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変身魔術(メタモルフォーゼ)

 俺が取り出したスクロールは変身魔術(メタモルフォーゼ)

 スクロールに記憶させた姿に一時的に変身できるものだ。

 

 このスクロールにはこの前のリリークレイドルでのメイドの姿を、衣装・メイクをセットにして登録してある。

 せっかくだからとマスターにスクロールを押し付けられたのだが、まさかこんな形で使う羽目になるとは思わなかった。


変装(メイクアップ)、白百合の奉仕娘!」


 スクロールから溢れ出した魔力の光が俺の全身に駆け巡っていくと身体に変化が起こる。

 そしてこの前と同じ、リリークレイドルの制服を着たメイドが出現する。

 

「自分で言ってて恥ずかしくないかニャ?」

「……言うな。そこは考えたら負けだ」


 ラナナスに返事をした声は少女のような……声変わりする前の俺の声だ。


 しかし、練習相手として割り切ればまだ許容できたものが、他人の前で使うとここまで恥ずかしいとは思わなかった。

 今すぐ地面を転げまわりたい。

 

「くっ……、カメラが使えないのが口惜しいです! ちょっと取ってきますね」

「取りに行かんでええわ!」


 鼻息荒く幻影魔法陣(ミラージュ)から飛び出そうとするルエラの首根っこを捕まえる。


 そしてルエラを引きずったまま俺も幻影魔法陣(ミラージュ)の中心へと移動した。


 俺は幻影魔術陣(ミラージュ)に最小限干渉できる魔力を供給しつつ、ルエラに指示を出す。


「ルエラ、魔力出力を半分に落とせ」

「かしこまりました」


 ルエラは言われた通り幻影魔術陣(ミラージュ)への魔力出力を半分へと落とす。

 するとドラゴンのサイズも縮み、白獅子と同じくらいになった。


 俺にはほとんど魔力がない。

 始めからこのまま最小限の魔力出力で参加する以外に選択肢がない。

 

 苺がいれば魔力問題は一気に解決するのだが、今はない物ねだりもしてられねえな。


「すみません、一撃で仕留めるつもりだったのですが……」

「あいどるにあるまじき暗殺精神だな」


 俺は苦笑する。

 目から光が消えてるし、ほんと怖えな。


「手数を二倍にして攻めるぞ。俺に合わせてくれ」

「はい。一緒に踊れて嬉しいです」


 今度はきらきらした瞳を浮かべる。

 さっきとは同一人物とは思えない変わりようだ。


 尻尾を振って嬉しそうなルエラは俺の動きに合わせ始めた。


「んじゃ第二ラウンドといこうぜ!」


 俺の合図で次の楽曲が流れ始める。


 こちらは二人がかりだ。

 いくらラナナスに技術があろうと、一人で複数人のダンスを同時に踊ることなんて出来ない。

 

 人数差はそのままの優劣に繋がるわけだ。

 

 俺たちの操るドラゴンとラナナスの操る白獅子が再び動き出す。


 大きさが半分になったとはいえドラゴンは巨躯、白獅子にパワーでは負けていない。

 体が小さくなった分、スピードと小回りが利きやすくもなっている。


 ぶつかり合う二つの巨躯。

 何発かの応酬、激突の度に衝撃波がまき散らされる。

 

 そこで俺はステップを変えた。

 

 ブレス、身構える白獅子。

 しかしブレスは放たれることなくドラゴンの周囲にまとわりつく。

 

 炎の盾が浮かび上がった。


 反撃の隙を窺っていた白獅子が狙いを外される。

 警戒させていた時間をうまく使えたぜ。


 ラナナスが三年間楽曲技術を鍛えている間に、俺は苺と共に勇者パーティーから様々な技術を叩き込まれている。

 相手の裏をかく事だって積極的に狙っていくぜ。


「こざかしい真似をするニャーね!」


 だがラナナスもただ白獅子を身構えさせていたわけではなかったらしい。


 蓄積させていた力を解放して白獅子を突進させてくる。


 その強烈な体当たりに炎の盾はあっけなく砕かれ――。

 

「バーニングナックル!」

 

 砕けた盾の破片がドラゴンの前足にまとわりつき、炎の爪となってすれ違いざまの白獅子を切り裂いた。


「ぐぬっ! 砕けた盾が爪に変化したニャ!?」


 ラナナスが苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべる。

 うまい具合にカウンターが入った。


 ラナナスの足元の幻影魔術陣(ミラージュ)にひびが入る。


 決闘(デュエル)ではこの幻影魔術陣(ミラージュ)が砕けた時点で勝敗が決する。

 幻影獣がダメージを負えばそれはそのまま幻影魔術陣(ミラージュ)となるのだ。


「相変わらずせせこましいやり方ニャーね」

「もっと頭を柔らかくしねえと足元掬(すく)われるぜ」


 俺達はリズムカルに攻撃する。


 組み合わせで力を構成する。

 それがおたくである親父から教えてもらった戦術だ。


 親父が幻影魔術陣(ミラージュ)を作ったのは、元々は別の用途だったという。


 どうやら特殊なカードゲームに使うつもりだったようで、親父はいろんな戦術を俺に教えてくれた。

 複数枚のカードを駆使してコンボを作り上げ、小さな力を大きなものへと変えていく。

 

 とはいえ魔王軍との戦いの直後で魔力が不足しがちな中、遊びに膨大な魔力は使えないとカードゲームとしての競技は却下されてしまったという。


 それならばと親父があいどるを育成し始めたことから今の形が出来上がっていった。


 はっきり言って魔力操作で、さらには歌や踊りでコンボを組み立てるのは本当に苦労したがなんとか形にすることは出来た。


 さらにパートナーのルエラが俺やラナナスの動きを見ながら見事にサポートしてくれるお陰で仕掛けを用意するのも比較的楽に出来ている。


 俺とルエラでダンスがシンクロし、相乗効果が生まれているのだ。

 

「ふん、いいものもらってしまったニャ。けどこっちもやられっぱなしじゃないニャーよ!」


 ラナナスは魔力を放出する。

 すでに出力限界まで放出しているから幻影魔術陣(ミラージュ)に特に変化は起こらない――はずだった。

 

「しまっ――!!」


 直後、俺は目算を見誤っていた。


 過剰供給により魔力ロスを瞬時に埋めることで幻影獣の動きを高めたのだ。

 減速なしの変則ステップで一気に間合いを詰められる。

 

 俺たちの足元の幻影魔術陣(ミラージュ)にひびが入った。


「ふん、凌いだニャ?」

「あ、危なかった……」


 辛うじて急所を守りつつ、力を逃がすことに成功した。

 とはいえ受けたダメージは決して軽くない。


 ラナナスもさるもの。

 常に上限一杯の出力を維持し、そのパワーを存分に活かしてくる。


 手数で押し込んでもそれを平然とひっくり返してくる。

 まったくもって気が抜けない。

 

「ルエラ、焦るなよ」

「は、はい……!」


 俺は曲の合間で脂汗を浮かべるルエラに声をかける。

 いくら出力を半分にしたとはいえ、ルエラへの負担は依然として大きいままだ。


 だからといって出力全開で一気に勝負を決めようとしても、必ずラナナスは凌いでくる。

 こちらの息切れを狙って確実に喉笛を掻き切って来るだろう。


「さてと、どうこの盤面をひっくり返してやろうか?」


 手数二倍と出力二倍――額面上は互角のはずなのに徐々に押され始めている。

 この三年でのラナナスの成長は俺の予想以上だ。


 けれど俺は慌てない。


 頭の中に様々なビジョンが浮かび上がってくる。

 俺の三年間の経験が落ち着かせてくれる。


 俺だって苺と一緒に身体能力、魔術技量を世界屈指の師匠から徹底的に叩き込まれているんだ。

 歌を取り戻したい一心で俺達は毎日の厳しい修行にも耐えてきた。


 努力という意味ではラナナスにだって負けていないつもりだ。


 ラナナスが貪欲に世界一を目指していたように、俺達だって戦い続けてきたんだ!

 

 ラナナスと目が合う。

 

 闘志むき出しのぶつかり合い。

 その瞳を見つめていると、なんだか楽しくなってくる。


 心と心のぶつかり合いがそこにある。


「なかなかに興味深い戦い方ニャ?」

「ああ、楽しいよな!」


 苺やルエラと練習で一緒に踊ったことはあっても、こうしてライブとして歌い踊るのは何年ぶりだろう?

 観客はいないがそれでも他のあいどると繋がりあえるこの感覚は練習では味わえないものだ。


 光と音の幻想の中で、心が繋がりあっていく。

 だからライブってのは楽しいんだ――!


「まったく、兄妹揃って馬鹿なんじゃないかニャ?」

「けどそれも悪くねえだろ?」


 にやりと笑うとラナナスも口角をにいっと上げてくる。


「んじゃテンポを上げていくぜ!!」




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