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恋する妖怪。  作者: 猫娘
6/8

豪傑な時代を生き抜いた人。

 みんなでディズニーのアニメを見ながらごろごろしていた。

 もう料理もデザートも食べ尽くして、お煎餅とかりん糖とクッキーを出せば、食料庫に目ぼしいものは無くなった。

 みんな、よく食べるなぁ。


「散歩に出たらどうかなぁ~体を動かしたいなぁ~海が見たいなぁ~」


 ハナコちゃんが、お菓子を奪い合っている子供たちの間を、唱えてまわる。


「なんか、外出たくない?」


「海行こうよ。海」


 お。みんな乗ってきたぞ。

 姿の見えないハナコちゃんに誘導されて、七人で、防波堤に向かった。

 一番後ろから、タケシくんもだらだらとついてくる。

 

「もう泳げんなるねぇ」


「まだいけるやろ」


「ほなら、あんた飛び込んでみいや」


 カオリちゃんやリョウタが、キャーキャーはしゃいでいる。


「カエデちゃん、いきますよ」


「ヘ?」


 次の瞬間、間抜け顔のままカエデは海に転落していた。

 およそ10メートルはある防波堤。

 バシャンと大きな波しぶきがたち、悲鳴があがった。


「キャー」


「カエデちゃんが落ちたー」


 カエデは両手をバタバタさせながら、顔を浮かばせたり沈んだりを繰り返していた。

 隣にはかんぎ小僧くんがいて、カエデをわざと沈めようとしているのだ。

 何でやねん。

 あんた助っ人要因やないの。

 浮こうとするカエデはブクブク沈みながら、かんぎ小僧くんの裏切り行為に憤慨していた。


 バシャーン!

 誰かが飛び込んだ。

 タケシくん?タケシくんなの?


「カエデー」

 

 水を含んで重くなった体を抱き抱えられ、陸へあがろうと引っ張られる。

 急に波が高なる。

 大きくうねり、次に来た高波に全身がのまれる。


「あ、こりゃあかん」


 かんぎ小僧くんの動揺した声が聞こえた気がした。 

 カエデともう一人は、波にのまれて、あっという間に沖へと流されていく。

 ブクブクと沈む体を抱きかかえてくれる人も、海の力に負けて、一緒に沈んでいく。


 助けてー、誰か。

 ハナコちゃん。かんぎくん。タケシくん。

 たすけ……。 

 そこで、意識は途切れた。




 目を開けると、心配そうに覗き込む、六個の目があった。

 つぶらな瞳のハナコちゃんと、ギョロ目のかんぎくんと、心配そうに目がショボついているアキラがいた。


 アキラが、飛び込んでくれたのか。


 カエデが上体を起こそうとすると、アキラがサッと手を貸した。


「ここどこ?」


「足鹿島の西の方。鰺鳥海岸」 


「え~随分流されたねぇ」


 溺れたら場所からすると、ちょうど島の反対側だ。

 にしても、かんぎくん今回ダメダメだったんじゃないの?

 あんなに餌付けしたのに。

 チロッとかんぎくんを睨んでみる。

 ぷるぷると、かんぎ小僧くんが首を振る。


「ワシじゃないもんね。ちょい盛り上げようと思って体引っ張ったりはしたけど、大波おこしたのはワシじゃないもんね。アレは絶対、牛鬼ヤローの嫌からせや。ワシがカエデの差し入れ分けてやらんかったから」


 なんか、かんぎくんの話を聞いてガックリ力が抜けた。

 食べ物の恨みは怖いということか。

 でも、牛鬼さんとは会ったこともないし。


「ごめんなさい。私がもっと注意をはらっておくべきでした」


 しょんぼりとハナコちゃんが頭を下げる。


「大丈夫だから。ほら、私は元気だから。気にしないで」


 ハナコちゃんに元気アピールするために、ブンブン腕を振り回してみたりする。

 クックッと、アキラが、笑い出した。


「カエデには相変わらず妖怪の友達がいるのか?」


「アキラにも見える?」 


 意気込むカエデに、アキラは首を横に振る。


「僕には見えないよ。けど、カエデは小さい頃から、ハナコちゃんがこう言ったとか、小人が走って行ったとか、天狗を見たとか、おもろいことばかり言ってたやろ。独り言もしょっちゅう言ってるし」


「……独り言じゃないもん」


「トミ婆さんが、神憑りな人やったから、カエデは似てるんかもな」


「神憑り?」


「そう。年より連中はよく言ってた。大きな台風やシケがある時は、大概トミ婆さんが予言してくれるって。それで島はほとんど船の事故もなかったって。うちのじーちゃんや親は今でもトミ婆さんのことは大絶賛や」


 ふーん。そうなんだ。

 カエデはお婆ちゃんの記憶はあまりない。

 小さい時に亡くなったから。

 いつも優しいピンク色のオーラに包まれていた記憶はある。

 お婆ちゃんの近くにいると、ポカポカと温かい気持ちになった。

 トミコ婆ちゃんは、足鹿島では伝説の人だ。

 


 お爺ちゃんはフィリピンで戦死した。

 何もない時代に、お婆ちゃんは、畑を耕しせっせと野菜を作った。

 ありとあらゆる野菜を作ったという。

 週に一度船を出してもらい、本州へ売りにいく。

 食べ物不足の折、持って行けば行くほど山と売れた。

 日保ちしない野菜は漬物にしたり、加工する工夫もした。

 リヤカーがトラックに変わり、更にお金が貯まると自分で船を買い、船乗りを雇い毎日野菜を売りに行った。

 時代が過ぎ、ある程度食料不足が解消されると、トミコ婆ちゃんは、ハウス栽培をはじめた。

 旬でない野菜を出荷する為だ。

 これも、面白いように売れた。

 まだ、ハウス栽培など、ポピュラーでなかった時代だ。

 それから、安い山を購入し、段々畑を作った。

 足鹿島は何もない小さな魚島から、柑橘の島に生まれ変わっていた。

 小作人も増え、島は賑わっていく。

 そして柑橘の値が下がってくると、レモンの栽培を始めた。

 これから需要があると、トミコ婆ちゃんの鶴の一声からだ。

 トミコ婆ちゃんは死ぬ前に、船の権利を船乗りの佐吉さんに讓った。

 アキラのお爺ちゃんだ。

 今では親子二代で観光船と水上タクシーをしている。

 小作人で働いてくれていた人たちにも、それぞれの畑を譲渡した。

 島全体で柑橘とレモンを育てて欲しい、トミコ婆ちゃんの願いだった。

 その願いは、両親にも受け継がれている。

 農作業をしながら、果樹園経営と、檸檬や蜜柑の加工品を販売する。

 カエデの目には頑張っているように映る。

 だから、家事の手伝いをかってでて、今では殆どをカエデが行っている。

 とにかく、トミコ婆ちゃんはすごい人だった。

 激動の時代を自分の力で生き抜いた、沢山の人たちの中の一人。

 周りに影響を与えられる人だったのだろう。

 きっと、妖怪たちにも。



 船の音が近づいてくる。

 アキラのお父さんの船だ。


「おーい!」

 

 アキラが上着を脱いで船に合図をおくる。


「こっちにはこれんから、港の方行ってくるわ」


 アキラが上着を振りながら、港の方に走っていく。


「カエデちゃん。大丈夫?」


 ハナコちゃんは、まだしょんぼりしている。

 かんぎくんも、元気がないように見える。

 

「ほら。大丈夫だから。でも、日も暮れてきたし、寒くなってきたよ。私たちも叔父さんの船に行って乗せてもらおうか?」


 カエデは立ち上がり、ハナコちゃんの手をとる。

 もう片方はかんぎくんの手をとった。

 三人で、港までの海岸を歩く。

 海にはオレンジの日がかかり、夕日までの道をつくっていた。


「カエデー。大変だー!」


 バスタオルを持ったアキラが、走ってくる。

 全力疾走したのか、ぜいぜいと息を切らしている。

 アキラから、バスタオルを受け取る。


「カエデ、大変だ。カイがいなくなった!」


 え?カイがいない?

 一瞬言葉の意味がわからず、バスタオルを頭から掛けたまま、アキラを見つめた。

 

 オレンジの夕日はもう、姿を消そうとしている。

 海は静かにカエデたちを見守っていた。




 

 

 

 






 

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