夢語り
(――熱い。けど寒い……)
ちょっとした矛盾にアレ?と思ったものの。
そうか……自分の体が高熱に侵されているのだった、と早杉翔は頭の片隅でぼんやりと思い出した。
こうして布団にくるまって横になっているだけでもしんどく、息苦しい。
もはや目を開けて起き上がろうという気力さえ湧いてこない。
それでも寒さはわずかに軽減されたような気がする。
ああそうだ――。
布団を一枚増やして貰ったのだったか。
(――って……誰に? あれ? 母さんたちが帰ってくるのはまだのはずじゃ……)
自分の時間感覚が狂っているだけ、なのだろうか。
それとも熱で記憶の混乱が尋常ではないレベルにまで達してしまっている?
思い通りにならない身体も呼吸も、曖昧な記憶や感覚も、何やらもどかしい。
が、高熱をおしてまで考えることではなかったか。
頭痛と気だるさに、突き詰めることをあきらめて意識を手放しかけた時――――
額に何か冷たいものが乗せられた。
寒くてしょうがないはずなのに、密着したところから心地好さがどんどん広がっていく。
額にあてがわれた冷たさと手のひらの重みに、なぜか湧き起こる安心感。
悪寒がかき消えたわけではないのに、不思議にも一気に楽になったような気がした。
(そうだ……なんでか彩香がいたような――)
いや、そんなはずはないか。
夢でも見ていた……?
(ま、いいか……どっちでも……)
今はとにかく、この額の心地好さに浸っていたかった。
身動きした拍子にわずかに布団が擦れ冷たい空気が首筋に流れ込む。
が、それもすぐにせき止められた。
ふわりと布団がかけ直されたらしい。
……しかし、失敗した。
受験生なのに健康管理がなってない、と父親が帰ってきたら絶対突っつかれるに違いない。
その受験生を置いて楽しく旅行にいく自分たちはどうなんだ、と思わなくもないが。
それだけ信用されていると考えていいのだろうか?
まあ、その間なんでも自由にできるのだからよしとするが。
それにしても、こんなにまともに熱を出したのなんていつぶりだろうか?
(……ああ、あの時か……。二年前の――……)
少しずつ増してきた温かさと心地好さに誘われて、すうっと意識が落ちて行く。
まだ何の希望も可能性も考えられなかった……暗く淀んだ時間を無為に過ごしていたあのころへと――――




