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恋する妖怪。  作者: 猫娘
8/8

隣の男の子。

 流石にもうカエデもクタクタだった。

 家に帰って、溺れながらお風呂に入ると、泥のように眠った。



 それからしばらくは、お兄ちゃんたちも周りの人も、何となく優しい気がした。

 すぐに変わらない日常が戻ってきたけれど。


 先生に頼まれた本を図書室に返した帰りだった。

 タケシくんが、廊下で人待ち気に立っていた。

 まさか自分だとは夢にも思わないカエデは頭を下げて、通りすぎようとする。


「ちょっとアンタ。いい?」

 

 ついて来いと、長い指で手招きされて、訳のわからないまま裏庭に連れて行かれる。


「……悪かったな」


 唐突に謝られて、全く身に覚えのないカエデはキョトンとしていた。

 タケシくんは苦笑する。


「海で溺れた時、アンタの側にオレいたんだ。アンタがよろけてきて、オレ又かよと思って避けたんだ。そしたら海に落ちて……」


 タケシくんの告白にビックリする。

 彼は全く悪くない。

 寧ろ悪いのは、策略をしていたカエデの方だ。

 それに、タックルしてイヤな思いさせてたのも。

 ぷるぷると、思いっきり頭を横に振る。


「オレ、アンタみたいなタイプ苦手なんだわ。女々してて、赤くなったり俯いたり。突拍子もないことしたりする。計算入った女っぽいの」


 女の子っぽいと生まれて初めて言われたカエデは、意味がわからず呆然としていた。


「オレん家この島来たの。転居時の条件が一番良かったからで、うちの母親、不倫して店の金持ってトンズラした、サイテーなヤツなの。そんな母親見てきたから、女に対して醒めてんのよ。特に女っぽいヤツには嫌悪感があるの」


 はぁ。

 そっぽを向いて、何かを吐き出すように話すタケシくんは、カエデに頷く隙も与えてくれない。


「アンタもそういうタイプだと思ってたけど、料理とか普通に上手いし、年下の面倒も見てるし、家事も一人でしてるって聞いて、あれって。なんか違う気がしてきて」


「……とにかく、海のことも含めて謝っとくから」


 タケシくんは深く頭を下げると、そのまま顔もあげずに走り去ってしまった。

 男前が見れなかったよ。

 まぁ、恥ずかしくてまともには見れないんだけどね。

 後ろ姿も格好いいなぁ。

 足長いよなぁ。

 それにしても一体……。

 タケシくんは何が言いたかったのだろう? さっぱりわからない。

 

「ハナコちゃん、謝られたよ」


「そうですね。彼はカエデちゃんのこと誤解しているようですね」 


「そうだよー。海のことも含めてって……あ。もしかして、私フラれたってことかな?」


「どうしてそうなります?」


「だって、嫌いなタイプって。私のこと言ってたよ。涙が枯れるまで校庭走って、蜜柑の缶詰め山盛り食べないとダメなのかな?」


 それは某映画のパクリになりますよ。

 缶詰も蜜柑じゃないし。

 賢いハナコちゃんは、スルーしておく。


「彼は誤解してますよね。でも、まぁ、それでも良いかもしれませんね。タケシくんも素敵ですが、もっと素敵な人は、案外身近にいるのかも知れませんよ」


「え?素敵な人?ダレ?」


「……取り合えず、のづちさんに、おはぎを持っていかないといけません。約束しましたから。アキラくんに手伝ってもらったらどうですか?」


「え~アキラに?」


「おはぎ作るの初めてでしょ?沢山だと力仕事ですよ。のづちさんにはアキラくんも、面識ありますから」


「そっかー、そうだよね。アキラ誘って来るわ」


 単純なカエデは颯爽とアキラを探しに行く。

 ハナコちゃんは、満足そうに微笑んでいる。

 ハナコちゃんの言うことは、いつも間違いない。

 カエデは教室にいる、アキラにチョップを喰らわしながら命令する。


「アキラ、放課後うちに来な。おはぎつくるよ」

 

 ワケわからないアキラは、もちろんカエデにお持ち帰りされる。

 

 アキラとカエデが仲良く帰る後ろを、ハナコちゃんがついてくる。


「ハナコちゃんは、幾つ食べる?」


「二つで」


「アキラは?」


「僕は三つ?」


「男なら10個くらい食べなよ!ヨーシ。50個つくるぞ。あ、やっぱりムリかも。小豆ももち米も、水にかしてないよ。今日はおはぎは無理だわ。クッキーでも焼こうか?」


 カエデの問いかけに「カエデのクッキーは旨いからな」と、アキラくんは優しく答える。

 それをハナコちゃんは、幸せそうに見つめていた。


 島は収穫を待つばかりの柑橘の甘い香りに包まれ、三人は笑いながら畦道を歩く。 

 すっと小人がアキラの足元をくぐり抜け、密柑山の向こうでは、のづちさんとやまびこが昼寝をしている。

 ブクブク泡がたつ海の底ではかんぎ小僧くんと牛鬼が、勝負の相撲をとっていた。


 足鹿島は、穏やかな秋に色づいている。

 平凡で平和に色づいているよ。


 

             おしまい。


 

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