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陽だまりにて待つ!  作者:
第5章 Trèsor――追憶のはざまで――
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Trèsor――Ⅱ(5)




 仮説その一。

 二人――ケンジといずみが、周りから思われていたような関係(恋人同士)ではなく単なる職場仲間だ、としてみる。


(いや、早くも無理がある。『単なる』はねーよなあ……。どう見ても好き合ってるだろ、あの二人)


 内緒話だけではなく、時折ライダーたちに大声でいいように冷やかされているし、いずみも「彼女」という言葉に驚いてはいたが否定まではしていなかった――――ような気もする。 

 ケンジを追うひたむきな視線も変わらないし、ケンジ本人の照れたような反応や嫉妬や牽制とも取れる態度(ド迫力の黒い笑顔とか)も幾度か目の当たりにしているし。


(じゃあやっぱり、普通に思ったとおりの関係なんじゃ……?)


 だがそうして仮説その二を打ち立ててみると、今度は必要以上に気を遣っている(ように見える)いずみの言動に疑問が湧く。

 ――いや、彼女ばかりではない。

 よくよく思い返すとケンジのほうも何か――……ストレートに見える感情のわりには、何というか……しっかり線を引いて(?)必要以上に穏やかに、優しすぎるくらいに彼女に接しているような気がする、というか何というか。 

 単純に、彼女のことが好きすぎて大事にしまくっているということだろうか。

 そんなふうに見えなくもない。


 カウンターに両肘をついて頭を抱えたまま、ついにうーん……と翔は唸り出した。


 いずれにせよ二人が互いをしっかり想い合っているだろうことは一目瞭然であるというのに……。

 どうも釈然としないのだ。


 ふとエプロンをしたままケンジが外へ出ていこうとする姿が目に留まる。

 水撒きか外の掃除でもしに行くのだろうか。


「やっぱ、わっかんねえ……」


 軽やかな鈴の音とともに広い背中を見送ったタイミングで、くすぶっていた心の声が思わず飛び出てしまっていた。


「え? 翔くん、何が?」


 目の前――カウンター内で大皿を拭いていたいずみがキョトンと目を上げた。


 あれから何度目かの来店になるが、今のところあのガラの悪い二人組には鉢合わせていない。

 ぱったり無くなったのなら万々歳なのだが、たまたま自分が来るタイミングとは合わず目にしていないだけ、かもしれない。

 あの時の話では以前から時々あったということだし……。

 それに関してこっそり訊ねてみても、いずみには「心配しないで」と弱々しくぎこちない笑みを返されるだけなのだ。


 手っ取り早くすべてケンジにぶちまけてしまえば即、万事解決という運びになるのだろうが……。

 いずみ本人にああも強く懇願されては、うっかり告げ口するわけにもいかず――。 

 どうしたものかと、なんとも形容しがたいモヤッとしたものを胸に抱えたまま、現在いまに至る。


(何かあったんかな、この二人……?)


 あれ以来、特に注意して気合を入れてケンジといずみの様子を観察しているのだが、見ている分には本当に普通なのだ。

 普通に――


「どっから見ても普通に恋人同士って気がするんスけど。いずみさんたち」


「え――」


 そうでなければ、いわゆる「両片想い」というやつではないのか。

 傍から見るとそうとしか思えないのだが、そういえば確かに、時折お互いにどうも煮え切らない――ともすると遠慮がちな様子にも見えたりするのは、いったいどういうことなのだろう。


 自分の考えすぎなのだろうか。

 それほど勘は悪くないほうだと思うのだが。

 わからない。しっかり想い合っているのならなぜあと一歩を踏み出さない?

 何をやっているのだ、この二人は。


「な、何……? どうしたの? いきなり――」


「ああ見えてボスライオ――あいつ、ちゃんといずみさんを大事に想ってそうだし、もちろんいずみさんだって……同じッスよね?」


「や……やだな翔くん、からかわないでよ」


 何言ってんの、とばかりに苦笑していずみが顔を伏せる。

 その直前、ふきんを握る指に力がこもり、小さな肩が一瞬だけ微かに震えるのが見て取れた。

 力なく笑ってみせてはいるが、今も彼女には明らかに動揺が走っている。

 

 ――『……ケンジには、言わないで』

 ――『あたしのことに、これ以上気を遣わせたくないの』


「なんでスか? いずみさん変な遠慮したり、何を思い悩む必要があるのかなー、とか思って」


 彼女の心情がわからなすぎるせいか、ケンジへの告げ口を止められているからか、ここのところどうも心穏やかではいられない。

 当事者たちを差し置いて第三者がこうやって気をもんでも仕方がないことはわかりきっているのだが。

 

「べ、別に……そんな、悩んでなんて――」


 じっと反応を窺うように見ていた翔の目線に気付いて、いずみが少しだけ困ったような笑顔をこぼした。


「なんか翔くんにそうやって見られてると、叱られてるような気分になっちゃう」


「え……や、べ、別に怒っては――」


 知らないうちに目つきが悪くなってでもいたのだろうか。

 そんな反応が返ってくるとは思っていなかったため、少なからずバツの悪さをおぼえる。



「おい……おい、坊主」



 ふいに、あらぬ方向から呼び掛けられた。


「?」


 聞き覚えのある密やかな声に振り向くと。


「坊主、こっちだ」


 奥のスタッフルームからライダーの一人――スーツ男――が喜々としてしきりに手招きしている。

 居たのか、と思わずまともに目を見開いてしまった。

 いつものにぎやかさどころか気配すら感じ取れなかったため、今日は入ってきた時からケンジといずみの二人だけだと思っていたのだ。

 というか従業員でもない彼(彼ら?)がいったいそんなところで何を……。


「あの……とりあえずその『坊主』っての、やめてもらっていいスか?」


「しーっ! ケンジに見つかったらヤバいだろーが! いいからちょっと来い坊主!」

「な……えっ!?」


 何ごとかと恐る恐る近付いたところ、強引に腕を引かれて部屋に引っ張りこまれてしまった。

 



 初めて足を踏み入れた奥のスタッフルーム。

 縦長の狭い室内には簡単な手洗い場とロッカー三つが据えられ、人がギリギリすれ違うことができるかどうかというくらいの狭い通路が通っている。

 ロッカーの向こうにはパソコンが一台置かれた長テーブル。

 それに背を向ける形で、パイプ椅子に陣取った気のいいライダーたちが一台のタブレット端末を覗き込むように取り囲んでいた。


 引っ張りこんだ張本人を入れて四人。

 今日はヤスヒロだけ居ないといったメンツらしい。


 なるべく音を立てないようそうっとドアを閉めるなり(呼ばれた時点でいずみにもバレバレだったしコソコソする意味はあるのだろうか?と甚だ疑問だが)、スーツ男がニヤリと笑んだ顔を寄せてきた。


「イイもん見してやるぞ、坊主」

「?」







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