開会式
ペフィリアパークのメインストリート。
入場行進の音楽に合わせて予選参加のあいどる達が練り歩いている。
沿道では観客がサイリウムや推しあいどるのうちわを振って声援を送っていた。
そんな中、俺は苺とルエラを引き連れて『みらくるベリーズ』とネームの入ったプレートを掲げてその行進に参加していた。
「あっ、苺たちのうちわみっけ」
「まだ加入したばかりなのに私の分まであるなんて嬉しいですね」
苺達はうちわを持つファンに向かって大きく手を振る。
やがて行進は中心街にあるドームと四角い箱を組み合わせたような巨大な建造物の中へと入っていく。
エスクラブプリュイアリーナ――。
イルパラディス王国随一の大きさと設備を誇る施設で、普段は大規模コンサートや国際イベント、球技や闘技などの大会が行われる場所だ。
他にも三百人ものあいどるを育成できる宿舎と複数のレッスン場が併設された、名前の通りあいどるルユニットエスクラブプリュイの活動拠点でもある。
ゲートを通ってメインスタジアムに入ると、数百倍のプレミアチケット獲得競争を勝ち抜いた観客達による惜しみない歓声が降り注ぐ。
花火が上がり、王国管弦楽団による入場演奏が会場を盛り上げる。
グラウンドには総勢160組のあいどるユニットが集結。
整然と並ぶ様は壮観なものがある。
新人もベテランも種族も関係ない、王国一のあいどるを決める一発勝負のトーナメント戦がここに今開幕しようとしている。
「みんなー、盛り上がってるかい!」
「「おおおおおおおおおおおお――っ!!」」
司会者の呼びかけに地鳴りのような大歓声が沸き起こり、会場がヒートアップする。
「司会はぺフィリアパークのリーダーキャスト、キビス・チアジェラートがお送りするよ!」
ピンと立たせた三角耳にライトブラウンの巻き髪と太いフワフワの尻尾を揺らす快活そうな栗鼠族の美少女が進行役のようだ。
「今日この快晴の中、いよいよ異世界あいどるオークションの予選が開催されるね! この予選大会を勝ち上がった二組のあいどるユニットが、勇者召喚の国アリスリンド精霊国で行われる本選に進出するよ! みんな新時代の神あいどるを目指して頑張っていこー!」
「「わあああああああ――っ!!」」
グラウンドのあいどる達が大手を振ってキビスのエールに応える。
さすがはあいどる激戦区の王国でも予選を突破するレベルのあいどる達だ。
ノリもいいし、そこらのあいどる達とは輝きが違う。
こうして見ているだけでわくわくした気持ちが込み上げて口の端が吊り上がってしまう。
「それでは会場が温まってきたところで宣誓式を始めよう! 選手宣誓はエスクラヴフリュイのラナナス・カリナレオンちゃんでーす!」
ファンファーレと共に吹き上がる煙の中からシュッと飛び出してくる影が一つ。
闘技選手さながらバク転を繰り返すと、最後は宙返りをしてスタッとスタンドマイクの前に着地を決める。
「ニャアアアアアアアア――――ッ!!」
猫の鳴き真似で咆哮する獅子族の少女の登場にアリーナ中が沸き立った。
黒地に白のラインが複数入ったエスクラブプリュイの代名詞的衣装をまとい、首には真鍮のような鈍い金色の宣誓錠をつけている。
キリッと目鼻立ちのいい顔はメイクによってさらに整えられ、美少女の流行を牽引するカリスマ的な雰囲気を醸し出している。
「むう……」
そんな歓声の中、苺の不満げに呻き声が俺の耳に届く。
「悔しかったら今回の大会で優勝して、来年あそこに立つんだな」
「もちろんそのつもりだよ」
「ってかお前ならあいつの活躍を祝福すると思ってたんだが?」
「今はライバルだもん。たとえ相手がラナナスちゃんでも苺は負けないよ」
後ろの苺は楽し気に言葉を返してくる。
昔の苺ならみんなの活躍を手放しで喜んだだろうに、少しはあいどるとしての自覚が身についたみたいだな。
そんな事を考えながら俺はステージ上を見る。
みらくるベリーズはあいどるという存在を世界中に知らしめた立役者だ。
そんなユニットのリーダーをしていたのだから、実績で言えば苺にだってあそこに立つ権利はあるのかもしれない。
けれど過去は過去だ。
あの世界ツアーからもう三年以上ろくに活動をしていない。
さらに近年の大手商会の投資による世界中の養成所の充実もあって、ここに居る連中の多くは当時のみらベリの実力を大きく上回っている。
そんな中でも元みらベリの主要メンバーで脱退後もあいどる業界のトップをひた走るエスクラヴフリュイのリーダーラナナスが開会式の口火を切るのは当然の人選と言えるだろう。
ラナナスは正面を見据えると右手をすっと上げた。
会場が静まり返り、皆がラナナスに注目する。
「――宣誓!」
それを見計らってラナナスは宣誓を始めた。
「我々あいどるは己が魂に刻んだ誓いに従い、契約したプロデューサーの名に恥じぬパフォーマンスを披露し、観客全ての笑顔のためにここに命を輝かせる事を誓います!」
いつもの人を食ったような軽い態度とは一変、ラナナスは笑顔でありながら姿勢よく前を見据え、目には力強い真剣な輝きを宿していた。
この場にいる全てのあいどるの代表にふさわしい、あいどるとしての誇りを体現した姿に誰もが目を奪われてしまう。
――が、ラナナスはマイクをスタンドからもぎ取ると、いつもの勝気な笑みを浮かべた。
「とはいえ優勝はニャー達エスクラヴフリュイがいただくニャ! 文句があるヤツらは全員かかって来いニャーよ!」
静まり返っていた観客席からどよめき、それから割れんばかりの大歓声が沸き起こる。
ラナナスのヤツ、この期に及んで、よりにもよってこの開会式という場所ですら自分のステージへとしれっと持っていきやがった。
「まったくアイツは抜かりがねえな」
俺は苦い気持ちになりながらラナナスを見据える。
自らを王者と宣い、どんな相手でも迎え撃つ覚悟と気概を見せつけてきた。
――そんな顔が出来るなら、何故あんな真似を?
そんな思考に陥りかけ、しかし背後の気配に我に返る。
「えへへっ、望むところだよ」
「頂点に立つのは私たちです」
なぜなら背後の苺とルエラからも同じような気迫が伝わってきたからだ。
今のラナナスの行動で二人の闘志にも火が点いたらしい。
ラナナスは相手が強者であればある程に燃え上がるタイプのあいどるだ。
だがそれは苺とルエラも同じだったらしい。
「にしてもさすがナナちゃんだね」
「順当に勝ち上がれば必ず当たります。その時に私達の力を見せつけてあげましょう」
俺は口元が勝手に綻ぶのを感じる。
苺やルエラだけじゃない。
それはこの場にいるアイドル達全員に言える事だったようだ。
そんなあいどる達の熱気を受けながらも、ラナナスは涼しい顔で自分のユニットエスクラブプリュイの列へと戻っていく。
リーダー兼プロデューサーの彼女は列の先頭に立ち、メンバーに預けていたプレートを掲げ直した。
「続きまして、我がイルパラディス王国を代表しまして第二王女セレーサリサ・P・イルパラディス様がご挨拶されます」
熱気冷めやらぬ中、司会のキビスが手を差し出し客席の視線を観客席上部にある貴賓席へと誘導する。
そこには王国や周辺諸国の貴族、ここ最近商売で財を成した大商人などが座っている。
そんな中で、一際高貴さを放つ黒いドレス姿の少女がいた。
第二王女セレーサリサ・P・イルパラディス――。
後ろにまとめられた絹のように滑らかな金髪と炎のように燃え上がる意志の強さが宿った深紅の瞳は、この世界にかつて存在したという戦乙女を彷彿とさせる。
第一王女ヴィーシラのたおやかで包容力のある豊穣神と双対を成す人気で、王族としては特異の裏表のない竹を割ったような豪胆な性格が国民から支持されている。
セレーサリサ姫はその王族然とした堂々とした立ち居振る舞いで階段を下り、壇上へと進んでいく。
そんな彼女の姿に観客達だけでなく、グラウンドのあいどる達も感嘆の吐息が漏れていた。
「あれは喪服か?」
俺は彼女にしては珍しく黒を基調としたドレスに注目する。
普段のセレーサリサ姫の好みは深紅であり、白甲冑の騎士団の中ではよく目立っていただけに、その変化に注意が向いてしまう。
「そういや今年の始めに第三王女のシルエーラ姫が病死したんだったな」
上二人と違ってほとんど姿を見せない王女だったからあまり印象に残っていなかった。
そんなことを考えている間に、セレーサリサ姫は壇上に上がる。
「皆様ごきげんよう。イルパラディス王国第二王女セレーサリサ・P・イルパラディスです。記念すべき第一回であるこの大会の開会式が快晴である事、大変喜ばしく思いますわ」
「メロちゃんいないね」
「そりゃああいつは騎士見習いだからな」
「今春天に召されましたした妹のシルエーラもあいどるには大変思い入れがあり……」
苺に囁かれ、ふと巨乳の戦牛族の堅物剣士の姿が頭を過ぎる。
リメッタの姉でセレーサリサ付きの騎士として近衛を目指していた少女。
この前のファーストライブの時には交通整理をしていたし、もしかしたらこの会場のどこかには警備でいるかもしれないが、いくら王女様のお気に入りでもさすがに式典の最前線には立たせてもらえなかったらしい。
「魔王軍との戦いで結束した国々が更なる友好を育み、世界中のあいどる達が競い合いの中で新たな絆を結ぶ……。そのような大会であって欲しいと切に願います」
そうやって俺達が囁き合っている間にセレーサリサ王女の演説は終わってしまった。
「おい、聞き逃がしただろ」
「いいじゃん、どうせ偉い人の演説なんてどれも退屈だよ」
「いやいや、学院長先生の挨拶と一緒にすんなよ。大会主催者の王女様だからな」
美人だし、気品溢れてるし、こういう機会でもなければ王族の姿を生で見るとかあり得ねえだろうが。
「大丈夫です。私は修果しか見ていませんでしたから」
「ほんとお前はブレねえのな」
ルエラがにこりと俺に笑いかけてくる。
そのフォローにもならないフォローに、俺はがっくりとうな垂れるしかないのだった。




