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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
27/49

貳拾柒

 「うぬううう・・・アマノハラ王国の特使がもう着いてしまったか・・・アガバスの奴は領都一つ落とすのに何時まで掛かっている。メンドゥサ王女達に付けた神具のペンダントの反応も随分前に消えてそのままだ・・・・まさか、黒衣の魔女一人にやられてしまった訳ではあるまいな。」


 ウラヌス王国、ガーディン教大神官ガイウス・ガルディンは神殿内の自室をイライラとしながら歩き回っていた。


 ・・・いや、だとしても、まだ大丈夫だ・・・支配の神杖でカイルス陛下は手中にある、その守護役達や我等ガーディン教に反抗的だった国の重鎮達も記憶を操作して今はこちら側だ・・・それに、神聖ガーディン教王国の教王様から遣わされた神使いのガラント大教区長様が居られる。それにガラント様から賜った神影石もある・・・


と、ガイウスは気を落ち着けるように自分に言い聞かせる。

 そして、一つ大きく深呼吸すると、執務机の上に置いてある呼び鈴を手に取り、チリリンと振る。と、隣の部屋に控えていた大神官の身の回りの世話をする神官見習いの少年が入ってくる。


 「王城へ行く、準備を致せ。」

と、ガイウスが命じると、

「はい。」

と言って、その少年はガイウスに頭を下げ、部屋を出て行った。


 ・・・先ずは、アマノハラ王国の特使だ・・・




 「女将さん、お久しぶり。」

と言って、ティアが入っていったホテル[ユリシズ]のカウンターには、金髪にチラホラ白髪が混じり始めた初老の女性がカウンターに肘をついて座っていた。が、ティアの顔を見て驚きの表情を見せる。


 「あんた、よくこの王都に入ってこれたね。」

 ・・・・。

「ええ、ある人の伝で何とか入れてもらいました。」

 「へえー、あんた達にそんな伝があるなんて知らなかったよ。で、ジルバ達は何処にいるんだい?」

 ・・・。

「私、ジルバ達のパーティー龍虎ドラゴンタイガーを辞めたの。」

 「へえー、そりゃまた・・・・あんたの後ろにいるハンサムな兄さんの為かい?」

 ・・・・。

「ええ、まぁ・・・・・この人は私の夫の大介さんと言います。」


 ティアは大介がどんな反応を示すか気にしつつ女将に大介を、自分の夫であると紹介した。


 「おや?結婚したのかい?よくジルバが許したね。あんたをまるで本当の娘のように可愛がっていたのに。」


 そう初老の女将さんが言うと、ティアは頬を赤らめ恥ずかしそうに身をモジモジとさせる。

 そんなティアを見て、女将さんは優しい笑みを浮かべながらカウンターを出て大介に近付き品定めでもするよに大介を眺め回す。


 「なるほど、本当にいい男だね。それに・・・かなりの修羅場を潜っているようだ。が、優しそうな感じだね。」

 ・・・。

「そんなこと見ただけで分かるのか?」

 「長年ホテルの女将をやっていると、そういう事は大体分かるようになるさ。」

 「なるほど・・・それだけ多くの人を見てきたということか。」

 「ま、そういうことさね。」


 大介はティアの言葉には何の反応も示さず、女将さんの鑑定眼に感心すると、女将さんはエヘンとばかりに胸を張り、

「私は、このホテルの女将で名はフランだヨロシク頼むよ。」

と、自己紹介をする。


 ティアは大介が(夫)や(結婚)という言葉に何の反応も示さなかった事に、何か寂しさを覚えたのか少し表情を暗くしたようだった。

 大介はそれを見て見ぬふりをする。


 ティアは、はぁっ、と一つ息を吐き、

「女将さんは、むかし冒険者をしていて、ジルバ達とパーティーを組んでいたんだそうですよ。」

と、大介に説明する。

「・・・なるほど、道理で歳の割りに引き締まった体をしている訳だ。」

「歳の割りというのは余分だよ。」

と、女将さんは大介を睨み、

「しかし、とんでもない時期にウラヌス王国に来たもんだね。その伝という知り合いから話を聞いてないのかい?」

と、ティアに心配そうな顔を向ける。

 ・・・。

「いえ・・・・聞いてます。」

 「なら、何で・・・・と、それだけ重要な用事があるって事だね。」

 ・・・・。

「そんなところです。」

 ・・・・・・・。

「なるほど、分かったよ。こんな時だ、部屋はいくらでもある。好きな部屋を使いな。」


 ・・・。

「ありがとう、女将さん。」

 「いいさ、あんたと私のなかだ。それに宿代はしっかりと貰うからね。」

と、悪戯っぽく笑うと、フランはカウンターに戻り、カウンターの下から部屋番号の付いた鍵の束を取り出して、ティアに手渡した。

 ティアは鍵の束を受け取ると、非常口の近い二階の一番奥にある二百十号室の鍵を取り、鍵の束をフランに返した。


 「ところで、女将さん。少し聞きたい事があるんだけど・・・・まだ、この王都に現ウラヌス王の兄君にあたるアレイアス王子側の者達は居るのでしょうか?」

 ・・・・。

「どうだろうね・・・アレイアス王子がこの王都を逃げ出してから直ぐにアレイアス王子側の人間は捕まるか逃げ出すかしちまったからね。」

 「そうですか・・・。」

 ・・・・。

「ここだけの話だけど・・・王家の発表じゃあ、アレイアス王子が王位を狙ってシルベウス陛下の暗殺を企んだって事になってるけど・・・噂じゃあ、ガーディン教がこの国での力を取り戻すためにシルベウス陛下に呪いを掛け、カイルス陛下や国の重臣達を何らかの力で虜にしたんじゃないかってことだよ。ただ、アレイアス王子には黒衣の魔女リサナ様が付いていたから、そんな隙が無く追い落とすしか無かったんじゃないかね。その為か、ガーディン教の者達は血眼になって身を潜めているアレイアス王子派の者達を追っているけど、国の役人達はそれ程でもないようなんだよ。」

 「なるほど・・・だとすると、今のこの国の王、いえガーディン教は人心を得られていない、ということですね。」

 「まぁ、そういうことだね。」


 ・・・。


「もし、アレイアス王子派の者達を探しているなら、冒険者ギルドのギルド長タナトスが何か知っているかもね。」

 「分かったわ、ありがとう女将さん。」

 「・・・いや。」

 ・・・。

「大介さん、後で冒険者ギルドに行ってみましょう。」

 「・・・ああ、そうだな。」

 ・・・。

「ティア、私やタナトスならいいけど、外であまりそういう事は聞かない方がいいよ。」

 「ん、分かってる、女将さん。心配してくれてありがとう。」


 ティアはフランに笑顔を向けると、大介を連れて部屋のある二階へと上がって行った。


 「・・・女将さん。何か隠してますね。」

 「ああ、俺達がまだどちらの側なのか判断がつかないからだろう。」

 「そうですね・・・取り敢えず、荷物を置いたら冒険者ギルドに行ってギルド長のタナトスに会ってみましょう。」

 「そうだな。」




 「特使殿、長旅でお疲れでしょう。今日の所はこちらでお寛ぎ下さい。何かありましたら迎賓館付きの者達にお申し付け下さい。」

と、王城に隣接する迎賓館にアマノハラ王国の特使であるアスラ達を案内するとカスパーはアスラに一礼して迎賓館を後にした。


 「特使様、私、今日より特使様方の身の回りのお世話をさせていただく、迎賓館付き侍女の侍女長を務めさせて頂いているドーメと申します。御用の向きが御座いましたら何でもお申し付け下さい。」

と、侍女長のドーメは言い、

「では、お部屋の方へご案内いたします。」

と、アスラ達の先頭に立って歩く。


 「ドーメ・・・。」

と、その前を歩く中年の域に達しているだろう侍女長にアスラは声を掛ける。

 「何で御座いましょう、特使様。」

 「答え辛いだろう事を聞くが、今のウラヌス王カイルス陛下を貴女はどう思う。」

 ・・・・・。

「そうですね・・・素晴らしい方だと、思っております。」

 「そうか・・・・変な事を聞いて済まなかった。」

 「いえ・・・とんでも御座いません。特使様が謝られるような事では御座いません。」


 ・・・。


 「こちらがお部屋となっております。お荷物の方は既に運び込んで御座います。」

 「うむ、世話を掛けた。」

 「いえ・・・あと迎賓館とその前庭はご自由にして頂いて宜しいのですが、警備の関係上その外に出られるのはお控え下さい。」

 「うむ・・・相、分かった。」

 ・・・。

「では、御用の際はベルでお知らせ下さい。」


 そう言うと、ドーメはアスラ達に一礼して元来た通路を戻っていった。


 アスラ達が部屋に入り扉を閉めると、すぐさまカエンは部屋に運び込まれていた自分達の荷物を開く。


 ・・・・・。

「荷は、開けられていないようです。」

 「・・・そうですか。カエン、先程の侍女長の反応どう見ます。」

 ・・・。

「そうですね・・・カイルス陛下は余り人望は無いのではないでしょうか。」

 「ふむ・・・貴女もそう感じましたか・・・迎賓館ここに来るまでに見てきた王都にも活気が感じられなかった・・・間者の情報どうりのようですね。」

 「はい。」


 ・・・・。

「ところで、カエン。シーリンは?」

と、アスラは真剣な表情を子供のような楽しげな表情に変える。

 対してカエンは、ハアッと、あからさまに息を吐き、

「私の影から出て、彼の者の後を追いました。」

と答える。と、

「よし、彼の者の情報は逐一私に知らせるように。」

と、アスラは子供のような笑みを浮かべる。


 ・・・でた、小悪魔の笑み・・・・・この笑顔からは、大国アマノハラ王国を二十年間女王として、そして千年近く影で支えてきた人物には到底思えないわね・・・




 ティアと大介は荷物をホテルの部屋に置くと、直ぐに冒険者ギルドに向かった。


 ティア達が冒険者ギルドに入ると、ギルドの中は閑散としていた。と、そこで、「ティアさん?」と声が掛かる。


 「ジャクリーン、久しぶり。」

 「ええ、本当に・・・いつ王都ここに?」

 「つい、さっきよ・・・それよりもギルド長のタナトスは居る?」

 ・・・・。

「ええ、ギルド長室に居るわ。」

 「そう、ありがとう。」


 ティアは、冒険者ギルドの受付嬢のジャクリーンと挨拶を交わし、タナトスの所在を確認すると大介を連れて冒険者ギルドの奥へとギルド長室に向かって歩いてゆく。


 ティアがギルド長室の扉を叩くと、

「おう、誰だ?」

と、室内から野太い声が返ってきた。


 「私よ、ティア・メトスよ。」

・・・。

「ティアだと!?」


 ギルド長室の奥に居たであろう人物が、ドタドタと扉に駆け寄る音が聞こえたかと思うと、いきなり扉が開き男が厳つい顔を覗かせる。

 そして、ティアと大介の顔を確認し、「そっちの男は?」と、ティアに聞きながら更に周りに人が居ないか確認する。

 対してティアが、「この人は私の夫の・・・」と、答えるが早いか、「そうか分かった、入れ。」と言い、タナトスはティアと大介を部屋の中に引っ張り込むように引き入れる。


 「ティア、どうやって王都に入った?ここに来るまでに付けられたりはしなかったか?ジルバ達はどうした?」

 「いったいどうしたのよ?タナトス、そんな血相を変えて。」

 「どうしたって・・・お前、今の王都の状況を知らずに来た訳ではないだろう。王家やガーディン教の息の掛かっていない、ただの冒険者では王都には入れない。入ってこれたとしても直ぐに身柄を拘束される。」

 「分かっているは。だから、顔はフードで隠し、ガーディン教のネックレスを外から見えるように掛けてきたわ。」

 「だが・・・」

 「大丈夫だ。この国の者には付けられていない。」

 「・・・そうか、それならいいんだが・・・と、ティア、お前、その男の事を夫とか何とか言ってなかったか?」

 「ええ、そうよ。私の夫の大介さん。」

 「お前、結婚したのか・・・よくジルバが許したな。」

 「フランさんと同じような反応ね。」

 「宿はフランの所にしたのか。」

 「ええ、フランさんの所なら信用出来るから。」

 ・・・。

「なるほど・・・・で、俺に用があって来たのだろう?」

 「・・・ええ、アレイアス王子側の人間に会いたいのだけど、まだこの王都に残っているかしら?」

 ・・・・・・。

「どうだろうな・・・・俺の知っている奴で、そんな奴が居たらお前が会いたがっていると伝えておいてやるよ。」

 ・・・。

「そう・・・・よろしく頼むわね。」

 「おう・・・ところで、ジルバ達はどうした?一緒じゃないのか?」

 ・・・。

「ええ、私、大介さんと一緒になってジルバ達のパーティーをやめたの。」

 「・・・本当にジルバの奴、よく娘離れ出来たな。」

 あははは、「その夜は、ぐでんぐでんに酔ってだけどね。」

 「・・・だろうな。目に浮かぶよぅだわ。」カカカ・・・


 タナトスは一頻り笑うと、

「何をしに来たか知らんが、余り派手なことはするなよ。まだ、神官達は気が立っているし何処に密告者がいるか分からん・・・・出来れば早々にこの王都から出ていくことを勧めるがな。」

と、ティアに真剣な顔で言う。と、

「心配してくれてありがとう・・・でも、大丈夫。大介さんがいるし、それに私もそれなりの経験を積んだ冒険者よ。早々簡単には捕まったり殺られたりはしないわ。」

と、笑顔でティアは応える。

 ティアの返答を聞くと、タナトスは大介に向き直り、

「大介といったか・・・ティアは俺の親友の大事な娘だ。何があっても守ってやってくれ。」

と、大介に頭を下げる。

 「ああ、あんたに言われるまでもなく、そのつもりだ。」

ど、大介はタナトスに笑顔を見せて言う。

 それを聞いて、

「そうか・・・よろしく頼む。」

と、タナトスは再び大介に頭を下げた。

 「タナトス、止めてよ・・・もう。」

と言って、ティアはタナトスのまるで父親のような態度に恥ずかしさを感じ、

「大介さん、用事も済んだことですし、もう行きましょう。」

と、フードを目深に被ると大介の手を引いてギルド長の部屋を出ていく。

 その後ろ姿に、

「ティア、王都ここでは余り魔法を使うなよ。直ぐに神官どもが駆けつけてくるからな。」

と、タナトスは忠告した。



 「もぅ、タナトスってば恥ずかしいことしないでほしいわ。」

と、冒険者ギルドを出たティアは愚痴を溢しながら大介の横に並んで歩いて行く。

 そのフードの隙間から見え隠れするティアの表情は、口とは裏腹に嬉しそうな表情をしているように大介には見えた。


 「ティア、ジルバ達といいお前は周りの人間に愛されているな。」

と、思ったことを大介が口から溢すと、

「・・・。」

ティアは、何か声を発しようとして止めた。

 ただ、大介の手を握るティアの手がホンノリ温度を上げたように大介には思えた。


 ・・・・・。

「それにしても・・・・前にこの王都に来た時とは比べ物にならないほど活気が無くなってしまっていますね。前の来た時は本当に活気があって、人々の笑顔で溢れかえっていたのに・・・・。」

と、ティアは寂しそうな声で言い、歩きながら辺りを見回す。

 「まつりごと一つで国はあっという間に変わる。国の政を務める者に愚者が就いた国の国民は悲劇だな。」

 ・・・。

「そうですね。」


 ・・・・。


 「ところで、タナトスは「魔法を使えば直ぐに神官が駆けつけてくる」と言っていたが・・・インドーラを呼んだりティアを転移させたりした時は、誰も駆けつけてくる気配は無かったが・・・。」

 ・・・。

「この世界の魔法は基本的な生活魔法以外は、ある程度の時間を掛けて魔力を高めてから使います。しかし、リサナさん達の様な異邦人や異邦人の里の守護精霊ガーディアンの魔法は、一瞬で魔力を高めて使います。なので、この世界の者達には自然な魔力の揺らぎ程度にしか感じないのだと思います。」

 ・・・・・。

「なるほど・・・・なんとなく、分かった。」

 ふふ、「魔法の使えない大介さんにはピンときませんか?」

と、大介とティアが話しながら歩いていると・・・。


 「きさま!!小神殿の門前で何をしている!!」

 「も、申し訳ありません。」

 「やめろ!!母ちゃんは転んだだけじゃないか!母ちゃんは足が悪くて、ゆっくりしか動けないんだ。」

 「何だと!ガキィ!そんな、みすぼらしい姿で神殿に近づくな、と言っておるのだ!!」

 「・・・お前達の所為で貧乏になったんじゃないか!!」

 「ガキィ!!」

と、小神殿の門衛を務めているガタイのいい神官見習いの男が手に持っていた棒を振り上げると、

「申し訳ありません!申し訳ありません!まだ、幼い子供ゆえ何卒お許し下さい!」

と、母親がその男の子を庇うように抱き寄せる。

 しかし、

「許さん!!」

と、門衛はその母親の頭上に棒を力一杯振り下ろした。


 その時、ティアの体は自然と動いていた。

 ティアは門衛が棒を振り下ろすよりも早く、庇う様にその親子に覆いかぶさっていたのだ。

 そして、背中に振り下ろされた棒の衝撃に耐えるために目を瞑り体に力を籠める。が、何時まで経っても来るはずの痛みと衝撃を背中に感じる事は無かった。

 ふと気が付くと、ティアは痛みと衝撃の代わりにその背中に優しい温もりを感じ、恐る恐る目を開ける。と、ティア達を抱きしめる様に大介が覆いかぶさっていた。


 「大介さん!」

 ・・・。

「ティア、お前も無茶をするな。」

と、大介は平然とした表情のままで言い、

「暫らく、そうしていろ。」

と、優しく言う。

 「でも、それでは、大介さんが・・・。」

と、ティアが心配そうに言うと、

「大丈夫だ、こいつ等では俺の体に傷一つ付けられんよ。」

と、大介は笑顔を見せる。


 それから、騒がしい外の様子を見に来た待機中の門衛達も加わり、随分と長い間、大介の背や頭を棒や棍棒で殴り続けた。が、大介はマントが破れその下の服が破れ地肌が露わになってもビクともしなかった。

 仕舞いには、門衛達の持つ棒が折れ、息を切らせながら門衛達は腰を地に落とした。と、その中の一人が、

「くっ、この化け物が!」

と、腰に差していたスモールソードを抜き大介に近づこうとした。その時、大介の鋭い視線がその門衛に突き刺さり、その門衛は顔を青ざめさせると共に腰を地に落とした。


 「もぉいい、とっとと向こうへ行け・・・。」

と、他の門衛が力無く言うと、大介は立ち上がりティアは子供とその母親を支え起こしてやる。

 すると、何時の間にか集まっていた野次馬から、

「いいぞ!おやじ、たいしたもんだ!」「姉ちゃんもいい根性だ!」

と、歓声が上がった。


 門衛達は、そんな野次馬を散らす気力も残っていなかった。


 小神殿から少し離れた所で、

「姉ちゃん、おじさん、ありがとう。」

と、大介達が助けた子供は大介達に向き直り頭を下げた。

 「本当に有難う御座いました。何かお礼がしたいのですが・・・。」

 「ああ、構わないで下さい。私達もこの後用事があるので・・・。」

 ・・・・。

「そうですか・・・本当に有難う御座いました。」

と言うと、母子は何度も振り返り大介達に頭を下げながら家路へと歩いていった。

 それを見送ると、

「大介さん、本当に大丈夫なんですか?」

と、ティアは本当に心配そうな顔を大介に向ける。

 「ああ、大丈夫だ。問題ない。」

と、大介は笑顔で言い、ティアに背中を見せる。

 その背中はホンノリと血色が良くなっている程度だった。

 それを見てティアは、ホッと息を吐き、

「本当に頑丈な体をしていますね・・・なんだか叩き続けて精根尽き果てていた門衛達が可愛そうに思えてきました。」

と、呆れたように言う。

 対して、

「この世界の者達とは鍛え方が違うからな。」

と、子供のような笑顔を見せて大介は返した。

 「俺よりもティアは大丈夫か?」

と、大介が問い返すと、

「ええ、大介さんがあの親子共々優しく支えてくれていましたから、余り疲れてもいません。」

と、ティアは微笑んで応える。

 「そうか、ならば良かった。」

と、大介は嬉しそうに笑った。

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