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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
36/49

參拾陸

 「アスラ殿、遅くなってしまって申し訳ありませんね。」

 「そうですね。私も、ウラヌス王に謁見してから、まさか五日も放っておかれるとは思ってもみませんでした。」


 ・・・まぁ、自国にいる時よりも、のんびりとはさせて頂きましたが・・・


 アスラはカスパーのお詫びの言葉に対して、敢えて不機嫌な態度で返す。


 ・・・しかし、毎夜、主催のいない夜会に付き合わされたのはウンザリしたわ・・・


 アスラはウラヌス王と謁見してから、毎夜、迎賓館で催される夜会にウンザリとしていた。その上、その主催者であるウラヌス王は出席せず重臣達も顔を見せなかった事に少し苛立ちを感じずにはいられなかった。


 「誠に申し訳ありません。ここのところ、いろいろと問題が起こりましてね。皆、自分達の職務に大童おおわらわだったのですよ。」

と、カスパーが申し訳なさそうに頭を下げると、

「ほお、その問題とやらはアマノハラ王国の特使である私を放っておいても解決しなければならない、国をも揺るがすようなものだった、と言うのですね?」

と、アスラは出されたお茶を一口飲んでから探るような視線をカスパーに向け問い掛ける。


 ・・・・・。

「そうですね。このまま、この問題を放置しておけば後日必ず国を揺るがす、という類いのものです。」

 ふん、「なるほど、分かりました。」

 ・・・。

「では、早速ですが交渉に移らせていただいても宜しいですか?」

 「まあ、いいでしょう。」


 カスパーはアスラの了承を得ると、「では・・・」と、手元の資料を見ながら話を始める。


 「特使殿が我がウラヌス王国に来訪されたのは、我が国の属国ダイス王国とアルテミス王国との戦争を回避する為の交渉が目的、という事で宜しいですか?」

 「そうです・・・他の者がダイス王国とも交渉はしたのですが、不調に終わりました。その為、ダイス王国の宗主国であるウラヌス王国からダイス王国に戦争の回避を命じて頂きたいのです。」

 「なるほど、・・・今回は異邦人まじんの力を受け継いだというアルテミス王家のメルティス王女の討伐が目的だと我々はダイス王国から聞いております。もし、本当にメルティス王女がこの世界を滅亡させるという異邦人まじんの力を受け継いでいるのであれば、その討伐は当然である、と我々は考えています。」

 ・・・・。

「メルティス王女が異邦人まじんの力を受け継いでいるという証拠は?」

 「ダイス王国の神官がその御神託を受けたと聞いております。我がウラヌス王国の大神官殿も、それを確認したとのことです。ならば、我が国としてはダイス王国を支援する必要性は感じても、ダイス王国のメルティス王女討伐を制止する必要性は感じませんし、制止する大義名分も無いように思われます。」


 ・・・ふん、あくまでもアルテミス王国に戦争を吹っ掛けたのはダイス王国の意思であり、ウラヌス王国はその支援をしているだけと主張するか・・・


 「もし、本当にメルティス王女が異邦人まじんの力を受け継いでいたとして、それを理由として彼女がこの世界を滅亡させるというのは甚だ短絡的な考えではありませんか?」

 「そうでしょうか?異邦人まじんは五人いれば一日で国を一つ滅ぼせるというではありませんか。だとすれば、異邦人まじん一人だけでも一年もかからずこの世界を滅亡させる事も可能なのではありませんか?」

 「私は力云々を言っているのではありません。その力を持つ者の人間性を言っているのです。」

 ・・・・。

ふむ、「メルティス王女はこの世界を滅亡させるような人間ではないと?」

 「如何にも、彼女は人を愛する事を知っています。また、彼女は人から愛される事も知っています。そんな彼女がこの世界を滅亡させようとすると思いますか?」

 「なるほど、たしかに貴女の仰有おっしゃる通り愛を知る者ならこの世界を滅亡させようとは考えないかもしれません。が、力を持てばそれを使いたくなるのは人の心情ではありませんか?それが桁外れな力だとすればなおのこと。」

 ・・・・。

「分かりました。ならば、こうしましょう。我が国には異邦人の力を封じる事の出来る儀式魔法が有ります。もし、本当に彼女が異邦人の力を持っているのならば、ウラヌス王国の立ち会いのもと、彼女の異邦人としての力を我が国が責任をもって封印いたしましょう。」


 カスパーは顎に手を当て少し考えるような態度をとり、そして徐に口を開く。


 「それでは足りませんね。例えメルティス王女の力を封印したとしても、異邦人まじんの血を継ぐアルテミス王家が有る限り異邦人まじんの力を受け継いだ者がまた生まれてくるでしょう。それを何とかせねば同じことの繰り返しとなります。」


 ・・・ふん、何があっても今回は本気でアルテミス王国を潰すまでやる、という事か・・・確かに、異邦人の力は国同士の力の均衡を大きく揺るがす。が、アルテミス王国はその力が有りながら二千年以上その力を防衛にのみ使い他国を侵略しようとはしてこなかった。・・・故に、今まではウラヌス王国も属国を使いある程度アルテミス王国に嫌がらせをして、国に利益のある条件を引き出せれば矛を引いていたのだが・・・・・・この宰相は自らの意志で話しているようみえる。だが、彼の者が言っていたという通り記憶の操作でもされているのかもしれん・・・であれば、やはり今のウラヌス王国はガーディン教に完全に操られているという事か・・・




 大介とティアは日中一杯、王都ティータニアを見て回った後、冒険者ギルドのタナトスを訪ねていた。


 「よう、お二人さん、今日は何の用だ?」

と、タナトスは笑顔で二人をギルド長室へと迎え入れた。


 「ああ、今日はティアを少しの間預かっていてもらいたくてな。」

 ・・・。

「大介さん、私をまるで子供のように扱うのは止めて下さい。」


 大介の言葉を聞くと、ティアは頬を膨らませ〈私、怒りますよ〉というような態度をとる。


 がははは、「仲が良くていいな。で、何か訳があるのか?」

 「ああ、今日、これから俺一人だけ夜会に招待されているんだが、ちょっとティアを一人にしていくのが不安でな。俺が戻って来るまで、信頼の出来るあんたがティアと一緒に居てくれれば俺も安心して行ってくる事が出来る。」

 「なるほどなるほど、可愛い可愛い嫁っ子が他の男に襲われるのではないかと不安なのだな。よし、分かった。この依頼、格安で引き受けよう。」


 そう言うと、タナトスは楽しそうにガハハハと笑った。

 対してティアは「ちょっと、止めてよタナトス。」と言いながらも、嬉しそうに体をモジモジとさせる。


 「タナトス、一応掃除はしていくが、くれぐれも油断無いように頼む。」

と、大介が真剣に言うと、

「応、任せておけ。」

と、タナトスも真顔で応えた。



 「何だ!いったいどうなっている!」


 クロノミヤのリーダーは予測の越える事態に動揺を隠せずにいた。

 標的の女に付いていた男が離れたことで、行動に移そうとしていたクロノミヤの者達だったが、一人また一人と次々に連絡が取れなくなっていったのだ。


 『おい!どうした!何があった!誰か報告しろ!』


 ・・・そういえば、あの男は何処へ行った?・・・まさか!・・・


 「いよぅ、ご苦労さん。」


 クロノミヤのリーダーは突然後ろから声を掛けられ、背筋に冷たいものが走るのを感じる。と同時に、・・・バカな!大気の神獣エアロの力をこの身に宿した俺が、後ろをとられるまで、こいつの気配に気付かなかっただと!・・・と思いながら、その場から飛び退き振り向きざまに大気の神獣エアロの力を行使しようとする。が、


 「遅い。」


 クロノミヤのリーダーが大気の神獣エアロの力を使おうとした時、赤髪の男の顔が間近に見え、力を振るう間もなく腹部が爆発したのではないかというほどの衝撃を感じる。と同時に、クロノミヤのリーダーは意識を失なった。


 「よし、これで全員か・・・。」


 クロノミヤのリーダーは意識を失うと、体の内から輝きだす。その光りは体を全て呑み込むとビー玉程の大きさまで小さくなりながら輝きを弱めてゆき最後には黒い石となって大神殿の方へと飛んでいった。


 ・・・ふむ、俺の闘気を叩き込み、気力を全て吹き飛ばしてやったのだが・・・全員、同じ状態になったな・・・その身に宿した神獣を抑える気力が無くなると神獣の力に喰われてしまうのか・・・・・・・こいつらが神獣の力を分散して持っていなければ、俺でも闘神気を使わずに倒すのは難しかっただろうな・・・


 大介は一つ息を吐くと、アレイアス王子派が指定してきた場所に向かい歩き始めた。



 「お待たせしました。・・・ダイスケさん、ですね。」


 大介はアレイアス王子派の指定した場所に一人立っていた。


 食品や衣類を扱う店、飲食店に武器や防具を扱う武具店等多種多様な商店が軒を連ね、戒厳令下でも人通りの耐えない大通り。

 その大通りに面した位置に立つ商業者ギルドの石を積み上げ造られた白亜の立派な建物。

 その建物の出入り口近くの壁に背を預け大介は人の行きかう様をただ眺めていた。


 「ああ、そうだ。」


 大介に声を掛けてきたのは商業者ギルドから出てきた商人姿の好々爺然とした風貌の老人だった。


 ・・・商人姿をしているが・・・この爺さん武人だな・・・


 「では、参りましょうか。」

と言うと、老人は大介を先導するように前を歩き、商業者ギルドの脇から裏路地へと入ってゆく。

 大介はその老人から付かず離れずの距離をとって付いてゆく。




 ・・・・・・。


 「では、どうあっても援軍を退く事は出来ないと?」

 「いかにも、今援軍を退けばダイス王国は我が国に不信感を抱くでしょう。いや、下手をすれば他の属国にもその不信感が広がり結束力が弱まる恐れがあります。それは、我が国にとって、最も避けるべき事態だと思うのですが?」

 ・・・。

「なるほど、ならば我が国も同盟を結んでいるアルテミス王国に援軍を送らねばなりませんね。」

 「何を馬鹿なことを・・・異邦人まじんの血を絶やすという義はこちらに有ります。そんな事をすれば、この世界の者達全てを敵に回すことになりますよ。」

 あははは、「それは盛りすぎでしょう。よくいって、この世界の人間の七割程度ですよ。しかも、アルテミス王国の周辺国は長年アルテミス王国と良好な関係を保っている。だとすれば、もっと減りますね。しかも、我が国まで介入するとなれば更に減るでしょう。・・・ダイス王国にしても本心ではアルテミス王国と戦争などしたいとは思っていない。私はそう考えています。」

 「ぬっ、・・・あなた方が援軍をアルテミス王国に出すとして、今から本国に連絡を入れて間に合うのですか?アマノハラ王国からアルテミス王国まで軍が到達するのは早くて二月は掛かる。その頃には、決着が付いていると思うのですが?」

 「私が何の準備もせずにここに来たとでも?・・・それにお忘れか?アルテミスには魔動浮游船がある事を。あれを使えば我が国からアルテミスまであっという間だ。」


 ・・・・・・・。

 

 アスラとカスパーは昼前からお互いに国の威信を掛け、昼食の休憩を挟み日が傾き始めた今に至るまでの長い時間交渉を続けてきた。が、ここまでポーカーフェイスを保ってきたカスパーの表情に僅かな動揺が見て取れた。

 対して、アスラは交渉の初めから、楽しんでいるような笑みを絶やさずにいた。


 「それに、あなた方の援軍も進軍に遅れが出ているのではありませんか?あなた方は気付いていないかもしれませんが、国中の精霊を追い出してしまったのは不味かったですね。恐らく今頃、怒った精霊達に軍の進軍を妨げられていると思いますよ。」

と、アスラが言うと、

「なっ!ぜそれを・・・!」

と言いかけて、カスパーは慌てて自分の口を押さえる。

 それを見て、アスラは満足したように笑みを深め、

「今日のところは、ここまでと致しましょうか。貴方も上といろいろと相談せねばならない事が出来たでしょうし。」

と言うと、カスパーは渋面をつくり、

「そうですね・・・。」

と応じた。


 ・・・最後に鎌をかけてみたが・・・思った通り、進軍は遅れているようだ・・・まぁ、今交渉を無理に進めたとしてもウラヌス王国、いや、ガーディン教は軍を退く気は毛頭ないでしょう・・・ならば、ガーディン教の現王カイサルの勢力かアレイアス王子の勢力か大勢がハッキリするまで高みの見物、と洒落込むのもいいかもしれないわね・・・




 大介は商人姿をした老人に連れられ裏路地を歩くこと暫し、ある古ぼけた建物の扉の前に立っていた。

 その扉に老人が金色の鍵を差し錠を開く。

 その扉を押し開くようにして老人は中へと入っていく。

 その老人に付いて大介も扉の内へと足を踏み入れた。


 その中は、建物の外観からは想像もできないほどの広さを持った武道場となっていた。

 その武道場の中心に二人の青年が立っている。


 一人は中肉中背だが、服の上からでもかなり鍛え込んでいるのが見てとれる。

 もう一人は、少し背は高いが細身の眼鏡をかけた優男でどちらかというと事務系の人間に見えた。


 「貴方ですか?アレイアス王子派の我らをお探しの方というのは?」


 そう眼鏡をかけた優男が探るような目付きで大介に声をかけてきた。


 「ああ、そうだ。俺は御雷大介という。黒衣の魔女リサナとアレイアス王子等に依頼を受けて王都ここに来た。ここにリサナの書状がある。」

 ・・・・。

「拝見しても?」

 「ああ、構わんよ。」


 眼鏡をかけた優男は大介から封書を受け取ると、封を開け書状を取り出し広げる。そして、その書状の活字を少しの間目で追っていた。


 「確かに、これはリサナ様の字ですね。・・・ここには貴方が城に潜り込むのに協力するように書かれています。」

 「ああ、俺が城に潜り込んでウラヌス王やこの国の重臣達を操っている元凶を叩く。」

 ・・・・。

「なるほど、・・・この書状によるとリサナ様達が軍を誘き出し、その隙に私たちが王都で蜂起して、その混乱に乗じて貴方が城に忍び込む、という事になっていますね。」

 「そうだ。」


 眼鏡をかけた優男は少しの間考えるようにしてから口を開いた。


 「一昨日、アスティース公爵領を攻めていた者達が敗れて戻ってきました。王城内にいる我らの内通者によると王城内でも箝口令がしかれているようで詳しい状況は分からないとの事でした。」

と言い、眼鏡をかけた優男は書状に目を落として、

「ですが、これでハッキリしました。・・・いいでしょう。貴方を信じて協力しましょう。」

と言い、微笑みながら手を出し、

「私はダルスと言います。」

と、名を名乗る。

 対して、大介はダルスの手を握ると、「ああ、よろしく頼む。」と返した。


 「ダルス、話はついたな。」


 大介とダルスの話し合いが終ると、今まで黙して二人の話し合いが終わるのを静かに待っていたもう一人の男が口を開いた。


 「俺はアーガストという、よろしくな。王城内の案内は俺がする事になるだろう。そこで、命を預ける相棒になるお前の腕前を見せてもらいたい。」


 アーガストがそう言うと、ダルスは脇に退き、アーガストが大介の前に進み出る。


 「あんた、かなり強いな。あんたの雰囲気、俺の師匠と同じものがある。」

 「ほお、ならば一度その師匠とやらと手合わせしてもらいたいものだな。」

 「その前に、先ずは俺との手合わせだ。武道場ここは、リサナ様が見つけてきた異邦人の魔法道具により結界が張られている。ここに入るには金の魔法の鍵で錠を開けなければ入れない。だから、気兼ね無く力を使ってくれ。」


 そう言うと、アーガストは子供がワクワクしているようないい笑顔を見せる。


 ・・・こいつ・・・まぁ、確かに、武道場ここに入った時から何か密閉するような強い力を感じていたが・・・それでも、俺が本気を出すといろんな意味で不味いだろうな・・・

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