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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
6/49

 大介はティアとの買い物や観劇、食事をして帰って来た日の夜、一人眠れずにいた。


 大介はこの異世界に来て三日になるが、何故かあまり空腹感を感じることがなく、また眠気に襲われることもなかった。

 その為、ティアと食事をしたとき以外は、ダラス達と食卓を共にしているときでも口に物を殆ど入れていなかったし一睡もしていない。


 三日目のこの夜も眠気は無かったのだが、眠れない理由がもう一つあった。

 それは、素っ裸の若い女性が大介の体を抱き枕のように背中から抱き締めていたからだ。

 大介は四十とはいえ、まだまだ男としては元気な方である。


 が・・・・


 大介は三十年近く闘いに明け暮れてきた。

 女性経験が全く無かったわけではないが、それに近い状態だったのだ。

 それは何故かというと、好き合っていた女性といいところまではいくのだが、その女性が戦死するか大介の生き方についてこれずに別れてしまうというのが殆どだったのである。


 はっきり言って大介は女性に関してはうぶ、とまでは言わないが、やはり奥手だと言うべきだろう。



 話を戻して、何故大介は素っ裸の女性、ティアに抱き枕にされているかと言うと・・・


 大介とティアは少女を助けた後、ダイニング[神々の味覚]で二人して美味しい料理とワインに似た酒に舌鼓を打ちディナーを楽しんだのだが、ティアは酒にめっぽう弱かった。

 ティアはお酒をグラスに一杯飲んだだけで泥酔状態に陥ったのだ。


 異邦人は酒に弱いということだったが、大介は元の世界に居た時と同じで全く酔わなかった。


 そんなティアを抱えて大介は宿の[陸の孤島]に戻って来たのだが、女子の部屋には内から鍵が掛けられていて、いくらノックしてもマリアもサハラも出てこなかった。

 終いには他の宿泊客から「うるさい!」とお叱りを受け、仕方なく大介は自分の部屋のベットにティアを寝かせて、自分は床で寝ようと宿の主に毛布を借りに行ったのだが・・・

 部屋に大介が戻ってみると、いつの間にかティアは自分の服を全て脱ぎ捨てスッポンポンでベットに横たわっていたのである。


 仕方なく大介はベットに備えられている毛布を素っ裸のティアにその裸体を見ないようにして掛けてやり、脱ぎ捨てられた服をたたんでベットの傍らに置いておいてやる。

 それから蝋燭立ての蝋燭の火を消し、大介は床に毛布を敷いて横になった。のだが、暫くしてティアがベットから起き上がる気配がしたと思った次の瞬間、床で横になっている大介はティアに背中から抱き締められたのである。

 一糸纏わぬスッポンポンの姿のティアに・・・


 いきなりの事に一瞬・・・何事!?・・・と心臓が跳び跳ねたが、「だいすけ・・・だいしゅき・・・」ムニャムニャというティアの寝言と、その後の心地良さそうな寝息に大介は安堵のため息と共に苦笑が零れた。


 ・・・で、今現在に至るのである。


 が・・・・・


 大介もまだまだ健全な男である、スッポンポンの若く見目麗しく引き締まっているが豊満な女性の体に背中に密着され抱き締められているのだ。

 しかもその据え膳に手を出せないとなると、健全な男としては拷問以外の何物でもなかった。


 大介は朝になるまで、・・・ティアを抱きたい・・・という欲望と、・・・俺の一時的な感情でティアを不幸にしてはダメだろう・・・という理性との狭間で久遠とも思える欲望と理性の責め苦の時を過ごした。


 大介がその責め苦の時を過ごしているなか、朝の時を告げる鳥の声が聞こえ部屋の明かり取りの窓から朝の柔らかな日差しが夜の帳を徐々に開くように優しく差し込んでくる。


 その優しい日差しに部屋全体が満たされた頃、「んっ・・・」と呻いて、ティアは身動ぎをし、「ん、ん~・・・」と、自分の抱き締める温かく心地好いものを腕に力を入れ更に強く抱き寄せ延びをする。

 と、そこでティアは気が付いた、・・・はて?私はこんな大きなもの持っていたかしら?・・・と。

 手触りは硬めだが弾力があり温かみがある。

 匂いは、うっすらとだが記憶に残る父親の匂いに近いような気がした。

 そこでゆっくりとティアは目を開くと、目の前全面に布地が見える。

 その目をゆっくりと自分の頭上の方に移動させると、躊躇いがちに横目でこちらを見る目と目が合った。


 「・・・目が覚めたか?ティア。」


 ・・・・・・。


 ティアは心臓の鼓動が加速度的に早くなっていくのを感じると同時に脳も覚醒していき、「っ!?」と一瞬目を見開くと同時に顔を大介の背中に埋め、「こ、こっちを見ないで!!」と叫ぶ。


 ・・・え、え、なに?どういうこと?何でこんな事になってるの?・・・


と、ティアは何故こんな状況になっているのか思い出せず頭が混乱する。


 ・・・お、落ち着け私!・・・そ、そぅ、昨日、昨日の夜の事を思い出すのよ!確か・・・・・・・・・・・・[神々の味覚]で大介さんと食事をし、お酒を飲んで・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・その先が、思い出せない・・・


 ティアは混乱する頭と動揺する気持ちを落ち着かせて昨晩の事を思い出そうとするが、どうしても食事の途中からのことが思い出せなかった。

 と、ここでハッと気づく、自分の体に触れる朝の爽やかな空気が直に地肌に触れている事に。

 そして、自分が未だに胸を押し付けるようにして大介を抱き締めている事に。


 ~~~~もう、死にたい~~~~


と、ティアは羞恥に全身を真っ赤にさせて目に涙を浮かべ、しばらくの間身動きもとれずにプルプルと震えていた。が、ふと・・・もしかして、私、大介さんと最後までいったのかしら・・・と思い、期待とも不安ともいえない感情が沸き上がる。そして、それを確認する為に女の子の大事な所に意識を集中する。が、その最後までいった結果として残るだろう後味を感じる事は出来なかった。

 その事にティアは残念なようなホッとしたような気持ちになり、ハァとため息を吐いた。


 「あの、ティア。もうそろそろ放してくれると有りがたいのだが・・・」


 躊躇いがちに発せられた大介の言葉に、ティアはハッと我に返り、「ご、ご免なさい!」と慌てるも、多少なりとも落ち着いた自分に気が付き苦笑いが零れる。


 「・・・すみません。大介さん、しばらくこちらを見ないで下さいね。」

と言って、ティアは大介の温もりから離れる事に切なさを感じながらも上体をゆっくり起こそうとして、ハッと思う・・・ここで大介さんを放してしまっては、二度と大介さんとは一緒になれないのでは?・・・と。


 そう思っただけで、ティアは胸を引き裂かれるような気持ちになり涙と・・・そんな事はいや!・・・という思いが溢れてきた。


 「大介さん・・・・私に女としての魅力はありませんか?」


 ティアは再び大介を背中から強く抱き締め声を震わせながら切なげに問う。


 対して大介は動揺しながら、「な、何を突然!」と、言葉を返すと、

「だって、この状況で大介さん、私を抱かなかったんですよね・・・・そんなに私、女の魅力が無いのかなーって思って・・・」

と、ティアは哀しそうな声音で言う。

 「い、いや!そ、そんな事は無いぞ。ティアは美人だしスタイルはいいし・・・・俺は自分の欲望を一晩中抑えるという拷問にあわされていた訳だしな。」

と、大介は慌てて、裏返ったような声でつい本音を漏らす。


 それを聞いて、

「欲望のままに私を抱いてくれれば良かったのに・・・」

と、ティアは大介の背中に額を当てたまま少し嬉しそうな残念そうな悪戯っぽい笑顔を浮かべて言う。

 それに対し、

「バカを言うな!そういう事は愛がなければダメだろう!」

と、大介が憮然として言うと、

「私は大介さんを愛しています・・・」

と、ティアは感情を込めて言い、

「・・・大介さんは私の事、嫌いですか?」

と、躊躇いがちに聞く。


 「き、嫌いではない!・・・・多分、好きだと思う・・・」


 そう大介が言うとティアはパアッと表情を明るくする。


 「だが・・・」

と、言いかけた大介の言葉を遮りティアは言葉を紡ぐ、

「大介さんが私の事を好いてくれているのなら、私は大介さんが私を愛してくれるように努力します。だから、大介さん私を側に置いてください。」


 そう言うと、ティアは大介を抱く腕に力を込める。


 「だ、だが、お前と俺が会ってまだ三日も経っていないのだぞ!それに俺は何時になるかは分からないが、元に世界に戻るんだぞ!」


 大介は昨晩からずっと背中に当たっている柔らかなものに自分の感情が暴走しないように、その感情を押さえつけながら応える。


 「そんな事、関係ありません!貴方が私を愛してくれた証しさえ有れば私は一人でも生きていけます!」

 「っ!・・・・・・そ、それに俺には愛している人が元の世界に居るんだ!」


 大介は折れないティアについ確信の持てないでいる事を、さも事実であるかのように口走ってしまった。が、確かに大介はシーナに好意を持っていたしシーナも大介に好意を持っていただろう。

 しかも大介はこの世界に来た時から、体の内というか心の内というか、とにかく自分の中に自分を優しく包み込んでくれるようなシーナの温もりを強く感じていた。

 それに大介が気付いたのは昨晩の事だったが・・・・

 大介が欲望に負けそうになると、そのシーナの温もりが心の内に広がり理性に力を与えたのだ。


 「構いません!私が貴方を愛し貴方が私を愛してくれたなら、なんの問題もありません。」


 実際、この世界では一夫多妻、一妻多夫でもキチンと家庭を築けていければなんの問題もないとされていた。


 コンコン!

 「グラッツィオ武具店です。大介さんはみえますか?」


 と、ここで突然の来客にビクリとティアは身を震わせた。

 そして、その来客は大介にとっては救いの神だった。


 「ああ、少し待っていてくれ!」

と、大介は返事をし、

「ティア。この話はまた後日だ。」


 そうティアに告げる。


 「・・・・・大介さん。一つだけ許可をください。」

と、ティアは残念そうな声音で言い、

「何だ?」

と、大介は聞く。


 「この先ずっと私を大介さんの側にいさせてください!大介さんが元の世界に戻るまででいいですから。」


 そう哀願の籠った声でティアは言い、

「その許可を貰えるまではこの手を離しませんし、服も着ません!」

と、ギュッと大介の体を抱き締める腕に力を入れ強い意思の籠った声で言う。


 ・・・・・。


 ハァ。

「分かった。ティアの好きにしろ。」


 少し返事に躊躇したが、大介は一つ息を吐きティアの願いを聞き入れる事にした。

 でなければ、何時まで経ってもこの状況から解放されそうになかったからである。


 まぁ、男としては幸せな状況だったとは言えるのかもしれないが。


 「ありがとう御座います。大介さん。」

と、ティアは嬉しそうに言って、

「それじゃあ、服を着ますね。」

と、今度こそ大介から体を離した。


 大介からティアが離れると、大介もティアに背を向けた状態で体を起こし床の上に敷いた毛布に胡座をかいた。


 「大介さん別に私の裸を見ても構いませんよ。これからずっと一緒にいるわけですし。」

と、ティアが悪戯っぽく言うと、

「よ、嫁入り前の女性がそんなはしたない事を言うものじゃない!」

と、耳を赤くして動揺しながら大介は言う。

 恐らく顔も真っ赤になっていることだろう。


 ふふ・・・

「大介さん可愛い。」

と、ティアは楽しそうに笑いながら呟いた。



 それから少しして、「大介さん、いいですよ。」と言うティアの声に大介が振り替えると、昨日と同じ服装姿のティアがそこに立っていた。


 目が合うとティアは嬉しそうに大介に微笑みかける。

 それを見て大介もつい笑みを返したが、何故か照れ臭くなり鼻の頭を掻きつつティアに背を向ける。

 それから大介は徐に立ち上がり扉に向かって歩き出した。

 そして、扉の向こうに居るだろう人物に、「お待たせして申し訳ない。」と言いつつ扉を開けた。


 部屋の前には、白髪はくはつに緋色の瞳の三十半ばくらいのガッチリとした体格の男性と十歳くらいの二人の少女が立っていた。

 二人の少女は顔立ちが良く雰囲気が似寄っていたが、一人は白銀色の髪に明るい緋色の瞳、もう一人は透けるような白髪に少しくすんだ緋色の瞳をしていた。


 「初めまして。俺はグラッツィオ武具店のケヴィンと言います。こっちの二人はメルティスとケネスと言います。」

と言って、ケヴィンと名乗った男は手を差し出す。


 白銀色の髪の少女は、ちょこんとスカートを軽く摘まむようにして、

「初めまして。メルティスです。」

と、挨拶をし、

「は、初めまして。ケネスです。」

と、白髪の少女は慌てて、ペコリとお辞儀をする。


 「ああ、よろしく。俺が羽生大介だ。」

と、大介はケヴィンの手を握る。と、ケヴィンもグラッツィオと同じような反応を示し、

「なるほど、親父がこの片刃刀をあんたに譲ると言い出した訳が分かったよ。」

と、大介に笑いかけた。


 ・・・・・。


 「まぁ、ここじゃなんだから、中に入ってくれ。」

と、大介はケヴィン達を部屋に招き入れ、

「嬢ちゃん達二人はベットにでも腰掛けていてくれ。」

と、少女二人をベットに座らせる。


 「ケヴィン。久しぶりね。」

と、ティアはケヴィンの顔を見ると微笑みかけた。


 ケヴィンはティアに気付いた瞬間、驚いた顔をしたがティアと大介の顔を交互に見て〈ハハーン〉と訳知り顔になり、

「成る程ねー。こりゃ待たされるわけだ。」

と言って、顔をニヤつかせた。


 対して、「な、何よ。」と、ティアは恥ずかしそうに頬を染めそっぽを向く。

 「いや、とうとうティアにも春が来たかと思ってな。」

と、ケヴィンはニヤつかせた顔を優しい笑顔に変える。


 「ところで、ケヴィン。お前さっき俺が手を握ったとき意味ありげな事を言っていたが、どういう事だ。」

と、大介が話を逸らせるように問いかける。

 「ああ、親父が突然、御雷みかずち神社に奉納する大切な片刃刀を訳も言わずにあんたに格安で譲ると言い出したもんでな。何故かと思っていたんだが、あんたの手を握ってみて分かったよ。」

と、ケブィンは笑顔で応えた。

 「俺が異邦人だからなのか知らないが、そんな大切な物俺なんかに売っていいのか?」

と、大介が怪訝顔で聞くと、

「大丈夫だ。御雷神社の方には親父が詫びに行っているし、片刃刀の方はまた作ればいい。」

と、ケヴィンは笑って言い、

「それに、あんたが異邦人ということもあるが。それだけでは親父は片刃刀をあんたに譲るとは言わなかっただろう。片刃刀を親父があんたに譲ろうと思った最大の理由はあんたの手を握った時、俺も感じたが、俺が鍛えたこの片刃刀が何故かまるであんたの為に鍛えられたような刀だと感じられたからだろう。だから、親父もこの片刃刀をあんたに譲ろうと思ったんだと思う。」

と言って、ケヴィンは背負っていた袋をガシャッといわせて床に置き、徐にその袋から二振りの片刃刀を取りだし大介に手渡す。


 その二振りの片刃刀は鞘や柄、鍔の部分は多少作りが違うが、小太刀と言って差し支えない代物だった。


 大介は受け取った二振りの小太刀の一振りはベットに置き、もう一振りの小太刀の鞘の、鍔の近くを左手で持ち鍔の部分を親指で押す。すると、チャキッと鞘と刀本体を固定していた、はばき(鞘と刀身を固定する部分)が鯉口(鞘の口)から放れる。

 そして、右手でつかを持ち刀身を確かめるようにゆっくりと小太刀を鞘から引き抜き、その刀身を立てる。と同時に、大介は内心驚いていた。

 何故なら、その小太刀は大介が長年使い慣れ親しんできた物のようにしっくりと手に馴染んだからだった。


 その右手に持った小太刀の刀身は柔らかな朝の日差しを浴び鈍く輝きを放つ。


 その小太刀を持った右手の手首を器用に使い、刀身全体を大介は真剣な眼差しで見詰める。

 見終わると大介はその小太刀をチンと鍔を鳴らして元の鞘に戻し、もう一振りの小太刀も鯉口を切って刀身を引き抜き同じ様に見詰める。


 二振り目の小太刀も元の鞘に戻すと大介は徐に口を開き、

「素晴らしい出来の刀だ。良く鍛練をされ研ぎも素晴らしい。反りも良く鍛え肌も刃紋も美しく出ている。」

と、べた褒めした。


 それに対しケヴィンは実に嬉しそうに、

「異邦人である大介さんにそこまで誉められると嬉しいですね。実際その片刃刀は異邦人の技術を使い鋼を鍛練して作刀したものですが、オリハルコンやミスリルで作られた刀剣と比べても強度や切れ味、魔力耐性など勝るとも劣らないと自負しています。」

と、ケヴィンは胸を張った。


 「本当にこれを金貨一枚で譲ってくれるのか?」

 「ええ、大介さんがこちらの条件を飲んでくれるのなら・・・」

 「その条件とは?」

と、大介が尋ねると、ケヴィンはベットに腰掛けて楽しそうに話をしている少女二人に目を向ける。

 そして、「条件は、この戦争が終わるまでメルティスの用心棒をする事です。」と、真剣な顔で告げる。


 そう言われ大介はメルティスに目を向ける。と、「ん?」と何か記憶に引っ掛かるものがあった。

 「そういえば、この嬢ちゃん昨日の夕時に会った子か。昨日は夕闇で顔がよく見えなかったから今まで気付かなかったが・・・」

と、大介が言うと、メルティスはベットから立ち上がり、

「昨日は失礼いたしました。」

と、ペコリと頭を下げ、

「大介さまはお気付きだったようですが少し試させて頂きました。」

と、顔を上げたメルティスの表情は先程までケネスと楽しそうに話をしていた子供らしい表情とは打って変わって大人びたものになっていた。


 メルティスの言葉を聞いて、

「え?昨日のあれって演技だったの?」

と、ティアは驚きの声を上げた。


 「ティア。お前、あの人払いをされた路地に何らかの力で引きずり込まれた事に気付いていなかったのか?」

と、大介に聞かれティアは、「うっ。」と言葉に詰まる。


 普段のティアならその魔力に気付いていただろうが、何せ好いた人との初デートの真っ最中で浮かれまくっていたのである。

 気付けという方が無理な話だろう。


 「大介さまだけでしたら引き込むことは出来なかったでしょうが、ティアさんを上手く利用させて頂きました。」

と、メルティスが笑顔で言うとティアは嫌な顔をした。


 「それと、全てが全て演技だったわけではありません。」

と言ってメルティスは、ハァと息を吐き、

「あなた方を襲った者達は我が近衛騎士団の者達です。私の用心棒として大介さまを起用するに際し、どうしても大介さまのお力を確かめたいということだったのです。が、本当に大介さまを殺しても構わないという許可を私から取っていました。」

と言うと、ティアの顔が険しくなる。

 「ちょっと待ってよ!貴女、大介さんの命を何だと思っているの!」

と、激昂するティアに対して、

「ティア、ちょっと待って。」

と、大介が制止をかける。


 「メルティス、今、我が近衛騎士団と言ったか?」

と、大介が聞くと、「はい。」とメルティスは応える。

 「聞き覚えのある名前だと思っていたが、もしかして、メルティスお前は・・・」

と言う、大介の言葉を継ぎメルティスは威厳を持って言葉を発する。

 「はい。大介さまのお察しの通り。私はこのアルテミス王国の第一王女、メルティス・ダークス・アルテミスです。」

と言って、メルティスは優雅にお辞儀をした。

 「お姫様!?」

と、再びティアは驚くと同時に、

「だったら、わざわざ大介さんを用心棒として雇わなくても、城で近衛騎士団に守ってもらった方が安全なんじゃありませんか?」

と、疑問を口にする。と同時に、

「あ、もしかしてメルティス様の命を狙っているのが身内とか・・・」

と、分かったとばかりにポンと手を叩きティアが言うと、

「我が王族にその様な愚か者は居りません!!」

と、メルティスは声を荒げる。

 「それでは何故、大介さんを?」

と、ティアが問うと、メルティスはハァと一つ息を吐き、

「我が国が今、順戦時下にあることは知っていますよね。」

と言うと、ティアは首肯することで応える。

 それを確認すると、メルティスは重たい口を開く。


 「実を言いますと、もう戦いは始まっているのです。」

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