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8:パンツ見えてるから

◆◆◆◆◆◆

《徒手》を取得しました。

以降の戦闘では、武器を装備していない場合でも【忍刀】のステータスを参照します。

◆◆◆◆◆◆


 その以降の戦闘(・・・・・)とやらは、今すぐだった。

 俺が投げつけた皿が5人の男達に向かっていく。

 投げ赤いシャツの男が、それを叩き落としたのと同時に俺は走り出した。


「何しやが――」


 (つばき)を吐いて叫んだ男の顔面に俺の膝がめり込む。

 グギョっと不思議な声を上げ、辺りにあるテーブルや椅子を巻き込みながら吹き飛ぶのを、男達はあっけにとられて眺めていた。

 一拍おいてから、怒気が膨れる。


「やっちまえ!!!」


 着地に合わせるような怒号。

 怒気が弾け、リーダー格以外の3人が同時に飛びかかってきた。

 俺は、足元に倒れていた椅子に足を引っかけてそれを真っ正面の顔面に向かって蹴り飛ばす。

 男の顔面は、その勢いで上を向いてその中心から噴水のように鼻血が吹き上がった。


 しかし、今度こそ男達はそちらに気を取られることはない。

 黒のワークブーツを履いた男が、その靴裏を叩きつけるように蹴ってきた。

 その喧嘩蹴り(ヤクザキック)を後ろに飛び退いて避ける。

 それを追うように右側後方から頬刺青の男が体当たりをかましてきた。

 わずかに浮ついた身体をギリギリで制御してその男を抱き止める。


「ガキがぁ!」


 頬の刺青を歪に歪ませながら男が唸りが、それと同時に背後に殺気を感じた。

 身体を沈み込ませると、その頭上をいつの間にか背後に回り込んでいた黒ブーツの男の蹴りが通過。

 それは、俺の頭上わずかを通過して頬刺青男の側頭部に叩き込まれる。

 刺青男の頬が強張り、目が血走った。

 そして、それが弛緩するのと同時に泡を吹いて後ろに倒れた。

 しゃがんだままの体勢の俺と蹴りを打った黒ブーツの男の目が合う。


「……俺のせいじゃねえぞ」


「やかましい!!」


 黒ブーツはハイキックからそのまま踵落としに変形させた。

 俺はそれが叩き落されるより先に立ち上がると、その勢いが乗った拳を顎に叩き込む。

 男がテーブルごと吹き飛ぶのを、リーダー格の男は目で追いながら剣を引き抜いた。

 インベントリから取り出したのだろうか。

 俺はぐるりと辺りを見回す。

 ちょうどウォガシが欠伸を噛み殺しながらやってきた。

 俺は無駄だと分かりながら、男の剣を指さして口を開く。


「おい、あれはいいのか?」


 俺の言葉にウォガシは唇をにいっと引き上げる。

 そして、わざとらしく目をこすり始めた。


「あー目が痛いナー」


 逆に清々しい気持ちになるな。

 俺が視線を戻すのと同時に男が斬りかかってきた。

 横凪に叩きつけるような剣筋をブリッジで躱し、剣が通り過ぎるのと同時にバク転の要領で起き上がる。

 それを見越していたのか、男は即座に剣を引くと3度突き込んできた。

 俺は立ち上がり際に手にした椅子で、それを2度防ぎ、3度目の突きに対してあえて一歩踏み込む。


「何!?」


 男が驚愕に目を見開く。

 俺もできると思わなかったので驚いた。

 これはお互い様ということでどうだろうか。


 側頭部スレスレで鈍く輝く剣。

 それを尻目に、踏み込んだ男の脚を蹴り上げた。

 バランスを崩して前のめりになったのを、後頭部に椅子を叩きつけて後押しとしてやる。

 テーブルに顔面から直撃。その勢いで机が真っ二つに折れた。


「地面とキスしてな……ってか」


 土下寝状態の男を見下ろしながら俺は首を回し、肩を回した。

 ケガはないようである。

 襲ってきた連中も死んだ奴はいないようで、地面の上で痛みに転げ回るか気絶していた。


 その様子を見ていた少女に視線を送ると腰が抜けたのか、地面に座り込んで俺を見ていた。

 体勢が悪いせいで、スカートの中が丸見えである。


「えっと……名前は?」


「ヒ……ヒマリです!!」


 めっちゃ怯えられてて、少しだけ傷つく。

 まぁ、こんなもの見せられたら仕方ないか。


「ヒマリちゃんね。パンツ見えてるから気をつけて」


 ヒマリはキャと叫んでスカートを抑える。

 俺は、どうしようかな、と思いながら男達の方へ歩を進めた。

 と、リーダー格の男が、顎をさすりながら姿勢を起こしていたので、満面の笑みを送ってやる。

 すると、何故か目をむいて正座の姿勢になった。

 そして、土下座を始める。


「これでどうにか……」


 差し出されたのは、財布のようだ。

 勝利後の戦利品と言ったところか。

 中身を確認してから、俺は肩を押さえた。


「痛たたたた! 脚痛い!」


「いや、そこ肩……」


「痛たたたた! 肩も痛いのー!!」


「お前ら! あるもの全部だせ!!」


 男たちが”なぜか”差し出した金品を物色する。

 そして、一番中身が入っていた財布と、一番きれいそうな服を見繕ってヒマリに差し出した。


「えっと、臭いかもしれないけど、乾くまでこれでも着てな。

 それでこっち、詫び料だって。よかったね」


 少女は服と財布を受け取ってから、疑問符を浮かべながら首を傾げた。

 そして、やっと意味が分かったのか、慌てたように手放す。


「もらえません!」


「もらっときなよ。このおじさんたちがもらってほしいって言ってるんだから」


 俺は、そういって男たちを見渡すと、男たちは首が千切れるほどにうなずいた。

 ヒマリは、困ったようにしていたところで、ずっと見ていたウォガシが歩いてきた。


「やぁ、イーサン。と、女。それはまずいんじゃないかなぁ。コロシアム内での私闘は厳禁だ」


「やっときたか」


 俺は、そう言ってウォガシに財布を差し出した。

 ウォガシは、それを見て目を細める。


「これは”落とし物”だ。俺は落とし物を拾った。たまたまな。

 あんたが”処理”してくれるなら、楽でいいんだが……

 ダメなら直接シツクネの所に持っていくしかないな」


 俺は財布を手の上で(もてあそ)ぶ。

 シツクネとウォガシの上下関係は確実にシツクネが上だ。

 その上で、俺がシツクネに金を借りたことがあると知っているウォガシからすれば、余計なものを間に入れたくないだろう。

 そして、俺の予想通り、ウォガシはそれを嫌がった。

 顔に渋面を浮かべその財布を奪い取った。

 これ以上の交渉は不利益だと踏んだらしい。


「分かったよ。もうちょっとくらいくれてもいいのにさ。

 あ、その嬢ちゃんにそんだけ金持たせてたら危ないぜ。

 渡すならきっちり面倒見てあげなよ?」


 そういって、その場を後にした。合わせて、男達も走って逃げていく。

 そして、目を戻すとヒマリが財布を差し出していた。


「あの、これやっぱりもらえません……」


 確かに、ウォガシの言うとおり金渡してそのままってのは危険である。

 ヒマリは、そう言った理由からもらえないと言ってるわけではなさそうだが。

 とりあえず、俺はその財布を受け取ってから頭をポフポフとなでる。


「んじゃ、とりあえずこれで朝ご飯を持ってきて。軽い奴でお願い。

 コーヒーはあっつい奴、ブラックで。

 それで、釣銭(おつり)はヒマリにやるからさ。それならいいだろ?」


 ヒマリは少し悩んでから、頷いてコインをつまんだ。


 さて、と、テーブルが散乱した場所を離れてから、難を逃れたテーブル群の一角に腰を下ろす。

 すると、ヒマリ以外の奴隷たちが俺の様子をうかがいながら掃除を始めた。

 散乱した原因は俺のせいだな、と手伝いに向かおうとしたら、ぽっちゃりとした女性が引きつった笑顔で断りをいれてきたので俺はもう一度座る。

 別に、もう大暴れするつもりも、彼らからさらにカツ上げるつもりもないのに……

 それにしても、金が手に入って助かったな……


 ――そうだ。今後絡まれた時は、相応の代金をいただくことにしよう。


 今後の金策についてコペルニクス的転回的錬金術で打開しようとしていると、マリーがこの前と同じローブを着て、怪訝な顔をしてやってきた。

 俺の座っている席に着座して、じぃっと俺を見る。


「何があったのかしら? デス。……あなた、何をしたの?」


 俺がやったのだ、と決めつけてかかるとはひどいな。

 ちょうどやってきたヒマリから朝食――メニューはスープとサンドウィッチだ――を受け取りながら、俺はマリーに視線を送る。


「同じ奴でいい?」


「私も食べていいの? デス? というか、お金は?」


 相も変わらぬ奇妙な敬語でまくし立てられる。


「デスはいらない。というか、やめれ。お金はえっと……寄付してもらった」


 俺は男達が逃げた方を眺める。

 嘘はついていない

 俺は、懐から抜き出した財布を見せる。

 マリーは、眉根をひそめた後で、散らばったテーブルの方をちらっと見た。

 そして、はぁっとため息をついてから、ヒマリに視線を送る。


「朝食は同じのを。飲み物は熱い紅茶でお願い。砂糖をたっぷり入れてね」


 ヒマリは、ハイッと元気よく挨拶をしてから走って行く。

 それを後ろから見ながら、俺は口を開いた。


「これからどうする?」

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