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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
33/49

參拾參

 「・・・い、・・・おい、嬢ちゃん!大丈夫か?」

 「ん・・・んん、ん!・・・こ、ここは?どこ?」


 ティアスティアは知らない男性に声を掛けられ、意識を取り戻しました。


 「おお、気がついたか?・・・ここは、港湾都市サイケ近くの海岸だ。」

 ・・・・。

「お母様!お母様は何処!!」


 男性はティアスティアの母を呼ぶ声に辛そうな顔をして顔を背けました。


 「お母様!!」

 ・・・・。

「ティアスティア、私ならここに居ます。」


 ティアスティアは母テレサーナの声のした方へ顔を向けると、テレサーナは砂浜に横たわったまま疲れたような笑顔をティアスティアに向けていました。


 「お母様!!」


 ティアスティアは母テレサーナを見つけると駆け寄ります。


 「ティアスティア、よくお聞きなさい。」

と、テレサーナはティアスティアの頬に手を当て優しくも厳しい表情でティアスティアに告げます。「私は、もう命が尽きます。」と。


 「そんな・・・そんなの嫌!」

と、ティアスティアは母親の体にすがり付き懇願します。「私、何でもします我儘なんか言いません!お母様、私を一人にしないで!」と。


 テレサーナは困り顔で、すがり付き啜り泣く愛しい我が子の頭を暫くの間優しく撫でていました。


 「ティアスティア、顔をお上げなさい!お父様も当分は貴女を迎えに来ることは出来ないでしょう。いえ、もしかしたら一生迎えに来られないかも知れません。貴女は一人でも生きていく覚悟を決めなさい。そして、一生を共に出来る大切な人を見つけなさい。貴女の内に眠るその強大な力がまた目覚める事があっても、大切な人が居れば間違った方向に目覚める事はないでしょう。」


 そう言うと、テレサーナは愛しい我が子の顔を両手で優しく包み込むように挟み、

「そんな悲しそうな顔をしないでティアスティア。私は愛しい我が子を守りきれて満足しているのですから。・・・貴女の可愛い笑顔を・・見せて、笑顔で私を送っ・・て頂戴。」

と、ティアスティアに優しく話し掛けます。


 ティアスティアは大粒の涙を零しながらも、必死に笑顔を作って見せました。そうしたら、〈お母様はきっと逝かないでくれる〉と、淡い期待を抱きながら。


 「ジルバ・・・偶然貴方達が・・通りがかってくれ・・て助かったわ・・・ティアスティアの事・お願いす・・・るわ・・・ね・・・。」

 「ああ、テレサーナさん。任せてくれ。」


 ジルバと呼ばれた、ずっとテレサーナの傍らにいた男性が力強く応えると、テレサーナは安心したような笑顔を浮かべ、フゥ・・・と一つ息を吐く。と同時に、ティアスティアの顔を優しく挟んでいた両の手は力を失い地に落ちました。


 「いっ・・・いやーーーー!!お母様!!お母様!!起きて!私を一人にしないで!!」


 ティアスティアは母の体に縋り付き大声を上げて泣き叫びました。


 そして、心に誓ったのです。

 何時か必ずガーディン教に、ガラント大神官に復讐すると。



 ジルバ達はある人物の依頼を受けて、大森林東部の森に素材を取りに行った帰りだったそうです。そして、偶々通りがかった海岸でティアスティア達を見つけたのだそうです。ジルバとバルゴは、昔、まだ冒険者になったばかりの頃、テレサーナに非常に世話になったそうで、その大恩人の忌の際の頼みを、その娘の面倒を全ての事情を知った上で引き受けたのだそうです。



 ・・・・。

「ティアスティア、俺に付いてくるか?」


 ティアスティアが泣き止むのを待ってジルバはそう声を掛けてきました。

 それに対して、ティアスティアはコクリと頷くことで返事をします。


 「よし、今日、お前はティアスティアの名を捨てろ。そうだな・・・今日からお前はティア、ティア・メトスだ。」


 そして、ティアスティアはガーディン教への復習を心に秘めジルバに付いて冒険者ティア・メトスとなったのです。



 それから、一年後、ヴァルスニル皇国では内戦が勃発し、その三年後にはヴァルスニル皇国もアルムニル侯爵家もなくなったそうです。

 内戦の原因は皇帝の急死による帝位継承争いが元だったようです。


 その内戦でアルムニル侯爵は戦死、その一人息子は行き方知れずになったと聞きました。



 話終えたティアは、辛く悲しそうな表情を見せ、口をつぐみ黙り込んでしまった。


 ・・・・。

「済まんな、ティア。辛い記憶を思い出させてしまったな。」

 ・・・。

「いえ、私が私の過去を大介さんに知って欲しくて話したのですから、大介さんが私に謝る必要は有りません。」


 ティアは辛い過去を振り払うように努めて明るい笑顔を見せて言う。


 「私も分かってるんです。・・・全てのガーディン教の神官がガーディン教の真実の全てを知っているとは思っていません。本当に人々のために活動している者達もいるでしょう・・・ですが、ガーディン教と聞くだけで昔の事を思い出すのです。悲しみと怒りと共に・・・。」


 ・・・ふむ、ティアの事を考えると余りガーディン教とは関わらせないようにするべきか・・・ここまで俺個人が受けた依頼にティアを付き合わせてきたが・・・ウラヌス王国での伝もティアのお陰で出来たわけだし、これ以上、無理にティアに付き合ってもらう必要はないな・・・それに、相手は人の精神や記憶を操る、下手をしたらティアのこの憎悪を逆手に利用される危険性もある・・・ガーディン教が、もう、ティアを狙っていないとも言い切れんしな・・・


 「ティア、これは俺が個人的に受けた依頼だ、お前は無理に付き合わなくていい。後は俺一人でも何とかなるだろう。お前は異邦人の里に戻っていろ。」

 ・・・・。

「お断りします。私は私の意思で大介さんに協力しているんです。それに、私はもう何も出来ない子供ではありません。必ず大介さんの役に立ちます。」

 「いや、これ迄にもう十二分に役に立ってもらった。これ以上、ティアに世話になる訳にもいかん。」

 ・・・・。

「もう、私は大介さんに必要ないと?」

 「いや、そうは言ってない。だが、ティアがガーディン教に対する憎悪を持っている限り、その憎悪を逆手にとられないとも限らんからな。今は一時、異邦人の里で待機していてくれ、と言っているんだ。」


 ・・・大介さんはきっと私の事を思って言ってくれているのでしょう。・・・でも、私は大介さんに守られてばかりいるのではなく、好きな人だから愛している人だからこそ辛いとき苦しいときは支え合い肩を並べて歩いていけるようになりたい。・・・だから、ここで逃げたす訳にはいかない!・・・


 「大丈夫です!私の憎しみはガーディン教にのみに向けられます。他のものに向けられることはありません!ですから、最後まで一緒に居させてください!」


 ・・・ティアも頑固だからなぁ・・・しかし、裏で意図を引いているだろうガーディン教の高位神官というのも気になるし・・・無理にでも送り返すか・・・


 大介はそう考えると、ベッドに立て掛けてあった杖を取ろうと手を伸ばす。と、大介のその気配を先に察していたティアは奪い取るようにその杖を取ると胸に抱え持つ。


 「私は大介さんと一緒に居たいんです!」

と言うと、ティアは杖を持ったまま部屋を駆け出した。

 「あ、待てティア!」


 ・・・ほんとに俺は女性の扱いが下手くそ、と言うか女心が分かっていないのか・・・今は俺が何を言っても無駄なのだろうな・・・しようがないな・・・


と思いながら、ハァッと一つ息を吐くと 大介はしゃがみこみ床の自分の影をコンコンと軽く叩く。

 「居るんだろ、アマノハラ王国の特使の監視者。」

と、大介は声を掛けるが、何の応答も無い。

 ・・・・。

ふむ、「応えたく無ければ別に応えなくてもいいが、この先、俺の監視が出来なくなると思え。」

と言うと、一瞬にして大介の闘気が爆発的に膨れ上がる。と、

「何の用だ。」

と、静かだが警戒心を含んだ不機嫌な声が影から聞こえてくる。

 「頼みがある。ティアに付いてティアを守ってやってくれ。」

 「私の任務はお前の監視だ。お前の頼みを聞く筋合いはない。」

 「だが、俺に手足をへし折られて身動きが取れなくなったら、その任務もこなせなくなるんじゃないのか?」

 ・・・・。

「そんなこと出来るとでも?」

 「出来ないとでも思っているのか?」


 更に大介の闘気が膨れ上がる。


 チッ、「少し待て。」


 ・・・・・・・・・・・・。


「分かった、彼女の護衛引き受けよう。それから、我が主からの伝言だ。「この貸しは付けておきましょう」との事だ。我が主に感謝するのだな。」


 そう言うと、大介の影の中にあった僅かな気配はティアを追って離れて行った。


 「さて、ティアを迎えに行くか。」


 大介が部屋を出て二階から階段を降りていくと、ホテルのカウンターに背を預けてティアは立っていた。

 ティアは大介に気が付くと、その胸に斜めに抱え持つ杖を持つ手に力を込め、涙に潤んだ目を大介に向ける。


 ハァッ、「ティア、お前の気持ちも考えずに無理に送り返そうとして悪かった。お前の好きにすればいい。だが、俺から離れるなよ。あと、その杖はお前が持っていろ。どうしても自分の力では身の危険を回避できないと思ったら、迷わずインドーラに助けを求めろ。分かったな。あと、サリサの事は信用してやれ。あれは悪い人間ではない。」


 ティアはその大介の言葉を聞くと、曇っていた表情が一瞬でパァッと明るい表情になり、「分かりました。ありがとう御座います、大介さん!」と、嬉しそうに応えた。




 「お早う御座います、サリサ神官長。」


 サリサは不意に声を掛けられ、声のした方へ顔を向けた。瞬間に思いっきり嫌な顔になる。


 「何でしょう?ガラント大教区長様?」

 ・・・・。

「いや、何もそこまで嫌なものを見たというような顔と声で問い返さなくとも・・・流石の私でも傷付きますよ。」


 ガラント大教区長はズーンと落ち込んだ表情で言い、

「今日はサリサさんにお願いがあって来たんです。」

と、気を取り直してサリサに用件を言う。


 「私にお願いとは、何でしょうか?」

 ・・・・。

「大神殿の通路で立ち話というのも何ですので、私の部屋まで来ていただけますか?」

 「はい、お断りします。」

 「えー、そんなハッキリ即答で断られると、私、傷付くんですが・・・。」


 そう言いながら、ガラント大教区長は両手の人指し指をツンツンさせながら上目遣いでサリサを見る。

 そんな二人のやり取りを見ていた周りの女神官達の〈何、あの神官長おばさんのガラント大教区長様に対する態度は!〉というキツい視線がサリサに突き刺さる。


 ・・・うっわ、めんどくさ・・・


と思いながら、ハァッと一つ息を吐きつつ作り笑いを浮かべ、

「分かりました、少しだけですよ。」

と、サリサはガラント大教区長に応える。と、

「ありがとう御座います。一生恩に着ます。」

と、ガラント大教区長はパァッと嬉しそうな笑顔を見せて応える。


 そんなガラント大教区長を見て周りに居た女神官達は〈かわいーい〉とポォッと頬を染めていた。

 対してサリサ神官長は、ハァッと盛大に溜め息を吐いていた。



 「で、ガラント大教区長様、私に何の用ですか?」


 サリサはガラント大教区長の部屋に入るなり、用件について問い掛けた。


 「まぁ、そんなに慌てないで、お茶でも飲みながら話しましょう。」


 ガラント大教区長は手ずからお茶を淹れ、テーブルの上に置き、自分が座った席の向かいに座るようにサリサに促す。


 「いえ、私はここに長居するつもりは有りませんから。」


 サリサはソファーに座ろうとせず、そう言うと、ガラント大教区長から顔を背ける。


 ハァッ、「そうですか。・・・・分かりました。では、早速ですが本題に入りましょう。」

と、ガラント大教区長は言いながら、一口お茶を飲み、

「サリサ神官長、昨日、赤毛の冒険者二人と合っていましたね。」

と、本題を切り出した。

 「何故それを!?」

 「私は貴女の事なら何でも知っているのですよ。」

 「うっわ!気持ちわる!・・・っと、失礼、反射的に心の声が漏れてしまいました。」

 ・・・。

「酷い思われようですね。・・・愛している人の事は何でも知りたいと思いませんか?貴方は。」

 「それこそ気持ち悪いですね、ガラント大教区長様。貴方は私の事など愛していないでしょう。その上っ面な感情を振り撒くのは止めて頂けませんか?」


 ・・・・。


「ふむ、やはり、力には目覚めていなくとも鋭い感覚を持つ。やはり因子を持つ者には気付かれてしまいますか。」


 ガラント大教区長はサリサに演技を見透かされ、それを取り繕おうともせずに暗にサリサの指摘を肯定する。と共に、先程までのおちゃらけたような雰囲気は消え、威圧するような雰囲気を纏う。


 「いっ、いったい何の事ですか?」


 サリサはその威圧感に気圧されながらも問い掛けた。


 「別に貴女は知らなくてもいいことですよ。それよりも、私の頼み事ですが、貴女はこれをご存知ですか?」


 ガラント大教区長は懐から取り出した一センチ程度の黒い涙形の石をサリサに見せる。


 「そ、それは・・・し、神影石のように、見えますが?」

 「その通りです。これは、この世界の主神である日神と対をなす月神の眷属神で、夢神ムーナイの神影石の欠片です。夢神ムーナイは人の夢や精神等を操ります。私は今、残りの夢神ムーナイの力をこの身に宿しています。そして、欠片(これ)を貴女に差し上げましょう。そして、貴女には私のものになって頂き、私の手足となって働いていただきます。」


 そう言うと、ガラント大教区長は席を立ち、ゆっくりとサリサに近付いていく。


 「い、いや、来ないで・・・。」


 サリサは本能的に危険を感じ後退る。


 そして、ガラント大教区長の部屋を出て、危機から逃れよう扉の取っ手を掴み開こうとするが扉はビクともしなかった。


 ダン!ダン!ダン!「だ、誰か!誰か助けて!!」


 サリサは扉を力一杯叩き、悲鳴に近い声で助けを求める。


 「無駄ですよ。この部屋には結界が張ってあります。誰も貴女の声に気付かないし、誰も貴女を助けになど来ません。諦めてください。」


 そう言いながら、ガラント大教区長はサリサを背後から抱き竦め、

「貴女は、主神ガーディン様に増幅された月神の神力の内、人の心の闇の部分を増幅させる神力の中にあって、神力に敏感な神官の中で唯一、自我に変調をきたさなかった人だ。夢神ムーナイの一部をその身に宿しても喰われるということは無いでしょう。」

と、耳元で囁き手に持った夢神ムーナイの神影石をサリサの額に押し当てる。


 「い、いや、いやーー!」


 サリサは弱々しい悲鳴を上げながら抵抗しようとするが、頭の先から足の先までがんじがらめに拘束されたように一ミリたりとも身動ぎすら出来なかった。


 サリサの額に押し当てられた夢神ムーナイの神影石は、サリサの額に吸い込まれるように消えてゆく。と同時に、サリサは意識をくらい夢の中へと引きずり込まれていった。


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