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ペフィリアパーク

「うわあ、ここが予選会場のぺフィリアパーク? なんか屋台もあるし、お祭りみたいで楽しそう!」

「凄い数の人ですね。列の後ろが分かりません」


 オータムリーフから馬車で二時間かけてやって来た港町ぺフィリア。

 馬車駅に到着した俺達は、予選が開催されるぺフィリアパークに向けて歩いていた。


 大通りの片側では一般入場チケットを求めるあいどるファンが長蛇の列を作っている。


 通りの端には屋台が並び、移動販売の駆け出しあいどる達が笑顔を振り撒きながら飲み物や弁当を売り歩き、祭りの雰囲気を大いに盛り上げている。


 さらにはところどころに設置されている映像柱で予選参加のあいどる達の映像が流されていた。

 恐らくは予備予選で提出した映像を再生しているのだろう。


「ほんと国中のやつらが集まってるんじゃねえか?」

「外国からの観光客も多そうですね。それに予選参加ユニット以外にもこの国のあいどる達が一万組以上参加していますし、会場全体を回ろうと思えば何日もかかると思いますよ」

「うわあ、あいどるってそんなにいるんだね!」

「まあこの国は特に国をあげてあいどる事業を育成しているからな。最近主流の養成所も国の支援金が入っているって聞くしな」


 そんな話をしてると不意に親父の事を思い出した。


「そういや親父の研究資料によれば、異世界二ホンにも毎年「こみけ」とかいうあいどる達の祭典(さいてん)があるらしいぞ。特にこみけに出てくるあいどるは「ニジゲン」とか「レイヤー」とか「バーチャル」とか「ビーエル」とか、いろんなクラスに分かれてて、それこそ多種多様なパフォーマンスを繰り広げているらしいぜ」


 かくいう親父も「おたく」なる異能力研究の第一人者だったって話だしな。


「さすが勇者様の母国ですね。このような世界規模の大会を毎年開いているだなんて。ぜひ私も参加してみたいです」

「苺達なら二ホンでだって大人気間違いなしだよ! 相手が本家でも負けないんだからね!」


 苺もルエラも祭りの雰囲気にあてられてか、はしゃぎながら歩いている。


「本家に殴り込みってか? 確かにお前達の実力がどこまで通用するか見てみたいな」


 かくいう俺もテンション高く二人に答えていた。


 親父によって二ホンから持ち込まれた『あいどる』という新たな大道芸。

 二十年近くの歳月を経て世界に広まったそれは、この世界の契約制度と融合し、新たな可能性を生み出した。


 そんな俺達がどこまで本場で通用するのか試してみたいし、二ホンの歌や踊りを見てぜひとも勉強してみたいとも思う。


「けど今は目の前の大会だ。この予選で勝ち上がれないようじゃ、二ホンでの活躍なんて夢のまた夢だぞ」


 そんな話をしながら案内板に従って俺達は一般客の列の横を進む。


 するとめざといあいどるファン達がスフィアカメラを構えて俺達を撮影し始めた。

 それに気づいた苺とルエラは嬉々(きき)としてスマイルを浮かべカメラ目線で手を振り返す。


「あれみらくるベリーズだよな?」

「えっ? みらベリって三年前に解散したんだろ? メンバー全員が昇天したって」

「知らないのか? 最近復活したらしいぜ。ストリートでこの前ライブやってたし」

「そうなのか? けどストリートって要は新人だろ? 完全に別物じゃねえかよ」

「いやいや、今度ライブ見に行ってみろって。あの劇場で今でもライブやってるからよ。ほんと凄えから!」

「へえ。あれってラブホじゃなかったのね」


 またかああああ――! なんでラブホやねん!?


 まったく、ストリートの時といい、ここまで来ると作為(さくい)的なものを感じるな。


 まあ当時は事情が事情で再始動までに二年半もかかっちまったから、解散と勘違いされるのは仕方がねえんだけどさ!


「頑張ってください!」

「えへへ、楽しみにしててね!」


 別の観光客から声をかけられた苺とルエラは列の観客達とハイタッチを交わし始めた。


 苺もルエラがやって来てから、随分と観客と打ち解けるようになってきたな。


 今までだったら可愛く見せようとはしても、積極的に絡もうとはしなかった。

 いや、そもそもが苺があいどるだって気づかれないことも多かったけどさ。


 苺が一人であいどる活動をしていた頃を思い出して口元が自然と緩む。


「みらくるベリーズさんですね。どうぞお通りください」


 予選参加者用ゲートで入場チェックを受ける。

 認証は宣誓錠と契約術式の魔力で行われた。


 契約は魂にまで刻まれた術式だ。

 偽装なんて出来ないから身分証としてこれ程に信頼のおけるものもない。


 認証が終わった俺達はゲートを抜けてエントランス広場に出る。


「うわあ。いい景色ですね!」


 ルエラが尻尾を振りながら広場を()け抜け、柵に乗り出した。

 海からの潮風に栗色のふんわりとした髪をなびかせながら気持ちよさそうに目を細める。


「ああ。ここからの眺めはなかなかのもんだよな」


 追いついた俺達もそこから見える景色を見渡した。


 高台にあるこの場所からはパーク全体を見渡すことができる。


 遠くには浜辺、その先には水平線まで続く(あお)い海が広がっている。

 建物や生息する植物は全体的に南国風で、まるでリゾート地にやってきたかのような開放感に包まれている。


 別の方角には森が広がり、その先には木々豊かな山々が連なっている。


 中心街にはショッピングモールやホテル、劇場やメインスタジアムなどの商業施設が立ち並び、今日も観光客で賑わっている。


「ふふっ、なんだか南の島にバカンスに来た気分です。こんなところでデートできたら最高ですね」

「魔獣とならデートできるぞ。まあ今は大会期間中で予約も殺到しているらしいけどな。現地ガイドとか護衛とかそっちでの需要(じゅよう)もあるらしいぜ」


 そう言ってる最中も、観光客の隣を三つ首犬の魔獣が並んで歩いているのを見る。


 ペフィリアパークは元々人に対して無害な魔獣との交流の場だったのだが、魔獣ショーの延長で飼育員や調教師(ていまー)達があいどる活動を始めたことで、そちらの方に注目が集まるようになり、むしろ彼女ら目当てにやってくる観光客が増えた。


「修果、そこでどうして私と目を合わせてくれないのですか? あからさまに話まで逸らして、少し悲しいです」


 くーんと悲し気なルエラの声に少し罪悪感を覚える。


「いや、他意はねえぞ。ただ主人とあいどるは健全な関係を保つ必要があるからにしてな」

「お兄ちゃん、なんか言い回しが変なんだけど? なにか隠してない?」

「さ、さあ、なんの事かなあ、あはは……!」


 慌てて弁明する俺に苺とルエラがじとっとした目を向けてくる。

 いかん、先日のルエラのベッドの下の箱が頭にちらついて、つい目を泳がせてしまった。


「……と、とにかくだ! 俺達のブースは浜辺エリアだったな。開会式に遅れないように準備するぞ!」

「あいあいさー!」

「なんだか話をはぐらかされていますが……かしこまりました」


 ひとしきり周囲の景色を満喫した俺達は歩き出す。


「だったら腕組んで歩こ。それならはぐれないし」

「なるほど、それは妙案ですね」


 言うや苺とルエラが両サイドから俺の腕に絡みつき、べったりと体を寄せてくる。


「何が妙案なんだ? 歩きにくいからやめろ。あとルエラも真似しなくていいからな」


 ってか、胸当たってるし、体温温かいし、いい匂いするし!


「ええーっ!」

「ですが貴方のあいどるとして少しでも対価を支払わないと……」


 ルエラは俺の胸を指でなぞりながら上目遣いで見上げてくる。


「そういう枕営業はしなくていいからな。普通にあいどる活動で支払え」

「はう、それは残念です……」


 ルエラは心底残念そうに耳を垂らす。

 

 ルエラは生真面目というか、健気(けなげ)というか、しっかりしているようでたまに物凄く無防備だから心配になる。


 放っておくとずっと俺の三歩後ろをついて来るし、命令すると尻尾を振って凄く喜ぶし。

 

 どうもルエラは犬系の種族だけあって本能的に奉仕に対して(よろこ)びを覚える節がある。


 ……決してストーキングからくる欲求ではないはずだ。


 俺は脳裏に浮かんだ光のない瞳と薄ら笑いを振り払う。


「苺も離れろ」

「ぶーっ、だったら手を繋いで」

「わかったわかった。んじゃ行くぞ」


 そうして俺は苺とルエラと手を繋いで歩き出そうとする。


「ほう、モテモテだねえ勇者の息子は。やはりそれは血筋なのかねえ?」

「――げっ! その声は!?」


 唐突に背後から掛けられた、女にしては低く力強い声。

 その声に俺は条件反射で声を上げてしまった。


「「げっ」とはご挨拶だねえ。それが師匠に対する態度かい?」


 振り返るとそこには羽根のついた皮の軽鎧に麻のゆったりとしたズボンを穿()いた巨躯(きょく)の女が腕組みをして立っていた。


 ジャングルの中を駆け回るアマゾネスが如く、にいっと野性味あふれる獰猛(どうもう)な笑みをこちらに向けている。


 ルエラが首を傾けて俺に尋ねてきた。


「この方は修果のお師匠様なのですか?」

「いや、別に師匠じゃねえよ」

「違うのですか?」

「師匠だろ。それからオレの獲物でもあるな」

「獲物?」


 目の前の大女の言葉にルエラはきょとんとする。

 はあ……本当は相手にするのも面倒なんだが、勝手な誤解をされても困るので仕方なしに紹介する。


「それも違えよ。こいつはラヴォカード・リオエルジュンゲ。ただひたすらに俺に筋トレと走り込みを強いただけの女だ」


 それこそボロ雑巾になるまで徹底的に肉体をシゴキ上げられただけだ。

 

 吐きそうになる量の食事を無理矢理捻じ込まれ、毎日のようにこのパークの山や森で……。


「あの、顔が青いですが大丈夫ですか?」

「平気だ。ちょっと野山で魔獣の群れに追いかけまわされたトラウマがな……」


 心配そうに見上げてくるルエラに俺はカラ元気で笑い返す。


 他にも巨大昆虫に捕食されそうになったり、食人植物に呑まれて溶かされそうになったり、実戦演習とか言ってパーク内の魔獣をけしかけたりして……。


 なにが元勇者パーティー達による最強の弟子育成計画だ!

 この平和なご時世で皆でよってたかって無意味なシゴキしやがって!


「本当に大丈夫ですか!?」

「――はっ! 俺は一体!? ……とりあえず助かった」


 ルエラが俺の体を揺らして現実へと引き戻してくれたお陰でなんとか正気に戻れた。


「ラヴォカードってもしかして、元勇者パーティーのビーストクイーンの方でしょうか?」

「そういやそんな呼ばれ方もしてたな」


 不本意だが俺はルエラの認識に頷いてやる。


「別にオレは人も亜人も魔獣も分け隔てないだけなんだがねえ。ただ抱きたいと思ったヤツを抱くだけだぜ」


 ラヴォカードは俺に向かって舌なめずりをしてから苺へと顔を向ける。


「よおイチゴ。お兄ちゃんの童貞は貰ったかい?」

「うん。それはもう濃密な時間だったよ!」

「うっとりした顔で平然と嘘を()くな! 兄妹でそんな事が起こってたまるか! 特にこいつの前でそういう発言は危険だからほんとやめろ!」


 するとラヴォガードはその大きな肺活量で盛大に溜息を吐き、肩を落とす。


「おいおいイチゴ。そろそろ本当にキメてくれよ。でないとオレがいつまで経ってもコイツを抱けねえだろ? お前の次って約束なんだからよお」

「てへへ、ごめーん。お兄ちゃんの守りが硬くてさあ」


 苺がぺろっと舌を出して謝る。

 そんな二人の様子を見ていたルエラが俺に聞いてくる。


「あの、この方は何をおっしゃっているのでしょう?」

「ただの妄言だ。気にしなくていいからとっとと行くぞ」


 そう言って歩き出そうとすると、ラヴォガードが俺の前に立ち塞がる。


「うんうん。鍛錬はちゃんと続けているようで何よりだ」

「いや、単に毎日劇場の掃除をしているだけなんだがな。ってか触るな」


 俺は胸の筋肉の形に沿って指でなぞるラヴォカードの手を払いのける。

 だがラヴォカードは俺の反応に構わず機嫌よさそうに笑うと、今度はルエラを見つめた。


「ところでシュカ、この嬢ちゃんはなんだい? 新しいメスかい? いい体してるねえ。よく使い込んでいるじゃないか」

「筋肉をな」


 被せるように補足を入れる。

 ラヴォカードは目を細めてルエラの体を上から下まで舐めるように見つめる。


「宣誓錠の色を見ろ。こいつもあいどるだ」

「初めまして。ルエラ・ファリトリアと申します」


 ルエラは俺の腕から離れるとスカートの裾を摘まんで丁寧にお辞儀をする。


「ほほう。ルエラ、ねえ……もうやったのかい?」

「お望みとあらば、いつでも(とぎ)の準備は整えております。淑女(しゅくじょ)(たしな)みですわ」

「と、(とぎ)って。なんか言葉がエロいな……じゃなくて!」


 ルエラはノータイムでとんでもない爆弾発言をさらりと当たり前のように投げ入れる。


「いや、別にそんな命令下さねえからな! つーか初対面の女の子相手にその質問ってどうなんだよ、肉ババア!」

「なんだよ、いいメスじゃねえか。だったら口説くのは当然だろ? あとオレは肉のお姉さんだ。ババア呼ばわりするんじゃねえよ」

「肉は否定しないのですね……」


 口角泡(こうかくあわ)を飛ばす俺に、だがラヴォカードはけろっとした顔で答えた。


「うふふ、私はいいメスなんですね」

「ああ、このオレが保証する。間違いなく元気な子供が産める安産型だ。心行くまでコイツに抱いて貰え」

「まあ! それは素敵ですね!」


 なんでルエラも両手を頬にやってまんざらでもないって顔をしてるんだよ?

 というか、さっきから目がとろんとしてどこか妖艶(ようえん)さまで感じるのだが?


 淑女の(たしな)みだったか?

 明らかにそういうモノに対しての作法を心得てます的な余裕が感じられる。


 確かに貴族社会は政略結婚の世界だし、いつどこに嫁いでも恥ずかしくないよう様々な教育を受けていたとしてもおかしくはない。


 このままだとなし崩し的に俺がルエラを抱く流れになりそうだ。

 ここは話を逸らす意味も込めてラヴォカードに質問しよう。


「んで? このぺフィリアパークの総支配人様がなんでこんなところをうろついてるんだ?」


 ラヴォカードは元勇者パーティーの一人で魔獣を従え操る力を持つビーストテイマーだ。

 そして現在はこのぺフィリアパークを経営する総支配人でもある。


 人気あいどるユニット「エスクラブプリュイ」を誘致し、彼女達を王国随一のあいどるにまで押し上げた手腕を持つ。


 ラヴォカードは肩や首を回してゴキゴキと音を鳴らしながら答える。


「ただの散歩さ。ここのところ大会の準備が忙しくてずっとテスクワークばっかだったからよお。これじゃあ体がなまっちまうぜ……ヤらないか?」

「ヤらねえよ!」


 俺は身震いし速攻で拒絶する。

 冗談でも頷こうものならこいつは本当に俺を押し倒しかねない。


 そうなったら俺の膂力と技術では抜け出すのは不可能だ。


「と、そろそろ行かねえと。サボってるとラナナスがうるせえからなあ」


 ぼやくように言ってラヴォカードが歩き出す――が、数歩進んだところで立ち止まるとこちらへと振り返り、僅かに目を細める。


「そうそう。この大会にはウチからも何組かユニットが参加してるから当たった時はよろしくな」


 それだけ言うと今度こそ手を振りながらラヴォカードは歩き去っていったのだった。




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