歓迎会。
「それにしても、トミコさんに似てるねぇ」
かんぎ小僧くんが、煮付けをつつきなが、しみじみと言う。
トミコさんって……トミ婆ちゃんのこと?
「あのひとは、本当にいい人だった。粕漬けやら刺身やら、色々ご馳走になったなぁ」
「私もそうです」
「トミコさんがいるから、日本中の妖怪が島に遊びに来てたなぁ」
かんぎ小僧くんが、懐かしそうギョロ目をしばたたかせる。
「あの頃は賑やかだった。今は島にいる妖怪も数えるばかりだよ」
「トミコさんがいなくなって声をかけてくれて、黒糖饅頭をご馳走してくれたのが、カエデちゃんです」
「ナヌ。ワシも饅頭食いたい!」
「今度持ってくるから。」
かんぎ小僧くんは、食いしん坊と認定。
「それより、かんぎくん。いよいよ明後日だからね。私の命は預けたからね」
大袈裟な物言いでハッパをかける。
「わかってるよ。メシの分は働くさ」
合理的なかんぎ小僧くんは、残りの甘鯛を頭から骨ごと、ひとのみにする。
「ウメ~」
長い舌を出して、唇をベロリと舐めあげた。
決戦の日曜日。
カエデは前日から寝付けなくて、夜遅くまで料理の仕込みをした。
アキラメモでは、タケシくんの好物は唐揚げとオムライスで、嫌いなものは特に無いらしい。
カエデはガッツポーズをした。
しょうがとニンニクに漬け込んだカエデの唐揚げは、お兄ちゃんたちにも大好評。
いつも食卓の人気者だ。
ヨシ!いけるぞ。
今回も入念に漬け込む。
セロリとニンジンと大根と胡瓜のスティックピクルスを作る。
フルーツポンチは冷蔵庫にいれて、オムライスにかけるデミグラスソースも煮込んである。
海老とホタテとアスパラのフライの下ごしらえも完了だ。
後は、後は。
「後は美容です。くまを作っておもてなしをしたら魅力半減です。少し眠った方がいいです」
時計の針は午前三時をさしていた。
眠れそうにないけど……。
「わかった」
カエデはハナコちゃんに従って、パンダ柄のエプロンを外すと、二階にあがって冷えたベットに潜り込んだ。
待ち遠しいような、緊張するような、こんな高揚感は久し振りで、やっぱりカエデは眠ることは出来ずに朝を迎えた。
カエデの家には足鹿小中の生徒全員が集まった。
全員で七人だが、一人で料理を作ってサーブをしているカエデは大忙しだ。
「カエデちゃん、オムライスまだ二個きてないよ」
「もうちょい、五分待って」
「カエデー、オレンジジュースは?」
「冷蔵庫にあるよー。あ、フルーツポンチももう出しちゃって」
半熟オムレツを作りながらアキラにお願いする。
ん?
視線を感じるなぁ。
ジト目のアキラが、コップにオレンジジュースをつぎながらこっちを見てる。
何なのよ。
私は、忙しいのよ。
「トシヤさん、おらんやん」
あぁー。
メンゴメンゴ。
「お兄ちゃんたち、バスケの試合があってさ」
「僕も、バスケのが良かった」
なんですとー!
でも、タケシくんを連れ出してくれた立役者はアキラだ。
「あの古びたジャンバーはさ。私が責任を持って、奪い取るから」
「う、奪い取る?」
「オウヨ。任せとき。ヤツラの胃袋を握ってるのは私だからね」
「そ、そうか」
「それより、アキラありがとね。タケシくんを連れてきてくれて。こーいうの、嫌がるかと思った」
「スゲーうまいメシがタダで食べれる言うたら、喜んで来たよ。でも、カエデ全く話出来てないやん」
そうなのだ。
台所と居間を往復しているカエデにゆっくり話せる時間はない。
「う~。後は、揚げ物したら私もそっちいく。オムライスも運んどいて」
「りょーかい」
料理の給仕を任せて、アスパラを揚げていく。
タケシくん、沢山食べてくれてるかな。
「カエデちゃん、アスパラはサッと揚げないと」
そうでした。
ハナコちゃんに指摘され、油切り皿に置いていく。
お次は、玉ねぎ。海老にホタテと。
タルタルソースを小皿に持って、揚げたてのフライを運ぶ。
「お待たせー。フライ揚がったよ」
テーブルの上には既に、唐揚げもオムライスも白身魚の餡掛けも消え、ピクルスと野菜サラダとフルーツポンチが少量残っているだけだった。
「……すごい、食べたね」
「カエデちゃん、おいしいよ」
一年生のカイくんが、もぐもぐとリスのほっぺで最後の唐揚げを頬張っている。
「美味しかった?良かったよ」
「このフライもからっと揚がってすごい~。お母さんのより美味しい~」
カオリちゃんが、ストレートな感想を言う。
どういたしまして。
カラッと揚げるコツは、衣を冷やしておくんだよ。
「……確かに、ウマイな」
確かにウマイな?
みなさん聞きましたか?
タケシくんの小さなお声でしたが、私の両耳には、しっかり届きましたよ。
ウマイな。
大切な言葉なのでもう一度。
ウマイな。
フッフッフッ。
ニヤニヤと不気味な笑顔を浮かべながら、カエデは台所ヘと戻って行った。