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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
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肆拾伍

少し修正しました。 地下聖堂 → 地下大聖堂

 「ん、うん~ん、ん?」・・・こ、ここは何処?・・・私は、大介さんとティータニアの王城に居た筈なんだけど・・・


 目を覚ますとティアは暗闇の中にいた。


 ・・・あ、あれ?体が動かない?・・・何かに拘束されてる?・・・


 ティアは拘束から脱け出そうともがくが、体はピクリとも動かない。


 ・・・ど、どういうこと?・・・何時の間にか私は捕まったの?・・・大介さんやアーガストは?・・・


 ティアは自分がどういう状況で捕まり、そして、今どんな状態でどんな状況に置かれているのか把握出来ないでいた。

 そんな暗闇の中では下手に声を出す事も出来ない。


 声を出せない理由は他にもあった。


 それは、近くに嫌な感じがするものがあり、それが何なのか分からないが、それに自分の存在を気付かれたくなかったのだ。

 その為、ティアは現状何か状況の分かる変化が起こることを待つしかなかった。


 その時、小さいが二つの仄かな光が灯る。


 鼻の先に何があるかも分からない程の暗闇の中、身動きがとれない上に感覚的に距離を測れるものが何も無い。

 その為、その二つの灯火ともしびが近くに在るのか遠くに在るのかも分からなかった。というか、全く遠近感が掴めないのだ。


 だが、暫くすると、その二つの灯火を起点として蝋燭の様な仄かな光がポツリポツリと灯り出す。

 それは、道を作るように二列でポツポツと灯りながら、ティアに向かってゆっくりと近づいて来る。

 そして、その光がティアの近くまで来てティアの足元を照らすと、

「目を覚まされましたか?お久しぶりですね、ティアスティア・メトス・アルムニル様。」

と、何処となく聞き覚えのある男の声が懐かしい名でティアを呼んだ。


 ・・・私をティアスティアと呼ぶ者はもういないはず・・・その名で呼ぶのはいったい誰だ?・・・


 その声の聞こえた所にティアは視線を向け目を凝らす。


 そうして暫くすると、蝋燭の様な僅かな光でも光源があるためか、または目がその暗闇に慣れてきたためか、その声を発した男の姿がボンヤリと見えてくる。

 その男はガーディン教の大教区長の神官服をその身に纏っているようだった。

 その男の隣には神官長の神官服を着た女神官が立っているのが見てとれる。


 その二人は蝋燭の様な仄かな光が作り出した道を、カツーンカツーンと石畳の床を叩くように足を踏み鳴らし、ゆっくりと歩いて来る。


 ティアにもその表情が分かる所までその者達が近づいた時、二人のうち、昔の面影を残した男の顔を見て、ティアは憎しみや怒りなどがい交ぜになった感情に支配され叫んでいた。


 「ガラント大神官!!!」


 「そういえば、今は貴女はティア・メトスと名乗られていましたか。」


 ガラント大教区長はティアの叫びを聞き流し楽しげに言う。

 そして、柔和な笑みを浮かべて優しくティアの頬を手で触れた。が、そんなガラント大教区長の顔にティアは唾を吐き掛ける。


 「ティアスティア様、いえ、ティアさんとお呼びした方がいいかな?・・・人は変われば変わるものですね。今は無きの大国ヴァルスニル皇国の大貴族アルムニル公爵の御息女として恥ずかしくないマナーを身に付けておられた貴女が、この七年で随分と粗野になられたものです。」

と、ガラント大教区長は笑みを浮かべたまま胸元からハンカチを取りだしティアに吐きかけられた唾を拭いとる。


 ・・・何か嫌な感じがしたのはこいつか?・・・いや、違う・・・もっと怖気立つものがいる?・・・


と、ティアは思いながら、

「ああ、貴方のお陰でいろいろと苦労したからね。」

と、ティアはガラント大教区長を睨み付け、

「それよりもここは何処?私をどうする気?あと、サリサに何をしたのよ。」

と、怒りを抑えた声音でガラント大教区長に問い返す。


 ふふふ、「ここは大神殿の地下大聖堂ですよ。サリサさんには少しの間手駒となっていただきました。貴女の事は、・・・まあ、そんなに焦らずとも、時間は有ります。ゆっくりと教えて差し上げますよ。それとも、何かに怯えているのですか?」

 「そんなこと・・・。」

 「そんな事は無い、と?まあ、いいでしょう。そうですね、少し昔話をいたしましょうか。」


 ガラント大教区長は楽しげに言いながらその手に持つ神杖【神の恵み】を弄びつつ思い出に更けるようにして口を開く。


 「ティアさん、貴女は私が貴女の国ヴァルスニル皇国に大神官として赴任した理由をご存じですか?」


 その問いかけにティアからの返答はない。

 それに構わずガラント大教区長は話を続ける。


 「それは、神聖ガーディン教王国の教王様の命により、この世界の主神に匹敵する、時と場合によっては主神をも凌駕する力を持った神を宿す事が出来る者を見つける為だったのですよ。そんな神をその身に宿すなど、純粋なこの世界の人間には不可能な事です。流石に私でもこの世界の主神に匹敵する神をこの身に宿す事など無理です。それが出来るのは神界の神の力を使える異邦人の巫女か、又は、その因子を持ちその力を使える者だけです。まあ、純粋な異邦人でなければ、その因子によりその力を使える者だとしても、その神をその身に宿せる者は十人に一人いればいい方だと思いますが・・・。その神は、我らガーディン教の主神をこの世界に繋ぎ止める為に必要なこの世界の主神となる者を産ませるために必要なのです。」


 ここまで話すとガラント大教区長は休むように一度話を切り、いつの間にか隣の女性が準備していた水を受け取ると一口口に含み、そして飲み下す。

 それから、楽しげな表情でティアに目を向け話の続きを話し始めた。


 「私は運が良かった。だってそうでしょう赴任して直ぐに貴女を見つけたのですから。私は目的の人物を探し出すのに数年は掛かる覚悟をしていたのですよ。それが赴任して何ヵ月も経たない内に目的の人物を見つけたのですよ。小躍りしてはしゃぎたい気分でしたよ。」


 ガラント大教区長は口も軽やかに楽しそうに話していた。が、ここまで話すと、表情が一変して険しくなる。


 「ですが、物事はそうそう思い道理にいかないものです。私にとって不運だったのは貴女のお母様がリリアース伯爵家の出の者で世界最強の十人の一人だったことです。彼女に私の企てが見破られ貴女を連れて逃走された時には焦りましたよ。しかも、追っ手に出した者達は悉く倒されるし、一番痛かったのは私の配下のクロノミヤの者達が彼女の側付きのメイド達に使い物にならない程に叩き潰された事ですね。お陰で私自身が出張らなければならなくなり、貴女のお母様に傷だらけの血塗れにされるわ、挙げ句の果てには完全に取り逃がすわで散々でしたよ。」


 ここまで話したガラント大教区長はティアの様子を伺うようにティアに目を向ける。と、ティアは何かに耐えるように俯き小刻みに震えているように見えた。

 ガラント大教区長はそんなティアの姿を見て長年喉元に詰まり溜まっていたものを飲み下した気分になる。

 そして再び口が軽くなったガラント大教区長は楽しげに話を続ける。


 「だが、まあ私の提案を蹴ったあのバカな女も私の与えた傷がもとで直ぐに押っ死んだようですし、それはよしとしておきましょう。なんにしろ私は貴女に拘ずらってばかりいるわけにはいかなかったのですよ。何故なら、私は教王様から目的の人物を探し出すだけでなく、その人物が見つかった場合は、その人物を捕らえられたか捕らえられなかったかに拘わらず、将来我が神聖ガーディン教王国の障害となる可能性があるヴァルスニル皇国を潰すことも命じられていたのですから。」


 ここまで話すと、ガラント大教区長は何か面白いことを思い出したかのようにクックックッ……と喉を鳴らして笑い、そして、ティアを哀れむような蔑むような嫌な笑いを浮かべ言った。


 「このウラヌス王国と違いヴァルスニル皇国を潰すのは思いの外簡単でしたよ。皇帝と我欲の強い重臣や貴族達の纏め役だったアルムニル公爵を消したら、直ぐに皇帝の後継者争いを始めて国はあっという間瓦解しました。見ていて実に愚かで可笑しかったですね。リリアース伯爵家の妨害も覚悟していたのですが、彼等が中央から距離を取っていたお陰で楽に事を運ぶことが出来ました。」


 当時のことを思い出したのかガラント大教区長は一頻り声をあげて笑い、笑い終わると、ふと思い出したようにティアに声を掛けた。


 「そうそうティアさん、貴女のお父様の最後をお聞きになりたいですか?なにせ貴女のお父様を看取ったのは私ですから。いえ、違いましたね、私が殺したんでした。」アハハハハハ、「愉快でしたよ。生きながら燃やされているというのに最後まで貴女と奥方の心配をして息絶えるまでお二方の名を呼んでおられました。テレサーナ~、ティアスティア~、とね。」

と、ガラント大教区長は可笑しそうに話し、

「ただ、残念だったのは貴女の弟君を逃した事ですかね。まあ、しかし、あの戦乱の中です。間違いなく殺されているか、さもなくば奴隷にでもされていることでしょう。」

と笑いを堪えるように言うと、ずっと耐えていた堪忍袋かんにんぶくろの緒が切れたのか、

「黙れ、この糞野郎が!黙らないと、その喉笛食いちぎるぞ!」

と叫び、月を象った神影石の前で十字に張り付けにされたような格好をしているティアが般若の形相で目を充血させ血涙を流しながらガラント大教区長を睨み付けていた。


 フフフフフ、「ほお、血の涙を流すほど憎いですか?いいですね。もっと憎みなさい。貴女のその負の感情は我が主神の糧となり我が主神が取り込んだ月神の依り代となるに相応しくなる。ほら、もう貴女の手足は我が主神の闇に取り込まれている。」


 そう言うガラント大教区長の声が聞こえていないのか、ティアは動かない体を無理矢理にでも動かしガラント大教区長に襲い掛かろうと足掻く。

 そして、

「うおおおお、離せ!!貴様は必ず殺す!!絶対殺す!!!死んでも殺す!!!!」

と、ティアは獣が吠えるように叫んだ。と同時に、


・・・憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎いこの世の全てが憎い!!・・・


という感情が沸き上がる。


 ・・・っえ!?何?・・・違う・・・私が憎いのはガラント大神官とガーディン教だけ・・・


と、ティアはその感情を否定しようとするが、


・・・何が違う・・・お前がこの世界に呪われた因子を持つ限り何時かは父や母、弟を殺されお前は一人になっていた・・・それは、この世界がお前を拒絶しているせいだ・・・拒絶され大切なものを奪われたのだ。ならばお前も、この世界を憎み呪い破壊しろ・・・


という怖毛立つ声がティアの頭の中に響く。


 ・・・しまった!見つかった・・・


 ティアはその声の主が目を覚ました時から感じていた嫌な感じのするものだと気付き全身に戦慄が走る。と同時に、ティアはその声に抗おうとする。だが、その声の主のどす黒い意識がティアの意識を徐々にではあるが確実に侵食していく。


 ・・・くっ・・・この感覚、覚えがある・・・七年前の夜、私を呑み込もうとした冥い闇の正体はこいつだ・・・あの時は、無垢な子供だったから分からなかったけど・・・この邪気の主は、この世界を混沌に陥れ呑み込むことしか考えていない・・・




 ティアが突然何かに抗おうとするように黙り込み体を小刻みに震わせ始めたのを見てガラント大教区長はほくそ笑む。


 「精神の侵食も始まったようだ。そろそろ、ティアさんに異邦人化していただかないとティアさんの体が持ちませんね。」


 そう言うと、隣に立つ女神官長サリサが何時の間にか手に持っていた杯に神杖【神の恵み】を翳す。と、その杯に神酒が涌き出てきて杯を満たした。

 その杯をガラント大教区長はサリサから受け取り、その杯の神酒を口に含む。

 そして、いまだ精神の侵食に抗っているティアに近づくとティアの口を強引に開きに口付けをして舌と一緒に神酒を一気に流し込む。

 ティアはその瞬間、抵抗しようとしてガラント大教区長の舌を噛み切らんばかりの力で口を閉じた。


 「っ!まだ、少し意識が残っていましたか。それでも神酒は殆んど飲ませられましたね。」


 ガラント大教区長は舌を噛み切られる前に慌てて離れティアを見る。と、ティアは朦朧としているようだが、嫌悪するような目でガラント大教区長を睨み付けていた。が、直ぐに神酒の効果が表れたようで、ドクン!とティアの体が跳ねる。と同時に、声にならぬ悲鳴がティアの口から漏れた。


 フフフ、「神の御力の前では如何なリリアースの封印といえど無いに等しいわ。」


 ティアの体は何度か跳ねるように動き口からは絶え間なく悲鳴が漏れていた。が、やがてそれが収まるとティアの体に変化が起こる。

 燃えるような真紅の髪は黒真珠のような艶やかな黒髪となり、白磁のような白い肌は艶かしい小麦色の肌となる。


 ・・・くぅ、・・・ガラント大神官に飲まされたのは七年前に飲まされた神酒の濃い物のようだったけど・・・その神酒の力でお母様の封印が解かれた・・・私の中の異邦人の力が解放されたことで、どす黒い意識が少し遠退いた・・・かといって油断は出来ない・・・異邦人の力が使えれば、この状況から脱する事も出来るかもしれないけれど・・・私の異邦人の力がどういったものかも分からなければ使い方も分からない・・・


と、ティアが考えていると、ティアの意識の中に一人の女性が現れた。


 それは、毎夜ティアの夢の中に現れティアを手招きしていた女性だった。

 その女性はティアを優しく抱き締める。

 その瞬間、ティアの全身に悪寒が走り冷や汗が全身から噴き出すのが分かる。

 

 ・・・イヤだ、私は・・・イヤ・・・止めて、私の中に入って来ないで・・・


 ティアはもがき抵抗しようとするが、その女性はティアの全てを侵すようにティアの内に浸透していく。

 ティアは抗いきれずに意識が遠退いていく。


 ・・・大丈夫、救いは来ます・・・


 ティアは完全に意識を失う瞬間、そんな囁きを聞いた気がした。

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