モワノー・ペリステラー
「それは今度の対戦相手の"ぷろでゅーさー"の名前でしたね」
「ああ。一回戦の相手、ユニット名『パヒュームメロン』のぷろでゅーさーで間違いねえな。元モデルで今は新興商会の商会主をやっているはずだ」
俺はルエラの確認に首肯すると、映像スフィアを取り出し彼女のユニットの予選応募映像を流す。
「敵だね」
「はい、敵ですね」
珍しく苺とルエラが意気投合する。
いくら対戦相手とはいえノータイムで敵認定とか。
「お前らな、どこ見て言ってる?」
二人は一見彼女たちのダンスに向かっているようで、一部の部位を凝視している。
さすが現役モデル四人組だけあって、そのスタイルの良さから生み出されるパフォーマンスは確かに魅惑的だ。
「それで用向きは?」
とはいえいつまでも来客を外で待たせているわけにもいかない。
要件をリメッタに確認する。
「ぜひともご挨拶がしたいとのことです」
俺の質問にまるで本物のメイドのようにリメッタが答えてくれる。
「しかし対戦前の相手のブースに堂々と乗り込んでくるとはな」
「揺さぶりをかけに来たのでしょうか?」
ルエラも微笑の中に警戒の色を滲ませている。
「可能性はあるな。とはいえわざわざここまで来てるんだ。追い返すわけにもいかねえだろ」
これでも勇者パーティーに鍛えられているんだ。
まかり間違っても武力でどうこうなることはないし、ちょっとやそっとの揺さぶりで揺れるほどメンタルだって弱くない。
とはいえ用心に越したことはねえが……。
「わかった。入るように言ってくれ」
俺が許可を出すとリメッタは来訪客を呼びにテントの外に出ていく。
「失礼いたしますわ」
そして入り口から女性の声がすると、するすると音もなくその人物はテントに滑りこんで来た。
紫色の流れるような艶やかな髪に白磁のように透き通る肌を持つ人間の上半身に蛇の胴体、人蛇族の女性で年齢はおおよそ三十歳くらいだろうか?
滲み出る色香と凛と佇む姿勢が相まって、美女という言葉が非常に似合う女性だ。
「初めまして。パヒュームメロンのぷろでゅーさーをしておりますアーリンド商会のモワノー・ペリステラーと申します。以後お見知りおきを」
「わざわざご挨拶をどうも。みらくるベリーズのぷろでゅーさー三矢修果だ」
物腰柔らかに礼をしたモワノーと握手する。
細身の手はすべすべで貴族のような肌触りなのに、不思議とそこにか細さは感じない。
ハンドクリームで普段からしっかりとケアしているのは分かるが、それだけでは説明のつかない芯の通った美しさがあるような気がする。
一体この手が今までなにをしていたのかが気になるところだ。
「シュカ様。見かけによらず逞しい手をしていらっしゃいますね」
手の触れ方に俺は思わずどきりとさせられる。
別に色仕掛けをされたわけじゃない。
純粋に俺の手に触れながらリスペクトしてくれているのが伝わってくるのだが、その仕草が色っぽいのだ。
それなのにそこにいやらしさは感じないのだから不思議だ。
「いや、俺はただ武骨なだけだ。モワノーこそたおやかな指をしているな。この指から作り出される作品に興味が出てきた」
「あら、こんなおばさんを口説いてくれるなんて嬉しいわね」
「お兄ちゃん、さすがに年齢差考えようよ」
ぼそりと呟く苺の発言はスルーする。
手を通して社交辞令を交わしただけだろうが。
まあ確かに、この手の感触からこの人について興味が湧いてきたのは事実だが――人としてな。
にこりと微笑む仕草の一つにも作り込まれた気品を感じさせられる。
美の追求に対する貪欲な探求と努力が滲み出ている。
出るところが出て引っ込むところが引っ込んでいるその体と、ボディクリームのふんわりとした香しい匂いについ視線を引っ張られそうになる。
だがそれ以上に彼女からは美に対する誇りを感じて、対戦相手のぷろでゅーさーとして決して失礼な態度はとりたくないという気持ちが俺の背筋を真っ直ぐにさせた。
そんなことを思っていると、モワノーが今度は苺とルエラに視線を向ける。
「ふふっ、映像で見た通りとても愛らしいお嬢さんたちね。どうでしょう? 今度私の商会の新製品のイメージガールを引き受けてはいただけないでしょうか?」
「それはなかなかに魅力的な商談だな」
俺はモワノーの目の奥でぎらりと輝く光を見逃さない。
きっと彼女も俺の目の奥に同じ光を見出していただろう。
やはりこの人はやり手なようだ。
堂々と対戦相手のブースに乗り込んでくる胆力、それでいて礼節をもって相手を立てる社交性。
リメッタの資料によると、モワノーは化粧品関連の商売を手広くしている大商会のご令嬢で、自らも独立して商会を立ち上げている。
まだ事業の規模はそれ程ではないが、パヒュームメロンというモデル系あいどるユニットの活躍もあって王都でも最近急成長を見せている注目の商会と言えるだろう。
もしタイアップが出来るなら相乗効果のメリットは互いに大きいはずだ。
「えへへ、苺愛らしい?」
「社交辞令ですよ。気を抜かないでください」
ご機嫌になる苺の脇腹をルエラがつんと突く。
そんな中、俺はモワノーと油断なく視線を交わし合う。
「あらその瞳、瞬時に計算ができるなんて可愛い顔をしてなかなかに強かですのね」
「これでも劇場を経営しているもんでな。損得計算は結構得意なんだ」
「うふふふふ……」
「くっくっく……」
いやあ、共通の企みって気持ちがいいなあ。
この人とはうまくやっていけそうな気がするぜ。
「……お、お兄ちゃん? 今度はなにをやらかすつもり?」
そんな俺達のやり取りに苺が顔を引き攣らせている。
「いつも全財産での博打をしておいてなにを言い出すんですか?」
そしてなぜかルエラもジト目で俺を見つめてきた。
なんだろう、俺の商才を全否定された気がするのだが?
「ここまでちゃんと結果を出しているだろうが」
「それ、苺たちが頑張った結果だよね?」
「そうです。お肉が食べられなくなるかもしれないなんて言い出すからですよ」
食べ物の恨みはなんとやらということだろうか?
普段は恨み言もけろっと忘れる二人が妙にねちっこい。
ううむ、これは気をつけたほうがいいのか?
と、そこでテントの入口から一人の少女がこちらを覗いているのを見つける。
顔立ちはモワノーに似ているだろうか?
長身で小顔の少女が立っている。
年齢は苺たちと同じくらいだろうか?
すらりと伸びた透き通るような白い足が印象的で、小顔と相まってまるでモデル……なのだが。
「どうして入ってこないんだ?」
「あら、まだ入口にいたのね。入ってきなさい、モーラ」
俺の視線に気づいたモワノーが紹介をしてくれる。
「彼女はモーラ、私の娘ですわ」
モーラと紹介された少女はぺこりと頭を下げる。
おどおどとしていてモワノーとは正反対だ。
スタイルもいいし、顔立ちも整っているのに自信のなさのせいで全てが台無しになっている。
モワノーとモーラ、どちらも美人なのに姿勢の違いでこうも印象が変わってしまうものなのかと思い知らされた。
「あ、あの。モーラ……です」
口をぱくぱくとさせてほとんど聞こえない小声で辛うじて名前を聞き取る。
「これでもモデルなんですよ。ステージではしっかりとパフォーマンスを出来ていますのに、それ以外となるとこうなりますの。これでも実力は確かですのよ?」
モワノーの笑みが苦笑に変わる。
今の発言は親バカと捉えればいいのか、それとも彼女の気質を鑑みて額面通りに受け取ればいいのか、判断に迷うところだな。
そういやパヒュームメロンにモーラの姿はなかったか。
「とりあえず今日のところはこのあたりで。いいお返事をお待ちしておりますわ」
「ああ、前向きに検討しておく」
それから俺達は名刺交換をすると再び握手を交わしたのだった。
「それでは早速パフォーマンスにいってみよう! 先攻パヒュームメロンの登場だあ!」
そんな事を思い出していると、先攻のパヒュームメロンが舞台袖から姿を現した。
「「こんにちは、パヒュームメロンです」」
そう名乗りながら四人一斉にポーズをとる。
長身の彼女達がそこに並ぶだけで、この場がファッションショーなのではないかという錯覚が訪れる。
その見事なプロポーションを見せつけている彼女達は更なる魅力が引き出されている。
その艶めかしい大人の女の姿には男の観客だけでなく女の観客からも恍惚の嘆息が漏れた。
予選審査は一分間のフリータイムの後に楽曲を披露。
それを先攻後攻で行い、最後に抽選で選ばれた審査員百名の観客が投票を行う。
「私のチャームポイントは口元よ」
「私のチャームポイントはうなじです」
「私のチャームポイントは目元のほくろかな」
「私のチャームポイントは……ずばり胸!」
あいどるたちが決めポーズをとるたびに会場から歓声が沸き上がる。
一人一人が手早く自分のチャームポイントをアピールしていく。
色気を押し出す彼女達だが、内面の自信から来る姿勢の良さからはいやらしさよりもカッコよさを感じさせる。
自ら磨き抜いた美を存分に発揮し、彼女達の甘くも刺激的な色香で会場全体を魅了していた。
それを舞台袖で厳しい視線で見守るモワノー。
その隣では娘のモーラがはらはらとした様子でステージを見守っていた。
そしてパヒュームメロンのアピールタイムが終わる。
いよいよパフォーマンスの時間だ。




