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赤き狼は異世界を奔る  作者: 和そば
13/33

素材買取

 エスカの起こした行動を見て多少動揺していた受付嬢だが、エスカが戻ってくるとプロ精神で何事も無かったように冒険者ギルドの説明を始める。職業がら荒事をみるのは慣れているとは言え、ここであからさまな態度を見せないのはやはりこの受付嬢が有能である証拠だろう。


「———という事で、依頼の委託、受託の際の注意点は以上です。………聞いていますか?」

「あ、ああ。……いや、分かんねぇ、すまん」

「大丈夫ですよ、エスカ。私が把握しておきました」

「わ、私も大丈夫です!」

「そうか!助かるレイリア、ネリス。なら問題ねぇ」

「……………、なら次はステータスカードと冒険者ランクの説明となります」


 受付嬢としては、エスカの隣の女性がいつまでエスカと行動を共にするかも分からないので、自身でしっかりと理解してほしかったのだが、ギルドの依頼説明が長くややこしいのも事実だ。

 不足な点は実際に依頼を出したり受ける中で身に着けていけば良いと思い、次に移る。 

 冒険者ランクと聞いて、エスカの目に火が灯る。人族のランクとはいえ、強者を求めるエスカには聞き逃せない情報だったからだ。


「まずはステータスカードについてです」

「ああ」

「冒険者登録を終えたものに配布されるカードで、これにランクも記載されます。主な機能としては身分証明の他に、過去の達成依頼の有無。そして現在の自分の身体能力と、レベルという区分で分けた場合の強さの尺度を表示できます。

このレベルに応じて、依頼の難度を判断して下さい。実はある強さの上限を超えると表示できなくなるのですが、そこまで到達する冒険者はこの国にも数人といないので、問題は無いでしょう。それと、これはあまり他人に 見せない方が良いでしょう、自分の強みや弱みがある程度相手にバレてしまうので、見せるなら信用のおける相手だけにしてください」


「ふーん、便利なもんがあるんだな」


 そう言って、エスカは青色の金属プレートを受け取る。厚さ5ミリほどのプレートをくるくると回して、そこに小さな文字がたくさん書かれている事を確認した。右端にくぼみがありそこに親指を重ねると、文字が変化して、ステータスと呼ばれるものが浮かびあがった。


エスカ:人族:女:ランクG

レベル:23

体力:798/1014

魔力:540/540

筋力:962

敏捷:2009

耐物:298

耐魔:306

魔術適正:無属性


 自分のステータスをしげしげと眺めるエスカの横で、レイリアもそれを興味深そうに覗く。本当ならマナー違反の行為だが、エスカは気にも留めない。当然だ、エスカの体自体レイリアが作ったのだから、いまさらバレて困る事もない。

 何時になく真剣な顔で表示されたステータスを見ていたレイリアは、そこから目を離すと受付嬢の方へと顔を向ける。


「失礼ですが、これはどなたが作ったのでしょうか?」


 いつも通りの笑顔で問いかけるレイリアだが、エスカはその声に硬いものが混じっているのを感じる。日常的にレイリアの声を聴いていないと気づけない違和感。震えている訳ではないが、緊張感が少し混じった声だ。。


「はい。ステータスカードの起源は約400年ほど前に大魔術師ミゼイル様が発案された、難易度指標板だと言われています。そこから表示の仕方等は改良されて来ましたが、原理自体は変わっていませんね、もっとも私は魔術師では無いので細部や仕組みは分かりかねますが」

「そう…ですか。その方は人間なのですか?」

「はい?、ええ、亜人だったという話は聞きませんね」

「そうですか。…ありがとうございます」

「あの、もしご興味がおありなら後に冒険者登録をして頂けると、首都などでは利用できる博物施設もありますが」

「ありがたいのですが、今は手持ちが無いので。機会があればお願いします」

「はい、いつでもお待ちしております。それでは次にランクの説明ですが」


 質問のお礼を受付嬢に言って、レイリアはその場を少し離れて思案顔になる。険しい表情のレイリアに、ネリスが何があったのかを聞いているが、それをレイリアが誤魔化すように笑う。少しだけ気になったエスカだが、受付嬢が次の説明を始めたので、意識をそちらに向けた。


「ランクはG~A、AA、Sまでの9段階があり通常の冒険者がギルドの審査を受けて成れる最高のランクは、Aまでとなりますね。このサントムの街では現在 Aランクはいませんし、首都の方でも10人いるかどうか、といったほど貴重な人材になります。そして高位の冒険者ほど難度の高い依頼の優先権や、様々な施 設利用の特権を手にできます」


「ふーん、AAとSってのは?」


「AA、Sランクというのは特殊でして、影響力の強い権力者の守護者。そうですね、たとえば一国の王の側近などが、限定ダンジョンの利用等で冒険者となる 必要のあった場合に、その者の実力がAランク以上であると判断されたらAAランクが発行されます。Sランクは人類の発展に関わる成功を納めた場合や、ギルドに対する莫大なな貢献をした者に発行され、ありとあらゆる優遇がされますが、ここ数年は出ていませんね。過去の記録ですと、…7年前の邪竜討伐を成し遂げたエンクランデ様が取得されています」


「邪竜ねぇ……AAってのはAと実力が変わらないってことか、何で違うんだ?」

「…権力というのは、それほどに厄介という事ですよ。エスカさんも貴族とお関わりになる際はお気をつけて下さい」

「あー、うん?」


 エスカの素朴な疑問に、受付嬢が心配そうに忠告する。それは先ほどの行動を見て、エスカが貴族に喧嘩を売る可能性が少なくないと思ったからだったが、当の本人はどこ吹く風といった様子だ。


 恐らく貴族の怖さ、というものを味わったことがないからだろう。受付嬢はエスカの容姿から、貴族に目をつけられない事を祈る。


 一通りの説明を終えて、エスカ達三人は素材の買取の為にギルドの奥へと案内される。


 敷地内の別館は、通気性の良い大型倉庫の様になっており、木製の大棚に種類別に仕分けされた素材が並んでいる。監視役である屈強な男達の横を通り、別館内にはいる。飾り気のない白色の魔法灯が倉庫内を照らし、石張りの床から寒気がするほどひんやりとした温度が広がる。これなら素材がすぐに痛むこともないだろう。大型の魔物の素材らしきものは見回す範囲にはないが、地下への階段があるので地階に保管させているのだろう。


「おおう…グロいな」

「そうですか?、壮観だとは思いますが」


 エスカの呟きに、不思議そうなネリスの声が返される。

 ここにある素材はある程度加工され、臭いもきつくない。人の首を遠慮なく飛ばすエスカがグロテスクだと思うほどではないと思っての発言だったが。


 いやー、えげつねぇだろ。これが壮観…か?ネリスも結構ヤバい奴だなぁ。


 エスカは改めて見回し、頬を引きつらせる。

 元自分の同種であった魔物のパーツが綺麗に並ぶ様。人で言えば、他人のものとは言え、頭蓋骨や歯から、切り落とされた手首、はがされた皮膚や爪が綺麗に 並んでいるようなもの。異臭などはないが、とてもそれを見て壮観、という言葉はでないだろう。

 この光景に歓喜するのは異常者だけだ。

 

 とは言っても、その感性をもつエスカは、今は人間という枠にあるのだが。


 微妙な表情のエスカの横で、大台にネリスがてきぱきと素材を出していく。薬草類、小鳥型の魔物、ブラックファンゴと呼ばれた強敵の牙を並べ終え、査定をお願いする。


「これは…ブラックファンゴか、よく仕留めれたな」


 査定を担当する筋肉質な男が声を上げ、漆黒の牙を掴み、素材の痛みや劣化をみる。

 真剣な目つきで一通りを観察した後に、男が結果を口にする。


「薬草類とピピックバードのは合わせて銀貨8枚だな。薬草の方は質がいいが、ピピックバードはちょいと痛みがある。ブラックファンゴの方は金貨5枚だな。こりゃあ完璧だぜ、剣や槍の傷も全くねぇし、最高品質つけていいだろう」

「ふふん、そうでしょうそうでしょう!私の森の中でも主と呼ばれるほど強かったですからね、もっと高くても良いんですよ?」

「はは、馬鹿いえ、これがブラックファンゴ素材の最高額だ。異論がねぇなら換金していいか?」

「そうですねー、あっ、金貨の一枚は銀貨10枚で、銀貨の3枚は銅貨30枚で貰えますか?」

「おう、了解だ」

「まあ、そのくらいですかね。レイリア先生とエスカさんはいいですか?」

「はい」

「いいんじゃねーの」


 男はエスカ達の肯定を受けて、奥に金を取りに行く。

 なお、お金の価値がいまいち分かっていないエスカは、ネリスが納得しているのを見て不当な金額ではないのだろうと判断しただけで、実際の良し悪しは分かっていない。


 男は皮袋にエスカ達の前で硬貨を詰めて渡す。それを確認して、受け取ったエスカは皮袋をレイリアへと預けて受付カウンターまで戻った。

 三人での取り決めなど無かったが、何となく一番お金の管理が上手そうだと決めつけた行動だ。レイリアは苦笑しながらも、嫌がるそぶりはみせずお金を受け取る。


「では、確かに管理を任されました。まずはロウさんに返して置きましょうか」


 そう言って受付で待つロウに、皮袋から銅貨5枚を取り出してレイリアが手渡す。


「この度は、本当にありがとうございました。突然であったにも関わらず、感謝します」

「いえいえ、俺達も助けられたわけですし、お互い様ですよ。明日は盗賊の分も渡したいので、宿は決まっていますか?」

「いいえ、まだです。この街には来たばかりですし、良ければロウさんのお勧めの宿などを紹介して頂けると嬉しいのですが」

「勿論ですよ!、まずはですね————」


 少し早口で多弁に語るロウにレイリアは相槌を打ち、見惚れるような微笑みを返す。

 その微笑みに照れを隠すよう、ロウがさらに早口になるのを面白く無さそうにミセラが睨む。

 暇になり、欠伸をしているエスカにミセラがこっそりと忍びよって来た。 


「ねぇねぇエスカ、レイリアさんってどんな人が好みなの?」

「好み?」

「いや、あはは、どんな人が好きなのかなーって」

「あ、それは私も気になります。レイリア先生って凄い美人なのに、全然欲っぽいものもないし!」

「好きなあ、んー、…」


 そもそもあいつに好き嫌いがあんのかな。善悪や力の大小は判断基準があるっぽいけどな………いや、そういやあたしの外見ってあいつの趣味なんだっけ?てことはこんな感じの人族が好きなのか?


「多分、14歳くらいの少女だな」


「「……え?」」


 予想外の発言に重なった二人の声。そこからネリスは急に顔を赤くして俯き、ミセラはハッとエスカを見つめて赤くなった後、明るい表情に変わる。


「…え、私ってもしかして先生に……?うそ…でもそれなら後2年くらい待って貰って……はぅ」

「………(私は17だしセーフよね)……?ま、まあ恋愛の形なんて人それぞれよね!…………という事はロウは相手にされないよね、良かったあ……でもあのレイリアさんが……人は見かけに寄らないなあ」


 ぶつぶつと呟く二人とエスカに、レイリアがロウとの話し合いを終えて歩み寄る。


「エスカ、ネリス、宿が決まったので向かいましょうか」

「あいよ」

「ひゃい!」

「ロウさんによると、安くてもご飯の美味しい宿だと……どうかしましたか?」


 顔を赤くして、裏返った声を上げたネリスと意味深な視線を向けるミセラに、レイリアが不思議そうに問かける。


「い、いや、な、なんでも無いですよレイリア先生!」

「あ、あはは。レイリアさん、…ロウの長話に付き合ってくれてありがとね」

「いえいえ、こちらの為にも成りましたし」

「飯の上手い宿に行くんだろ?早くいこーぜ」


 二人に誤解されたレイリアは、何故か生じているよく分からない雰囲気に戸惑っていたが、エスカがギルドから出ていくのをみて後を追っていき、ネリスも竜の咆哮の面々に一礼してからそれに続く。


 二人に盛大な誤解を与え、ミセラによってその後さらに広まる、レイリアの噂の原因であるエスカは意気揚々と街に繰り出す。


 日の落ちた街は、白の魔法灯によって昼間とは別の姿を見せる。石造りの街並みが光を反射し、街全体がぼんやりと青く輝いているようだ。

 数時間前とは品ぞろえを変えたらしい屋台から漂う匂いを嗅ぎ、人の街を見回しながらエスカは自分に追いついてくる二人を待つのだった。



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