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3/31

3:よりによって13

 俺が通されたのは、コロシアム内の食堂だった。

 コロシアムが開かれるのは午後3時以降なので、人はそれほどいない。

 がそこにいる数少ない闘士らしき男達は全員、荒事が得意な部類の者達だとわかる。

 この汗臭い食堂の中で、妙に目立つ色合いの服を着た女――シツクネは、闘士になるための数枚の書類を俺に差し出した。


「イーサンさん。文字は読めますか?」


 その優雅な動きに乗って香水の香りがふわりと漂う。

 黒く長い髪に、きつい印象を与える細フレームの眼鏡だが、少し垂れた目がその印象を和らげていた。

 人当たりの良い絶世の美女、に見えるが、どこか油断ならない空気を纏っている。

 注意が必要だと、社会経験で得た数少ない教訓から感じていた。


 書類を見る限り、日本語のようだ。


「読めまひゅ」


 思いっきり噛み倒してしまった。だってめっちゃ美人なんだもん。


「そうですか。それは、よかった。

 イーサンさんは教育を受けていたんですね?

 よかったですね。イーサンさん」


「いちいち”さん”を付けるのやめてくれませんかね。馬鹿にしてません」


 イーサンという名前は失敗だったか?

 俺は後頭部を書きながらアハハハハと適当に笑いながら書類に目を落とす。


 恩赦によって、俺は国に8000万リウ――昔、どこかの暇人がVoWの金銭価値を調査した結果、1リウ1円という非常にわかりやすい結果になっていた――で買われたらしい。

 買い直すには2倍の1億6000万リウを支払う必要があるようだ。


 そして、そのための資金を手に入れるためにはコロシアムで死なないように勝つしかないのだろう。

 勝つ毎に、おおよそ、16万リウ支払われるらしい。

 相手によって金額は変動するようだが、1000勝しないと自由にはなれないのか……


 そして、第一戦は、今日の20時だそうだ。

 ハードスケジュールだな、クソッタレめ。


 ――そういえば、VoWの世界の宝くじは当たったら3億リウだったな。

 現実でもこっちでも当たったことはないが、1000勝するよりは宝くじの方が現実的だな」


「宝くじよりも自分に賭けたらどうですか?」


 ぬう、声にでていたか。


「自分に賭ける? そんなことが?」


「ええ、闘士の権利の1つとなっています。そこにも書いていますよ」


「八百長し放題じゃないか……」


「対戦相手は直前にあなた方が待機室に入ってから発表ですから難しいと思いますよ。

 それに、賭ける対象は自分自身のみなので片八百も意味がないですよ」


 そういって、シツクネは少し間を置く。


「まぁ抜け道はいくらでもありますが、何にせよ金はあった方がいいです……ここでは特に」


 シツクネはにこりと笑った。


「相手によってコロシアムでの賞金は変わります。

 が、しかし、あなたが必要とする額の微々たるものでしょう。

 でも、自分に賭ければそれだけ、手に入る金が増えます」


 そう言ってからシツクネは、男達の一団に目を送った。

 ほとんどは粗末な食い物を供されているが、1人だけ、ナイフを片手にやけに豪華なステーキを食している。


「私たち興行師が、闘士の最低限の食事や寝床を提供しています。

 もし、余分な(・・・)お金があれば色々と都合させていただきますよ」


 つまり、金さえあれば、ステーキでも何でも食えるということなのだろう。

 こいつも俺がここから逃げられないと考えているのだ。

 そして、生き残ればそれだけ金を落とせと言う意味で言っているのである。

 とは言え、俺からすれば明日があるのかも不明だ。


 俺は、脳味噌を全力で回転させた。まずは現状をもう一度確認する。


 今、俺は多分ゲームの世界にいる。

 そして、いつ死ぬかもわからない。

 俺がこの世界の住人よりも強みがあるとすれば、知識量だろう。

 そうだ、ステータスの確認がまだだったな。


◆◆◆◆◆◆

イーサン

ヒュム族

筋力  :14

魔力  :11

持久力 :16

反応速度:16

◆◆◆◆◆◆


 ほぼ初期ステータスだ。

 持久力と反応速度が高めなのはありがたい。

 代わりに魔力が低いのはいただけないが、特に気にする必要はない。

 このゲームのステータスは、ほとんど死に要素だからである。


 このゲームには、レベルというものはない。

 ステータスを向上させるには、現実世界同様に筋トレやらランニングやらであがる。

 しかし、いくらあげても、人間を辞めるぞーといったところまではあがらない。

 VoWの肝は、【技能(アーツ)】である。

 アーツとは武器、や魔法、生産に特技といったものの熟練度を簡易化させたものだ。

 たとえば武器系のアーツの【剣】の熟練度をあげることで、剣装備時の武器の攻撃力や、回避性能、もしくは防御力があがるし、魔法系のアーツであれば、魔法の能力があがる。

 さらにはアーツにはそれぞれ独自の《技術(スキル)》が存在し、アーツ独特の戦闘が可能だ。

 生産系は今回、まったく意味をなさない。

 とにかく俺がなんのアーツを持っているのか確認せねば。


◆◆◆◆◆◆

【短刀】 熟練度:25

 攻撃:21

 精神:9

 防御:12

 速度:34

スキルなし

◆◆◆◆◆◆


 攻撃は装備時の攻撃性能、防御は防御性能である。

 性能なので、攻撃は当たった時のダメージソースだけでなく命中率やクリティカル率を、防御は耐久力だけでなく回避力や魔法回避力も兼ねている。

 また、このゲームでは、どんな武器を使っていても魔法系アーツが使える。

 そのため、精神は武器装備状態での魔法攻撃力や、回復力、強化(バフ)弱化(デバフ)の耐性、継続時間などに影響する。

 速度は、防御、攻撃の底上げをになうものだ。


 俺は落胆した。

 俺の持ってるアーツは今のところ【短刀】だけである。

 要は、俺はナイフ使いということだ。

 普通は、武器系アーツを1つが2つに魔法系アーツ1つを持っているのだが……

 別にアーツの取得は簡単なのでどうでもいいのだが、今回はやばい。

 すぐに戦闘が始まるというのに……


 ちなみに【剣】を持っていれば、十分に短刀――ナイフを扱える。

 にも関わらず、なぜ【短刀】が独立しているのか。

 答えは単純である。

 【短刀】は短刀――刃渡りが50センチ未満の刃物しか扱えないのだ。


 これは、生産職に何か戦う(すべ)を与えようという便宜的戦闘手段である。

 ゆえに、道具を扱うだけ(・・・・・・・)で【短刀】の熟練度は上がる。

 しかしいくら上がっても強くない上に、スキルもない。

 【剣】でも持っていればよかったのだが……


 ちなみに【剣】の熟練度25であれば、攻撃が80を超える。

 要するに、【短刀】は弱い。


「俺の初戦の相手って……どんな奴で?」


「魔導士ですよ。まぁ、今まで生き残ってきたことが奇跡的な闘士です」


 ……魔導士か。

 しかも、どうやらそれほど強くはなさそうだ。

 覚えていない【剣】を今から会得して戦うよりは、【短刀】で何とかする方が分がいいかもしれない。

 俺は覚悟を決める。


「俺にも飯をもらえますかね。何でもいいから、肉を」


「へぇ、意外ですね。戦闘前はご飯が喉を通らないタイプかと思いましたが」


 皮肉気にシツクネが笑った。

 が、その笑顔は奇妙に絵になるため怒りはそれほどわいてこない。


「余計なこたぁいいんで肉」


「別にいいんですけどね、お金は?」


「え? あ……えっと……出世払いで……」


「今日死ぬかもしれない人の出世って何になるんですかね? 解脱?」


 シツクネは困ったように眉をひそめた。

 と、先ほどステーキを食っていた男がこちらに声をかけてくる。


「おい、てめぇ、今日が初めてなのか?」


 取り巻きもそろってニヤニヤと笑っている。


「あれは、ルーピさんです。このコロシアムの中堅どころの闘士ですよ」


 シツクネが耳打ちしてきた。

 中堅どころねぇ。それにしてもかわいい名前だな。


「ステーキ食いたいんだったら、奢ってやろうか?」


 男の目の中に嫌な光が見える。

 バカにしてるのだろうか、性根の腐った者の目だ。


「なぁ、シツクネさんよ。金を払わないで食える飯って?

 それと、その時使う道具は何を使う?」


「煮ものと大麦粥です。で……道具と言われてもスプーン()ですが……」


 スプーンか……

 俺は、ルーピの方に視線を送って頭を下げた。


「頼む、食わせてくれ」


 取り巻き達が、ずるい、だの、ぼくちゃんにも、だのゲラゲラと笑いながら囃し立てる。


「いいぜ、味わって食えよ。ところで、お前の房番号はあるのか?」


「房番号?」


 俺の疑問にシツクネが口を開く。


「部屋の番号ですね。あなたは13です」


「13だそうだ。それがどうした?」


 俺がそういうと、男たちはどっと笑い始めた。


「13か! よりによって13か!!

 そうかそうか。まぁ、ゆっくり食ってくれ」


 ルーピはそういってにぃっと口の端を引き上げていやらしい笑みを浮かべる。


「最後の食事になってもいいように、味わって食えよ」


 くっそ、嫌なことを言いやがる。

 と、俺の所へステーキと、そしてフォークとナイフが持ってこられた。


「さぁ、私はいきますよ。食事を楽しんで――食べないんですか?」


 俺は、ステーキをテーブルの奥へと押しやり立ち上がった。

 手に持ったナイフは、思ったよりも重い。

 これで刺されたのか。そら死ぬわな。

 あの時のことを思い出し、冷や汗がどっとにじむ。

 胃の腑が思い出した恐怖を吐き出そうと蠕動(ぜんどう)運動するのを食いしばって落ち着けた。

 そして、ナイフを逆手に持つ。


「あ~先に行っておきますが、私を人質にとっても無駄ですよ。

 私ごと殺されるのが落ちです」


 シツクネが振り返ると、屈強な兵士が剣に手をかけていた。

 ちなみに帝国兵の強さは異常だ。

 そんな危険なわけがないと、ちょっかいをかけた廃人が5分後に血まみれになって帰ってくるくらいに強い。

 今の俺なら、シツクネに手をかける前に首を落とされるだろう。

 そういえば、VoWであれば、死ねば最後に寝たベッドのある家に戻ったが、どうなるのだろうか。

 試してみる気にもなれないな。


「というか、そんなテーブルナイフじゃ脅しにもなりませんがね」


「うるせぇ、邪魔するなよ」


 俺は、左手をテーブルに叩き付けた。

 そして、五本の指をすべて大きく開き、息を吸い込んで止める。

 震える視覚を左手の手の甲に集中させてゆっくりと親指と人差し指の間の空間にナイフを突き立てた。

 そして、ナイフを引き上げると、次に、人差し指と中指の間に突き立てる。

 親指と人差し指の間に戻し、今度は中指と薬指の間へ、戻して薬指と小指の間。


 俺がやってるのは、マジシャンがナイフでやるハンド・トリック・ナイフだ。

 熟練度を上げるコツは、上がる動作と上昇率を理解することである。

 【短刀】に関しては、ただ使えば上がる。そこで、上昇率をいじるのだ。

 その上昇率は危険度が握っている。

 ゆえに【短刀】の熟練度を上げるのにこのハンド・トリック・ナイフはちょうどいいのだ。


「なんで急に遊ぶのですか……?」

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