決闘(デュエル)、ルエラVSラナナス
両者は睨みあい、咆哮を上げる。
そんな後ろでルエラとラナナスは曲に合わせてダンスを踊り始める。
まるで呼び出した聖獣たちの巫女のように、歌と踊りを捧げる。
互いに極限まで集中力を高めているようだった。
ドラゴンの口元からブレスの炎が漏れた。
それを見た白獅子がドラゴンに向かって跳躍、それをドラゴンの尻尾が迎撃する。
距離の開いたところで広範囲にブレスがまき散らされるが、白獅子は自らを回転させ竜巻を起こし、その炎を絡めとって中空へと炎を逃がした。
互角の応酬――そこからも互いに途絶えることなく、流れるように攻撃を仕掛け合い攻防は続く。
ラナナスの白獅子は決闘の十八番。
巨躯から繰り出されるパワーと肉体のしなやかさを活かしたスピードとテクニック。
両方を併せ持つ高度にバランスが取れた幻影獣だ。
それを一人で出力上限を維持しつつ操っている。
ソロの決闘では常勝の力を持っているだろう。
一方ルエラが呼び出したマグマのように赤々と輝くドラゴン。
それはこのイルパラディス王国の記章と同じものだ。
まるで自分がこの国の女王であるかのように威風堂々した振る舞いを見せている。
強力なブレスや尻尾攻撃――羽ばたき一つでも相手を牽制できる圧倒的パワーで相手を潰しにかかる。
「まったくルエラのやつ、無茶しやがって」
「ルエラちゃん……」
本来、幻影魔術陣は一人で動かすようなものじゃない。
通常は十人以上のあいどるで出力上限に達するかどうかというくらいに魔力を消費する術式だ。
苺やラナナスのように一人で出力上限まで魔力を供給しながら全力疾走のように体力を消費して歌い踊れる方が異常なのである。
ルエラも常人離れしたかなりの魔力量とスタミナを持っているとはいえ、出力上限まで魔力を放出していればあっという間にへばってしまうだろう。
それはルエラだってわかっているはずだ。
それでもルエラは引かない。
ルエラもわかっているのだろう。
一度押し込まれたら押し切られる、と。
ラナナスは力だけじゃない。
技術力もあるし、勝負所の勘も冴えている。
出力差があったなら勝負にならない、それがわかっているからこそ最大出力で戦わざるを得ない。
ルエラはドラゴンを器用に操り、巨躯に似合わず手数を駆使してラナナスを崩しにかかる。
だがラナナスはのらりくらりとそれらをかわし、隙あれば反撃に転じている。
技量はほぼ互角だ。
これでは短時間で決着はつかないだろう。
「豪胆に見せてなかなかに抜け目がないニャーね? パフォーマンスに殺気を潜ませるなんて、恐ろしい子」
「そういう貴方こそ、なかなかに芸達者ですね。サーカスに転向したほうがいいんじゃないですか?」
うふふふふ、にゃはははは。
互いに笑みをかわしつつもその緊迫感のある張り詰めた戦いをする。
華やかなステージとは対照的にどす黒いオーラが幻視できるほどだ。
だがルエラの額に汗が滲んでいる。
表情こそ取り繕っているが疲労は隠し切れていない。
これはラナナスにうまい具合に目論見を外されたな。
「……はあ、仕方ねえな」
「お兄ちゃん?」
「ちょっと行ってくる。お前も早く来い」
俺は一つ溜息を吐くと、苺の頭を撫でてから前に出た。
ちょうど一曲が終わる。
そのタイミングで俺は幻影魔術陣に足を踏み入れた。
向かいのラナナスが目を丸くする。
その反応にルエラも俺へと振り返ろうとして――。
――スパーン!!
俺は盛大にルエラの後頭部をひっぱたいていた。
「でふっ!?」
ルエラがつんのめりふらついた。
そして俺へと振り返ったルエラは信じられないものを見るように目を大きく見開いている。
「あ、あの……修果?」
口をぱくぱくとさせながら何かを言いかけるルエラ。
そんなルエラに俺ははっきりと言ってやった。
「――怖えわ!」
その瞬間、ステージ上が静まり返った。
どうやら不測の事態にラナナスが決闘を中断してくれたらしい。
魔法陣内の白獅子とドラゴンが睨みあったまま動きを止めている。
俺は目線でラナナスに感謝をすると目の前のルエラへと視線を戻す。
「さっきのパフォーマンスはなんだ? お前は一体何をしようとした?」
問いかけるとルエラは表情を引き締め姿勢を正す。
「すみません、一撃で仕留めるつもりが失敗してしまいました」
「確かに狙いは悪くねえな。お前は器用だし度胸もあるからな。けどお前はここに何しに来た? ラナナスと喧嘩がしたかったのか? 殺気なんか込めやがって……」
俺の言葉にはっとしたルエラが耳と尻尾をだらりと下げる。
すでにこの決闘はパフォーマンスを超えた戦闘みたいになっていた。
勝ち狙いに特化しどこまでも無駄を削ぎ落とす。
なるほど、これは決闘ルールに則った正解の一つかもしれない。
それを徹底できるというのも一つの才能なのだろう。
魔力という圧倒的なハンデを背負っているが故の正しい判断と評価できなくもない。
だが……。
なんだろう、この夢も希望もない殺伐とした戦いは。
まるでナイフを手に、殺気を込めて互いに急所を狙いあっているかのような緊迫したやりとり。
世の中にこんな背筋の寒くなるパフォーマンスがあるなんて俺は知りたくなかった。
「ルエラ、お前が負けず嫌いなのはよくわかったがな、これは喧嘩じゃねえんだからもっと有意義なものにしろ。もう一度聞くが俺達はここに何しに来た?」
「それは……」
ルエラは俺の背後にいる苺に視線を向ける。
ラナナスは決闘前に言っていた。
『まあ協力してあげてもいいニャーよ?』、と。
「これは苺のために行われたライブパフォーマンスだ。それなのにこんな相手と潰し合うようなライブを見せて、それが苺のためになるのか?」
それを抜きにしても異世界あいどるオークションは競演方式の大会だ。
相手を潰すことよりも先に、見ておくべきこと、感じておくべきことは他にもいくらでもある。
それこそ相手はトップあいどるエスクラブプリュイのラナナスだ。
学ぶべきことはいくらでもあるだろう。
「ってなわけで仕切り直しだ」
「とか言いつつ、ちゃっかり魔力回復ポーションを飲ませているとかおミャーも抜け目ないニャ?」
「お前だってそう出来ただろ? しなかったのは余裕からか?」
俺はラナナスににやりと返しながら説教の間にルエラに飲ませていた魔力回復ポーションの空き瓶を鞄の中に放り込む。
「それで、これからどうする?」
「うふふ、仕留めます」
「やっぱブレねえな、お前は」
俺はにこやかに笑い返してくるルエラに向かって肩をすくめた。
駄目だな、こりゃ。
俺の許容範囲ギリギリのところを狙ってこいつはラナナスに勝ちに行くに違いない。
笑顔を振りまきながらの殺し合いなんて御免被るぞ。
「……わかった。俺も参加するからひとまず魔力の全力開放はやめろ」
そう言って俺は不安げにこちらの様子を見守る苺をちらりと見やってから鞄の中に手を入れた。
取り出したのは一枚の魔術スクロール。
「お、お兄ちゃん? それって……!」
苺はそのよく知るスクロールを見て驚きの声を上げる。
今から俺が何をするのかを察したのだろう。
「安心しろ。こんなこともあろうかと、ちょいちょい調整はしてたんだ。大船に乗ったつもりでそこから見てろ」
すると向かいのラナナスも興味深げに目を細める。
「まさかおミャーが参戦するとは思わなかったニャ。これは面白いことになりそうだニャ」




