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陽だまりにて待つ!  作者:
第1章 それはそれはヒドい出逢いでした
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モノ申す!(1)




(――――と言われても!)


 昼休み以降ちっとも気が収まらないこの状況を、誰かどうにかしてくれないだろうか。


 気分のまま、おもいっきり頭をかきむしってトコロ構わず床を踏み抜きつつ転げまくりたい衝動をどうにか妄想の中だけに留めつつ。

 初日残りのロングホームルーム中、さまざまな決めごとには表面上だけ参加し、担任の長い話もろくに聞かずに彩香は悶々と思考を巡らせた。

 

 ――『彩香の気持ちは嬉しいけど……今、変に動いて逆に気まずくなっちゃうほうが耐えられない。怖いんだ……。だから――ね?』


 幾度となく蘇ってくる、柚葉の困ったような表情と……懇願の言葉。

 くっつけようなんて思わずにそっとしておいてくれ、と。 


(だけど……だけどやっぱり!)


 やはり何とかしたい。どうにかせねば、と苛立たしいような焦るような気持ちで廊下側三番目の席にちろりと目を向ける。

 担任の話に聞き入っている沖田侑希の斜め後ろ姿。


 「王子さま」「カッコいい」などと単なるミーハーで騒いでいるようなその他大勢とは違って柚葉こそ――かつて強い気持ちで繋がっていたという、そういう二人こそ結ばれるべきでは?と切に思うのだ。


 逸る気持ちで、すぐ目の前に座っている人物に視線を戻す。

 微かに込み上げてくるのは焦燥感にも似た大きな願いと小さな決意。


(……幸せになってほしいんだよ、ホントにさ……)


 親友のその背中を、彩香はもどかしくも祈るような思いで見つめた。







 ――というわけで。


「さあ、今日も元気に部活行くよっ! 柚葉っ! 沖田くんっ!」


 2年F組――男子十五名、女子十五名(うち男子欠席一名)で、出航式とも言える初日(クラス担任がそう言ったのだ。しかも得意気に!)全課程を終了し、ショートホームルームのチャイムが鳴り終わるや否や、彩香は勢いよく立ち上がっていた。


 ロッカーから回収済みの膨れたスポーツバッグはすでに小柄な体に担ぎ上げられ、学生鞄もしっかと脇に抱えられている。


「な、何その張りきりよう……」


 いきなり叫ばないでよー、とかなり驚いたらしい柚葉が胸を押さえて振り返るも、気にしてなどいられるか。

 残りのホームルーム中(うな)りながらいろいろ考えた結果、もうやっぱコレしかないっしょ!とキューピッド作戦は一つの結論に達していた。


(とにかくできるだけ接点を作って二人を近付ける! 昔のことだから、とすっかり忘れてるらしいモテ男だってそのうち思い出すはず!)


 ……と、考えたというわりには至極ありきたりな作戦に、それでも満足げに彩香は意味不明なドヤ顔を振りまく。


 本当は沖田侑希の胸ぐらを掴んで「憶えてないとはどういうことだあぁぁ!?」と振り回して問いただしてやりたいのだが、年度始めから学校中のファンを敵に回すのはいくらなんでも憚られる。

 クラスも学年全体も良い雰囲気でせっかく楽しく仲良く過ごせそうなので、割に合わないことはなるべくしたくない。

 何より、それだけはやめてと必死に柚葉に止められては…………仕方がないではないか。


 つまるところ、この手しかないというわけで。


 心の中で舌打ちしながらも、組み立てたプランのおさらいをする。

 とりあえず、まずはこうして三人で部室が入っているクラブハウスへ向かうと見せかけて「あっごめーーーん、用事思い出しちゃったぁ」とか何とか言って途中でイチ抜けし、二人っきりにさせる作戦をば…………


「あ、ごめん。俺ちょっと用があってさ。二人、先行っててくれる?」


 興奮のあまりグルグル回りだし、ぬふふふと不気味な笑みまでもれてきそうな彩香の背に、さらりと爽やかな声が浴びせられた。


(……おい、ちょっと待てコラ。そりゃあたしのセリフだっての。沖田アンタが言っちゃ――)


 一時停止を余儀なくされた微妙な表情で振り返ると、そこには、声だけでなくまぶしいほどのイケメンオーラを放って鞄に私物を詰め込んでいる侑希の姿。


(……なんで帰り支度するだけなのに、こんなにサマになるんだコイツは……)


 いくら親友の想い人とはいえ、いい加減ムカついてきたところへ、


「あ。そういえば、西野」


 荷物一式を抱えて颯爽と立ち上がり、侑希が思い出したように視線を向けてきた。


「ハイジャン、続けられるの? 大丈夫?」

「ふぇっ?」


 思わず間抜けな応答をしてしまう。 

 そっ、それはどういう意味だ? もちろん続ける気マンマンですけどっ?


「だってほら、ここ」


 柚葉と一緒に歩み寄ったところに、再度わざわざ鞄から取り出して見せてくれたのは、朝に一部ずつ受け取った陸上部のあの書類。


 あー貰っただけで全然目を通してなかったわーと軽く反省する横で、侑希の指が二枚目の『種目別メンバー表(仮)』の一点を示した。

 走高跳の欄、メンバー六名中の最下部に印字された「西野彩香(())」という一行に――というか最後の記号一文字に――一瞬にして目が釘付けになる。



「なに、このハテナマークーーーーーー!?」



 本日二度目の雄叫びが、2-F教室を含む本館四Fに高らかに響き渡ったのは言うまでもない。






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