再走
狼だった少女は人として、世界をみる。
何を見て、どう成長していくのか。
王道の異世界転生です。お時間がよろしければお付き合い下さい。
設定の変更や修正等の漏れが多かった為、一度全修正をしました。
かの世界。極炎の底という強者の溢れる地にて生まれ落ちた一匹の狼は、まず己の生存を掛けて本能に赴くまま戦い抜き、竜種、異形種、古き王種を初めとする数多を食らい、強大な力を身につけた。
極炎の底を抜け、地上に出た狼は、更なる強者を求め闊歩した。
極炎の中で狼に宿った闘争心は、戦いに対する飢餓となり、世界の強者との闘いでしか満たされることはない。強者と狼の戦いは当然熾烈を極め、豊かな森林を灰に、広大な山脈を削り、発展した都市を廃墟へと変えていく。
狼の訪れた場所は、常に甚大な被害を被り、世界の破壊は看過できないほどに広がった。
その世界に生きる生物にとって致命的な破壊が広がる中、世界の崩壊を止めるために一柱の女神が介入し、狼を世界から排除することを決定した。
生命として格上存在。「神性」を持つ女神は当初あっさりと狼を封印出来ると思っていたが、狼は女神の予想より遥かに強大な力を持ち、その力は女神にも迫るもの。
千日にも及ぶ激闘の末、女神は死力を尽くして狼を別世界に封印し、自らも狼の監視と、消費しきった 「神性」の回復の為に異なる世界へと赴いた。
物語は、ここから始まる。
「ウがア嗚呼アアアアアア」
女神の白撃に、視界が閃光に塗りつぶされ、幾度となく勘だけで回避してきた非実態、多方向同時収束攻撃が再び自分に迫るのを感じる。暗順応など待つまもなく安全圏へと飛びのこうとするが、どういう訳か体が引き寄せられる幾多の黒い球体が、正確な動きを阻害する。
黒い球体を引き裂きながら、不可視の攻撃を避け続け反撃を試みるが、何者だろうと引き裂いてきた爪も、目の前の女には寸前で弾かれる。
だが、落胆はしない。ただの勘でしかないが、もうそろそろあの意味不明な結界も限界が近づいてるはずだ。
まあ、こっちの爪もそこそこボロボロなんだが。
「重力球を物理破壊!ありえないでしょう……いえ、これは魔法の完全無効化!?、一体何なんですか、あなたは!」
焦った様子で女は叫ぶが、叫びたいのはこっちだっての。無尽蔵に溢れる、異形種よりも濃密な魔力。竜種の鱗を凌ぐ防御結界、古き王種を超える特異能力。全部持ってるなんて反則にもほどがある。
けど、だからこそ、おもしれぇ。
自分の中から湧き上がる灼熱が、全身を包む。これは歓喜の熱だ。今までないほど最高に、熱い。
熱に身を任せ、弩雷の如く爪を振り下ろす。さっきまでと少し違う、感触が振動として伝わる。滑らかで硬質な不可視の結界は、爪を引き抜くとガラスの様に散る。
まだだ!
「……!?、絶対不干渉が、そんな馬鹿な………。仕方ありません、これは使いたくありませんでしたが!」
そのまま喉元を喰い千切ろうを牙を掛けるも、女の背後から振り下ろされる何かを感じて飛びのく。
一際嫌な予感に、さらに距離を取るが、離れたはずなのに目の前に大剣があった。
今のは速さじゃない、何か、やばい。
「神剣。対象を貫くという結果を物質化したものです、もう…大人しく封印されて下さい」
やなこった。でもまずいな、この大剣に貫かれるのはやばそうだ、が…。
「…!?」
ぐしゅ、と音を立てて女神に飛びかかる狼の心臓に大剣が刺さる。
ただし、その狼の首はない。自らの爪で首だけを切断し、牙を向けて飛翔、首元から即座に骨格が伸び、再生が始まる。
とった!
結界はすでに無く、女神の首筋に牙を立てるが、そこで違和感に気づく。
女神に苦しそうな表情はなく、そこには疲労と、安堵があった。
「神剣をそのような方法で回避しますか、ですが、こちらもやっとあなたに触れれました。神性行使、転移封印」
「ウがっ!?」
その言葉を最後に、急速に意識が遠のく。
はっ、負けちまったかよ。くっそ。
強ええなぁ。
まぁ、いいか。最高だった。
せいぜい、この体、残さず食らってくれよ。
封印の間際、狼は満足そうな笑みで、その牙を首筋から離した。