いびつな関係
「え、えっと……」
「あ、あの……私はあなたに見えているんでしょうか?」
ちょっと特殊な感じの子なのかな。
「うん、見えているよ」
「……そうなんですか」
ちょっとだけ声のトーンが下がった。彼女の中では僕に見えているという事実は良い事なのか悪い事なのか、よくわからない。
そのまま押し黙ってしまった少女に対して、僕はなんだか黙っているのが申し訳なくなって何でもいいから話さなきゃ、という使命感に駆られた。
「どうしてこんなところに? 街の外れにあるボロいアイテムショップに用事があるようには見えないけど」
「用事はないです」
なんだか少しだけ悲しくなった。でもまぁその通りなんだろう。こんな幼気な少女がダンジョン攻略用アイテムショップに用があるわけがない。
「でも、意味はあると思います」
「え、意味?」
「そう……意味」
なんだか言っていることがさっぱりだけどどういうことだろう。用事はないけど意味はある……これもこの子の中で確立した何かに基づいているのかな。
僕はなんだかこの子が気になった。決して久しぶりのお客さんだから舞い上がっているとか、可愛いからお近づきになりたいとかそういうのではなく、純粋に仲良くなってこの子のことを知りたいと思ったんだと思う。
「じゃ、じゃあこの出会いも何か意味がありそうだよね……!!」
「……それはどうですかね」
あぁ、これはなんだか舵取りを間違えたようだぞ。おかしいな、こんなに会話下手だったかな。
「この出会いに意味があるか……それはこれから次第だと思います」
その少女は今までにないほどキッと目を見開いてそんなことを言った。その目を見て僕はなんとなく気がついた。
この子はすごく真剣に何かを見つめているんだということ。僕にはわからない何かに対して、すごく真面目に、正々堂々、正面から立ち向かっているのだと。だから僕はそれが何なのかわからないけど、その手助けをしたいと思った。
「そっか、じゃあ僕はこの出会いに意味を持たせられるように、なんとか頑張ってみるよ」
「……そうですか、じゃあ私も頑張らなきゃいけないのかもしれませんね」
そう言って少女はまた店内を見回し、目に付いた一つの装備、防具に指を刺した。
「じゃあ、あの防具を下さい」
「え?」
「ここはアイテムショップですよね? 歩み寄るにはお客さんになるのが一番かなって」
「あ……その気持ちはとても嬉しいんですけど……あれは男性用装備で……」
「……この出会いには意味なんて――」
「ちょっと待って!! 多分指差したのは一個隣のコートだよね? そっちは兼用だから問題ないから、ね!?」
まさかの展開に焦りを極めて慌てて打開策を講じる僕に、少女は表情ひとつ崩さずローブの内側に手を入れ、
「そういうことにしておきます。いくらですか?」
なんて平然と言ってしまうのだった。自分で選んだ道とはいえ、これから続いていく道は相当険しい山道のようだった。