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三年越しの決着

「――うわっ!?」

「――きゃっ!?」


 突然、魔力の奔流が足元から巻き起こった。

 幻影魔術陣(ミラージュ)に最大出力の魔力が供給されたのだ。


 目の前では眩いばかりにスポットライトに照らされたシルエットが一つ。

 キレのあるダンスでその登場を主張する。

 

 ここにいる誰もがそのシルエットに注目してしまう。

 乱入してきたそのあいどるに惹きつけられていく。

 

 やがて楽曲の終わりと共にスポットライトの角度が変わり、その少女の姿がはっきりと浮かび上がった。


 桃色ブロンドの髪をなびかせ立つ小柄な少女。

 愛らしさのある童顔の顔立ちは弾けるような笑顔で、自分のキャラクターをよく理解している可愛らしいポーズを決めている。

 

 まさしくあいどるになるべくして生まれてきた、歌を愛し、歌に愛された彼女は今、ステージに舞い戻って来た。

 

「えへへ、お待たせ」


 苺が俺達へと振り返る。

 

「こら、いきなりこんなに魔力流したら危ねえだろ! ステージが壊れたらどうする!」

「ごめんごめん。でも加減はしてるから大丈夫な筈だよね? そんなヘマはしないよ」

「まったく……調子に乗りやがって」


 苺の確信めいた不敵な笑みに俺は苦笑で返した。


 苺の魔力の勢いに俺やルエラの魔力が幻影魔術陣(ミラージュ)から押し返されて逆流してきた。

 ここに苺の魔力までも流れ込んでいたら危ないところだ。


 とはいえ今の苺はこれを完璧にやり遂げる技量を持っているのも知っている。

 記憶が戻った今の苺なら、造作もない魔力コントロールだ。


「ふん、随分とド派手に登場してくれたニャーね。主役をかっさらうつもりかニャ?」

「そのつもりだよ。だってヒーローは遅れてやってくるものだからね」


 やれやれという態度のラナナスに苺は迷わずに答える。

 

 視線を交わし合う苺とラナナス。

 そこから何かを感じ取ったか、ラナナスが口の端を歪めて笑う。


「随分と大きな口叩くようになったニャね?」

「まあね。みらくるベリーズのリーダーは伊達じゃないんだから。エスクラブプリュイのラナナス・カリナレオンちゃん」


 そう自信満々に答える苺の背中はとても頼もしい。

 

 普段からパフォーマンスについては全幅の信頼を置いている。

 だがそれとは違う、言い知れぬ力強さを苺から感じる。

 

 本当に遅れてやってきたヒーローのようだ。

 

「なるほど、随分とあいどるらしくなったニャーね」

「ありがとう、ナナちゃん。ナナちゃんは苺が尊敬する最高のあいどるだよ。だから褒めてくれてとても嬉しい」


 二人はバチバチと視線を交わし合っている。


 いつも苺の天然に振り回され、ラナナスが説教している姿ばかりを見ていただけに、こうして真っ向から向かい合う姿がとても新鮮に思えた。


「完全復活ってことでいいニャ?」

「うん。本気の苺を見せてあげるよ」


 幻影魔術陣(ミラージュ)からの魔力供給でドラゴンが巨大化していく。

 最大出力となった魔力がドラゴンに注がれていく。


「これが、苺さんの本気の力……いったいどんなものなのでしょう?」

「さあな、俺も修行の後のパフォーマンスを見るのはこれが初めてだからな」


 歌を取り戻すべく勇者パーティーの面々と修行をした二年間。

 結局のところ叶わなかったわけで、成長した苺の力でどうパフォーマンスを組み立てるのかは俺にも未知数だ。

 

「けどまあ、今回は苺にセンターを任せよう。どの道俺達は限界に近かったしな」


 さっきのやりとりを見れば十分過ぎるに頼もしさは伝わってくる。

 だったらうだうだ悩まず、ここは何を見せてくれるか楽しみにしようじゃねえか。


 そうしているうちに目の前のドラゴンの姿が確定する。

 同時にルエラが声を上げた。


「苺さん、なんてことするんですか?」

「えへへ、かわいいでしょ? 苺ドラゴンちゃんだよ」

「はあ、貴方はドラゴンをなんだと思っているんですか?」


 笑顔のまま額に青筋を立てるルエラにしかし苺は自信たっぷりに返す。


 それはルエラが作り上げたような威厳を振りまく勇ましい姿ではなかった。

 大きなリボンをつけた随分と可愛らしい、愛嬌のある動物だ。


「随分とふざけたドラゴンだニャ?」

「うふふん、だけどとおっても強いんだからね!」


 嘲笑交じりのラナナスに向かってビシッと指をさす苺。


「この勝負、勝たせてもらうよ!」


 一瞬ラナナスが目を見開いたのがわかった。


 そして多分、俺も同じ表情をしていたんじゃないかと思う。


 『勝つ』――確かに苺はそう宣言した。


 普段のゲーム遊びならいざ知らず、あいどる活動のしかも楽曲対決で、苺が勝敗にこだわった。

 

 そんな事、今まで一度も見せなかった行動だ。

 一緒に楽しもうとは常々言っていても、相手を倒すとは思いもしない。


 だが今の苺は明らかに相手に対して『戦って勝つ』、と言っている。


「いいだろう。受けて立つニャ!」


 しかしラナナスもさるもの。


 にいっと口の端を吊り上げ、獰猛な笑みで苺を見返す。


 王者の貫禄だろう。

 挑戦を受け慣れているその姿には微塵も揺るぎがない。

 

 すべての戦いを真正面から打ち破る、その気概をラナナスから感じる。

 

 

 こうして第三ラウンドが始まった。


 苺ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

 

 口の中が桃色の光に満たされる。

 そして放たれたのはハート形のなにかだった。


 ハートは大きさを増しながら白獅子に迫る。

 

 たまらず白獅子はそれを爪で引き裂くと、風船が割れるように破裂する。

 中から大量のハートが現れ白獅子を襲う。

 

 何発かの攻撃を受けつつも体勢を立て直し、地面を滑るような素早い動きで苺ドラゴンとの距離を詰める。


 それを尻尾攻撃で迎撃する苺ドラゴン。

 最低限のジャンプでそれを回避したところで、苺ドラゴンの尻尾が鞭のようにしなって白獅子に襲い掛かる。

 

 直撃か――そう思ったところで白獅子の姿がブレた。


 時間差による残像だ。

 フェイントによって一瞬その姿を見失う。

 

 気づいたときには白獅子が苺ドラゴンの背後を取っていた。

 

 さすがはトップあいどる、決闘ライブにおいても相当な技量を持っている。

 ラナナスの見せたあのステップ、あとで要研究だな。


「ふぬう! 間に合えええ――っ!! ……あっ」


 前方に放った尻尾を戻そうとしたのだろう。

 だがわずかに間に合いそうにない。

 

 すると苺がふんばるような動きを見せた途端、ハートの残りにおならが引火して爆発した。


 苺ドラゴンと白獅子が吹き飛ばされ距離が開く。


 まさかこのタイミングでおならなんて発想はなかったな。

 あいどるにあるまじきやり方だが、それだけ相手の不意を突くには最適の選択だったともいえる。

 

 まあ二度目使ったら許さんがな。


 気のせいか苺が目を泳がせたようにも見えたが、何事もなかったかのように戦いを再開しているので俺達もそれに合わせてダンスを再開する。


 苺の突飛な発想とラナナスの常人離れした技量がぶつかり合う。


 苺のパフォーマンスは一見妄想を垂れ流すかのようなでたらめさがあるようで、実のところ何一つ無茶はしていない。

 

 俺とルエラの踊りに合わせつつ、こちらをリードしてくる程だ。

 こんな着想があったのか、こんなやり方があったのかといちいち感心させられる。


 苺は周りをしっかりと見ながらも、新たな発想で次々とラナナスへと攻撃を仕掛けている。


「ほんとおミャーはいつも突拍子がないニャーね」

「そういうナナちゃんは信じられないくらいに(たくみ)だね。早く苺も上達しなくちゃ」


 対するラナナスもしっかりと苺の踊りについていっている。

 そしてそこに自分らしい力強いダンスを加え、白獅子を操る。

 

 苺ドラゴンのトリッキーな動きに翻弄されることなく、けれどもちゃんとその振る舞いに答えて反撃をする。


 闘争心むき出しの戦いだ。


 苺とラナナスは心と心のぶつかり合いを具現化したかのように互いに一歩も引かない。

 

 しかしそうやって幻影獣同士が激しく戦いつつも、それが魅力的なパフォーマンスとして成立している。


 互いを打ちのめそうと仕掛けつつも、同時に二人とも貪欲にステージを盛り上げようとしている。

 

 もしこの場に観客達がいたならば割れんばかりの声援がステージに送られていたことだろう。

 いや、本当に聞こえるかのようだ。



 とはいえ、決着は近い――。



 ルエラがふらついた。

 一瞬バランスが崩れるもすぐに立て直す。

 

 その時俺が見たルエラの瞳には戦意が漲っている。


 それを見て俺は目線で続行を促す。

 ここで休めなんて言わない。

 あとでたっぷりとケアしてやるさ。

 だから存分に戦いやがれ。


 続いて俺は苺へと視線を向ける。


 ここまでもう何曲も立て続けに歌い踊り続けている。

 一曲一曲に全力疾走のような体力を必要とする中で、いくら苺でも相当に消耗しているだろう。

 

 かくいう俺も限界だ。

 ここいらで決めないと勝ち筋がなくなる。


 それを苺も感じ取ったのだろう。

 一瞬ちらりと俺とルエラを見てから、苺はひと際キレのあるダンスを踊り始めた。


 するとそれに呼応するようにラナナスの踊りも激しさを増す。


 今流れている曲の終わりが違い。

 どうやら二人ともここで決着をつけるらしい。


「これで最後にしようか」

「望むところニャ」


 互いに更なる魔力を解放する。

 いったいどれだけ無尽蔵なんだ、こいつらは。


「「――過負荷(オーバーロード)!!」」


 幻影魔術陣(ミラージュ)が更なる強い輝きを放つ。


 幻影獣の動きで魔力がロスする端からノータイムで魔力を供給する、一歩間違えればステージを破壊しかねない、幻影獣の力を限界以上に引き出す高等テクニックだ。

 

 しかし苺のヤツ、この土壇場で過負荷(オーバーロード)を習得したか。

 ラナナスのやり方を見ただけで真似するとか、相変わらずの天然っぷりだな。


 動きを止めて睨みあう苺ドラゴンと白獅子。

 そして苺とラナナス。

 

 動き出したのは同時だった。


「「いっけえええええ――っ!!」」


 苺とラナナスはステージが砕けんばかりに踏み込み、咆哮のような声を上げる。

 

 それまでの攻防と異なり真正面から両者がぶつかっていく。

 

 全力の激突――。


 激突と共に魔力の奔流がステージ上に吹き荒れた。


 互いの幻影獣が削れあっていく端から再生していく。

 

 それと共に互いの幻影魔術陣(ミラージュ)に亀裂が入っていく。

 

 俺とルエラはそれを固唾を飲んで見守るだけだ。


 そして決着の時は訪れる。


 バリンとガラスが砕けるような音がして決闘(デュエル)の勝敗が決した。

 こちらの幻影魔術陣(ミラージュ)が砕ける――そう覚悟した瞬間、先に砕けたのはラナナスの幻影魔術陣(ミラージュ)だった。


 スタジアムの巨大スクリーンに勝者の姿が映し出された。

 そこには苺とルエラ、そして俺の姿がある。


 勝者、みらくるベリーズ――。


「「はあ、はあ……」」


 全力の動きにこの場の全員が肩で息をする。

 汗がとめどなく流れ、ぼたぼたとステージに零れ落ちる。


 俺は変身を解いて男の姿に戻ると、幻影魔術陣(ミラージュ)の外に置いていた鞄からタオルとドリンクを取り出した。


「ほら苺、ルエラ、しっかりと汗を拭え」


 それから俺はラナナスの元に移動する。


「お前も疲れたろ。よかったら使ってくれ」


 そう言いながら俺はラナナスにタオルを手渡した。


「ふん、仕方ないから受け取ってやるニャ」


 ラナナスは俺からタオルを受け取ると、額や首筋の汗を拭い始めた。

 汗まみれにもかかわらずいい香りがするのはさすがだ。

 

 こういうところがプロなんだなと感心する。


 俺達ももっといろんなところに気を遣わないと、これからのあいどるとして生き残れないだろうな。


「ナナちゃん……」


 タオルを手にした苺とルエラが俺の背後からやってくる。

 

「まあ三人掛かりで勝てないようじゃ見込みはないニャーね」

「そうだね。ちょっと苺たちのことを舐めすぎたと思うよ」


 苺はにこりと笑う。


 最後の激突、俺とルエラはなけなしの魔力で苺ドラゴンに防壁を張っていた。

 その差がほんの一瞬の勝敗を分けたのは厳然たる事実だ。


「でも楽しかったよ。また一緒にライブしようね」

「まったく……おミャーはやっぱり相変わらずニャ」


 ラナナスは呆れ顔になりながらも、苺の差し伸べた手を取り握手する。

 

「本当の決着は異世界あいどるオークションでね」

「望むところニャ。せいぜい他のユニットに負けないことニャ」

「うん、必ず勝ち残るよ」


 それは三年ぶりの和解だった。

 

 確かにこのライブで苺とラナナスは繋がりあっていた。

 

 対等なライバルとして、同じ歌を愛するあいどる仲間として、二人は今同じステージに立っている。


「それじゃあニャーは予定があるからそろそろ行くニャ」


 そう言うとラナナスはくるりと後ろを向く。


「ナナちゃん! また一緒にライブしようね!」


 苺の呼びかけにラナナスは手をひらひらと振りながらステージから降りていく。

 

 しなやかでくびれのあるプロポーションから発せられる魅惑的な雰囲気は、汗まみれであっても少しも変わらない。

 むしろより魅力が引き出されているようにすら見える。


 その背中はとても大きい。

 

 きっとラナナスはまだまだ成長するだろう。

 俺達も負けてはいられないよな。


 



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