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異世界で用心棒   作者: 鈴ノ木
24/49

貳拾肆

 ドドドドド・・・・


と、まさに滝のような音を立てながら雨が降っていた。


 ・・・これでは、五メーター先も見えん・・・普通の者では大軍の蹄の音でさえ直ぐ近くに居なければ聞こえまい・・・


 本陣で雑務に当たっている者達は、それぞれ雨を凌げる所に避難している。


 グラン伯の私設騎士団はこの豪雨が降り始めると、アガバスの居る天幕を守るように天幕の周りに集まっていた。

 

 ・・・主と違って、グラン伯の私設騎士団の団長はそれなりに頭が回る者のようだが・・・こんな豪雨の中、守るべきものが一つならそこに戦力を集中するのは間違っていない・・・だが、逆に敵に標的の位置を知らせる事にもなるがな・・・・・・あんな糞野郎どうなっても構わんのだが・・・一応はメンドゥーサ様に守るように言われている・・・・・もう一度、進言して聞き入れられ無ければ、それまでだ・・・


と、グランデは考え直し、ハァッ、と一つ息を吐くと行動に移した。


 グランデは直ぐ側に居るシューリエに、激しい雨音のせいで声では指示が伝わりづらい為、ハンドサインを使い〈天幕の南側に俺とお前の馬、それと他に馬を五頭準備しておけ〉と指示を出す。

 それに対してシューリエは頷くと雨の中走り去って行った。


 ・・・他の者達には、ある程度敵の足止めをしたら戦線から離脱しろと伝えてあるから、大丈夫だろう・・・


と、考えながらグランデは天幕へと戻っていく。



 「アガバス殿、敵がもう直ぐそこまで来ている。今は一旦陣を退くべきだ。」

 「バカな!こんな滝のような雨が降るなか奇襲を掛ける者が何処にいる。」

 「先程も言ったが、こんな雨の中でも自由に戦えるようにこのアスティース公爵領の兵達は鍛えられていると聞いている。実際、私の部下が確実に此方に向かってくる敵兵を捕捉している。もう、時間が無い、この雨の中でも動けるように重い鎧を脱いで身軽になれ。私の部下がこの天幕の裏に馬を準備している。」

 「ふ、ふざけるな!この雨の中、シャツ一枚で出ろと言うのか!」

 「そうだ。こんな雨の中を逃げるのだ。重装備では馬も動かん!」

と、グランデとアガバスが言い争っていると、

「アガバス様!敵襲です!メンドゥーサ王女の近衛部隊が敵の奇襲部隊と戦闘に入っているようです!」

と、敵襲を伝えにグラン伯の私設騎士団団長ワイツが天幕に入ってくる。

 それに対して、「なに!?」と、アガバスは驚きの声を上げた。


 「この雨の中ではメンドゥーサ様に鍛えられている私の部隊と言えど力の半分も出せん。敵兵の足を止められるのも僅かな時間だろう。況してや言っては何だが、この雨の中、重装備の貴方の私設騎士団ではあっという間に突破される。なので、お早くご決断を。」

と、グランデが言うと、

「うっ・・・・わ、分かった。」

と、アガバスは顔を青ざめさせながら応え、慌てて鎧を脱ぎ始めた。

 「従軍神官殿も、そのチャラチャラしたものを脱ぎ捨てて、逃げる準備を。」

と、グランデが言うと、

「チャラチャラとは何事か!これは大神官様から頂いた大切な神官衣、それを脱ぎ捨てる事など出来るものか!」

と、従軍神官メノースはこめかみに青筋を立てる。

 「分かった分かった。だが、付いてこられねば置いていくが、宜しいか?神官殿。」

 「・・・・分かっておるは!」

と言い、メノースは神官衣をそそくさと脱ぎ几帳面に畳んで袋に詰め始めた。

 それを確認すると、

「結構・・・」

と、グランデは言い、

「・・・ワイツ殿、貴方も付いてきてくれ。」

と、ワイツに声を掛けると、「勿論だ。」と、返答が返ってくる。

 「あと、騎士団から二人ほど此方に回してくれ。他の者たちはここにアガバス殿が居るように振る舞うように伝えてくれ。」

と、グランデが言うと、

「了解した。」

と言って、ワイツは天幕を出ていく。


 ・・・これで、どの程度時間を稼げるか・・・まぁ、あの人の事だ、此方の動きなどお見通しなのだろうな・・・





 アラン達は豪雨の中、《透視》の魔法を使い馬を走らせていた。


 ・・・カメロ達には敵軍の本陣正面を突っ切るように言ってあるが・・・あのお調子者、上手くやっているだろうか・・・まぁ、カメロも他の者達も腕は立つから大丈夫だろうが・・・さて、問題はグランデの小僧が、あのダメ貴族のアガバスを動かせるかどうかで、大将首をカメロに持っていかれるかどうかが決まるな・・・


 アランは滝のように降る雨の中、敵の本陣の裏に出る為愛馬の背に張り付くようにして、そう考えながら愛馬を疾駆させていた。すると、滝のような雨の音に混じって微かに複数の馬の蹄の音が聞こえてくる。

 そちらに《透視》の魔法の掛かった目を向けると、七騎の騎馬が目に入ってきた。


 ・・・ふっ、カメロ、大将首は俺のもののようだな・・・


と、アランが考えると、悔しそうなカメロの顔が頭に浮かび、少し頬を緩ませる。と、相手も気が付いたようで、七騎の騎馬の内三騎の騎馬がアラン達に向かって駆けてくる。

 あとの四騎の騎馬はアラン達から離れるように駆けて行く。


 ・・・ふむ、あの四騎の騎馬はアガバスと従軍神官、それにその護衛か・・・


と考えると、アランは後ろに付いてきている部下の五騎の騎馬に〈俺とメルシィナはあの四騎の騎馬を追う。他の者達は此方に向かって来ている三騎の騎馬の相手をしろ〉と、光魔法を使い手に光を点し明滅させて指示を送る。

 そして、逃げて行く四騎の騎馬を追って速度を上げ、

「《豪雷の槍、其は世界の深淵より出でし神雷なり。我、御身に我が魔力を捧げん。その秘めし力を解き放ち我が敵全て討ち滅ぼせ。》」

と、アランが呪文を唱える。と、【豪雷の槍】が纏っている蒼白い雷光が、バリバリバリと雷鳴を上げ光量を増す。

 アランは、その【豪雷の槍】を滝のような雨を降らせる天に向け投げ放った。すると、その【豪雷の槍】を呑み込んだ、天空を埋め尽くす黒雲が一瞬明るく明滅した。かと思った瞬間、ゴゴゴゴゴンン!!と大気を震わせ雷鳴が轟く。


 その時、


ズザザザザザーーーー・・・


と、アラン達から逃げる四騎の騎馬の方角から、渦を巻いた太く鋭い槍のような高水圧の水の塊《水槍》がその四騎の騎馬を追うアランとメルシィナに向かって襲い掛かってくる。

 対して、

「《雨雷壁》」

と、アランが唱えると、


バババババリリリリリ!!!


と、豪雨と共に雷の針が《水槍》に降り注ぎ《水槍》を全て霧散させる。

 続けざまに、

「《爆雷》」

と、アランが唱えると、


ドドドドッ!!ゴゴゴゴゴゴンン!!!


と、アラン達から逃げる四騎の騎馬に何本もの雷が落ちる。が、その四騎の騎馬の上空に水の層が傘のように出来て、その雷を受け雷の熱により湯気を上げながらも全てを防いでいた。


 ・・・チッ、かなりの力を持つ水の魔法道具の武器を操る者が付いているな・・・この雨の中では厄介だ・・・だが、足止めは出来た。今のでアガバスと従軍神官が落馬したようだ・・・・・・よし!・・・


 「《豪雷の槍よ、我が手に戻れ!》」

と、アランが唱えると、疾駆する馬に乗ったアランの目の前に天空から【豪雷の槍】が降りてくる。

 アランが目の前に降りてきた【豪雷の槍】を掴んだ時、再び何本もの《水槍》がアラン達を襲う。が、アランが【豪雷の槍】を下から縦一線、滝のように降る雨を切り裂くように振るうと、


ゴゴゴゴゴンン!!!


と、【豪雷の槍】から一本の巨大な雷が放たれ、アラン達を襲おうと迫る《水槍》を切り裂き霧散させアラン達の前に一直線に道を斬り開く。

 アランがその道に乗って、敵の大将首アガバスの元に向かおうとした時、豪雨の中を突っ切ってアランの側面に一騎の騎馬が躍り出てきた。


 「うおっ!?」と、アランはその騎馬に乗った騎士の、風の魔力を纏ったロングソードの一撃を【豪雷の槍】で受け止める。と同時に、「小僧が!」とアランがその騎士グランデに対して叫んだ。その時、反対側からシューリエの魔槍【水魔槍】が放った《水槍》がアランを襲う。が、アランの後ろから、うねる《水蛇》が現れ《水槍》を打ち破り霧散させる。

 その《水蛇》は、アランの後ろに付いていたメルシィナの【水龍鞭】から放たれたものだった。


 アランは片手で持つ【豪雷の槍】でグランデの斬撃を捌きながら、もう片方の手で〈そっちは任せた〉とハンドサインを送る。


 ・・・この雨の中、馬を失ったアガバスと従軍神官はそうそう遠くへは行けまい・・・


と考え、アランはグランデとの戦いに集中する。




 この豪雨の中、追っ手の足止めに行ったグランデ達と別れ、アガバスは広大な泥土の海と化した農地の中を何度も転び泥塗れにながら走っていた。

 疲れの為《透視》の魔法も切れ、何処に向かっているのか、どれ程の時間走っているのか、今、自分が走っているのか歩いているのかさえ分からなくなっていた。


 ハァハァハァ・・・


 ・・・何故わしがこんな目に逢わねばならん!・・・メノースともはぐれた・・・・くっそー・・・下級貴族の小倅の言う事なぞ聞かねばよかった・・・今頃、わしの騎士団が敵を蹴散らしているやもしれん・・・・・・本陣に戻るにもこの忌々しい雨のせいで全く方角が分からん・・・・グランデの奴、帰ったらただではおかんぞ!・・・


と考えながら、アガバスは走っていると足を絡ませ泥濘ぬかるみに転倒した。


 ・・・もぅ、嫌だ!王都に帰ってフカフカのベッドで寝たい!・・・誰か助けてくれ!・・・


 「誰か・・・誰か・・・」

と、アガバスが泥の中でもがきながら弱々しい声で助けを求めていると、

「アガバス殿、この窮地を脱するために力が欲しくはありませんか?」

と、突然、従軍神官のメノースがアガバスの耳元に囁き掛けてきた。


 ・・・!?・・・「何でもいい、今すぐ王都に帰れるなら何でもいい・・・助けてくれ・・・メノース。」

 ・・・・。

 「よろしい、ならば我が神の御技でもって貴方をお助け致しましょう・・・」

と言って、何時の間にか神官衣を纏っていたメノースが、アガバスを抱き起こし、

「さぁ、アガバス殿、我がガーディン教の主神ガーディン様に助けてくださるように一心不乱に祈るのです。」

と、アガバスに優しく囁き掛ける。

 それに頷くと、アガバスは顔の前で固く両手を握り締め、

「助けてください、ガーディン様。助けてください、ガーディン様・・・・」

と、祈り始めた。

 メノースは神官衣の懐からアーモンドを一回り大きくしたような黒曜石のように黒光りする石を取り出し、

「《主神ガーディン様、貴方の信徒たる我を守護し我が敵を討ち滅ぼさんが為、御身を守護せし神の一柱を我に遣わしたまへ。》」

と唱え、その石に軽く口付けをして、アガバスの額に押し付けた。すると、その黒光りする石はアガバスの額の中に溶け込むように消えていく。

 それから少しすると、「ぐっ!?」と、アガバスは呻き、

「がぁあああああ・・・・!!」

と、のたうち始めた。


 「き、きさま!!メノース・・・わ、わしに・・わしに何を゛じだーーーー・・・!!」

と、アガバスは目や鼻、口から大量の血を吐き出しながらメノースに掴み掛かろうとする。が、そのアガバスの手はメノースに触れることなく空を切り、体勢を崩して泥土の海へと倒れ込む。


 「お喜びなさい、アガバス殿。貴方には始めから主神ガーディン様の従属神、大地の神獣シルバーウルフを顕現させるための生け贄となっていただく事になっていたのですよ。」

と、楽しそうにメノースは、のたうち回るアガバスを見下ろして言う。

 そのうち、アガバスはうつぶせにうずくまり身動ぎ一つしなくなった。かと思うと、アガバスの体が内から輝き出すと同時に膨れ上がり始め、その膨張にアガバスの体が耐えきれなくなると体表が破れ何本もの光の柱が突き出し、豪雨のため夜ような暗さになっている辺り一面を明るく照らし出す。

 その強烈な光に驚きアランやグランデ達は戦いをやめ、手でその光を遮りつつ〈何事か〉と、光源に顔を向ける。

 そして、その強烈な光が落ち着くと、そこには神々しい白銀に輝く体毛の巨大な狼のような神獣が顕現していた。


 その神獣は徐に口を開くと、


カアアアアアアアアーーーー・・・・!!


と、空に向かって耳をつんざくような大音声で吠えた。すると、滝のように降っていた雨は、嘘のようにピタリと止み、空を覆い尽くしていた黒雲は潮が引くように消えていく。


 それを呆気に取られて見ていたグランデやアラン達に対して、その神獣の隣に立つ人影がアラン達に向かって声を限りに宣言する。


 「我等がガーディン教に楯突くアスティース公爵領の愚民共よ!アガバス殿の献身により顕現した、主神ガーディン様の従属神、大地の神獣シルバーウルフにより老若男女を問わず生きたままその身を引き裂かれるがよい!そして、己が愚行を悔いて死んでゆけ!!」

と言って、メノースがシルバーウルフの足に触れた瞬間、グルルルルとシルバーウルフが唸ったかと思うと、メノースの頭を食い千切りメノースは悲鳴を上げる間も無く絶命した。

 そして、シルバーウルフはそのメノースの体もガリゴリと骨を噛み砕きながらモシャモシャと食べきってしまった。


 その様子を唖然と見ていたグランデとアランは、

「「おいおい、呼び出した奴が贄になってどうする。制御も出来んものを呼び出すなよ。」」

と、呆れとも困惑とも取れない声を漏らしていた。と、その時、シルバーウルフは〈まだ足りん!〉とばかりに、更なる贄を求めてアラン達の方へ来ようと動き出す。


 危険を感じたグランデとアランは顔を見合わせ、一時休戦しお互いの同一の驚異に対し共同戦線を張ることを伝え合うように頷き合う。

 そして、それぞれが持つ魔法道具の武器を使い、遠間からシルバーウルフに攻撃を仕掛けた。が、シルバーウルフは一瞬怯みはしたが、まるで鬱陶しい虫にでも集られているような不快な表情をしただけで全くダメージを受けていないようだった。


 その時、

「大将ーーー!!何ですかーーー!!それーー!!」

と、異変を感じたカメロ達治安軍の精鋭二十五名は戦いを一時中断し、その相手だったグラン伯の私設騎士団四十七名と戦線を離脱しかけていたメンドゥーサ王女の近衛部隊四十九名の騎馬を引き連れてやって来た。すると、襲いやすそうな新な贄を見つけて、グルルとシルバーウルフは嬉しそうに唸ると跳躍する。


 「バカヤローー!!来るな!!逃げろ!!カメロ!!」

と、アランは叫ぶ。が、時既に遅く、駆けてくるカメロ達の真ん中に、ドォン!!とシルバーウルフは泥と共にカメロ達を吹き飛ばしながら着地した。

 そのシルバーウルフの足下には、かわしそびれたグラン伯の私設騎士団の者が数人居たが、それをシルバーウルフは鎧ごと頭から、


バキバキバキベキゴリ・・・


と、嫌な音を響かせながら噛み砕き飲み込んでいく。


 他の吹き飛ばされた者達は距離を取り、その凄惨な場景を見て嫌悪感に表情を歪ませながらも戦闘体勢をとる。

 そして、遠距離攻撃魔法の出来る魔法道具の武器をを持つ者が先制して攻撃を仕掛ける。が、やはりシルバーウルフには効果が無いようだった。


 この時点で、その場にいる治安軍、近衛部隊、私設騎士団の者達は全員このシルバーウルフには敵わないと気付いていた。が、逃げ出そうとする者は誰一人いなかった。

 何故なら、制御の無いこの暴走したシルバーウルフを放っておけば間違い無くこの国に災悪を撒き散らすだろう、ということが分かっていたからだ。

 だからこそこの場に居る、この国を命を懸けて守る事に誇りを持っている者達は到底勝ち目の無い相手だと分かっていても逃げ出せる訳がなかった。


 「メルシィナ、お前は領都に戻ってこの事を報せ、領民を守る為の対策を取るように伝えろ。」

 ・・・・。

 「アラン様はどうされるおつもりですか?」

 「俺達は出来る限りこいつの足を止め、時間を稼ぐ。」

 ・・・。

 「ですが・・・」

 「早く行け!!」

 「・・・分かりました。御武運を!」

と言うと、苦渋の表情を浮かべながらもメルシィナは愛馬に鞭を打ち領都に向かって駆けて行く。


 「シューリエ、お前は王都にこの事を伝えに行け。王都にはまだ王を守る異邦人の力を扱える者達が居る。彼女達なら何とかなるかもしれん。それに大神官なら何か手立てを持っているやも知れん。」

 ・・・・。

 「分かりました・・・・グランデ様、お気をつけて・・・御武運を祈っております。」

と言うと、シューリエも愛馬の腹に蹴りを入れ王都に向かって走り出す。


 「さぁ、アラン殿、ここが命の懸けどころですね。」

 「小僧、別にお前は彼女と行ってもいいのだぞ。」

 「ご冗談を、私もこの国を守護する者の端くれ・・・・第一ここで逃げたらメンドゥーサ様に殺されます。」


 ・・・・・。


 「お互い、どちらにしても命懸け、ということか・・・。」

 「ですね・・・・リサナ様も厳しい人ですから・・・お互い大変ですね。」

 ハハハ、「言うな、辛くなる・・・。」

と、アランとグランデが話している内に、攻撃を受けながらも、ゆったりと食事を済ませたシルバーウルフが次の贄を求めて動き出そうとする。


 「来るぞ!!皆、気合いを入れろ!!奴を出来るだけここに足止めするぞ!!」

 「「「「「応!!」」」」」


 その場にいる全員が気合いを入れると同時に、シルバーウルフがアラン達に向かって躍り懸かろうとした。その時、


ゥォォォォオオオオーーーー!!!


と、銀色の巨大な影がアラン達とシルバーウルフの間に割って入った。かと思うと、その銀色の巨大な影はシルバーウルフに体当りをしてシルバーウルフと絡み合い泥土を周囲に威勢よく撒き散らしながら泥土の海を転げ回った。


 それを見て誰かが、「地の精獣様だ!!」と、叫んだ。


 ガアアアアアーーーー!!

 カアアアアアーーーー!!!


と、その神獣と精獣が互いに叫びながら、争い合うと大地は鳴動し泥土が泡立つ。


 その場に居る者達は、揺れる大地に自分の身を支えるので一杯一杯で、その騎馬達は怯え震えてその場に縮こまっていた。と、その時、地の精獣に大地の神獣が馬乗りになり優位な体勢になる。

 その場に居た者達は皆、


・・・ヤバイ、地の精獣様が殺られる・・・


と、加勢に入ろうとした時、


チュイイイン!!チュイイイン!!チュイイイン!!

カアアアアア!!!


と、大地の神獣シルバーウルフの額を三本の光線が貫き、シルバーウルフは悲鳴のような声を上げヨロめき地の精獣シルヴィアンの上から離れる。と同時に、


ドッッッッ!!!

グシャッ!!ギャフン!!ドッパァアアンン!!!


と、空から黒い固まりがシルバーウルフの頭に落下し頭を潰すと共に泥土の海へと叩き付けた。と同時に、泥土の波が周りの者達に襲い掛かる。

 その波が収まると、シルバーウルフは光の粒子となりその中心にある黒い石に吸収されるようにして、その姿を徐々に薄れさせ消えていく。

 その黒い石は、光の粒子を全て吸収すると、王都ティータニアの方角に向かって飛んでいった。


 その大地の神獣シルバーウルフが消えた後には、銀色の地の精獣とその隣に立つ魔法の杖と精緻な魔法印を施された杖を持った黒衣の魔女が居た。


 黒衣の魔女を視認すると、彼女が口を開くよりも早くグランデとワイツは顔を見合わせ頷き合い、

「メンドゥーサ王女の近衛部隊とグラン伯の私設騎士団は一旦王都ティータニアに退くぞ!!」

と、グランデが声を限りに叫ぶとグランデとワイツは愛馬の馬首を巡らし近衛部隊と私設騎士団を引き連れて王都に向かって走り去っていった。

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