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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
41/49

肆拾壹

 「ダルス、そろそろ夜が明ける。」


 朝の爽やかな日差しが王都を照らし出し始める頃、王城の堀の回りに集まった民衆の中に紛れ込んでいる、ダルス達アレイアス王子派の者達は行動を開始しようとしていた。


 「他の橋のたもとにいる者達には、連絡はついているんだな。」

 「ああ、俺達が動けば他の橋にいる奴等も行動を開始する。」

 「よし、先ずは城壁の門を抉じ開けねばな。」



 城壁の東西南北にある城門の前では、近衛軍の者達が出て、集まっている民衆に解散して家に帰るように呼び掛けていた。


 「近衛軍団長、堀の回りに集まっている者達はどんなに言っても全く聞く耳を持ちません。」

 「そうだな、自分達の主張が聞き入れられるまでは帰る気は無いのだろう。」

 「カイルス陛下の退位と、ガーディン教の追放ですか・・・。そして、アレイアス王子に王位継承を、と。」

 「ああ、だが、まず今の王家がそんな要求聞き入れる訳が無い。」

と、近衛軍団長が言うと、

「だからと言って、このままというわけにもいくまい。」

と、後ろから声が掛かる。


 「これは、宰相閣下。」


 近衛軍団長が声のした背後に目を向けると、大城門の隣にある通用門から宰相のカスパーが出てくるところだった。


 近衛軍団長以下その場にいる近衛軍の兵達は宰相に姿勢を正して敬礼する。

 対して、カスパーは「ああ、楽にしてくれ。」と、片手を上げる。と、近衛軍団長は敬礼を解き、他の者達もそれに倣った。


 「先ずは、話を聞き少しでも民の心に溜まった鬱憤を和らげるようにせねばならん。」・・・しかし・・・これは手遅れかもしれんな。・・・だが何故、私は民衆がこんな行動を起こす状況になる前に気付かなんだ?・・・たしかに、アレイアス王子の反乱や、アルテミス王国とダイス王国との戦など、問題が山積していたというのもあるが・・・まるで、何かの力で他の国内問題から目をそむけさせられていたような気もするが・・・


 等と考えながら、カスパーは近衛軍団長以下三人の近衛軍の兵を連れて、南門の橋の中央に急遽きゅうきょ設けられた簡易のバリケードまで進み出る。


 「私は宰相のカスパーだ!あなた方の話は私が責任を持って聞こう!だからみな、一旦解散し、後日、代表者がみなの意見をまとめて王城に来なさい!私が誠意を持って話し合いに応ずることを、私の名誉にかけて約束しよう!」

と、カスパーは落ち着いた声ではあるが遠くまで響くような声音で力強く言う。


 その宰相の言葉を聞いた、南門の橋の袂に集まっていた者達は、少しの間、考えるようにして押し黙る。が、

「信じられるか!今まで、ガーディン教の横暴に加担していた奴が何を言っていやがる!」

と、誰かが叫びカスパーに石を投げつけた。

 その石がカスパーの右の額を掠める。


 それが、切っ掛けとなって決壊寸前だった民衆の感情が一気に爆発した。


 「そうだそうだ!その代表者も、無実の罪を着せて投獄する気だろう!」

 「私の息子を返して!!ガーディン教の神官を少し批判しただけで投獄するなんて酷すぎるわ!」

 「小神殿を建てる為だとか言って接収した俺の財産を返せ!!」

 「商品にバカ高い税金を掛けるのを止めろ!」

 「ガーディン教に楯突いたとして投獄された父さんを返して!」

 「財産を返せ!」

 「家族を返せ!」

 「ガーディン教の言いなりのカイルスはアレイアス王子に王位を譲れ!ガーディン教をこの国から追放しろ!」


 等と橋の袂に集まった者達は口々に叫びながら、手に持った石をカスパーや近衛兵達に投げ付け始める。


 「宰相閣下、お下がりください!」

と、近衛軍団長達がカスパーの前に出て円盾でガードしながら、右の額を押さえるカスパーを通用門へと誘導していく。


 「くそっ、普通の石に魔力を込められた石も混じっている。お前達も皆一度城内に入れ。」

と、近衛軍団長は近衛兵達に指示を出し、カスパーを投石から守りながら通用門を通って城内へと入る。それに付いて、近衛兵達も円盾で投石を避けながら城内へと入っていく。


 「どうして、こうなった・・・。」

と、カスパーは血の滲む右の額を手で押さえながら呆然と呟く。

 「お言葉ながら、宰相閣下。不敬を承知の上で言わせて頂きます。これは、ガーディン教大神官ガイウスを招いて以降、変わられてしまったカイルス陛下を始めとする貴方方為政者の行いの結果だと私は思いますが。」

と、近衛軍団長は冷ややかな目をカスパーに向けて言う。

 ・・・・。

「そう思うなら、なぜお前はここに留まった。アレイアス王子派の者達と同じように出て行けばよかったのではないか?」

 「そうですね、・・・この城に残っている者達は皆、同じ思いで残ったのだと思いますよ。シルベウス陛下が倒れられるまでのこの三十年間、ウラヌス王国を守り豊かにしてきたのは間違い無く貴方方だ。何が原因でガーディン教の呪縛に掛かったのかは分かりませんが、貴方方ならばきっとその呪縛から抜け出せるだろうと信じていたのですよ。」

 ・・・・・。

「何を言っている?私は最初っからガーディン教を・・・うっ。」

と言って、カスパーは辛そうに頭を押さえる。

 ・・・。

「何にしても、事此処に至ってしまっては私達も貴方方と運命を共にする覚悟でいますよ。」

と言うと、近衛軍団長は城壁の階段を上がっていく。


 「どうなっている。」

 「はい、軍団長。住民達に退く気は無いようです。」

と言う部下の言葉に、近衛軍団長は橋の袂に集まっている住民達に目を向ける。

 ・・・・。

「これはいよいよ住民達と一戦交えねばならなくなりそうだな。・・・まさか、あんな物まで準備していようとは。」


 近衛軍団長が目を向けた先には、橋の袂に集まった者達の間を移動する先を尖らせた巨大な丸太があった。

 破城槌と呼ばれる最も原始的な攻城兵器である。




 「衛兵、近衛兵で手の空いている者は南門に回れ!南門が破られそうだ!」

 「北門はまだ余力がある、何人か南門に回す!」

 「東門と迎賓館のある西門は膠着状態だ!」

 「何かあったら、中央庭園の仮設指令部にいる近衛軍団長に伝令を出せ!」


 衛兵と近衛兵達は叫ぶように指示を出し合いながら城内を慌ただしく駆け回っている。


 「大介殿、こっちだ。」


 そんな中、アーガストと大介、ティアの三人は衛兵の格好をして迎賓館から城内へと潜り込んでいた。


 「おい!お前達どこへ行く!」

と、大介達は一人の衛兵に呼び止められ、

「はっ!近衛軍団長より陛下へ現状報告に行け、と指示を受けました。」

と、兜を目深に被ったアーガストが応える。


 「三人でか?」

 「はい。陛下から各所に指示があるやもしれないから二人程連れて行け、と言われましたので。」

 ・・・。

「そうか、分かった。呼び止めて済まなかったな。」


 そう言うと、衛兵は自分の持ち場へと向かって足早に去っていった。


 「少し、肝を冷やしました。」

と、ティアはホッとしたように呟く。と、

「大丈夫だ。俺が間違いなく、お前達をカイルス陛下の元まで連れていってやる。そこには、間違いなく大神官もいるはずだ。」

と、アーガストは応え、

「ああ、よろしく頼む。」

と、大介が言うと、

「応、任せてもらおう。王の執務室は五階にある。急ぐぞ。」

というと、アーガストは先を急ぐ。


 「迎賓館でも話したが、王の執務室がある五階には他に大きな五つの部屋があり、その部屋を通ってしか王の執務室には辿り着けないようになっている。それぞれの部屋には神力で結界が張ってあり罠も仕掛けてある。しかも、その五つの部屋の扉の前と室内には神具の武器を持つ近衛騎士団が二十人、王の執務室を守るために常駐している。」


 等とアーガストが説明しているうちに大介たちは五階の第一の部屋の前までやってきていた。


 王の執務室のある五階は他の階とは雰囲気が全く違っていた。


 来賓の控え室などがある一階は、全体的に造りも装飾品も簡素だが外から来る者の心を和ませる落ち着いた雰囲気の造りとなっていた。

 謁見の間などがある二階は、一階の造りとは一変して造りも装飾品も外から来た者を威圧するような重厚感のある造りとなっている。

 二階と三階は、行政や財務、軍務や外交などに携わる執務官や事務官等の文官達の執務室や事務室等があり、仕事の邪魔になるような無駄な装飾は省かれ簡素だが落ち着いた造りとなっていた。


 そして、王の執務室のある五階は階段を上がると広大な空間が開けていた。

 五階には大小会議室もあると言うことだったが、五階の殆どは王の執務室と、そこに続く五つの部屋で占められているという事だった。


 その広大な空間は、荘厳かつ煌びやかで人を威圧するような重厚感のある造りとなっていた。


 その五階まで階段を駆け上がってきた大介達の遥か先に、第一の部屋の巨大な扉が見えていた。


 ・・・無駄に広い空間だなあ・・・まあ、訪れた者達に威厳と力を見せるつける演出の一つなのかもしれんが・・・


と、大介が思っていると、

「貴様達!何用だ!」

と、扉の前に居る二人の騎士の内、大介達に最初に気が付いた騎士が身構えて声を張り上げた。

 対して、

「はっ!近衛軍団長の命により、現在の状況をカイルス陛下に上奏しに参りました。」

と、アーガストは近衛騎士に応える。

 近衛騎士は構えを解くと、

「よし、申してみよ!」

と、アーガストに上奏の内容を話すように命じる。


 ・・・まあ、当然の反応だな。・・・さて、どうしたものか・・・


と、アーガストが悩んでいると、それに気が付いた大介が小声でアーガストに話し掛ける。


 「おい、この先の事、考えていなかったのか?」


 「いや、・・・まあ・・・。」

と、アーガストは目を泳がせながら応えた。

 「よくそれで、任せておけと言えたなあ・・・」

と、大介は呆れたように言いながら、

「・・・まあ、ここまで来れれば大丈夫か。」

と、杖を床に突き、

「インドーラ。」

と、名を呼ぶ。と、間髪入れずに姿を現した執事姿の猫系美女が、

「お呼びにより、罷り越しました。ご主人様。」

と、大介に恭しく腰を折る。


 ・・・。

「インドーラ。ここの守りを破り、標的の居る奥の部屋まで、時をかけずに行く事は出来るか?」

との大介からの問い掛けに、インドーラは数瞬考え、

「ご主人様の持つ杖の力の開放をご許可頂ければ。そうすれば、異邦人の里の力を広く展開させられ妹達も呼べますので、容易く突破出来るかと。」

と応える。

 その時、

「貴様達!何をしている!」

と、扉を守る近衛騎士団の二人の騎士が叫び、再び身構える。と同時に、大介がインドーラに、「許可する。」と言う。と、インドーラは、「では、失礼させて頂きます。」と言い、大介の持つ杖に触れる。瞬間、杖から強力な力場が解放され王城を包み込む。と、インドーラは騎士二人が守る扉に向き直り、二度ほど爪先で床を叩く。すると、インドーラの前に十の魔法陣が現れ、「妹達よ、ご主人様のお召しです。ご主人様の前に立ちはだかる者は全て捩じ伏せなさい。」

と言うと、その魔法陣から十人の猫系美女メイドが飛び出し、その内の一人が扉を守る騎士二人を、あっという間も無く叩き伏せ魔法の縄で縛り上げる。そして、他の猫系美女メイドが扉を吹き飛ばしていた。


 「二人メイドを置いていくから、アーガストとティアは、その二人と協力して下から上がって来る者達の足止めをしていてくれ。」

と言うと、大介はインドーラとメイド達と共に王の執務室に向かって駆け出していた。


 「ティアさん、あんた大介殿に付いて行かなくてよかったのかい?俺はてっきり付いて行くものだと思っていたが。」


 呆然と今までの出来事を見ていたアーガストだったが、ハッと我に返るとアーガストはティアに声を掛けていた。が、返事は無かった。

 返事が無かった事に疑問に思ったアーガストはティアに目を向ける。と、心ここに在らずといった感じでボーっとしているティアに気が付き、アーガストは何か嫌なものを感じてティアの肩を掴み揺する。そして、

「ティアさん!・・・おい、ティア!大丈夫か!」

と声を掛ける。と、ハッとしたようにティアは目をパチクリさせる。

 「あ?・・・アーガスト、さん。ああ、大丈夫、大丈夫です。ここのところ寝不足で、少しボーとしてただけです。」

 「そうか?ならばいいが、しっかりしてくれよ。あんたに何かあったら大介殿に面目が立たないからな。ここでの破壊音は下に響く。直ぐにでも衛兵や近衛軍の者達が駆け付けて来るぞ。」

 「分かっています。大介さんに置いてかれたのは残念ですが、私は大介さんの為にここで私の出来ることをやるだけです。」


 そう言うと、ティアは布を巻いて武器に見せかけていた魔法の杖を取り出し身構える。



 猫系美女メイド達は神力による結界や罠をものともせず、次々と破壊し突破していく。

 メイド達は近衛騎士団の神具の攻撃もものともせず騎士達を次々と叩き伏せ無力化していった。

 インドーラ曰く、「私達は、ご主人様の加護、いえ闘神 御雷様の加護を受けています。直に神からの攻撃でも受けない限りは、ほとんどダメージを受けないでしょう。この世界の神具での攻撃など、ものともいたしません。」とのことだった。


 「貴様等!ここは、この近衛騎士団団長のタイタニオン・アルスト・イングリードが通さん!」

と、王の執務室の扉の前に各種神印を刻まれたオリハンコン製の加護の鎧を着込み、神力を纏った巨大なバトルアックスを担いだ大男が立ちはだかった。

 「ここは私にお任せを、ご主人様。」

と言って、インドーラが前に出る。

 「ふん!ここまで俺の部下を退けてやって来たのだ。貴様のような優男でも手加減はせんぞ!」

と言う、タイタニオンの言葉を聞いてインドーラの片眉が不機嫌そうにつり上がる。


 ・・・あ~あ、今の言葉、完全にインドーラの癇に障ったようだ・・・


 そんなインドーラにタイタニオンは、愚かにも神力を纏った巨大なバトルアックスを真正面から打ち下ろした。

 近衛騎士団団長というだけの事はあり、タイミング、スピード、角度共に絶妙と言っていいほどの降り下ろしだった。

 恐らく、並みの武人程度なら今の一撃で真っ二つに両断されていただろう。だが、如何せん相手は闘神 御雷の加護を受けた異邦人の里の守護精霊ガーディアンであるインドーラだ。相手が悪すぎた、タイタニオンの放った渾身の一撃はインドーラの左手、人差し指と中指に軽く挟まれ急停止する。

 その一撃の力はインドーラの体を伝いインドーラの足元の石床を広範囲に陥没させた。が、それだけでは、その力は相殺されず、反発力としてタイタニオンの体を浮き上がらせた。その瞬間、インドーラはタイタニオンが両手で持つバトルアックスの刃を指で挟んだまま、その懐に入りオリハルコンの鎧ごと殴り付ける。が、オリハルコンに施された神印の効果が発動し強力な神力を纏った雷がインドーラを襲う。しかし、それをものともせずインドーラはタイタニオンを床に叩き付ける。と、その衝撃に耐えられずオリハルコンの加護の鎧は凹み、その衝撃は弱められながらもタイタニオンの腹部を抉りタイタニオンは苦痛に表情を歪ませる。が、それだけでは収まらず石床が豪快に砕け散る。と、インドーラとタイタニオンはその瓦礫と共に四階へと落下していった。


 「インドーラ、殺すなよ。」

と、大介が落ちていったインドーラに声を掛けると、

「分かっております。が、私に対する侮辱、お仕置きは必要でしょう!」

と、少し怒りの籠ったインドーラの声が返ってきた。


 ・・・ありゃぁ、やはり口は災いの元だな・・・あんな格好をしているインドーラも悪いと思うが・・・俺も気を付けよ・・・


と、思いながら、

「インドーラ、杖はお前に預ける。ここが片付いたら、お前達は王城内の戦力を無力化しろ。ただし、人は殺すなよ。」

と、インドーラに指示を出し杖を床下のインドーラに投げ渡す。対して、

「ご指示、承りました。」

と、インドーラは応え杖を受け取った。


 「さてと、この依頼しごともそろそろ終わりかな。」

と、大介は王の執務室の扉の前に立ち呟く。


 そして、扉に手を当てると闘神気を扉に叩き込んだ。すると、パキーン!と乾いた鋭い音がして神力による封印が弾け飛ぶ。と、扉は音もなく、ゆっくりと王の執務室の内側へと開いていく。


 ・・・さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・

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