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リピート再生

「お兄ちゃん、体が細いし背が低いね。なんか女の子みたい」

「そういう苺だって小せえじゃねえか。あっ、それは今と変わらねえか」

「むう! 苺だって大きくなってるもん!」

「んじゃ再生するぞ。二人共周囲に気を配れよ」


 俺達は十五歳の俺と十三歳の苺の後ろをついて歩く。


「ううっ……ナナちゃん、ぐすっ」


 さっき夢映しで体験した会話が繰り返される中、その後ろを歩くのは変な気分だ。


 なんだかんだ言ってこの三年は自分を追い込んでいたからか、当時の俺の小さな体が随分と頼りなく見えてしまう。


 俺は周囲を警戒しながら怪しい人物がいないかを探す。

 だが馬車が俺に激突する直前まで再生したものの、特に怪しい動きをした人物は見つけられなかった。


「んじゃ今度は馬車に乗ってみるか」 


 再び始まりまで巻き戻してから、今度は三年前のルエラの乗っていた馬車に乗り込む。


 馬車内は広く、三人乗り込んでもまだスペースに余裕があった。


「外見からも思ったが、かなり高級な馬車だよな。実はお前の家って相当な大貴族なのか?」

「ええ、まあ……ファリトリアは母方の姓です。家名を名乗るのは固く禁じられていますので」

「母親も貴族なのか?」

「詳しくは知りませんが、使用人になる前は亜人の国では一応貴族だったそうですよ」


 ルエラの返事の歯切れが悪い。

 あまり聞かれたくない話なのだろう。


 今はここには調査に来たんだし、これ以上掘り下げるのはやめておこう。


「とにかく座れ。再生するぞ」


 俺が三年前のルエラの隣、苺とルエラが俺の向かいに座る。

 隣のルエラは暗い笑みを浮かべながらうっとりと目を細めている。


「闇オーラ全開だな」

「ヤ、ヤンでるねえ……」


 馬車の中ではルエラが恍惚の表情を浮かべていた。

 その割に瞳からは輝きが失われ、というか光を吸い込んでいてなんだか凄く怖い。


 さすがの苺もドン引きといった様子でルエラから距離を置こうとする。


 ほんと何を考えていたらこんな表情になるんだ?

 ヤンデレって本当に存在したんだな。


 それから俺達は馬車が急激に向きを変える直前で時間を止め、床や壁や天板、車輪や車軸を解体して状態をくまなく調べる。


 魔術の痕跡や工作の(たぐい)がないかを調べたのだが、特に壊れている部分や細工が(ほどこ)されている部分を見つけ出すことはできなかった。


 そうこうしているうちに馬車が全て解体され、骨ばかりになる。


「なんか凄くシュールな光景だな」


 骨格がむき出しの馬車に座る三年前のルエラと御者。

 まるで大道芸のように絶妙なバランスで馬車に乗り続ける姿はシュールだ。

 

 それを見た苺とルエラが何を思いついたか顔を見合わせて頷き合う。


「何か気がついたのか? ……って、そこ! 俺の服を解体するな!」

「ぐへへ。怪しいものがないか確認してるんだよお。じゅるり」

「そうです。決してやましい理由からではありません。はあ、はあ、これも調査の一環です」

「それ、はあはあ言いながらじゃ説得力ねえからな!」


 苺とルエラは鼻息荒く止まっている三年前の俺の服を一枚一枚剥いでいく。


「むふふ、減るもんじゃないんだからさあ」

「その間、私の服を脱がせていいですよ。というか私の体を隅々まで調べてください。もしかしたらとんでもない魔術刻印が見つかるかもしれません」

「あっ、ずるい! だったら苺の体もまさぐって!」


 ダメだこいつら。

 仮に透明人間になれる薬を手に入れたら真っ先に男風呂に突貫するタイプだ。


 二人は俺には目もくれずいやらしい手つきで服を破ることなく脱がしている。


 すでにパンツ一丁だ。

 大通りをパンツ一丁で妹の手を引いて歩く兄とか、変態以外の何者でもない。


「やめんか! この変態どもめ!」


 そして二人がパンツに手をかけたところで脳天にチョップを入れた。


 ってかルエラも盗撮がバレてからというもの、居直ったというか、いよいよ遠慮がなくなって来たな。

 これは苺並みに警戒レベルを上げないと危険かもしれない。


「もう馬車とかはいいから周りを調べろ。魔術を発動してるヤツとか、馬車に向かって何かをけしかけてるヤツとか。犯人を見つけるぞ」


 それから時間を巻き戻したり送ったりしながら周囲の不審人物をくまなく探したが、動ける範囲に怪しげな術者や不審者は見つけられなかった。


「もっと外からの干渉でしょうか?」

「魔術にしろ遠距離武器にしろ馬車を狙撃しないといけない距離だな。それなら魔法なり矢弾なり痕跡が残るはずだ」

「なんにもなく馬車が暴走しているもんねえ」


 今まさに馬車が暴走する瞬間、苺は馬の顔を覗き込みながら言う。


 空間の広さは俺の夢空間と同じで半径百メートルはある。

 その外から馬車に向かって幻影系魔術や精神攻撃系魔術などを狙い撃つのは相当な技量も魔力も必要で、それなら俺達が感知できないはずがない。


「あとは……因果操作、なのか?」

「契約による運命干渉ですか?」


 俺と苺の婚姻状態や、ルエラの俺を蘇生させた契約など、この世の理を捻じ曲げる『奇跡』による干渉だ。


 古代契約(えんしぇんと)では契約者の願いに応じた運命の修正がかかる。


「苺、または俺が怪我をすることで願いに近づける人物がいる?」

「古代契約。確か苺さんも私と同じ古代契約でしたね」

「ああ。兄妹なのに婚姻状態でな。それを誰も違和感なく周囲が受け入れているんだ」

「えへへ、当然だよ。苺とお兄ちゃんは愛し合っているからね!」

「誰が愛し合ってるって?」

「痛い痛い! ほっぺつねるの禁止!」


 俺と苺は(まが)うことなき血縁関係だし、なにがどうしてそんな願いが叶ったのかなんてわからないが……。


「ルエラの願いは俺の命を救う事。その願いはすでに叶えられているな」

「はい。あとは対価の支払いを残すのみですね」

「まあ今ここで考えても仕方ねえよ。一度戻って母さんに報告しよう」


 俺は苺とルエラを先に現実へと送り出す。


 その直後に夢空間が揺らぎ、現実と夢の境が曖昧になっていく。


 そんな中で俺は録画用スフィアに意識を集中する。

 そこに再現魔術で作り出したすべての映像を封じ込める。


「古代契約ならもう一人交わしたヤツがいるだろうに」


 俺は呟く。

 あいつらはわざと口にしなかったが、さすがに目の前で過去の俺達が会話していたんだ。


 無視する方が不自然だ。


「……っと、今は考え事してる場合じゃねえな」


 いよいよ空間が揺らぎだし、俺は手元に意識を集中する。


 俺は手元の記録スフィアを意識しながら現実世界へと向かっていくのだった。




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