表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

雨と早めの別れ

作者: 雀田

中三の秋。

季節の変わり目には、よく雨が降る。

「雨……降ってきちゃったね」

君は残念そうに言う。

慣れ親しんだアスファルトに黒いしみが出来始めた。

今は小さい粒だけど、すぐに大きくなって僕らを濡らす。

近くの家の軒先で君は僕の隣に立っている。

昔は駄菓子屋の入り口で活気があったこの場所の、面影はすっかり消えている。

「早く止めばいいのにな」

絞り出したように僕は言う。

しばらく前から僕らの会話は寂しい。

「傘、差さないの?」

君は紺色の学校指定の傘を両手で握っている。

差そうという気配は見られない。

「……うん」

顔を俯かせて傘の先端を見つめる。

たまに足先で傘の先端を突く。

僕は折りたたみの傘をカバンの中に持っている。

でも出そうとは思わなかった。

君が傘を差さない理由と僕が傘を出さない理由は同じだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「雨は嫌い?」

「何も思わないけど。嫌いなの?」

「私?うーん……応援したくなるかなぁ」

「応援?意味わからんわ」

「いいよ?わかんなくても」

「何だそれ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ふと思い出した。

いつだったかなんて忘れてしまったけれど。

「応援したくなる?」

君の動きが止まる。

「雨のこと?」

顔は俯いたまま。

「前に言ってたから」

「覚えてたんだ」

顔があがる。

「ねぇ、どうして雨が降るんだろうね」

君は物静かだったから、常に何かを考えつづけているんだろう。

哲学的なことも感傷的なことも。

君は長い長い独白に似た空想を語り始めた。

「雨が降るとき、空は、何か変えようとしてるんだよ。いつも晴れ晴れした顔ではいられないんだよ。空だってそうなんだから、弱い人間たちに悩みがあって当然だよね……。

私は雨は好き。努力を惜しまない空の証だもの。


でも、雨を見ると、努力出来ない自分に気づかされる。変われない自分がいることを受け入れなきゃいけないみたい。


雨は必ず上がって晴れるけれど、私の悩みに終わりは無いと思うの。空みたいになれない私に、何が出来るんだろう。変われない私に何が出来るんだろう……そんな風に考えちゃうね」



このまま静かに二人だけで雨をながめながら、時間なんて忘れられたら、君の抱えている悩みも、僕の感じている不安も、どこか広い海へ流れてくれるのではないか……そう思った。





ずっと一緒にいた僕ら。

記憶に無い頃からずっと一緒だった。


ずっと一緒でも、僕らは、行動も考え方も憧れる人も夢も少しずつ違った。

それでも、それを楽しんでいた。


夢は自分のため。

僕らは自分のために別れを決意した。

大きな不安を抱えて。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ