桜の季節、俺は一人の少女と出会う
また桜短編
授業が終わり、放課後になる。
空は快晴。
桜は満開。
春の季節は、一種の衣替えだろう。
進級、卒業、入学。
喜びに明ける者。悲しみに落ち込む者。
様々なドラマが生まれる季節。
そして、俺もまた、その一人。
「誰なんだ? 差出人」
ただ一言『放課後、屋上に来てください』という呼び出しのみ。
ピンクの髪に、女の子らしい丸文字。
言われた通り、屋上までやってきた訳なんだが、
「誰もいない」
校庭では友達同士と喋っている人や、部活に明け暮れる奴。
喧騒を聞きながら、屋上からみんなを見る。
「青春、か……」
受験や就職やら、将来の人生が掛かっている人たちもいるんだろう。
剣道や柔道と言った、個人競技の人たちは、スポーツで生きていく人だっているのかもしれない。
放課後になり、図書室へ行き受験対策をする人もいれば、職員室に殴り込み、面接練習に付き合わす人もいる。
みんながみんな、それぞれの人生という道を歩いている。
けど俺は──
「止めた止めた。というか、差出人遅いな。何してんだ」
人を呼び出しておいて、相手を待たせるとは良い度胸してやがる。
とそんなとき、扉が開かれる音がした。
「はぁはぁ、ま、待たせてすみませんっ」
相手はそう言うと、深くお辞儀した。
深いお辞儀によって、腰まで伸びる黒髪が見える。
「別に、そんなに待ってないよ。さっき来たばかりだから」
まるで恋人同士の会話だな、と思い、すぐに笑みが溢れる。
「それで、どうして俺のことを呼んだのかな?」
遅れてきたことをいつまでも引っ張ってても、相手は申し訳ない気持ちになるだろうから、話を切り替える。
「あ、えっと……その……」
もしこの手紙が、ラブレターだとしたら、答えは一つだ。
けど、ラブレターじゃないとしたら?
「私は、その……」
質問内容なんて分かってる。
そしてこれは、神が俺に与えてくれたチャンスなんだろう。
平凡な毎日が嫌で、でも自分から動こうとしなくて。
「すー、ふぅー」
深呼吸をする彼女。
彼女が口を開く前に、少しだけ大きな風が俺たちの間を過ぎ去る。
桜が散り、彼女の真剣な表情とすごく似合っていて、神秘的な感情を抱く。
「一目見た時から、貴方のことがずっと好きでした!」
この出会いが──この出来事が、俺の人生を大きく変えた。
止まっていた俺の人生の道は、彼女によって、もう一度歩き出した。