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陽だまりにて待つ!  作者:
第5章 Trèsor――追憶のはざまで――
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Trèsor――Ⅱ(6)





 極力ボリュームは抑えられているものの、艶っぽい女の喘ぎ声が狭いスタッフルームいっぱいに響き渡っている。


 発信源はライダーたちの――今はなぜか翔の手元にある――タブレット。

 逃がさんとばかりに前後左右を取り囲まれ、無理やりパイプ椅子に座らせられタブレットを押し付けられたかと思うと――

 突如始まったのだ。いかがわしい映像のやたら刺激の強い場面シーンが。


 配信されているドラマ……か、ちょっとした映画か何かなのだろうか。わからない、が。

 流れるようなカメラワークと絶妙なアングルで際どいところは直接見えないようになっているものの、紛れも無く、正真正銘、本物の、まともな濡れ場というヤツらしい。

 アヤしくも素晴らしい(?)この動画を是非青少年にも観せてやらねば、というありがたい理由でこの部屋に引っ張りこまれたのだという。

 「人生の先輩による性教育だ」と誇らしげに言う誰かの声も聞こえていた。


 今日初めて彼らを「先輩」と呼んでやりたいと思った。


(おおお……すげえ……。ってか、いいのかな? こんなん観て……。いいんだよな? 大人が寄ってたかって観ろ、つって勧めてくるんだから)


 目を真ん丸にして見入っている翔を満足気に見下ろし、ライダーたちは笑った。


「ガキでもやっぱ男だなあ」

「いい鑑賞っぷり!」

「こういうの観んの初めてか?」


 画面から目を上げずに、コクリ、うなずいてみせる。


「うははは」

「健全だねえ、青少年は」


「ライダー兄さんたち、いつもこんなの観てんの?」

「おうよ」


「不健全だねえ、老年は」


「何だと、このガキ!」

「うははは、言うねえ坊主」

「その妙な勇気をたたえて――――これをくれてやるぞ少年」


 何か思い付いたらしいロン毛の川っちが、ニンマリと笑ったままガサゴソと小振りのメッセンジャーバッグの中を探り始めた。


「?」

「いざという時のために持っとけ、ホラ」


 カサリと音を立てて握らせられたのは、軽く手のひらに収まるサイズの薄い物体――。


(こ……これは……!)


 どぎつい色彩の個包装がやけに目を引くが、その辺で気軽に買える(らしい)まあ、いわゆる……ごく一般的な避妊具である。

 知識として頭に入ってはいたが実物を目にするのは(もちろん手にするのも)初めてだ。


「も……持っとけ、って……ど、どこに、どうやって……?」


(い……『いざという時』っていつだ!? ってか、この柄のチョイスはいったい……?)


 つい声が上ずってしまった。

 思った以上に動揺してしまっていることを自覚する。


「そりゃーおまえ、どっかテキトーにコソッと忍ばせて……」

「ポケットとかでいいんじゃね?」


「ポケッ……え? じゃ着替える度に入れ替えんスか?」


「まあ、そこは根性で」


 そんな根性が要るものだったのか、コレは。

 思わず手のひらをガン見してしまう。


「カバンでいいんじゃねえ? たまにポロッと落っことすけどな」

「!?」

「あーあるある」

「人前で落として彼女にえらい怒られたことあるわ、そーいえば」


(刈り上げさん、彼女いたことあったのか!(失礼) いやいや……じゃなくて。こんなモノ人前で落としてなんで平然としてるんだ?! むしろ彼女さんのほうがリアクション正しいだろ! ――っていうか、カバン? カバンなんて学校以外、持たねーぞ? ど、どうすれば……!)

 

「んじゃなきゃ、無難に財布とか……」

「ああ、だなー」


「財布はあんま良くねーらしいぞ。劣化が早まるんだと」


 背後――というかほぼ真上――からケンジの落ち着いた声が響いた。


「え? そうなん?」

「知らなかったわー。さすがケン――――って、げっっ! ケンジ!?」

「いつの間に!?」


 輪になった男たちの背後から、腕組みしたままエプロン姿のケンジが見下ろしてきていた。

 いいところで的確なアドバイスが降ってきたところを見ると、この避妊具(危険物)の持ち歩き談義に関してはしっかり聞かれていたらしい。

 というか、本当にいつからそこにいたのだろう。

 

「『げっ』って何だ、テメーら。人を化けモンみてーに」


「い……いやあ……」

「そ、その……俺らちょっと……」


ケンジ(あんた)に見つかるとヤバいから、隠れてエロ動画観てたんだってよ」

「「「バラすな坊主ーーー!!」」」


「はああ? なんでヤバいんだよ? 俺が嫌いなのはお伺いを立てねえ野獣みてーな奴らのことだ。合意のうえなら問題ねえじゃねーか」

「お、おお……」

「ケンジ、かっけえ」


「いいからおまえら、早くしろ」


「え?」

「な、何を?」


「動画再生」


 真剣な面持ちで吐き出された催促の声に、惚れ惚れとボスを見上げていた男たちの膝やら肩やらが面白いようにガタガタと崩れた。

 ようするにAV鑑賞中からすでに入ってきていたということらしい。


 いったいどういう男なんだか……。

 知れば知る程わからなくなる。

 ――が。

 わからなくはなってくるものの、やはりあの二人組を前にした時のような嫌な感情は湧いてこない。

 時々ガキ扱いされることにはムカつくが、本気で腹を立てるまでには至らないのだ。どうも憎めないというか――。

 以前ライダーたちが話していたとおり、やはり彼の人柄なのだろうな、と思う。 


ケンジ(あんた)ってわかんねえ……」


 複雑そのものの表情で、思わずこぼしてしまっていた。


「んあ? 何が? 俺だって男だ。嫌いなワケがあるか」

「あ、いや……そーだろうけど……って、そうじゃなく」


 うっかり言葉に出してしまった後悔半分、あとはどう濁そうかという迷い半分で、ついしどろもどろになってしまった。

 そこから当たり前のようにタブレット端末を取り上げて、ケンジが仲間たちに押し付ける。   


「けどアレだな。ガキはもっと健全に発散しろ」

「?」


 エプロンを外しながらロッカーに歩み寄り、端の扉をガコンと開く。


「ちょい付き合え。教えてやっから」


 メットとキーを手に振り返った野生顔には、いつもの自慢気な笑みが浮かんでいた。



 




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