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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
26/49

貳拾陸

 大介は高速で駆けるシルブィアンの背に掴まりながら昨日の事を思い出していた。



 「大介さん、アマノハラ王国の特使には気を付けて下さい。あの人は目的のためなら手段を選ばない人ですから。」

と、言いながらリサナは嫌なことを思い出したのか、表情を僅かに歪める。

 「その人物と前に何かあったのか?」

 「まぁ、いろいろと・・・。」

 「・・・そうか。だが、ダイスとアルテミスの戦争を止めるために、ダイス王国の宗主国であるウラヌス王国に特使として話し合いに来たのだろ?だったら事情を話せば協力してもらえるんじゃないのか?」

 「いえ・・・そんな事をすれば、アマノハラ王国は・・特にあの人は嬉々として我が国に介入してくるでしょう。流石にそれは避けなければなりません。」

 「そうか・・・いくら大国と言えど、国内の争乱に他国の介入を許せば、悪くすればその介入してきた国の属国とされる可能性も無いとは言えんからなぁ。そんな事になれば、それこそ国が崩壊するような争いが起こりかねん。」

 「はい・・・それと・・・ウラヌス王国のガーディン教、特に大神官のガイウスはアマノハラ王国を非常に嫌っています。王命を使い何回か特使の入国も拒否していたようです・・・今回の特使もあの人でなければ入国を許していなかったでしょう。なので、特使側の責任で何か問題が起これば、特使は話し合いも出来ずに追い返される恐れも有ります・・・交渉上、自分達の不利になるような事はあの人はしないでしょう。下手をすれば交渉を有利にする為に、大介さんに味方をすると見せかけて大介さんを売る可能性もあります。あの人はそういう人です。」

と、リサナは昔の事を思い出したのか、歯噛みをするように言う。


 ・・・リサナ義姉さん、昔、そのアマノハラ王国の特使という人物に余程ひどい目に合わされたんだな・・・


と、思いながら大介は口を開く。


 「しかし、そこまでアマノハラ王国を嫌っているのに、何故、ガイウスは今回その特使を受け入れたんだ?」

 「現状、世界で一・二を争う大国であるアマノハラ王国と戦争状態になる事は、今のウラヌス王国にとっては滅亡を意味しますからね。」

 「なるほど、今回の特使はそれ程の人物ということか。」

 「はい・・・なにせアマノハラ王国の先代の女王だった人物ですから。」

 「はっ?・・・他国同士の戦争の仲裁をするのに、何故そんな大物が特使として出てくる?」

 「私も詳しくは知らないのですが、アマノハラ王国とアルテミス王国は非常に親密な関係にあります。特にアマノハラ王国の先代女王はアルテミス王国を非常に気にかけていたようです。が、今回はアマノハラ王国の女王の代替わりがあって後手に回っていたようですね。」


 ・・・。

「それで、後手に回った分を取り返す為にむ無く先代女王が出張ってきたということか。」

 「・・・おそらく。」


 ・・・・。

「分かった。それ程の大物なら、王都に入るのにもそれ程厳しい検査はされまい。しかし、その人物に協力を仰ぐのも危険だというのなら、王都に入るときだけ黙って連れて行ってもらう事にしよう。」

と言って、大介は子供のように、ニッと笑った。



 ・・・しかし、いいタイミングでアマノハラ王国の特使が来てくれたものだ・・・


 大介は、シルブィアンに乗りアスティース公爵領の領都を出て、四つほど巨大な都市壁を遠くに眺めながら二つの領地を駆け抜けてきた。


 ・・・さて、リサナ義姉さんの話だと、そろそろ王都ティータニアの都市壁が見えてくる頃だが・・・


と、大介が思っていると、

ワフ・クルルルオン・・・

『主さま、ティータニアが見えてきました。』

と、シルブィアンが大介に声を掛けてきた。

 そのシルブィアンの言葉に大介は目を細め進行方向の先を凝視する。

 すると、そこに、まだ遠くの為、蜃気楼の様に大気に揺れ立つ王都ティータニアの都市壁が小さく見えてきた。


 「よし。シルブィ、予定通りティータニアを大きく迂回して、アマノハラ王国の特使一行に接触するぞ。」

 ワフ・クルルル・・・

『はい、分かりました。』




 ヒヒヒーーーン!

 ガタタン!!


と、馬の嘶きと共に馬車が鳴動して止まる。


 「アスラ様・・・」

 「うむ・・・向こうから来ましたか・・・帰りがけに顔でも見に行こうかと思っていたのですが。」


 馬車には、周りを圧倒するような存在感のある藍色の髪に灰色の瞳の貴婦人然とした絶世の美女と、その侍女であろう、やはり藍色の髪に灰色の瞳の美少女が乗っていた。


 馬車が止まり少しして、馬車の小窓が開かれ立派な髭を蓄えた厳つい顔つきの護衛隊長が顔を覗かせる。


 「失礼します、アスラ様。」

 「どうしました?」

 「はっ、地の精獣と思しき獣が此方の進路上に居座っております。のものを排除するまで今暫しお待ちください。」

 ・・・。

「ゴライ、地の精獣様といえば大地を司る精霊の長。余り手荒な真似をしてはなりませんよ。」

 「はっ、心得ております。」


 ゴライはアスラに返事を返すと、厳つい顔を小窓から離し、その小窓を閉める。


 「よし、タスケ、マロイ、スンダ、ランガ、ヒコは俺に付いてこい!他の者達はそのままアスラ様の馬車を守れ!」

と、言うとゴライは馬に股がりシルブィアンの方へと向かおうとする。が、それと同時に、今まで馬車の動きに合わせて進路を塞ぐような動きをしていたシルブィアンが初めてアスラの乗った馬車に向かって、ゆっくりと動き出す。


 「ぬっ!」

と、シルブィアンの動きに気付いたゴライは魔法刀を抜き放ち身構えると同時に、

「来るぞ!」

と、後ろの者達に叫ぶ。

 その時には、アスラの乗った馬車に向かってシルブィアンは駆け出していた。


 護衛の者達は全てシルブィアンから馬車を守る位置に移動して武器を構える。と、ゴライ達の間合いにあと半歩といった所でシルヴィアンは急停止して身を翻し、その場から猛スピードで離れていき、あっという間にゴライ達の視界から消えてしまう。

 ・・・・。

「一体なんだったんだ?」

と、ゴライ達は、シルヴィアンのその行動の意味に気付けず呆気に取られるばかりだった。



 ・・・・・。

「護衛の者達の意識を地の精獣様に向けさせて、彼の者はこの馬車の底にでも張り付いたのでしょうか?・・・・もし、そうだとしたら大したものですね。アスラ様と私にその気配を全く感じさせていないのですから。」

と、アスラの向かいに座る侍女が感心したように言うと、

「・・・もし、この馬車に無断で乗り込むようなネズミいたら、そのネズミは後で必ず後悔するでしょう。」

と、アスラはダンッ!!と床を踏み鳴らし、怒りを押し殺した凄みのある笑みを見せた。


 ・・・アスラ様は人を利用するのは好きだけど、利用されるのは大っ嫌いだからなぁ・・・


と、侍女は引きつった笑顔を見せる。


 「まぁ、それはいいとして・・・・・彼の者が私に会いに来たのでないのならば・・・・ウラヌス王国の王都ティータニアで面白いことが起こりそうですね。このウラヌス王国も何やらごたついているようですから。」

と、アスラは凄みのある笑みを一変させて心から楽しそうな笑みを見せる。


 ・・・ここ一年、アスラ様も女王の地位を妹君に譲るのに奔走してフラストレーションが溜まりまくっていたからなぁ・・・この特使の役目も、城から抜け出して欲求不満を解消したくて、現女王や大臣達の制止を聞かず飛び出して来たわけだし・・・アスラ様に目を付けられた人は気の毒ね・・・


と、アスラのそのいい笑顔を見て侍女はアスラのオモチャになるであろう人物のことを思い、未だ見も知らぬその人物に心の中で〈御愁傷様〉と手を合わせた。



 ・・・よし、上手くいったな・・・


 大介はシルヴィアンがアマノハラ王国の特使の護衛達の意識を引き付けている内に、その気配を周りの気配に溶け込ませ特使の乗った馬車の床下へと潜り込んだ。と、その時、


ダンッ!!


と、大介が張り付いた馬車の床が踏み鳴らされ、


・・・気付かれたか?・・・


と、大介は瞬間的に周りの気配に意識を集中して、どんな状況にも対処できるように気配はそのままに気を整える。が、少しすると、

「アスラ様、我々は地の精獣様にからかわれていたのでしょうか?結局、何もせずに去って行ってしまいました。」

と、護衛の者が馬車の中の人物に話し掛ける声が聞こえてくる。

 「そうですね・・・精獣様は吉運を運ぶとも言われます。地の精獣様は、今回の交渉事が上手くいくように我等にその吉運を運んできてくれたのでしょう。」

と、馬車の中から凛とした澄んだ声が聞こえてくる。

 その後、二人は一言二言言葉を交わし少しすると、ビシッ!と、一つ鞭打つ音が聞こえ、ガタタッ!といって馬車が動き出す。


 ・・・驚かすなよ、気付かれたかと思ったじゃないか・・・


と、大介は安堵の息を吐いた。


 ・・・闘神気や闘気も消して、気配を完全に周りの気配に溶け込ませているのに、これで気付かれていたら泣けてくるぞ・・・まぁ、勘のいい者ならシルヴィの接触で何か勘付いているやもしれんが・・・


 その後、アマノハラ王国の特使一行は何事も無く、ウラヌス王国王都ティータニアへと進んでいった。




 「開もーん!!!我等はアマノハラ王国の特使、前アマノハラ王国女王アスラ・アマノハラ・アマテース様の一行である!!!門を開けよ!!!」

と、王都ティータニアの都市壁の門に繋がる橋に差し掛かると、護衛隊長のゴライがティータニアの門に向かって声を張り上げた。すると、旅人や行商人が出入りしている小門が一時閉じられ、暫らくすると、その隣にある重厚で巨大な大門が、ギギギと軋み音を立てながら、ゆっくり内側へと開かれていく。と、その入り口がある程度開かれると内側からワラワラと衞士達が姿を現し、橋の上にいた旅人や行商人達を縁へと追いやる。

 その衞士達の後から、身なりのいい細面の初老の男性が姿を現した。


 「遠路遥々ようこそおいで下さいました。アマノハラ王国の特使御一行様、お待ちしておりました。私、ウラヌス王国の宰相を勤めさせて頂いている、カスパー・デ・デクトと申します。」

と、その男はゴライに歩み寄る。

 「私が王城までご案内させて頂きます。どうぞ私に付いて来て下さい。」

と、カスパーと名乗った男はゴライに軽く会釈をすると、アマノハラ王国の特使一行を先導するように先頭に立って王都ティータニアの中へと歩を進めてゆく。

 それに、ゴライを先頭に特使一行も付いて行き、王都ティータニアの衞士達が一行を囲うように王都の中へと入って行く。。


 カスパーは、アマノハラ王国の特使一行がティータニアの都市壁の大門から内の入り大門が閉じられたところで足を止め一行に向き直る。


 「誠に申し訳御座いませんが、護衛の方々はここでお待ち下さい。宿泊施設へは後ほど私の部下がご案内いたします。特使の方とそのお側付きの方にはここで馬車を此方で用意したものにお乗換えして頂きます。」

と、カスパーが言うと、

「なにを・・・」

と、ゴライが反論しようとする。が、

「ゴライ、構いません。あなた達はここで案内が来るまで待機していなさい。」

と、馬車を降りてきたアスラが言う。


 そのアスラの姿を見た者達は、その周りを圧倒するような存在感と凛とした美しさに、全員目を奪われた。


 そんなアスラに、

「ですが、アスラ様・・・」

と、ゴライは不服顔で意見を言おうとすると、

「私の言うことが聞けませんか?ゴライ。」

と、アスラが鋭い視線をゴライに向ける。

 ・・・。

「いえ・・・分かりました。」

と、ゴライはその視線に気圧されるようにして了承する。


 「では、カエン。参りましょうか。」

 「はい。アスラ様。」


 アスラと侍女のカエンが、ウラヌス王国の準備した馬車に乗り込むと、アスラに目を奪われていたティータニアの衛士達は一様に息を吐いた。

 その馬車には、床下に囲いが作ってあり地面との隙間は十センチも無かった。


 「カエン、確認できましたか?」

 「・・・一瞬でしたが、一応。アスラ様に皆の意識が集中している間に、その視線の網の隙をついてティータニアの街中に姿を消したようです。」

 「そうですか・・・。」

 「しかし、見事なものでした・・・この私が意識して見ようとしても、直ぐに私の視界から姿が消えてしまいました、あれ程の事を何の力も使わず体捌きと気配の同調だけでやってのけるのですから。意識していない他の者達では、視界の隅に入ったとしても、風に飛ばされたゴミか木の葉の影だとしか感じないでしょう。」

 「それは大したものですね。」

 「はい・・・ですが、短髪で赤い髪をしていました。恐らく男でしょう。」

 ・・・・。

「赤い髪で男ですか・・・・なるほど、これはこの先、いろいろと楽しめそうですね。」


 久しぶりにアスラの楽しげな笑顔を見て、カエンはその短髪赤毛の男に感謝すると共に哀れみを感じずにはいられなかった。




 「よし、ここらでいいか・・・。」


 大介はアスラの馬車の床下から抜け出すと、そのアスラ達一行を囲うようにして立っていた王都ティータニアの衛士達の視線をかわし気付かれぬように脇をすり抜けてティータニアの町並みへと潜り込んでいた。


 ・・・出来れば、王城の中まで連れて行って欲しかったんだがなぁ・・・


と、思いながら路地裏に潜り込んだ大介は、その手に持つ精緻な印を施された杖を、トン、と地に突くと、

「インドーラ・・・」

と、インドーラを呼ぶ。と、大介に恭しく腰を折ったインドーラが「はい。」と杖から姿を現す。

 対して、「・・・頼む。」と、大介はインドーラに声を掛け、「畏まりました。」と、インドーラは了承し、転移の魔法陣を展開する。と、その転移の魔法陣から人の形をした光が立ち上がり弾け、ティアが姿を現した。

 それを確認すると、

「ここでは私は目立ちますので失礼いたします。お二方とも、くれぐれもお気を付けて。」

と言って、インドーラは姿を消した。


 「待たせたな、ティア。」

と、大介が言うと、

「いえ・・・それよりも、先ずは宿を確保いたしましょう。」

と言って、ティアは嬉しそうに大介の手を引いてティータニアの町並みを歩き始めた。


 大介はティアに手を引かれながら、インドーラの話していたティータニアでの注意事項とその後の準備の事を思い出していた。



 「大介様、ガーディン教の主神ガーディンの神力が満ちているティータニアでは標的に接近するまでは闘神気を出来る限り使わないでください。前にも言いましたが、神界の神の神力は打ち消しあう性質を持っています。闘神気を使えば敵に気付かれる可能性が非常に高いのです。」

と、インドーラは言いながら大介を見て、

「あと、髪の毛等の色を何とかしないといけませんね・・・・そういえば、魔女の部族の方々が使っていた毛染め剤がありました・・・ティータニアで行動を共にするティア様と色は合わせた方がいいでしょう・・・・瞳の方も大介様のお持ちのコンタクトレンズの色をティア様の瞳の色に合わせて変えましょう。」

と言うと、インドーラとメイドのガンガー達は嬉々として嫌がる大介を浴場へと連れ込んだ。



 ・・・あいつら、ここぞとばかりに俺の体を弄りやがって・・・まぁ、守護精霊あいつらも頑張ってくれたから力の補充をしてやらんといかん訳だったのだが・・・・・あれから、ティアは何だか上機嫌なんだよな・・・


と、大介はティアのその嬉しそうな姿を見て、自然と笑みが零れた。




 ウラヌス王国、王都ティータニアのガーディン教大神殿の貴賓室に一人の若い男が佇んでいた。


 ・・・ふむ、このウラヌス王国の王都ティータニアにアマノハラ王国の特使一行と共にネズミが入り込んだようだな・・・


と、その男はほんの一瞬、微弱ではあるがティータニアに満ちる神力とは異質な力を感じ取っていた。


 「ガラント大教区長様、お食事の準備が整いました。」

 「分かりました、直ぐに参ります。」


 ガラント大教区長と呼ばれた、その若い男は呼びに来た若い神官見習いの女性に優しげな笑みを見せ応える。

 微笑みかけられた神官見習いの女性は頬を染め恥ずかしげに視線を逸らせた。


 ・・・それにしても、昨日は大地の神獣シルバーウルフが我が元に戻って来たことにも驚いたが、シルバーウルフの神影石の記録を確認して更に驚いたな・・・一撃で倒されていようとは・・・シルバーウルフを倒した者は影しか写っていなかったが何者だ?・・・メノースごときでは制御しきれなかったせいもあるだろうが・・・・・そろそろ引き時かもしれんな・・・

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