表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

NORMAL END

 若者は聖剣を探す旅の途中、ある場所に立ち寄った。

 崩れた家々が並ぶ、荒れ果てた土地。

 かつて、魔物に滅ぼされた若者の故郷である。

 若者は自らが立てた粗末な墓の前に膝をつき、両親に、友に、そして自分を救ってくれた勇者に、祈りを捧げた。


『無事で良かった。しかし、君には大変な使命を背負わせる事になってしまったね。』


 声が聞こえた。

 若者が兄の様に慕っていた青年の声。


 若者は首を振り、貴方のおかげで助かったのだと答えた。

 魔物の襲撃の際、青年が力を込めた首飾りが魔物の目から若者の姿を消し、若者を守ったのだ。


『もうあまり時間は無い。僕に残された最後の力を、君に託そう。』


 小さな淡い光の粒子が、首飾りに吸い込まれていく。

 青年の声は聞こえなくなった。


 若者は心を新たに出発し、苦難の道を乗り越え、最果ての神殿に奉じられた聖剣を手にする。

 だが、その聖剣にかつての魔を封じる力は残っていなかった。


 勇者の持ち帰った聖剣を見て、王は嘆いた。

 これでは魔王を討ち果たすことは叶わぬ、と。


「嘆くことはありません、王よ。」


 突如響く声。

 それは聖剣から発せられたものだった。


 聖剣が語るには、力を取り戻すため”あるもの”が必要であるという。

 ――聖女の持つ清らかなる魂。

 それを捧げることによって、魔を封じる力が蘇るのだと。


 聖剣が光を放ち、王の間が一瞬、その光で満たされた。

 光が収まると、王の間に居た一人の少女の手に”印”が浮かび上がっていた。


「その印こそが聖女である証。貴女の魂を聖剣に捧げるのです、王女よ。」


 少女は、王の娘である王女であった。

 静まり返る中、王女はゆっくりと若者の前に進みでる。


「私の魂を捧げます、勇者様。どうか、この世界をよろしくお願い致します。」

「おぉ・・・・・・何ということだ。しかし、これも世界の為。娘の言葉を聞き届けてやってくれ。」


「案ずる事はありません、王女よ。貴女の清らかな魂は私と共に在り続けるのです。」


 聖剣はまるで吸い込まれるように王女の胸を貫き――

 その瞬間、ピタリと聖剣の切っ先が止まった。

 若者が寸でのところで手を止めたのだ。


「どうしたのですか、勇者よ。早く王女の胸を貫くのです。」

「あぁ、勇者様。どうか私の魂をお使いくださいませ。」


「勇者よ。躊躇う必要は無い。世界の為、娘は覚悟を決めておるのだ。」


 若者は自分の体を支配するかのような不思議な力に抗い、王女から剣を遠ざけていく。


「なぜ抗うのですか、勇者よ。王女を殺せば貴方も力が手に入るのです。さぁ、殺しなさい。」

「そうです、勇者様。世界の為、私を殺してください。」


「勇者よ。娘を殺すのだ。殺せ、殺せ、殺せコロせころせころせころせころころころころ」


 若者の胸にある勇者の証が熱く輝きだし、若者の体に自由を取り戻していく。

 若者は勇者の証を手に取り、聖剣に押し当てた。


「ギャアアアアアァァァァーーーーーーッッ!!!!」


 耳をつんざくような悲鳴が響き、聖剣の中から何かが飛び出した。

 皺枯れた小さな老人の姿の魔物。それが正体だった。


『奴は古の魔王。聖剣と最果ての神殿の力によって封じられ、永い時をかけて弱らせてきた。』


 若者の心に、青年の声に似た声が語りかけてきた。


『今、証により封印は解かれた。封印に回していた聖剣の力も徐々に回復してきている。しかし、今の奴ならそれで十分。剣を構えるのだ、名も知らぬ若者よ。』


 その声に押され、若者の心に勇気が灯った。

 同時に、体の中に力が巡り始める。


『勇者の証が君を認めたのだ。その剣も、君の手足の様に扱える筈だ。』


 その言葉通り、若者は今まで感じた事が無いほど身体が動かせるようになっていた。

 若者は心に響く助言に従い、剣を構え、振るう。

 しかし、弱っているとはいえ古の魔王の力は強大だった。

 だが、長い死闘の末、ついに聖剣の光が古の魔王を貫いた。


「グゥゥ・・・・・・ッ! これで、勝ったと思うな・・・・・・我が息子が・・・・・・必ずッ・・・・・・――」


 古の魔王の体は、跡形も無く崩れ去った。


『――永かった。私は悠久の時を、奴と戦い続けていたのだ。だが、私の役目はこれで終わった。後は君に任せるとしよう、名も知らぬ若者よ。いいや、新たな勇者よ。』


 勇者の証から、暖かい光が広がっていく。


『奴の術により心を乱された人々は、すぐ元に戻るであろう。では、さらばだ。』


 そしてそれが、古の勇者の最後の言葉となった。

 正気を取り戻した王は、王女を救った勇者を称える盛大な宴を開いた。


 若者は王や王女に見送られ、魔界にある魔王城を目指して旅立った。

 各地に巣食う魔物を滅し、人々を助け、若者は着実に実力を付けていった。

 そして、その旅の中で聖剣も力を取り戻していた。


 ついに魔王城に辿り着いた若者は、単身乗り込んでいく。

 力を取り戻した聖剣の力は凄まじく、魔王の配下では手も足も出なかった。


「クックック・・・・・・。 わざわざ殺されに来たか、勇者よ。」


 魔王と対峙した若者は、聖剣を高く掲げた。

 ――光が迸る。

 聖剣から放たれた光は、魔王を守るように覆っていた魔の力をかき消した。


「小賢しい。いい気になるなよ、人間風情が。」


 魔王との激しい打ち合いが開始された。

 古の勇者の助言が無くとも、旅で経験を積み、聖剣の扱いを学んだ若者は魔王に引けを取ることは無い。

 闘いは七日七晩続いた。


 そして激しい戦いの末、聖剣の刀身が魔王を貫き捉えた。

 同時に、魔王の刃も若者の身体を貫いていた。


 若者の命の灯が、段々と小さくなっていく。

 だが、魔王の傷は致命傷にはなっていなかった。

 それを知っていた若者は、自分の残り全てを掛け、封印の魔法を唱えた。

 さすがの魔王も封印魔法に抗う術は残されておらず、聖剣の刀身へ吸い込まれていく。


「クハハハハハッ! 今は封印されてやろう! だが必ず、我は蘇る!」


 若者には剣を握る力も、歩く力も、立つ力さえ残っていなかった。

 主を失い崩れゆく魔王城の中で、若者の意識はゆっくり薄れていく。


 そして、世界に平和が訪れた――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ