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タイトル一文字。 同音異字から連想する物語、あいうえお順に書いてみた。

「う」 -雨・烏・鵜-

作者: 牧田沙有狸

あ行

今朝は最悪だった。

小雨降りしきる中、駅から会社までの間に数羽の烏に遭遇。都会の烏たちは、なんとも攻撃的で逞しい。

怖いので目を合わせないように傘を盾に歩いていたら、1羽が傘の上に乗ってきた。

「うそ、ヤダちょっと降りてよ」

傘の布越しに烏。ここまで近寄ったことはない。

カーッカーッ

人を小ばかにしたように聞こえる泣き声でムカつきつつも、後ろに控える数羽の烏の威圧感と傘にのしかかる1羽の重みで怖気づくあたし。怖くて傘を捨てて走りだした。

奴らは針金ハンガーじゃ飽き足らず、傘で巣でもつくるのか。あたしの傘に群がって分解し始めていた。

だから、傘がない。

会社の1階でガラス窓越しに、ぜんぜんやむ気配の雨空を見つめていた。

ビニール傘買って帰るしかないが、やまないかなと期待した。

だって、ビニール傘が家にいっぱいある。

今日は終日雨だと聞いたので、デザインが気に入って買ったちょっと高い傘を差してきたのに。

烏にやられた。

ビニール傘さしてくればよかったなぁ。

はぁ。

切なそうに雨を見ていると少し高い位置から気持ちのいい低音が響いた。

「羽田さん、もしかして傘ないの?」

見上げると、宇川さんだった。二つ上の憧れの先輩。

「ええ、はい。ちょっと事情があって」

「よかったら使って。僕、もう1本あるから」

宇川さんは長い傘を見せながら、カバンから折りたたみ傘を差し出した。

「え」

「羽田さんに風邪引かれたら困るからね。じゃ」

あたしに傘を握らせると、軽く手を上げてエレベーターの方に戻っていった。

宇川さんが見えなくなると、あたしの顔はものすごく緩んだ。

「宇川さんが傘貸してくれた……」


烏ありがとう!!!

烏、あんた、こうなることを知っていたの?!

キャー、キャーきゃあああ。


人生ってやつはバランスが取れているもんだ。悪いことがあったら、ちゃんといいことがある。

ああ、始まりは物の貸し借り。なんとも中学生の恋愛みたいだけど、そんなものよね。

なんか気の効いた返し方して、次につなげれば「食事でも」なんてなって……

だって、多少は仕事で関係しているけど、そんな重要ポストじゃないあたしに「風邪ひかれると困る」

だってよーーー。もーーーー。

 

あたしはご機嫌で、宇川さんの傘をさしながら駅への道を歩いた。

また烏に遭遇するのを恐れてるのと、宇川さんの傘を少しでも長くさしていたい気分だったのでものすごく迂回した。

 

いつもは通らない道。

なんだか見るもの全てが、雨に濡れて輝いて見える。

駅に向かう相合傘のカップルを見た。

そのうち、あたしと宇川さんも、あんな感じ……

と、妄想を重ねてカップルと見ると宇川さんと1つ年下の非常勤職員の有香だった。


 え。


「やっぱり、この傘で二人はきつかったかな」

「大丈夫、むしろ相合傘なんて楽しかったです」

「よかった」

なんともラブラブな雰囲気のやり取りが耳に入ってしまった。

宇川さんの戦略だったのか。傘をわざと1本にして距離を縮める。

あたしはダシにされた。

なんとも鵜飼の鵜の気分。せっかく捕まえた魚無理やり吐き出された。

喜びは束の間。

 

数日後、宇川さんと有香は二人で一緒に有休を取った。旅行らしい。

その間、有香がいつもやっているお茶だしなどの雑用はあたしがやった。

 

「羽田さんに風邪引かれたら困るからね」

 

そういうことか。

 

 

  

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