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陽だまりにて待つ!  作者:
第2章 気付けばこれって……
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リベンジ(2)




 ガラの悪い男子中学生たちに前後左右を固められ、言われるまま店の正面入口を出てぐるりと裏手へ進み行く。


 程なくして、使用済みダンボールや大量のプラスチックトレイが詰められた大袋、ビールケースなどが置かれた空きスペースに出た。

 壁際の隅にスタンド型の吸殻入れが置かれているところを見ると、従業員の屋外喫煙場所でもあるらしい。     


「ちょ……よく見たらこっちのおねーさんたちすっげー美人!」


 到着するなり、中の一人――脱色ツンツン頭――が興奮したように叫んだ。


「名門校って顔面偏差値もたけーの? やべぇ俺も入りてえ!」

「オメーの頭じゃ無理だろ、バーカ」

「てめえもなっ」


 品無くゲラゲラ笑って(けな)し合う声を聞きながら、彩香はひたすら考えつづけていた。

 柚葉と瑶子だけでもどうにか逃がすことはできないだろうか、と。


 人気のない、半分バックヤード的な役割も果たしているであろう店裏の作業場。

 通用口ドアはすぐそこに見えるが、どのくらいの頻度で開くのかはわからない。 


 そんな店の外壁を背にした自分たち三人を取り囲むように、半円を描いて目の前に立つ中学生たち。

 その向こうには、スーパーの裏通りにあたる細い舗装道路が走っていた。

 しばらく進むと学校へ続く大通りに出られる道だ。学校へ向かわずに反対に曲がれば駅前の交番にも駆け込める。


 振り切って走って逃げることはできそうだ。

 そう考え、彩香はそっとシミュレーションする。 


 前回助けてもらった際、次はちゃんと逃げておけと翔にも言われたし。

 よほど連中が俊足ではない限り、たぶん逃げきれる。

 でもそうすると、おそらく二人が――――柚葉と瑶子が無理だ。

 ひとりだけ逃げおおせても意味が無い。


(どうしよう……)

 

 とりあえず一度店内に走って逃げ込んで、誰でもいいから助けを呼んでくる――とか?

 でも誰が止めてくれるだろう?

 こんな危なそうな少年たちとの間に立ってくれる人が居るだろうか? 


 ……ダメだ。

 もしそんな親切で勇敢な人が居たなら、外に出てここに至るまでの間にとっくに助けに入ってくれていたはずだ。 

 店員とは誰ともすれ違わなかったし、ヤバそうな中学生集団とジャージ姿の女子高生三人という妙な組み合わせを目にした買物客の何人かも、一瞬ぎょっとした後そそくさとカートの向きを変えて去って行っただけだった。


 百歩譲って一緒に来てくれる人がいたとしても、連れて戻ってくるまでの間に二人がどんな目に合ってるか……。

 そう考えると、やはり軽々しく選んでいい策ではないような気がする。  


 店の入口や駐車場とは真逆の位置にあたるここからは人の流れもわからない。逆にこちらの様子も誰の目にも留まらないということだ。

 せめてスーパーの店員がゴミ出しなり休憩なりで背後の裏口ドアから一瞬でも顔を出してくれさえすれば、とも思うが……。


「何か余計なこと考えてる? 無駄だよ」


 きつく下唇を噛んで逡巡している彩香に、見透かしたように眉ナシが吐き捨てた。


「あんたたち……何がしたいワケ?」


 お金の要求?

 それとも自分一人がボコボコにされれば、それなりに満足してくれるのだろうか。

 結構望み薄な気がしなくもないが。


「あの時もらい損ねた治療費、かな。あと精神的慰謝料?」


 ひらりと手のひらを差し出して、つまらなそうに振ってみせる眉ナシ。

 やっぱり……と思いながら、軽く睨みつけてやる。


「慰謝料って……どうみてもアンタたちが悪かったんじゃない。あんなお年寄り相手に――」


 言葉半ばで、がんっと耳元の壁を打ちつける音。

 すぐ脇から息を呑むような小さな悲鳴も聞こえた。


「おねーさん、小っさいくせにうっせえ」


 とっさに瞑った目をこわごわ開けると、壁に拳を押し当てたまま眉ナシが顔を近付けてきていた。

  

 何を考えているのかわからない無表情で見下ろされ、自分もまったく怖くないわけではない――が。

 怯えきっている柚葉と瑶子の気配を隣に感じて、何よりも心底申し訳ない思いに駆られた。


(あたしのせいで……)


「そーだよー。あっちのキレーなおねーさんたちみたいに大人しくしてたほうがいいんじゃない? モテないよ?」


 余計なお世話だ、とツッコみたくなるようなセリフが眉ナシの背後から発せられる。


「え、でも俺わりと小っさいおねーさんもアリだけどな」

「マジかよ。趣味悪くねえ? 色気ゼロじゃん」

「っていうかよお。もー面倒くせーから貰うもん貰ってとっとと行こうぜー」  


 冷めた目で見下ろしたまま動かない眉ナシに痺れを切らしたのか、他の少年たちもちらほらと歩み寄ってきた。  


「えー、でも俺イケてるおねーさんたちと遊びたいなーあ」

「あ、俺こっち。サラサラストレートのキレイなおねーさんね」

「じゃこっちのフワフワ超美人もーらいっ」


「え、や……っ」


 手首を掴み上げられ、小さく瑶子の悲鳴が上がった時。

 細い裏通りを誰かが――こちらに向かって歩いてくる気配がした。







 誰でもいいからこの窮地に気付いてほしい!  


 祈るような思いで、足音のした方向に目を凝らす。

 ――――と。 


 視界に飛び込んできたのは、藤川洸陵高校の制服だった。

 かなり緩めに結ばれたネクタイはネイビー。

 いかにも下校途中という体でペタンコの鞄を抱え、気怠そうに裏通りを歩いてくる男子生徒に、彩香は思わず声を上げそうになる。   


(あの人……!)


 知っている顔――だったのだ。

 正確にいうと知り合いというわけではないが。


 ベリーショートで切れ長一重のあの顔は、確か……と必死に記憶をたどる。

 いつぞやの雨の放課後、体育用具室で翔に「塚本」と呼ばれていたあの三年男子だ。

 危ないところだった自分を一声で助けてくれた、あの時の――――!


「つ……塚本先輩!」


 間違いない!と思ったら、眉ナシを押し退けて叫んでしまっていた。

 気付いてくれさえすれば、あの時のように助けてくれるのではないかと心のどこかで期待して。


 突然の切羽詰まった呼び声に、塚本がわずかに驚いたように目を上げてこちらへ顔を向けた。    

 ガラの悪そうな中学生小集団に、見るからに絡まれている同校女子三人に気付いてくれた、と。

 その中の自分と一瞬確かに目が合った、と……思った。


 ――のだが。


(え……)


 素っ気なく店裏一帯にぐるりと視線を巡らせたかと思うと、興味なさそうに前方に視線を戻し、塚本は何事も無なかったように目の前を通り過ぎていく。


(う……うそっ。無視!?)


 ガクリと膝から崩れ落ちる思いがした。


 厳密には知り合いでも何でもないし、向こうにしてみればまったく憶えていなくて「誰だあいつ?」くらいにしか思っていないのかもしれないが……。

 だとすると無理もないが……だけど……。


 あっさり見捨てられた事実に愕然と立ちすくむ横で、緊張が溶けたらしい中学生たちが一斉に噴き出した。


「ぶはっ! シカトー!」

「だーっはっはっはっはっは!」

「すげえ! ガン無視とか!」


 またしても知り合いらしい男子高校生――しかもややイカツイうえに今度はやたら目付きが悪い――登場で、思わず固唾を飲んで身構えてしまっていたらしい。

 その反動なのだろうか、揶揄する声の大きさと笑い転げ方が尋常ではなかった。 


「中学生相手にビビって逃げてくかあ!? どんだけチョロいんだ名門はよ!」

「ダッセ!!」

「まあこっちこの人数だし? ビビんのもしゃーねえけどな!」

「つか、洸陵にもああいう人種いるんだ? やっぱ俺らでも入れんじゃね?」

「トライしてみちゃう?」

「やべえ、サイコーだわ」

「おねーさん可哀想にー。でもウケるーう!」


 ええホントに……と内心で虚しく相槌を打ち、呆然と後ろ姿を見送るしかなかった。


 そんな彩香の視線の先で。


 そのまま去りゆくと思われた塚本が、なぜかピタリと足を止めた。







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