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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
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 アルテミス王国の王都レトの都市壁には出場門と入場門が、東西南北に設置されている。


 因みに、大介達が王都レトに入ったのは大森林に接している北壁にある北門で、東西南北の内で最も小さい門である。


 その東西南北の四ヶ所の出入場門前の大広場からこの王都レトの中心、王城レト城の第一城壁周辺に広がる住宅街に伸びる大通り沿いは宿屋街となっている。

 その宿屋街の奥に都市壁側から武具屋街、職人街、飲食店街、雑貨街、食料品街が住宅街に向かって順に並んでいた。


 因みに、四つの大通りは住宅街に突き当たると無くなり、第一城壁に辿り着くには住宅街の入り組んだ細い道を辿っていくしかないようになっている。



 大介とティアは、北門と西門の中間辺りにあるその武具屋街に来ていた。


 武具屋街はティアの言った通り縁日のように人でごった返していた。

 ただ、縁日と違い飲食関係の出店でみせの代わりに武具関係の出店が通りに並び、子供の代わりに武骨な者共が行き交っている。

 そして、そこかしこから聞こえてくる売り子の客を誘う声や客の値切る声、荒くれ者達の怒鳴りあう声などの喧騒が武具屋街を満たしていた。


 勿論、各武具屋の中も人で溢れ返っている。


 二人はそんな武具屋街と職人街のちょうど中間辺りにあるグラッツィオ武具店という武具屋の前まで来ていた。


 「しかし、すごい人だな、これが皆傭兵なのか?」

 「いいえ、違うと思うわ。少なくともここにいる人達の三分の一はこの国の兵士ね。国軍の正規兵なら国から装備一式貸与されるけど、予備役とかだと装備を自分で買い揃えないといけないから。」

 「へぇ、そうなのか。それは大変だな。」


 などと話ながらティアはその店に大介の手を引いて入っていく。


 「大介さんは、どういった武器を使うんですか?魔法や魔法道具は使えなかったんですよね。」


 この王都レトに着くまでの間、大介はダラスから子供にでも使えるという魔法の基礎の基礎を教えてもらったり、簡単な魔法道具の使い方を教えてもらったりした。が、魔法道具や魔法は一切使えなかった。


 「ああ、使えないな・・・」

と、大介は少し残念そうな顔をした。が、

「まぁ、それは仕方ないとして・・・・今欲しいのは小太刀二振りと棒手裏剣、あと有れば指弾用の鉄球、かな。」

と、気を取り直してここに買いに来た目当ての物を口にする。

 「小太刀?棒手裏剣?指弾?」

と、大介が言った全ての獲物の名前の最後にティアはクエスチョンマークを付けた。

 「ああ悪い。小太刀は刃渡り六十センチぐらいの少し反りの入った片刃刀、棒手裏剣は十六センチぐらいの、まあ釘みたいな物と言えば分かるのかな?あと指弾用の鉄球は一センチぐらいの鉄の玉だな。」

 「う~ん・・・あるかなー。」

と、大介とティアが店内の商品棚の上に置いてある、剣や手甲等の武器や防具を手に取ったりして話していると、「きゃ!?」と言って、突然ティアが飛び跳ねた。


 「よ!ティア。久しぶりではないか。ジルバ達は元気にしとるか?」


 その直後、ティアの後ろから声がした。

 大介がそちらに目を向けると、白髪の小柄な老人が悪餓鬼のような笑みを此方に向けていた。

 ティアはその老人をスカイブルーの瞳で睨み付ける。


 「グラッツィオ爺さん!ここに来る度、私のお尻を触るの止めてくれない!」

と、ティアが怒るも、

「おやぁ?毎回、「糞爺ィ!何しやがる!」と、ワシの股間を蹴り上げてくるのに、今日はいやに大人しいのー。」

と、ティアにグラッツィオ爺さんと呼ばれな老人はニヤつかせた目をティアに向ける。

 対して、

「そ、そんなこと・・・」

と、ティアは大介の方をチラチラ気にしながら顔を真っ赤にし俯き言い淀む。

 「ええのーええのー。やっぱり好いた男には少しでもお淑やかに見られたいわのー。その初々しさがたまらんのー。」

と、グラッツィオはカカカと一頻り笑い、大介に緋色の瞳の目を向ける。


 「そこの渋い色男のお兄さん?でいいのかの?三十後半に見えるが、ま、ワシから見ればまだまだ若僧だな。さっき言っていた物だが、片刃刀以外なら素材にこだわらなければ一応有るにはあるぞ。何せ傭兵の中には変わった得物を得意とする者もおるからの。」

と、グラッツィオが言うと、

「本当!」

と、大介よりも早くティアが嬉しそうに反応した。

 「カカカ。本当にティアはこの男が好きなのだのー。」

と、グラッツィオはティアのその反応を見て嬉しそうに目を細め笑いながら言う。

 それに対し、またティアは頬を紅くして俯いた。


 「対してその男は、随分とそっち方面は鈍いようだが・・・ティア、頑張るんじゃぞ。」

と、グラッツィオが言うとティアはコクりと頷いた。

 それを見てグラッツィオはカカカと満足そうに笑う。

 対して、

「俺とティアはそんな関係じゃない。余りティアをからかわないでやってくれ。」

と、大介は真顔で言う。

 「ハァ・・・・お主、本っ当に鈍いの。ティア、本当にこんなのでいいのか?」

と、ため息混じりにグラッツィオは言うが、ティアは少し寂しげに微笑むだけだった。


 「まぁ、よいわ・・・・そういえば自己紹介がまだだったの。ワシはこのグラッツィオ武具店の店主で武具職人のグラッツィオだ。ま、宜しくの。」

と、グラッツィオは大介に手を差し出す。

 「ああ、俺は羽生大介だ。大介と呼んでくれればいい。」

と言って、大介はグラッツィオの手を握った。

 その時、グラッツィオの片眉がピクリと動き、「お主・・・」と何か言いかけてチラリとティアを見る。

 ティアは未だ大介の手をギュッと握り締め、大介は優しくティアの手を握っている。


 「・・・ふむ。まぁ、いいか。」


 それを見て、グラッツィオは言いかけた言葉を飲み込みそう呟いた。


 「ん?何だ?」

と、大介が聞き返すと、

「いや、お主ほどの者だとどんな武器でも使いこなすだろうが、うちで作ったもの以外では直ぐにダメになってしまうだろう。」

と、グラッツィオは自信を持って言う。

 「ほぉ。手を握っただけでそんなことが分かるのか?」

と、大介が感心して聞き返すと、

「いや、手を握っただけで無く、体全体の筋肉の付き方や動き、体捌きや目線の動きを見ればその人物の強さや得意な武器など色々と分かるぞ。伊達に六十年以上も武具職人や武具店の店主をやってはおらん。」

と、グラッツィオは胸を張る。

 「・・・で、あんたの所で作った武器なら俺の使用にも耐えられると?」

 「勿論じゃ!・・・・・ここだけの話じゃが。我がグラッツィオ武具店は二千五百年以上の歴史を持つ。その創業者の初代グラッツィオは、アルテミス王家の王女がその当時天才武具職人と呼ばれていた男に降嫁され、その二人の間に生まれた子だと言われておる。故に我がグラッツィオの武具作りには王家門外不出の異邦人の技術が一子相伝として受け継がれておる。故にお主の使用に耐えうる武具を作れるのは我がグラッツィオをいて他にないということじゃ。」

と、当代グラッツィオはニッと笑って見せ、今度は大介が片眉をピクリと動かす。

 「ほぉ。その物の言いよう。俺の手を握って分かったのは俺の正体か?」

と言って、大介は警戒するような視線をグラッツィオに向ける。

 対して、

「カカカ、薄れたりとはいえ我が一族もの者達の血を受け継いでおる。その純血の者に触れればその血に惹かれるは道理・・・」

と、大介の視線を意に介せず、さも当たり前のようにグラッツィオは答え、

「・・・でだ、お主が言っておった二振りの片刃刀なのだがな、実は明日には完成する。次代のグラッツィオが技術伝承の仕上げとして作刀した二刀一対の片刃刀を御雷ミカヅチ神社に奉納するのが慣わしになっておる。それをワシの息子が一月前から作刀しておるのだが・・・・此方の条件を飲んでくれればそれを金貨一枚で譲ってもいい。」

と提案する。


 「御雷神社・・・」

と、大介は聞きなれた言葉に呟く。

 「何じゃ?お主、御雷神社を知っておるのか?」

 「いや・・・俺の居た世界にも同じ名の神社があってな・・・」

 「ほぉ・・・・そんな偶然もあるのだの・・・」

 「・・・・偶然なのか?その御雷神社には何が祭られているんだ?」

 「ふむ・・・御雷神社には神代の頃この世界を救ったといわれている御雷様が祀られていると謂われておるが・・・・この国の御雷神社は分社なのだが本宮には御神体として御雷様の愛刀と謂われている二刀一対の御神刀、鳳凰が祀られておるという・・・まぁ、ワシの知っておることはこの程度だな。」


 ・・・御雷様・・・


 大介は御雷神社や祭神について幾つか引っ掛かる事があったがグラッツィオはこれ以上の事は知らない様子だったので、


・・・今度、御雷神社に行ってみるか・・・


と、この話題はここで切り上げることにした。


 「ところで、小太刀二刀で金貨一枚というのは安いのか?」と話題を戻し、大介はティアに確認する。

 「そうですね・・・・アルテミス王家の門外不出の異邦人の技術で作られた武具は、今までに市場に出回った事は一度も無いと言われていますが、もし何らかの理由で市場に出たとしても値は付けられないだろうと言われています。」

 「なるほど、それを金貨一枚か・・・・それはまた随分と破格だな。グラッツィオが嘘をついている、ということは・・・・」

 「頑固な職人気質の人物です。恐らく嘘はついていないでしょう・・・・ただ、こんな人の多い所で一般人に話していいことではありません。」

と、ティアが言うと、

「ティア、周りをよく見てみろ。昼時で皆食事をしに飲食店街に行ったか宿屋に戻って誰ももうりゃせんわ。それに大介は一般人とは言えなかろう。その事はティアも知っているのだろ。それにティアとは付き合いが長いからの、他で言い回ったりはせんじゃろ?だから話したのだ。」

と、グラッツィオが言うとティアは「あれ?」というような顔で周りを見回し、ハァと息を吐いて大介が口を開く。

 「で、その条件とは?」

 「明日、ワシの息子にその片刃刀を持って行かせる。その息子から条件は聞いてくれ・・・・宿はジルバ達が常宿にしている[陸の孤島]でいいのかの?」

 「ああ、俺の名前を言えば部屋を教えてくれるように宿の主に言っておこう。」

 「そうしておいて貰うと助かる。あと、他の物はサービスとして付けておこう。」

 「いいのか?」

 「うむ、ワシはお前さんが気に入ったのでの。」

 「・・・それでは、遠慮無く頂いておこう。」

と、商談が纏まった所で、ふとティアがグラッツィオに尋ねる。

 「王家門外不出の技術なんか持っていたら王家の監視が厳しくて余り自由がきかないんじゃない?」

 「そのとうりじゃ。その技術の伝承を受けた者は王家の許可無く王都を出る事を許されていなかったり、その技術で作った武具をアルテミス王家と異邦人以外に売ってはならないとか色々と束縛されておるの。」

と、グラッツィオは気もなく事も無げに言い、

「ただ、ワシはこの先祖伝来の技術に誇りを持っているでの。その程度の不利益大した事では無いわ!」

と、胸を張ってカカカと快活に笑った。


 「因みに、店に置いてある武具は一般的な技術で作ったものじゃ。が、ティアも知っての通り、我がグラッツィオ武具店の武具は天下一の品質を保持しておるとワシは自負しておる!」

と、グラッツィオは再び胸を張る。


 「それにしても、王家は当然として異邦人以外にはって・・・・」

と、ティアがグラッツィオの一子相伝の技術で作られた武具の販売条件を聞いて怪訝顔になる。

 「・・・・ま、この販売条件を決めた当時はまだ異邦人がおったからの。それがそのまま残っておったというだけの事じゃよ。」

と、苦笑してグラッツィオは答え、

「ま、そのお陰で大介の使用に耐えうる武具を大介に渡せるのだから結果オーライじゃろ。」

と、言ってカカカと愉快そうに笑った。



 「あの、大介さん・・・」


 グラッツィオとの交渉を終えグラッツィオ武具店を出て宿屋[陸の孤島]に戻ろうと歩き始めたときティアが大介の手を握ったまま立ち止まり、もじもじしながら大介に声を掛けた。


 「あの!・・・もし、大介さんがよければ、その、美味しい料理を食べさせてくれる料理店を知っているので、あの、その、一緒に行きませんか?」

と、ティアは顔を真っ赤にし俯いて、チラチラと不安げに大介を見つつ提案した。


 それに対して、

「・・・ああ、他に用事もないし別に構わんが。」

と、大介が答えると、パッと嬉しげな明るい笑顔を見せティアは大介の手を引いて飲食店街に向かって元気よく歩き出した。




 「・・・遅いわね。」


 高級料理店[天女の舌]で旅人姿をした二人の若い女が目深にフードを被りイライラとしていた。


 「これじゃあ、食後の観劇に間に合わなくなるわよ。」


 この見るからに怪しい女二人組、言わずと知れたマリアとサハラである。

 二人は正午前から[天女の舌]に入り、人目の付きにくい奥のテーブル席に陣取っていた。

 二人がイライラしている原因は、予定の時刻になっても姿をあらわさない男女二人組にあった。

 もちろん、その男女二人組というのは大介とティアの事だ。


 マリアとサハラ、そしてティアの三人で立てた予定では・・・・


 大介の買い物は午前中に済ませ正午にはこの料理店[天女の舌]で食事をして二時間ほど楽しい会話をする。

 その後、三時から劇場に行き三時半から始まる歌劇[王子と異邦人の姫]を二時間鑑賞し六時からダイニング[神々の味覚]で夕食をとる。

 そのまま二人っきりで朝までしっぽりと幸せなひとときを過ごす。


 ・・・・という予定だったのだが。


 「もう、正午を一時間も過ぎちゃってるじゃない!どうするのよ!」

 「私に言われても知らないわよ!」

と、マリアとサハラが言い合っていると、カランとお店の扉に取り付けられた鈴が乾いた音をたて、「いらっしゃいませ。」と店員が店内に客を迎え入れた。


 「やっと来た。」と、マリアとサハラはその二人の客を見て安堵の声を漏らした。


 店内は食事時を過ぎてお客もけだす時間帯となっていたためティアと大介は待たされること無く席へと案内された。

 マリアとサハラの座る席のマリアの後ろの席へと。


 「大介さん。ここの肉料理はボリュームがあって美味しいんですよ。」

 「そうなのか?」

 「はい。大介さん昨日殆ど食事を摂られていませんでしたよね。しっかりと食事は摂らないと体によくないですよ。」


 マリア達は大介達がすぐ隣の席に着いたのに内心ドキドキしていたが、ティアの楽しそうな声を聞いて緊張した頬が少し緩む。


 「ティアさん、何だか楽しそうね。」

 「うん。今とても幸せそうな顔してる。」

と、マリアとサハラは囁きあい親友の幸せそうな姿を見て互いに微笑みあった。




 「うーん。面白かったわね。」

 「うん。私ラストで大泣きしちゃったわ。」

 「さて、二人を見失わないようにしなくちゃ。」


 歌劇[王子と異邦人の姫]の観劇を終えたマリア達は、大介達に気付かれないよう距離をとって大介達の後を追い劇場を出た。

 ティアは大介と手を繋ぎ楽しそうに大介に話し掛けていた。

 対して大介は気の無い素振そぶりをしているが満更でもないような雰囲気を出している。


 そんな二人の姿を見て、「ティアさん頑張れ!」と、応援せずにはいられないマリアとサハラだった。


 ドン!

 「キャッ!」「あっ!と失礼。」


 マリア達が大介達に気付かれないように物陰に隠れつつ大介達の後を追っていると、横合いから出てきた男性とマリアがぶつかってしまい尻餅をつく。


 「大丈夫ですか?お嬢さん、お怪我は?」と、その男性はマリアが立ち上がるのに手を貸そうと手を差し出し心配そうに声を掛ける。

 その手を掴みつつマリアはその男性の顔を見て、一瞬動きを止めたかと思うとボッと顔を紅くした。

 その男性はアルテミス王国人特有の白髪緋眼の男性で、日が落ちかけた薄暗がりの中でも分かるほどの美青年だったのだ。


 「あ、あのすみませんでした。ありがとう御座います。」

と、マリアは立ち上がり、もじもじしながらお礼を言うと、

「お詫びにお食事でも如何ですか?お二人とも。」

と言われ、ハッとマリアがサハラの方を振り向くとサハラも青年に見とれていた。

 マリアとサハラは互いに顔を見合わせた後、「「はい!喜んで!」」と、異口同音で応えていた。

 友人の幸せを見届けるよりも、やはり自分が幸せを享受する事が優先される二人であった。




 「大介さん。劇はどうでしたか?」

 「ん?ああ、面白かったな。あの王子と異邦人の姫の馴れ初めの辺りとか姫を助けに行ったはずの王子が逆に姫に助けられたりするところとかな。」

 「あの何処か抜けているような王子が、全てに秀でている姫に何とか好かれようと頑張ってるんだけど空回りばかりしているところが滑稽で面白かったですよね。」

 「ああ、しかし、窮地に陥った姫を命がけで助けに行った王子の男らしさと、王子の自分への思いの強さを感じ取った姫が王子を受け入れるシーンは感動的だったな。」

 「大介さんもそう思いました?私、あのシーンで大泣きしちゃいましたよ。」

と、大介とティアが先ほどまで見ていた歌劇の感想を楽しく語り合っていると、ふと大介は違和感を覚えて足を止める。


 「大介さん?」と、ティアは手を繋いでいる大介が突然立ち止まった事を訝しげに思い大介に声を掛ける。


 「ティア、本当にこの道でいいのか?」

と、大介に問われティアは周りを見回す。

 ティア達は気づかぬ間に人気の少ない路地へと入ってしまっていたのだ。


 「あれ?」と、ティアが声を出したとき、ドン!とティアの体に何かがぶつかり、「キャッ!」と、小さな子供の声が聞こえた。


 「大丈夫?お嬢ちゃん。」

と、ティアはその少女を慌てて抱き起こす。

 対してその少女は、

「た、助けてください!」

と、ティアと大介に必死な形相で懇願した。と、そこに、「姉さん。そのガキをこっちに渡しな!」と、ボロのマントフードに身を包んでフードを目深に被った荒くれ者らしき男五人が姿を現した。

 それを見た少女は、「ヒッ!」と言って、ティアの後ろに身を隠す。


 「早くガキを渡せ!殺すぞ!」

と、荒くれ者達のリーダーと思われる男が叫ぶと男達はロングソードを構える。


 「ティア、下がってろ。ここで攻撃魔法なんか使ったら不味い事になるんだろ。」

と言って、大介がティア達を庇うように前に出る。


 「何だジジイ!やろうってのか!」

 「ああ・・・・・・相手をしてやってもいいが、痛い目にあいたくなければやめておけ。」

 「・・・・なめやがって!」

と、一番前にいた男が大介の余裕の態度に激昂したのかロングソードを振りかぶって大介に襲いかかった。

 対して大介は微動だにしなかった。

 その大介の左肩から袈裟懸けにロングソードが降り下ろされる。

 ティアの後ろに身を隠した少女は大介が殺られたと思い、「ヒッ!」と言ってギュッと目を瞑った。

 次の瞬間、ドガ!「ギャッ!」という悲鳴が聞こえ、少女は恐る恐る目を開け、「エッ!?」と驚きの声を上げた。

 殺られたと思った大介は同じ場所で平然と立っており、襲いかかった筈の男が地に倒れ伏して体をピクピクと痙攣させていたのだ。


 「「おのれ!」」

と、今度は二人組で襲い掛かってきた。が、やはり大介は微動だにせずにいるのに、襲い掛かってきた二人組の男達は大介に剣が触れると思った次の瞬間には地面に叩き伏せられていた。

 ただ、男達が地面に叩き伏せられた瞬間、大介の着る服が強風に煽られるように激しくはためいていた。


 「まだ、やるかね?」

と、大介が余裕の笑みで尋ねると、その 早業に言葉を失っていた残りの男二人は、チッ!「引き上げるぞ!」と言って、倒れている仲間を担いで去っていった。


 「危ないところ助けていただき、ありがとう御座いました。このお礼は後ほど必ずさせて頂きます。」

と、男達を見送った後、少女は感謝の言葉を大介とティアに言いペコリと頭を下げた。

 「お嬢ちゃん。家は何処?送っていくわよ。」

と、ティアが言うと、

「いえ、大丈夫です。すぐそこに連れが居ますので。」

と言って、その少女はいい笑顔を残して駆けて行ってしまった。


 ・・・・・。


 「いったい、何だったのかしら?」

 「さぁな。」

 「まぁ、いいわ。それよりも、遅くなってしまったわ。早く行きましょ!」

と言って、ティアは大介の手を握ると駆け出した。


 大介との甘い夜を夢見て。

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