作戦を立てましょう。
カエデは体育館の裏で、花壇を眺めながらお弁当を食べていた。
はぁー。
もう、何十回目かのため息をつく。
「ハナコちゃん、食べていいよ」
まだ半分以上も残っているお弁当をハナコに差しだす。
「唐揚げも卵焼きも残ってるよ」
「いいの……」
しょんぼりと肩を落としたカエデは、またため息をつく。
「タックルするの止めたのに……」
「カエデちゃん。止めたのは偉いけど、まだ3日くらいだよね。その前はずーっと毎日タックルしてたんだよね」
「……」
そうだ。
その通りだ。
カエデはもう、取り返しが付かないことをしてしまったのだろうか。
挽回できないのだろうか。
う~。頭を抱えてうずくまる。
「大丈夫だよ。カエデちゃんの印象は今は最悪でも、これから上がっていけばそっちのがインパクトあるから」
「……ホントに?」
「本当だよ。印象を覆した時は今までにない好印象に変わるよ」
「好印象?」
パララララ~と、バックミュージックが流れてきそうな勢いでカエデは笑顔になる。
「そうだよ。だから、頑張ろうね」
ハナコちゃんに励まされ、カエデは大きく頷く。
要するに、単純なのだ。
この単純さを好ましく思っているハナコは、カエデに卵焼きを差し出す。
「ほら。食べて元気だそう」
大きな口を開けて、カエデは卵焼きをパクついた。
タケシくんも、甘い卵焼きが好きかなぁ。
今度お弁当を……。
いけない。いけない。
カエデは、慌てて訂正する。
お弁当は、作らない。
やりすぎはいけない。
「お弁当は、良いと思いますよ。カエデちゃんはお料理得意だし。タケシくんの家は父子家庭ですよね。パン食の日も多いし。まずは、親しくなってからですよね。転校して10日以上経つのに、まともにお話ししてないよね」
ハイ。その通りです。
「タケシくんは、まぁ他にいないからだと思いますが、アキラくんと仲がいいようなので、アキラくんに歓迎会の相談を持ちかけたらどうでしょうか?」
「歓迎会?」
「親交を深めるチャンスです」
「……」
すくっと、カエデは立ち上がる。
「わたし、アキラのとこ行ってくる」
猪突猛進のカエデはその足で、教室にいるアキラのところまで、突進して行った。
ラッキーにも、教室にタケシくんは居なかった。
「アキラぁ~」
カエデは猫なで声でアキラの前に立つ。
「キショ」
カエデと同じぐらいの身長のアキラが、大袈裟に、体を反らす。
ほら。アキラになら、言われてもどーってことないんだよね。
「アキラに相談があるんだよね」
「僕にはありません」
こ、こいつめ~!
いがぐり頭をゴリゴリしたいのをグッと抑えて、飴をチラつかせる。
「確か、トシヤ兄ちゃんのジャンバー欲しいって言ってたよね~。その件なんだけど、今日ちょっと家に寄らない?」
「ジャンバー、譲ってもらえるのか?」
アキラの目が輝きだす。
有名なアメリカのバスケットボールチームのジャンバーは、アキラの憧れだ。
カエデには、全くわからない。
「まぁそれはさぁ、わたし次第って言うか……とにかく来なよ!」
無理から約束を取り付ける。
丁度、タケシくんが入って来た。
あ。カオリちゃんや、ユウコちゃんと話している。
いいなぁ。
あのくらいの年の方が意識しないで、いけるんだよね。
ハナコちゃんが、ガンバ!のポーズをしてくれている。
うん。頑張るよ。
隣の席に戻ったタケシくんに、微笑んでみる。
明らかに、視線を逸らされた。
……。
ハナコちゃんの口元が、ガンバと動いている。
うー!
頑張るよー!