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異世界”あいどる”オークション  作者: 小説を耳で食べる人
第二章 王都予選・モーラ編
34/55

一回戦

「それではお待ちかねの本日のメインイベントだよ!

 ついに開幕! 異世界あいどるオークションの一回戦だああああ!」


 浜辺に点々と設置されている特設ステージ。

 その中でもひと際大きいメインステージにぺフィリアパークのトップキャスト、キビス・チアジェラートの声が響き渡る。

 

 それに呼応するように浜辺に詰めかけた観客達から大歓声が沸き起こった。

 


 浜辺、湖、草原、森、商業広場――ぺフィリアパークの各エリアに特設ステージが設けられ、毎日予選が行われている。

 

 他にも一般参加のあいどる達によるエキシビジョンマッチやパフォーマンスもあり、大会期間中のステージはどこも大賑わいだ。



「予選参加のあいどるユニットは全部で160組! 三回戦シード32組を除く64組が次の二回戦へと駒を進めるぞ!」


 そんな中、俺は今メインステージのステージ袖にいる。

 

 苺達はすでに控室(ひかえしつ)に向かい、メイクと衣装の準備をしているところだ。


 いよいよ大会が始まる――そう思うと緊張で心臓の鼓動が速くなるのを抑えられない。


 自分で歌い踊るならともかく、こうしてじっとただ待たなければいけないという現状がこれほどもどかしいとは思わなかった。


「では今日の対戦カードの発表だよ!」


 栗鼠(りす)族の快活な少女は腕をぶんぶん回しながらマイク片手にステージのバックスクリーンを示した。


「まずは先攻。これは異色のユニットだね! 彼女達はなんと現役のモデル! ユニット名はパヒュームメロン! 磨き上げられた魅惑のボディを存分に活かしたモデルパフォーマンスをひっさげて、この異世界あいどるオークションに殴り込みだあ! 彼女達は新たな旋風(せんぷう)を巻き起こせるか!?」


 ステージのスクリーンにユニットの姿が映し出されると観客席から歓声が上がる。


「リメッタの言っていた通り、やっぱり女性ファンが多いな」


 浜辺に集まった観客達を見渡せば、普段よりもやや女性の比率が多いようだ。


 元々ファッションショーや美容関係の活動を中心にしていて、女に()れられる女を目指しているのが大きいのだろう。

 このいつもと違う状況は決して無視することはできない。



 異世界あいどるオークションの対戦形式は大会の名前の通り競演(オークション)方式だ。


 パフォーマンスの間、観客達の声援がエネルギーとなって集まり、その大きさの大きい方が勝者となる。

 

 審査員は今現在会場に集まっている観客全員。

 つまり両ユニットのファンもここに集うことになり、それが勝敗に左右するのは間違いないだろう。



「対する後攻は、なんとあのワールドツアーを成し遂げた誰もが知る伝説のあいどるユニット、みらくるベリーズ!

 三年の沈黙を経て再始動した彼女たちは果たしてこの大会を勝ち上がり新たな伝説を打ち立てられるのか!? 彼女たちの挑戦は如何に!?」


 対し歓声とその中に混じる若干のどよめき。


 やはり三年というブランクは大きく、まだまだ復活を疑っている観客も多いらしい。


 なにせ今のメンバーはたったの二人だ。

 同じユニットだと言われて理解するのも難しいかもしれない。


 ライブを通じて知名度は上がってきているとはいえ、まだまだ逆風であることに変わりはないようだ。


 まあそれも、あいつらのライブを見るまでの話ではあるがな。



 紹介が終わったところで俺はステージを挟んだ反対側の舞台袖を見た。


 そこにはラミア族の妙齢のご婦人といった雰囲気のプロデューサー、モワノー・ペリステラーがステージを見守っていた。


 彼女も元モデルだけあって抜群のスタイルの良さと姿勢を保っている。

 それだけで思わず見惚れてしまいそうだ。


 モワノーは俺と一瞬目が合うと微笑みを浮かべる。


 俺はそれに頷きで返しながら、先日俺達のブースに彼女がやって来た時のことを思い出した。




「とうちゃーく!」

「劇場を出て10分足らずか……予想していたとはいえ、やっぱ凄えな」

「ええ、本当にあっという間に到着してしまいましたね」

「えへへ、苺一人だったら片道1分もかからないもん。当然の結果だよ」


 俺とルエラがあまりの速さに感嘆(かんたん)している間にも、荷車は順調に高度を落としている。

 

 そう、今『荷馬車』が『高度』を落としている。


 なぜかといえば苺がロープで荷馬車をぶら下げて空を飛んでいたからだ。



 記憶を取り戻した苺は力のコントロールも同時に思い出した。


 すると夢魔の姿になっても力が暴走することはなくなり、翼で空を飛べるということから一度俺達を運んでみようという話になったのである。


 すでに事前に衣装のほとんどはぺフィリアパークに運び込んでいるとはいえ、馬車での片道2時間の道程は負担が大きかった。

 

 馬車のレンタル、馬の世話も大変だし、道中の盗賊や魔物にも警戒が必要だ。 

 それだけにこうして空をひとっ飛びで移動できるのは、心身にも金銭にも大変優しい。


 だったら他の予選参加ユニットのようにぺフィリアパーク内のホテルに泊まるという選択肢もあるが、ベリーズ劇場でのライブやグッズ販売もあるためそちらを空けっ放しにも出来ないのだった。



 俺達は予選参加ユニット用のゲートを通ってパークに入ると、再び苺に空を飛んでもらって荷馬車ごとみらくるベリーズのブースまで運んでもらう。


 事前に思念伝達で連絡を入れていたからか、ブースの近くまで来るとリメッタが手を振って出迎えてくれる。

 

 俺達はリメッタが示した着陸地点に到着した。


「シュカ兄さん、うまくいったみたいですね」


 戦牛族の巨乳メイドは嬉しそうに微笑みかけてくる。


 俺はそんなリメッタの頭を撫でながらねぎらいの言葉をかける。


「ああ、問題なく移動出来た。リメッタも宿直ご苦労様。悪いな、こんなところに泊まらせちまって」


 そう言いながら、みらくるベリーズに割り当てられたテントをちらりと見る。

 

 予選参加ユニットのブース内に用意されている、衣装の保管や打ち合わせ用に使える簡易テントだ。


「いえいえ。いくら警備の巡回があるからと言っても大事な衣装や機材のあるテントを無人にするわけにはいきませんからね。

 それよりも苺ちゃんから聞いたのですが、今度ベリーズ劇場でライブをするんですか?」

「ああ、そうなんだ」


 俺はリメッタに苦笑を返す。

 

「一回戦直前だっていうのにな、どうしてもライブやりたいって聞かなくてさ」

「えへへ、苺ちゃん復活記念ライブだよ!」

「あのライブ対決をしたからでしょうね。私も今は歌いたくて仕方がないんです」


 振り返れば苺だけでなくルエラまでもが瞳を爛々(らんらん)と輝かせている。


 この前のラナナスとのライブはそれだけ感じ入るものがあったのだろう。


 だからというわけではないが、俺も強くは反対しなかった。


 今はコンディションを整えるよりも、一曲でも多く場数を踏む必要があることを理解しているからだ。

 

 なにせ苺が記憶を取り戻してからまだ一週間も経っていない。


 いくら俺の夢の中で力を振るっていたとはいえ、慣らしは大事だ。

 だから今日は苺にここまで運ばせたというのもある。


 俺の夢の中にもうあの苺は出てこない。

 魔女の秘薬の封印が解けたときに本体の苺の中に戻って一つの人格になっている。


 だからか家にいると夢の中ではたくさん甘やかしてくれたよね、と甘えてくるのは勘弁してほしい。


 俺も夢の中の出来事を思い出してこっ恥ずかしくなる。

 まさか苺に夢の中の一年を全部知られることになるとはな。



 そんなことをぼんやりと考えていたからだろうか。

 

 俺は無意識にテントの入口を開けてしまっていた。


「ひっ……!?」

「……悪い、お楽しみ中だったな」


 それだけ言って俺はテントの中から顔を引っ込めた。


「修果、なんか優しい表情をしていますがどうかされたのですか?」

「まあ……アレだ」

「アレとは?」

「アレだよ」

「アレなんですね?」

「ああ、アレな」

「……それで、アレとはなんでしょう?」


 しかし俺はゆっくりと首を左右に振ってルエラの質問の答えをやんわりと拒否する。


 覗いた先ではみらくるベリーズのあいどる衣装を着て決めポーズの練習をしているリリークレイドルメイド二人の姿があった。


 いわゆる『なりきり』――ごっこ遊びだ。


 そんな恥ずかしい場面を覗き見られた衝撃に顔を赤くしたところを、俺は紳士的に見なかったふりをしたという次第だ。


 うんうん、あるよな、そういうエンカウント。


 親がいきなり自分の部屋に入ってくるとか。

 どうしてそういう時に限ってってやつだ。


「もしかして着替えを覗いた?」

「いや、着替えは終わっていたぞ」


 苺の(いぶか)し気な視線を見返しつつ、きっぱりと否定する。


 そういう類の冤罪はシャレにならねえからな。


 あいどるとぷろでゅーさーの不祥事なんて本気でシャレにならない。

 やましいことはないときっちりと伝えておかねえと。


「とりあえず持ってきた荷物をテントに運び入れるぞ」


 俺は中にいた二人にも聞こえるように言いつつ、荷車から荷物を出してテントの中に運び入れる。


「「お、お疲れ様です!」」

「お疲れ様、ナディア、ナチュア。朝早くからの移動、ご苦労様」


 俺は朝一でリリークレイドルから乗合馬車に乗ってここまでやってきた二人にねぎらいの言葉をかける。



 ナディアとナチュアは二人とも十四歳だ。

 リリークレイドルで学費を稼ぎながら王立魔術学院に通う苦学生で将来は宮廷魔術師になるという夢を持っている。

 

 忙しい中でも魔術の勉強を頑張っている二人だ。


「試験が近いってのにすまねえな。今度また勉強見るからそれで埋め合わせとさせてくれ」

「いえ、シュカさんの教え方は上手ですし、こっちこそ助かります」


 俺のねぎらいの言葉にナディアが手を振ってどうということはないと言ってくれる。


「それにねー、今日は特別ボーナスも出るってマスターが言ってたー」


 ナチュアも間延びしたのほほんとした雰囲気で返事してくれた。



 孤児である者が魔術学院に通う場合、普通は奨学金制度を利用するのだが、この時身寄りも後ろ盾もない者は卒業後に各地方の貴族の下で働き、奨学金を返す義務が生ずる。


 だがその実態はその家の使用人にされたり、容姿の美しい者は愛妾にされたりと、権力をかさに着てのなし崩し的な取り込みが行われたりする。


 生涯をその家のために捧げさせられるのが立場の弱い孤児の運命なのである。


 それを避けるために二人はマスターと宣誓契約を結び、対価として学費を受け取っている。


 元勇者パーティーの大剣豪様の後ろ盾は伊達じゃない。

 孤児だからとこれまでなにか不都合を受けたことはないということだ。



「それじゃあ今日もよろしくな。二人共今日は参加ユニット用のホテルの部屋があるからそこに泊っていってくれ。夕方に少し勉強会をしよう」

「はい、よろしくお願いします」

「よろしくー。今日も沢山お客さんが来てくれるといいねー」


 そんな二人はステージ衣装の裾を摘んで挨拶するとテントの外へと出て行く。


 それと入れ替わるようにリメッタがテントの中に入って来た。


「あの、シュカ兄さんにお客様です。その……」

「どうした? もしかして困った客か?」

「いえ、そういうわけではないのですが……」


 そこまで言ってリメッタが口ごもる。

 だがすぐに気を取り直したのか、俺と目を合わせると来訪者の名前を教えてくれた。


「アーリンド商会のモワノー・ペリステラー様です」




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