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恋する妖怪。  作者: 猫娘
2/8

タックルはしない。

「好きな子にタックルはいけません」

 

 毎朝呪文のようにハナコちゃんが唱えてくれる。

 カエデは、ハネタ寝癖を直そうと必死にドライヤーをあてている。

 出来れば今日は、この頭を手伝って欲しいよ。


「好きな子以外にもタックルはしない方がいいよ」


 カエデはハナコの言葉に、当然とばかりに反論する。


「当たり前じゃない。タケシくん以外にタックルしないよ」


 あれは愛のタックルなのだ。

 湧き上がってくるあの衝動をどう伝えればいいのだろうか。

 でももう、タックルはしない。

 タケシくんに好かれるどころか嫌われる原因になると指摘されたから。

 衝動もグッと抑える。

 ハナコちゃんの言うことは、間違いない。


「カエデ~遅刻するわよー」


 一階からのお母さんの声が飛んでくる。

 カエデは慌ててブラシを放り出して、かけ降りる。 


「行ってきまーす」


 カエデ作のお弁当をつかみ取って、坂道を下る。

 段々畑から柑橘の甘い香りが、風に乗って届く。

 学校までの畦道を急いだ。

 

 

 三つ上のトシヤ兄ちゃんと、二つ上のサトル兄ちゃんは、フェリーで高校まで通っている。

 島には高校はない。

 小学校と中学校が合同の校舎で、生徒も合わせてたったの六人だ。

 先生だって、二人。

 昔からみーんな顔馴染み。

 だから、衝撃的だったのだ。

 教壇の前に立って自己紹介したタケシくんには、後光が射していた。


 「タナベタケシ、中3です。ヨロシク」


 少し癖毛の茶色い髪で、制服をちょっと着崩し、ぶっきらぼうに喋る男の子がいるなんて、カエデは生まれて初めて知った。


 カエデの知っている男子は、乱暴で単純で、裸足でミカン畑や浜辺を飛び跳ねる、山猿仲間だったから。

 同級生のアキラも、六年のリョウタも、一年生のカイも。


 タケシくんの自己紹介に、四年生のユウコちゃん、カオリちゃんが歓声をあげた。

 全員がライバル?になった瞬間だった。


 しかも、ライバルたちは学校内にとどまらなかった。

 噂を聞き付けた隣島の青海中の女子が、見学に来たのだ。

 何の見学だよ。

 うちの島には、ミカンとレモンと魚しか無いぞ!

 あんたんとこも似たようなものだろうが。


 キャーキャー言いながらタケシくんに付きまとう女共を、横目でケッと見ながらカオリちゃんたちと悪態をつく。

 

「あぁ言うのヤダネ」

「サイテー。ふつう足鹿島まで来る?引っ込んでろよ」


 カオリちゃんは、なかなか過激だ。

 四コも下だが、もしかして一番のライバルかも。



「ねぇ、そう思わない?ハナコちゃん」


 カエデは、いつもついて来てくれるハナコちゃんに聞いてみる。

 

「それより、急いだ方がいいと思います。遅刻しそうですから」


 やっぱりハナコちゃんは、正しい。

 ハナコちゃんの指摘のお陰で、なんとか遅刻は免れた。 


 

 授業は同じ教室で、学年毎に別の授業をする。

 サツキ先生が席を廻って解らないところを教えてくれる。


 隣には、タケシくんがいる。

 この席は夢の桃色パラダイスだ。

 ぽわんとしながら、一次関数を解く。

 ぽわんとしなくても、数学が苦手なハナコには、暗号のような関数は解けない。

 ワンツーマンでサツキ先生の指導を受ける。

 タケシくんはダルそうに深く腰掛けながら、キレイな数式で解いている。

 指が長いなぁ。  


「カエデさん。よそ見をしないの」 


 ペンで頭をコツンとやられた。  

 タケシくんが、チラッとカエデを見る。

 あ。目があった?

 キャ~。恥ずかしいよ~。

 ん?

 なんかシラーっとした、冷たい視線を感じる。

 カエデがもう一度タケシくんの顔を見ようとすると、スッと背けられた。


「ウザ」


 小さな声だが、確かに聞こえた。

 ハナコちゃん、わたしウザイって言われたよ。

 今日はまだタックルしてないよ。

 でも、ウザイって……。


 ヨシヨシ。

 カエデにしか見えない、白い着物を着たハナコちゃんが背伸びをして、優しく頭を撫でてくれた。




 


 


 

 


 

 


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