喝采が会場中を埋め尽くす。
その興奮も冷め止まぬままに、司会のキビスがステージ上に現れた。
舞台袖から先攻のパヒュームメロンの四人組も登場する。
「夏の解放感に恋のスパイスは刺激的だね! 楽しいパフォーマンスをありがとう!
それでは早速結果発表といこうか! いったい結果はどうなったかな?」
キビスの煽りにドラムロールが響き始める。
しんと静まりかえる観客席。
誰もが結果を固唾を飲んで見守っている。
背後のスクリーンに横向きのバーが映し出され、二色の色がせめぎ合うように左右に揺れ動く。。
ちなみに今回は俺達の色が黄色でパヒュームメロンの色が緑色だ。
グラフは押し合いへし合いし、ドラムロールの終わりと同時に確定する。
「――41対59でみらくるベリーズの勝利!」
結果発表と同時に一際大きな歓声が上がった。
それは勝者の苺達だけでなく、パヒュームメロンの四人にも向けられている。
その声援に応じる二組は、やがて次も頑張ってとか、みんなの分まで勝ち残るとか、互いに握手や抱擁を交えてエールを送り合う。
そんな爽やかな光景を目の当たりにして俺はにやけつつも、同時に気を引き締めていた。
今回のパフォーマンスを見て確信する。
やはりこの先にどれ一つとして楽な勝負はない、と。
「楽しみじゃねえか……へへっ」
そして別の意味での笑みが自然と零れ出す。
それぞれのやり方で、それぞれの個性で、自分達の魅力を全力でぶつけ合う。
競い合う中で磨かれていき、輝きを増していく……。
俺もあの中で踊れたら――一瞬ふと浮かんだ考えを頭から振り払う。
俺は男だ、それに舞台に上がってどうこうするような柄でもない。
ぷろでゅーさーとしてこうやって楽曲や衣装を作ってあいどる達を支えるのが性に合ってる。
というか、あの二人の、いやこれから増えていくであろうメンバーをこの場所から見つめていたい。
それは紛れもない俺の本心だ。




