TRUE END
魔王の居城へ向かう旅の途中、とある街で老齢のドワーフに声をかけられた。
「貴方が勇者か。まだ子供ではないか。しかし、その剣は本物の様だ。」
ドワーフは頭を垂れた。
「ワシは、その聖剣を作った鍛冶師の子孫だ。祖先たちは聖剣を強化するため、代々技術を磨いてきた。今こそ盟約を果たす時。さぁ、参ろうぞ勇者よ。」
若者はドワーフに連れられ、山の奥へと入っていった。
そこは、白銀の鱗を持つ竜の住処だった。
「聖竜よ。古の誓いを果たしに来た。」
「懐かしい匂いだ。母の匂い。その剣は、母の鱗から作られておるのだ。良かろう。母に代わり、私が約束を果たす。」
ドワーフは背負っていた大きな荷物を下ろし、鍛冶の準備を始めた。
聖竜の炎を用いて聖剣を打ち直すという。
ほどなくして、山の中に金属音が響き始めた。
それから数日間かけ、聖剣が強化された。
「さぁ、コイツを持っていくがいい、勇者よ。」
若者が受け取った聖剣からは、今までと比べ物にならない程の力が溢れている。
「我ら聖竜族は、魔界の瘴気の中ではまともに力を発揮できぬ。だが、其方の助けくらいにはなろう。かつて母がそうしたように。」
聖竜は若者を背に乗せると、大空へ飛び立った。
森を越え、山を越え、聖竜の翼は瞬く間に若者を魔界の入口へと誘った。
「ここから先は瘴気が濃く、飛んでいく事は出来ぬ。」
聖竜は人の形へ姿を変え、若者の隣に肩を並べた。
「この姿であれば瘴気の負担は少ない。竜の力は使えぬが、露払いくらいは出来よう。」
若者は聖竜と共に、魔界の領域へ足を踏み入れた。
そしてついに魔王城へと辿り着く。
魔王城で二人を迎え撃つ魔物は、聖剣の力と聖竜の魔法で為す術なく倒されていく。
「クックック・・・・・・。 わざわざ殺されに来たか、勇者よ。聖竜も一緒か。」
「汝ら魔族が滅びる時が来たのだ。覚悟するがいい、魔王。」
魔王と対峙した若者は、聖剣を高く掲げた。
――光が迸る。
聖剣から放たれた光は、魔王を守るように覆っていた魔の力をかき消した。
「小賢しい。いい気になるなよ、人間風情が。」
魔王との闘いの火蓋が切って落とされた。
若者が聖剣を振るい、聖竜と魔王の魔法がぶつかり合う。
その闘いは三日三晩続いた。
激しい闘いの末、聖剣の輝く刀身が魔王の身体を貫く。
「グゥッ・・・・・・やるな。だが、この程度では我を滅する事は出来ぬぞ!」
しかし、それでも魔王の力は衰えず、聖剣の刀身を握り、若者の動きを止めて刃を伸ばした。
「今だ! 剣の封印を解くのだ!」
聖竜の声に反応し、若者は首から下げた勇者の証を掴み、聖剣に重ねた。
その瞬間、聖剣の刀身から炎が溢れ出す。
「まさか、これは・・・・・・ッ!」
「そう、汝ら魔族の弱点である聖なる炎だ。元より封じるつもりなど無い、今この場で滅する!」
炎は魔王の身体を内から灼き焦がし、広がっていく。
「グオォォォォッ・・・・・・! 我の、身体がァ・・・・・・っ!」
やがて炎は魔王を飲み込み、存在を消失させた。
力を使い果たし、崩れ落ちそうになった若者の体を聖竜の肩が支える。
「主を失い、魔王城が・・・・・・いや、魔界全体が崩れ始めた。急ぐぞ、勇者よ。」
聖竜は若者を担ぎ上げ、人の姿から竜の姿へと戻った。
「グゥ・・・・・・ッ、やはり瘴気が・・・・・・。だが、片道程度であれば・・・・・・。振り落とされるでないぞ!」
聖竜が羽ばたき、魔王城を突き破って暗雲に覆われた漆黒の空へ舞い上がる。
眼下に広がる大地は大きく震え、砕けていた。
竜の翼が闇空を切り裂くように飛ぶ。
若者は歯を食いしばり、振り落とされぬよう必死に竜の背にしがみついていた。
「見えたぞ! 出口だ!」
閉じつつある出口の向こうには、懐かしい色の空が見える。
更に速度を上げる聖竜。
ふと、若者の髪を撫で付ける風が弱くなった。
二人を労うように陽光と青空が包み込む。
後方に目をやると、魔界の口はぴったりと閉じていた。
「・・・・・・終わったな。」
若者は首を振って、聖竜の呟きに答える。
「”旅はこれから”か・・・・・・。成程、それも悪く無い。」
平和になった世界を見下ろし、二人は飛び続けた。
いつまでも。




