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恋する妖怪。  作者: 猫娘
1/8

ハナコちゃん。

 カエデの友だちは、妖怪だった。

 

 小さい頃から側にいて、いつも一緒に遊んでくれる可愛い女の子。

 ハナコちゃん。

 黒い肩までのおかっぱ頭に、白い花柄の着物を着て古風なおしとやかな感じが、カエデには羨ましかった。


 田舎の島暮らしのカエデは、お兄ちゃんが二人の末っ子で、男子と一緒に山や野原や海を駆け回り、顔は日に焼け、格好もお兄ちゃんのお下がりで、まんま山猿だった。

 せめて、お姉ちゃんだったら良かったのにね。

 末っ娘のお姫様扱いでは、なかったってこと。

 だから、ハナコちゃんと出会った時は嬉しかった。 

 

  

 お母さんとお父さんは農作業に出掛け、お守りを頼まれたお兄ちゃんたちは、もう居なくなっていた。

 庭でケンケンをしながら、家の周りで一人遊んでいたカエデは、離れの農作業小屋に、お膝座りをしているハナコちゃんを見つけた。

 奥は光が入らないので暗いんだけど、ハナコちゃんのいる場所は、小さな窓から少しだけ日が差して、横顔がぼんやり浮かんで見えた。

 小さな鼻がちょこんと上を向き、桃色の唇が歌っている。

 ハナコちゃんは、お正月の歌を口ずさんでいた。


「こんにちは」


 カエデは思わず声をかけていた。

 珍しい格好をした、可愛らしい女の子と、友達になりたかったのだ。


「私が見えるの?」


 ハナコちゃんは、一瞬キョトンとした顔をして、それから本当に花が咲いたように笑った。


「わたし、カエデ。四才なの。わたしもお正月のうた、うたえるの」


「私はハナコ。よろしくね。カエデちゃん」


 カエデとハナコちゃんは、一緒にお正月の歌をうたって、とても仲良くなった。

 台所の菓子器に入れてあった黒糖饅頭を二人で食べた。



 ハナコちゃんは、ずっとハナコちゃんだった。

 カエデがが小学校に入っても、九九が覚えられなくて泣いた時も、運動会で一等をとった時も、テスト勉強で寝過ごした時も。

 ハナコちゃんは、変わらず、ハナコちゃんだった。


「私、座敷わらしなの」


 告白してきたのは、ハナコちゃんからだった。

 

「そうなんだ」


 もちろんカエデは知っていた。

 カエデはもう中2になる。

 出会った頃の姿のままで変わらないハナコが、人間で無いことはわかっている。

 お兄ちゃんにもお母さんにもお父さんにも、ハナコちゃんは、誰にも見えない。

 でも、長い付き合いだしね。

 そう思えるくらい、カエデはおおらかでマイペースな女の子に成長していた。


「カミングアウトしたのはね。カエデちゃんの恋に協力してあげようと思って」

 

「私の恋?」


 カエデはハナコに何でも話し、相談をしていた。

 見た目と違って、恐ろしく長く生きているハナコは、いつも適切なアドバイスをくれる。

 

 九九は大きな紙に書いて、部屋に貼って覚えるといい。

 お兄ちゃんと喧嘩した時は、大声でワメくんじゃなくて、小さな声で泣き真似をして顔を伏せた方がいい。

 どれも、ハナコの言う通りだった。


「カエデちゃんの好きなタケシくん。カエデちゃんのやってることって逆効果だと思うの」


 タケシくん……。

 彼の名前を聞いただけで、胸がキューンと熱くなる。

 カエデはおかしい。 

 モジモジしたりウジウジしたりの柄では無いのに、恥ずかしくて話しかけられない。

 そのくせ、意識して欲しくて、体当たりしてぶつかったり、彼の家の周りをぐるぐる廻ったり、確かに全く好感はもたれないだろう言動を繰り返していた。


「話を聞く限り、カエデちゃんの初恋が成就するのは、絶対無理だと思うの」


 ハナコちゃんは、可愛いこけし頭を横に振りながらため息をつく。


 でもね。でもねハナコちゃん。


「タケシくんは都会からIターンでやって来た、都会派ボーイなんだよ。山猿育ちの私とは接点もないし」


 カエデはしょんぼりと肩を落とす。


「山猿育ちなのは、カエデちゃんの魅力でもあるよ。でもね。やっぱり今のままでは恋は成就しないと思う」


 成就……。

 やっぱりハナコちゃんは、古風だなぁ。


「だから、座敷わらしとしての私の力を使おうと思って、カミングアウトしました。ちょびっとズルをして、タケシくんをゲットしちゃいます」


 ハナコちゃんは、ニッコリと花のような笑顔を見せてくれた。 

 この笑顔が大好きだ。


「わかりましたか?カエデちゃん」


「わかりましたです」


 カエデは信頼するハナコちゃん指導の元、タケシくん獲得大作戦に乗り出すことになった。


 ハナコちゃんがいれば百人力だ。

 可愛くて冷静で判断力に長け、恋話にも詳しい。

 おまけに座敷わらしなのだ。

 

 ハナコちゃんは、座敷わらし。

 パズルのピースが揃ったみたいで、カエデはそれだけでもご機嫌だった。 

 

 もちろんタケシくんがゲット出来れば、更にご機嫌になることは間違いない。

  

 

 

 

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