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ファンタズム・プリズン

 ラナナスと一緒にテントから苺達が出てくる。


 三人は水着の上にエナメル風の素材のハット、ミニベスト、ショートパンツというボンテージスタイルの出で立ちだ。


 苺の腰には鞭、ルエラの腰には手錠、ラナナスの腰には縄の束が提げられている。


「凄い、お肌ツルツルだね」

「香りもいいですね。今度購入してみてもいいかもしれません」

「しっとりとしていて日焼けも心配ないニャよ。このローションはおススメニャ」


 どうやらテントの中でコスメの話をしていたらしい。

 ステージに向かいながら三人の話は盛り上がっている。


 確かに一流化粧品を扱う商会と提携しているだけあって苺達の肌は艶々(つやつや)で、高級感溢れる花の香りが漂っている。


 メイクもばっちりで先ほどのミニステージの時より苺もルエラも美人になったように見える。


 だが今はそこに注目している場合じゃない。


「おい、俺の用意した衣装と違うんだが?」


 俺が用意したのはパレオ付きの水着風衣装だった。


 もちろんラナナスの分の衣装も用意しているし、胸が大きいメイドあいどる用の予備だからサイズ的にも問題はなかったはずだ。


 だがラナナスは手をぱらぱらと振って呆れ交じりに溜息まで吐いた。


「ここ最近、おミャーはお利口さんになり過ぎなのニャ。ニャーが本当のパフォーマンスというものを教えてやるニャーよ」


 ラナナスがパチンと指を鳴らす。

 すると機材から聞き覚えのあるイントロが流れ始めた。


 予約されたステージは砂浜にある。

 海をバックにした大ステージだ。

 広さだけで言えばベリーズ劇場と同じ、客席が野外であることを考えるなら規模はそれ以上だ。


「お前、いつの間に楽曲プレートをすり替えやがった!?」


 機材からは俺がセットしたのとは違う楽曲が流れ始めている。


 イントロはダークでパンチの効いた力強いビート、三人のボンテージ姿によくマッチしている選曲だ。


「よりにもよってこの曲かよ」

「懐かしいかニャ?」


 ラナナスは目の奥に野生の獰猛(どうもう)さをぎらつかせ、チロッと舌を出して悪戯っぽく笑う。


「ふふん、どうするニャ? ニャーの挑戦受けるかニャ?」


 ラナナスは今や王都でも人気トップクラスのあいどるユニットエスクラヴフリュイのリーダーで、自らがプロデュースも行うマルチプレイヤーだ。


 みらベリ時代にもラナナスはよく俺と競うように作詞作曲をしていて、今でもこいつの楽曲の中には、みらベリの代表曲としてファンの間で語り継がれているものも多い。


 今流れている曲は、みらベリ時代のラナナスの曲で、だが脱退と同時に封印された楽曲でもあった。


 懐かしさと同時に、当時競い合っていた頃の熱が腹の底から突き上げてくる……。


「もちろんだ。苺、ルエラ、受けてやれ」

「らいらいじゃー」

「了解しました」


 俺はラナナスを真っ直ぐに見つめ返しながら言うと、苺とルエラは敬礼ポーズで了解する。


 なるほど、挑戦とはよく言ったもんだ。

 周囲から見れば今この状況は二つの元みらベリユニットの夢の共演だ。


 だがこれは違う。

 ラナナスは俺達を本気で潰しに来ている――。


「それじゃあいくよ!」


 苺の合図で三人がステージに上がる。

 同時に周辺に円盤状の赤色の魔法陣が展開された。


 大ステージに登場した三人に大歓声と手拍子が集まる。

 早くも声援に呼応して音符がステージに集まりだした。

 

 ラナナスがマイクを手に取り観客達に呼びかける。


「それじゃあイクニャーよ! ファンタズム・プリズン!」


 そのタイミングでイントロが加速し、ビートの衝撃が周囲へと叩きつけられる。


 刹那(せつな)静寂(せいじゃく)――。


「「私達に平伏しなさい。いい夢見させてあげる」」



 ビートが通り過ぎた後に広がるのは闇の世界――。

 張りつめた静謐(せいひつ)に一瞬で観客は縛りつけられる。


 周囲にいる観客達の誰もが、これから始まろうとしている三人の狂奏に固唾(かたず)を呑んだ。


 三人はお互いに体重を支え合ったポーズからキレのあるダンスを披露し始める。

 鋭さの中に美しさと妖艶さを織り交ぜた歌と踊り。


 まるで目の前で見つめられているかのような。

 まるで耳元で吐息交じりに(ささや)かれているような。

 まるで傍で全身を愛撫(あいぶ)されているかのような。


 少女であるはずの彼女達からは想像もできない色香がこの場にいる者全てを魅了していく。

 むしろそのアンバランスさがより彼女達を魅惑的な存在へと昇華させていく。


 三年ぶりの共演にも拘わらず、ブランクを感じさせない一糸乱れぬ動きで、苺とルエラはラナナスの動きに合わせて洗練された楽曲の世界を体現していく。


 苺とルエラのコンビネーションが溶けあい広がっていくものであるなら、ラナナスとのコンビネーションは(こす)りあって燃え上がるそれだ。


 その危うくも情熱的なパフォーマンスは観客達を陶酔(とうすい)させ拘束する。

 通り行く者全てを罠にかけるが如く、苺、ルエラ、ラナナスの歌と踊りは甘美で癖になる刺激を与え続ける。


 それを見て俺は思う。

 やはりメンバーを増やしたい。

 新たなあいどると混じり合えば新たな可能性が広がっていく。

 

 俺はそれを知りたい――。



 歌が終わって抱き合う三人は、大歓声に見送られながら舞台袖へと戻って来た。


「イチゴ、また腕を上げたニャー?」

「そういうナナもね!」


 互いを健闘しつつ、楽し気に先程のライブを振り返っている。

 

 あれからさらに三曲を歌い、ミニライブが行われたステージは満員御礼となった。


 もちろんイベントは大成功で、ラナナスと折半しても大量のポイントが入って来る。


 そんな確認をしている横で、不意に苺の耳元でラナナスが何かを囁いた。

 それに反応してはっと目を見開く苺。


「それじゃあまたなのニャ。今度会う時はお互い敵同士かニャ?」

「はい。その時はお互い全力で勝負しましょう」

「…………」


 ルエラが返礼する隣で、だが苺はぼんやりとしていて反応が無い。


「苺? どうした?」

「う、ううん、なんでもないよ! ……うん、お互い頑張ろうね!」


 苺は胸の前で小さくガッツポーズをする。


「それじゃあ、バイバイなのニャ!」


 それにラナナスも手を振ってから歩き出す。

 だがその振り向く瞬間、ラナナスの雰囲気が変わった気がした。

 

 なにかほっとしているような、寂し気なような。

 気のせいかもしれないがラナナスが目を伏せたのだ。


 人前では決して弱い姿を見せないラナナスが、だ。

 

 だがそれも一瞬で、ラナナスはにこやかに手を振りながらこの場を去っていく。


「んじゃ俺達もブースに戻るぞ。一週間後には一回戦だ。気を引き締めろよ」

「そうですね。調整をしっかりしておきましょう」

「誰が相手でも負けないもん! お兄ちゃん、見ててよね!」

「ああ、二人共。お前らのパフォーマンスを観客達に見せつけてやれ!」


 俺は見上げてくる苺とルエラに力強く頷き返すと、ブースへと戻ったのだった。




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