かんぎくん見参。
「まぁ、座ってよ」
放課後アキラを自宅に拉致したカエデは、部屋のベットに座らせようとする。
座ろうとしないとアキラに、ポンポンとベットカバーを叩く。
「カエデって……。まぁ、いいよ」
アキラは諦めたように腰かける。
「あのサー、普段タケシくんとどんな話してるの?」
「は?……別に、漫画の話とかフツーの話よ」
「女の子の話は?」
「まぁ、たまにはするけど」
「私の話とかは?」
「全くしませんね」
そこだけは、キッパリ言い切られて、カエデはガックリくる。
「てか、カエデは意識し過ぎて不気味。中学組は僕たち三人しかいないのに、フツーに話せばいいやろ。クネクネしたりモジモジしたり、らしくないから」
アキラよ、正論過ぎて痛いです。
「まぁ、タックル仕掛けるのはカエデらしいけどね」
ケッケッケと、八重歯剥き出しにして笑う。
くそ~。
でも、怒らない。怒らない。
アキラは協力者。
貴重な協力者。
「だからさ、仲良くなる為に親睦会を開こうと思うの」
「親睦会?どこで?」
「うちの家だよ。料理も私が作るから」
うふ。と、肩をすくめてぶりっこをする。
アキラは訝しそうだ。
よーし。飴ちゃん投入。
「ほら、兄ちゃんたちにも参加させるからさぁ。ワイワイ盛り上がって、トシヤ兄ちゃんがご機嫌の時にジャンバーの話をしたらどうかな?」
アキラはじっと考えている。
それから、納得したように頷いた。
「わかった。ジャンバーも欲しいけど、タケシくんが、島に馴染むのにもいいかもしれん。まだ、明らかに浮いちょるやろ」
そりゃーあのルックスの都会派ボーイやからね。
アキラと約束を取り付け、週末は歓迎会を開く事が決まった。
準備をしなきゃ。
家の大掃除も。
うちの家、意味なく広いからね。
メニューは何にしようかなぁ。
カエデは浮き足だっていた。
果樹園経営に忙しい両親の代わりに、小学校の頃から、料理や掃除を手伝っている。
今ではベテラン選手だ。
ここは腕のみせどころ。
「ハナコちゃんも、食べたいものリクエストしてね」
ハナコちゃんは、ハートのクッションを抱えて、ちんまりと座っていた。
「海に行きたいのですが」
「海?泳ぐには寒くなってきたよ」
「いえ。助っ人を頼もうと思いまして」
ハナコちゃんは防波堤の方にカエデを連れて行く。
内海は静かで、穏やかな波が白い姿をみせていた。
「かんぎくーん」
ハナコが大声で海に叫ぶ。
波がちゃぽんと小さく泡立ち、ギザギザっ歯のかんぎ小僧くんが現れる。
「呼んだ~」
格子柄の着物を着たかんぎ小僧くんが、ボーッと立っている。
魚が絡まない限り、基本、かんぎ小僧くんはボーッとだ。
カエデは内心驚きながらも、かんぎ小僧の出現にワクワクが隠せない。
「一つ目は、愛情たっぷり料理でおもてなし作戦です。これは普通にカエデちゃんは、クリア出来ると思います。好き嫌いのリサーチはしておいた方がいいですね」
ハナコちゃんの作戦に、ウンウンと頷く。
「二つ目は、海に溺れた私を助けて大作戦です」
え?溺れちゃうの?
だれが?
「防波堤までみんなで散歩に来て、カエデちゃんは足を滑らせて海に落ちてしまいます」
え?やっぱり。
落ちるのはわたし?
「それを、タケシくんが助けます」
サッとカエデが手を挙げる。
「タケシくんが、助けてくれなかったらどうなるの?助けに来てくれても、一緒に溺れたら……」
「泳ぎの得意なカエデちゃんが、溺れることはないでしょう。でも、もしもの為に、かんぎくんの登場です。待機しててピンチの時は助けてもらいます」
う~ん。
ハナコちゃんお奨めなら大丈夫だとは思うんだけど。
「えー、ワシそんな面倒いことやるの?」
かんぎ小僧くんは、気が乗らないようだ。
「後で、魚あげるよ。カエデちゃんの白身魚の甘酢あんかけは絶品だよ」
ハナコちゃんの言葉に、かんぎ小僧くんは喉を鳴らす。
「それはぜひ、協力せなあかんな」
「カエデちゃんのか弱いところを見せて、今までのイメージを払拭する作戦です」
成る程!
そうだったのか。
さすがは、座敷わらしのハナコちゃんだ。
カエデは、魚好きのかんぎ小僧くんと熱い握手を交わした。
こうして作戦は決まり、着々と準備が進んでいく。
かんぎ小僧くんは、それからは度々カエデの前にも姿をあらわすようになった。
防波堤で腰かけている所で手を振りあったり、夕食の魚料理を多目に作って差し入れたりと、友情も着々と深め合っていた。